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●城の改装状況と遠隔警備員

◆今回のお話は、とある魔の森に仮住まいをしているパキート御一行をメインとしたお話となっております。

 ◆パキート・ロゼッタside


 ある夏の日の午後――、

 ルベリオン王国の辺境に隣接する空白地帯にある深い森の奥深く、とある泉のほとりに建つ一軒のログハウスの中、冷房の魔法が効いたリビングで、周辺国から魔王認定されてしまった不遇な魔人パキートと、ルベリオン王国のプリンセスであるロゼッタが、すっかりお気に入りとなったインスタントコーヒーを飲みながら、部屋の中央に展開された3Dマップを見ていた。


「パキート様、それは以前のお家の地図ですか?」


「うん。『例の迷い込んできた娘達』のために向こうに新しい通路を作るってことになったよね。その説明のついでに虎助君がいろいろと資料を送ってくれたんだよ」


 ミルクと砂糖がたっぷりのコーヒー片手にロゼッタがした問いかけに対する答えとして、パキートが言った『例の迷い込んで来た娘達』というのは、オールード侯爵家が娘、アビゲイル(アビー)を追いかけて、パキート達が隠れ暮らすこの森に迷い込んでいた冒険者パーティ『白盾の乙女』の四人のことだった。


「しかし、あの遺跡はこのような構造になっていたのですね。私も随分と見て回ったつもりでしたが、知らない部分が随分とありますわね」


「僕も長年あそこに住んでたけど、こんなにも未知のスペースがあったなんて気づかなかったよ」


 自分達の知らない通路や施設、それが立体的で精密に地図として反映されていることに舌を巻くロゼッタに同意するように頷くパキート。

 しかし、パキートに隠された部分に気づけなかったのは仕方のない面もある。

 何故なら、このマップに記される新規スペースの出入り口には、現在パキート達が生きる時代には伝わっていない防犯・隠匿技術がふんだんに使われていたからだ。

 その立地条件を生かして、様々な世界から様々な技術を集める虎助たちならまだしも、古代の技術がすでに失われているパキート達がそれに気づかなかったのは、ある意味で仕方のなかったことなのだ。


「それで、まだ発見されていなかった区画はどのような場所だったのですか?」


「基本的にはバックヤードみたいなところかな。関係者以外立ち入り禁止の区画だったみたいだから、このハブポートの運営やメンテナンスに使われていたんだろうね」


「ハブポート?」


 解説の中によくわからな表現が出てきたと、人差し指を頬に当て首をかしげるロゼッタ。

 一児の母とは思えない可愛らしい仕草だ。

 そんな風に頭上に疑問符を浮かべるロゼッタに、パキートは慈愛に満ちた微笑みを浮かべると、部屋の中央に浮かんでいた3Dマップとは別に、2Dに書き直された図面を別の魔法窓(ウィンドウ)に表示して、


「虎助君の世界にある人や物流の中心となる場所をそう呼ぶそうだよ。

 もしかすると、周りの森に点在する遺跡もその一部だったのかもしれないね」


「今ではほとんど残っていませんが、当時は相当大きな街だったということでしょうか」


 周囲の森はもともと遺跡を取り囲むように作られた街だったのかもしれない。

 それが年月を経て飲み込まれ、一番頑丈に作られていただろうあの遺跡だけが残っていたと――、そんな想像をするロゼッタに頷きを返すパキート。


「しかし、どうしてそれ程の文明が滅んでしまったんでしょう」


「気になるよね。調べに行きたいよね」


 新たな事実に興奮を隠せないパキート。

 だがしかし、現状、彼等の微妙な立場を考えるとそれは到底かなわないことで。


「パキート様」


「わかっているよ。

 いま僕達があそこに戻るのはいかないんだよね。

 虎助君が用意してくれたゴーレムでの調査で我慢するよ」


 ◆リーヒル・キングside


「くっ、またやられてしまったか」


 木漏れ日の落ちる森の広場に響く悔しそうな声。

 金属質の響きを伴ったその声の持ち主はリーヒル。魔人パキートと契約するリビングメイルだ。

 さて、彼がどうして悔しそうにしているのかというと、その原因は眼前にある真っ黒な画面を映し出す魔法窓(ウィンドウ)にあったりする。


「キング。もう少し頑丈なゴーレムは使えないのか。

 そもそもどうして我がこのようなちまちまとした作業をせねばならぬのだ」


「そんなこと僕に言われても。

 ゴーレムが弱いのは証拠を残さない為だし。

 なんで僕達が――っていうのはレニ様とエドガー様と違って僕達が暇だからでしょ」


「むぅ――」


 パキートの部下であるリーヒルとキングの二人が現在進行系で行っているのは、以前暮らしていた遺跡の警備だ。

 とはいっても、彼等がやっていることは万屋から提供された、ミリ単位のゴーレムコアとペーパーゴーレムの仕組みを利用した監視任務なのだが、その仕様がリーヒルが考える警備の形とはあまりしっくりくるものではないようだ。


「苦戦しているようだな」


「僕はいいんだけど、リーヒルがね。こういうのが苦手みたい」


 リーヒルの悔しそうな声に引きつけられたか、声をかけるのは近くで剣術の訓練をしていたフレア。

 そんな彼に続くように、自らが契約する召喚獣の世話をしていたティマもやって来て、


「でも、それって動かし方はリスレムとかと変わらないんでしょ。

 だったら、ある程度、自由にさせておけばいいんじゃない」


 二人が操るのは万屋製のゴーレム。

 だったら、その操作方法なら知っていると、ティマが『過度にこちらが手を出さなければゴーレムが破壊されることもなくなるんじゃ――』と憤るリーヒルにアドバイスを送るのだが、


「監視する分にはそれでいいのだが、アヤツ等はパキート様がまだ調べていないところまでズカズカと立ち入るのだぞ、放ってはおけまい」


 リーヒルとしては主であるパキートが調査を行っていた場所に冒険者が立ち入ることが許せないらしい。

 その結果、監視目的に作られたゴーレムで冒険者にちょっかいを出し、壊されてしまうというサイクルに陥ってしまっているという。


 ただ、リーヒルのこの主張は、魔法使いにして召喚使いでとして、様々な旧跡を調べてきたティマにも理解できることであり。


「まあ、まだ調べてる途中の場所に他人に入ってもらいたくないって気持ちはわかるけどね」


 リーヒルの意見に同意するように腕を組んで頷き。


「もっと積極的に迎撃できればいいのであるが」


「しかし、あまりやり過ぎると、国がなにか手を打ってくるのではないか」


「むぅ――」


「そうなんだよね」


 そう、荒らされたくなくてこちらから介入すると、それが原因で国や協会から新しい冒険者が派遣されるなんてこともありえないことではない。

 だからこそ、リーヒルとキングはあえて耐久力が低く、見つかって倒されたとしても後に残らないこのゴーレムを監視任務に使っているのだ。


「というか、あの城にそんなに高価なお宝とかあるの?」


 ティマもいろいろあって、周辺国から魔王城などと呼ばれているパキートの元住処には幾度か足を運んだことがある。しかし、その時に何か高価なお宝を発見したという話は聞かなかった。

 そう訊ねるティマに、キングは自分の周囲に展開していた複数の魔法窓(ウィンドウ)をその羽を起用に使って脇に避け。


「研究に使ってた希少な鉱石とか魔獣素材、あと薬もいろいろと常備してたかな。

 それに場所が場所だけに探せばなにか見つかるってこともあるからね」


「ふぅん、後の話はまた別として、それでも結構あるのね」


「うん。虎助さんに調べてもらったらいくつか取られちゃってたから、その話が流れたんじゃないかってことらしいよ」


「成程、それで――」


 遺跡そのものは動かせないから別として、一般の冒険者からすると希少なアイテムがあるということか。

 ティマはキングの話をそう理解しながらも。


「でも、虎助にしては間抜けな話よね。そういう貴重品があるなら回収してそうなものだけど」


 虎助があらかじめちゃんと回収しておけば、ここまで話は大きくならなかったのではないのか。

 その場所が元魔王城な上に転移装置など、技術的に優れたものもかなり多く眠っていることを考えると、そちらの守りを優先するというのなら仕方がないのかもしれないが、それでもそういうアイテムがあったのなら、回収しておくべきだったのではないか。

 ティマがそう指摘をするのだが、


「それなんだけど、虎助さんも重要施設の防御を固めるついでに、主が残していった物品は、一応回収してくれたみたいなんだよね。

 ただ、その魔法薬とか素材とか、その辺はわざわざ手間をかけて回収する必要性を感じなかったみたいでね。残されてたものが後から来た冒険者に回収されてって感じみたい」


「ああ――、考えてみるとそうよね。

 虎助が重要じゃないって回収してなかったものも、あっちの冒険者からしたら結構な値打ちものってものもあるわよね」


 その世界においては希少で価値のあるものでも、アヴァロン=エラにおいてはありふれたものであることが多かったりする。

 結果的にそれらアイテムが回収されずに放置され、お宝を求める人間を呼び込む流れになってしまったのだ。


「っていうか、例のゴーレムがいるなら今更か――」


「そうだね。あそこは王国の人に知られちゃってるって話だから、ちょっとアイテムを隠したくらいで人が減ることはなかったかもね」


「ま、そうよね」


 そもそもパキート達が暮らしていた遺跡には、冒険者達が集まる前に、ルベリオン王国関係者による調査が入っており、幾つかの隠された通路の存在が上層部に報告されていたのだ。

 ただ、それら情報に関しては、ある程度、万屋の手によって対策が施されているのだが――、

 人の口に戸は立てられない。

 場合によっては、男としての死すらも垣間見るほどの激痛に耐えてまでその情報をしゃべる人物もいなくはないと、そんな事実もあったりして、


「それでなくとも、以前パキート様が暮らしていた場所だから――」


「まだ隠されたアイテムが眠っているかもって残ってる人が多いのね」


「最近だと周辺の森にも目が向けられてるんだけどね」


「ふぅん。だったら、もっとそっちに目を向けることは出来ないの?」


「そういう誘導も虎助さんがやってくれているみたいなんだけど」


 ただ、防衛に利用していただけあって、森の魔素濃度は高く、必然的に強力な魔獣が多く住んでおり、魔王城のお宝で一発当てようと考えている人間には少々荷が重いというのが現状だ。


「そういえば、ちょっと前に森から出ていった人達はどうなったの?

 あっちの案内もアンタ達が遠隔でやることになっているんでしょ。彼女達にも手伝ってもらったら」


「まだ旅立って数日じゃない。ようやくルベリオンに入ったところだからまだまだだよ。

 というか、そもそも僕達と関わりないから彼女達に協力を頼むのは難しいんじゃないかな」


「それもそっか」


 例の遺跡から退避することになったパキート達の旅路は、途中、様々なトラブルに巻き込まれながらも数ヶ月の旅路になったのだ。

 そのまま向かったとしても徒歩での移動となると一月は必要になるだろう。

 そして、最近、この森から旅立った白盾の乙女は、この森にパキート達が住んでいることを秘匿としている為、パキートとその部下達との面識がないのである。


「まあ、なににしても遺跡の警備は二人がしっかりと頑張るしかないということだな」


「むぅ」


 と、最後、話を聞いていたのかいないのか、聞きようによっては無責任にも聞こえるフレアのまとめに、じっと会話を聞くしかできないでいたリーヒルは難しそうに唸るしかなかった。

◆今回登場のゴーレム


ハイブリッドペーパーゴーレム……超小粒インベントリと魔法金属を使った極小のICチップのようなものを核としたペーパーゴーレム。素体が紙を媒介にしたものだけあって、様々な形態のゴーレムを簡単に作り出すことが可能となっているが、反面、紙だけに軽くダメージを受けるだけで破壊されてしまう。ただ、素体となった紙は倒されると同時に発火するので、余計な証拠を残さないというメリットがある。ちなみに、核は回収することによって何度でも再利用が可能となっている。


◆次回の投稿は水曜日の予定です。

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