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●とある旅路の乙女達・白

◆今回のお話は白盾の乙女が主役のお話です。

 場所はルベリオン王国の辺境――、

 ただ土を魔法で固めただけの粗野な街道を歩くのは四人の女性冒険者。

 彼女達は『白盾の乙女』というパティー名で活躍する女性冒険者集団である。

 そんな白盾の乙女にあって、斥候を務める軽鎧の少女ココが、さり気なく周囲の気配を探りながらも盛大に溜息を吐き出し項垂れる。


「はぁ――」


「どうしましたココ?」


 溜息を吐くココに声をかけるのは白盾の乙女のリーダーである大盾持ちの女剣士エレオノール。


「今日からシリアルバーと缶詰生活かと思うと気が重くって気合が入らないんすよ」


 天然で高貴な雰囲気をまとうエレオノールの問いかけに、だるんと気だるげに愚痴を吐くココ。


「自業自得だ」


 そんなココの愚痴を一刀両断に切り捨てるのは、エレオノールとはまた別の意味で凛々しさを持った女戦士のアヤ。

 そして、そんなアヤの無慈悲な一言に、パーティの中央に構え、ココとはまた違った技術で周囲の警戒を担う魔導師のリーサが困ったというよりも呆れたように頬に手を当て。


「そうね。これに関してはアヤの言う通り、ココの自業自得よね。少し我慢すればいいのに」


「でも、お二人だって言うほど我慢できてないっしょ。

 みなさんも、あと、二、三日すれば私の気持ちがわかるハズっす」


「「「うっ」」」


 同情の余地なしとばかりに掛けられた言葉に口を尖らせるココ。

 そんなココの反論に思わず喉をつまらせる他三人。

 そう、彼女たち三人とて今のココは明日の我が身なのだ。

 ココが楽しみにするクアリアという保存食は、小さいとはいえ他の携帯食よりも若干多くのスペースを取る。

 その日、誰が何を食べるのかの選択は個人に任せているが、ココはこの一週間でお手軽簡単に暖かく美味しい食事が取れるクアリアをすべて食べつくし、残るメンバーも、あと一食か二食分しか残っていないのが現状なのだ。


 ココの不満は続く。


「だから装備なんか買わずにマジックバッグを買うべきだったんですよ」


「しかし、あの店の装備がなければディストピアの攻略は難しかったと思いますよ」


 ココが指摘するのは、数日前まで彼女達がいた異世界の万屋での買い物のこと、

 彼女達は自分達の戦力強化を第一目標として、マジックバッグではなく、自分達の装備の角柱を最優先としていた。

 結果、マジックバッグを買う余裕はなくなってしまったのだが、

 ただ、そうして戦力アップに力を入れることで、ここまで順調な旅ができたともいえ。


「それはそうっすけど」


 そう、あの時の選択は間違いでなかったことはココも理解はしている。

 理解してはいるのだが、それでもいま彼女達が置かれているような状況で食事というのは数少ない楽しみの一つであり、そのグレードダウンしたとなれば愚痴が出るのも仕方がないことなのだ。


「まあ、今日中にはなんとか国境の街につけるでしょうから、そこで美味しいものでも食べればいいじゃない」


「はぁ、そっすね」


   ◆


 場所を移して、そこはルベリオン王国の最果て、空白地帯に近接する城塞都市メルード。

 万屋を出発して十日ほど、白盾の乙女の四人はこのメルードで一二を争うほど大きな宿屋で久しぶりの温かい食事を取っていた。


「あの、このスープ、ちょっち塩っ辛くないっすか」


「そう、こんなものじゃないかしら」


 薄くスライスされた黒パンを噛み千切りながらココが零した不満に、表向き平然と答えるリーサ。


「うむ。ここはギルドから紹介があった宿だからな。塩が強めの味付けになっているのではないか」


 肉体労働者には塩分が必要だと、そんなことを言いながらもアヤのスプーンもイマイチ進んでいないのは、彼女もココと同様に塩気が強いと感じているからだろう。

 そして、ココはそんな諦めにも似た仲間たちの言葉に「はぁ、そっすか」と吐き捨てるように言いながらも、『あっ』と思い出したかのように言うのは、


「そういえば知ってるっすか、こう塩っ辛いものばっか食べてると、顔とか体とかシワシワになりやすいそうっすよ」


「えっ、そんな話聞いたことないけど」


 ココの話に素早い反応を見せたのはリーサだ。

 冒険者の中にあって、特に身綺麗にしている白盾の乙女だが、その中でも特に見た目にこだわりを持つリーサだった。

 そんな彼女からすると、いまココから聞かされた情報は聞き捨てならないものだった。


「ほら、夕方あたりに万屋に行くとメイドさんがいるでしょう。そのメイドさんに聞いたんすよ」


「ふ、ふぅん、でも、それって本当なの?」


 ココの話に鼻を鳴らすリーサ。

 ココの言うメイドのことはリーサも知っている。

 しかし、そのメイドが本当のことをいっているのか。

 いや、あえて聞き返したのは、リーサがその情報を信じたくないだけなのかもしれないが、

 ココはあからさまに疑うような目線を送ってくるリーサに「嘘じゃないっすよ」と行儀悪くスプーンでスープの中身をカチャカチャとかき混ぜながらも。


「店長さんも『そうですね』っていってましたし、こんな話をしてたっす。生の肉とか塩につけておくと干からびてシワシワになったりしますよね。ああいうのが人間の体にも起こるって話っす」


 それは携帯食を常に持ち歩く冒険者にとって説得力のある話であり、危機感を抱かされる話であった。

 塩気の多いものばかり食べていたら、自分もあんな風に――、

 つい最近まで旅のお供して携帯していた干し肉と自分を重ね合わせるリーサ。

 しかし、リーサはここでふと気づく、この話をしているココが余裕の態度なのがおかしいと。

 リーサほどではないにしろ、ココも自分の容姿には気を使っている。そんな彼女がどうしてここまで余裕にしているのか、もしかして、自分は誂われたのではないのか。


「その割にココは余裕よね」


 だから、リーサはココに聞き返すのだが、


「ふふん、実はそのことでメイドさんから便利な魔法を教わったんすよ。

 見ててください〈指定吸引(ポイントアブソーブ)塩水(ブライン)〉」


 ココは虚空に指を閃かせ、その答えとばかりに一つの魔法を発動させる。

 すると、ココの手元にあったスープに不自然な流れが生まれ。


「えっと、それって普通の水魔法よね」


 リーサの目からはただスープ内で流れがあったようにしか見えなかった。

 しかし、ココはこれで魔法はちゃんと出来ていると自信満々。

 そして――、


「リーサさん。これ、ちょっと舐めてみてくださいっす」


 スプーンを突き出すココ。

 すると、リーサとしても話の流れから、いや、このパーティで一番の魔法の使い手としてココがどんな魔法を使ったのか気になったのだろう。

 おそるおそるココが突き出すスプーンに舌を伸ばし、その真っ赤な舌先がスプーンの上の液体に触れたその瞬間。


「辛っ、なんなのこれ?」


 思わずのけぞってしまうリーサ。


「スープに入ってる塩をちょっとスプーンの上に集めたんすよ。

 店長さん曰く、もともとは魔獣の血抜きなんかに使えるようにって、店のオーナーにお願いして作ってもらった魔法らしいんすけど、他にもいろいろ応用が効く魔法みたいで、こういう使い方もあるそうなんす」


 ココはそう説明をしながらも、リーサが辛いと言ったスプーンの中身を手近な空のコップに移し、塩気を抜いたスープを味わうも。


「って、これ、ちょっと塩を集めすぎたっすか、薄いっす。加減が難しい魔法っすね」


「ダシが効いてないのではないでしょうか、コンソメならありますよ」


 ココの文句にエレオノールがゴソゴソとウエストポーチから小瓶を取り出す。

 すると、ココは「あ、使うっす」と、エレオノールからその小瓶を受け取って、中に入っていた顆粒状のそれをスープの中に投入。よく溶けるようにとスプーンでかき回し。


「うん。いい感じになったっす」


 美味しそうに残るスープを飲み干して、


「で、リーサさん。この魔法、教えて欲しくないっすか」


 自分にもこの魔法さえあれば――、

 そう言わんばかりにジトッとした目線を向けるリーサを誂うのだった。


   ◆


 さて、ちょっとした不満と衝撃含みの食事を終え自分の部屋に戻った白盾の乙女たちは、それぞれのベッドに腰をおろし、ゆっくりまったり食休みをしていた。


「はぁ、お風呂に入りたいわね」


 部屋の中、それぞれが思い思いに過ごす中、ポツリ呟いたのは魔導師のリーサ。

 ココから教えてもらった魔法式をチェックしながら、誰に話しかけるでもなく、つい本音が口から溢れてしまったようである。


「でも、この辺境だと風呂なんて無理っしょ」


 と、ココもリーサと同じようなことを考えていたのかもしれない。

 ただ、辺境という場所がら風呂に入るのは難しく。


「そもそも、大きい街でもお風呂があるような宿屋には泊まれないんですけど」


 エレオノールも二人の話に苦笑しながらも、


「ただ、私達には浄化があるじゃないですか」


 魔法窓(ウィンドウ)経由で浄化の魔法を発動。


「それにほら、お風呂は無理ですがこのマットを敷きさえすれば、高級な宿屋の気分は味わえますよ」


 ベッド脇に並んで置かれたバックパックの上部にくくりつけられたロール状のマットを一つ手に取ると、それをベッドの上に広げ、マットの端についている魔法式を起動し、袋状になっているマット内部に空気を送り込む。


 いまエレオノールが用意したこのマットは、地球においてキャンプなどで使われるエアマット。

 野営の際に使うこのマットを使えば、硬い宿のベッドも高級宿並の質の高いベッドに早変わり。


 そして、他のメンバーもエレオノールに言われるがままに――というよりも、これをしないと眠れないとばかりに、各自眠る準備をはじめ。


「わざわざマットを買うなんて、最初はどうかと思ったけど買ってきて正解だったっすね」


「そうですね。辛い野宿もこれで随分と楽になりました」


「私としてはアヤさんまで買ったのは意外っだったっすけど」


「休息の環境を整えることは当然のことだと思うが」


 そう言いながらもアヤが若干気マズそうにするのは、彼女がこれまで、日々是修行といって、余計な出費をしなかったことに由来するのだろう。

 しかし、そんな彼女も万屋で売っていた便利グッズの誘惑には勝てなかった。

 そして、ふだん自分に厳しい彼女ですらこんな状況なのだから、白盾の乙女の中でも特に自分に甘いココなんかからしてみると、そんな万屋製の商品が足りない事態というのは死活問題に近いレベルであって、


「早く、万屋に戻りたいっす」


「でも、お金がないと欲しい物は買えないわよ」


「それは言わない約束っす」


「まあ、金うんぬんの問題に関しては虎助殿の手伝いをすることで、ある程度は確保できることになってはいるが」


「有力な情報で金貨一枚、重要な遺跡を見つけた場合はもっとくれるって話だったっすか」


「できれば遺跡そのものを見つけたいですね」


「いや、その前に今度はマジックバッグを買ってたくさん


「はいはい。早く休むわよ」

◆今週登場のアイテム。


 万屋謹製エアマット……伸縮性に富んだ魔獣の革を丁寧に加工して作ったエアマット。魔法によるエア注入機構を備えており、設置もマットの隅に書かれている小さな魔法陣に軽く魔力を通すだけで完了し、使わない時は空気を抜いてロール状にすることで手軽に持ち運びが可能となっている。

 今回、白盾の乙女が購入したマットにはカドゥケウスの革が使われており、もしもの場合は、そのまま盾に使えるくらいに丈夫なものとなっている。

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