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とある遺跡の隠し通路

 さて、フレアさんと白盾の乙女のみなさんの帰還に関する打ち合わせをしたところで、その準備に取り掛からねばなるまい。

 万家に戻った僕はすぐにパキートさんが以前拠点としていた遺跡の3Dマップを呼び出すと、先に万屋へと帰って漫画を読んでいた元春が僕が呼び出したそのマップを見て、


「ん、虎助、なに始めんだ?」


「ああ、白盾の乙女のみなさんが元の世界に戻っても、またここに来られるようにちょっとね」


 興味津々と身を乗り出して聞いてきたので、いましがた白盾の乙女のみなさんと話した内容を、元春でも理解できるようにと簡単に説明したところ、元春は自分となんの関係もないに関わらず「おおっ」と嬉しそうなリアクションして、

 その一方で、僕達の話が気になったのかな。アビーさんが帰ってくる前から、カウンター横の応対スペースで、ユイたんとアクアとオニキスと、今後の動画撮影の打ち合わせをしていた次郎君が立ち上がり、スクナ達と一緒に僕達いるカウンターの方に歩いてきながら、メガネのブリッジをクイと押し上げ聞いてくる。


「それで地図を広げてなにをするのです?」


 僕はそんな次郎君からの質問に、ふわふわと僕の肩に飛び乗ってきたアクアとオニキスを可愛がりながらも、空中に展開した遺跡の3Dマップを二人に見やすいようにと回転させて。


「とりあえず、バフォメットがいる部屋に繋がる専用の通路を作ろうかなって思ってるんだけど」


「普通に入り口から入るんじゃダメなん?」


「いま、あの遺跡にはお宝目的の冒険者が沢山いるから、堂々と正面から入っていったら絡まれると思うんだよ」


 白盾の乙女のみなさんの場合、一度こっちに来たら数日は宿泊していくのは確実だ。

 それを考えると、正面から遺跡に入るのはちょっと目立つんじゃないか。

 元春の問いかけに僕はそう答えるんだけど、元春が心配したのはまた少し違った視点からみたいで。


「ま、たしかにあの山羊、普通にやったら無理ゲーだからな。ふつうにスルーできるってなったら面倒になるかもな」


 たしかに、バフォメットを簡単に攻略できる方法があったのなら話題になるのかもね。

 一方、次郎君は元春がそこまで言い切るバフォメットの実力が気になったみたいだ。


「それほどですか?」


「命の危険はないんだけどね」


 すかさず差し込まれた疑問符に、僕は自分の魔法窓(ウィンドウ)にバフォメットの仕様書を呼び出して次郎君の手元にパス。

 すると、それに目を通した次郎君は、


「ああ、たしかにそれは面倒そうですね」


 バフォメットの厄介さに唸るような声を出すのだが、

 ただ、実際のところ、バフォメットに関しては、その厄介な仕様が逆に仇となっている部分もあったりして、


 実は今、バフォメットがいる現場では、装備を壊されても殺されないことを逆手に取って、ただ装備を破壊されるだけならば、そこそこの性能で安い量産品を大量に持ち込めば、いつかバフォメットを倒すことが出来るのでは? と考えた冒険者が現れたりしていて。


「最近だと武器だけ担いで挑んでくるグループもいるみたいでね」


「ふむ、そのバフォメットというゴーレムの仕様を考えますと、あながち無謀とも言い切れませんか」


「そもそもバフォメットが守っているあの場所は、クリアされても大丈夫なように設計してある場所だからね」


 まあ、万屋の関係者以外がバフォメットを倒した場合、転移装置がある部屋ではなく、厳しい装備品が置かれている部屋に誘導するような作りになっているけど。

 ただ、そのクリア事態がいまだされていない状態で、そんなところに白盾の乙女のみなさんが入っていって、戻ってこないとなると、また物議を醸し出しそうなんだよね。


「資材集めの観点から考えると、人が集まることはありがたいことなんだけど――」


「資材集め、ですか――」


「どゆこと?」


「パキートさんの拠点はかなり古い遺跡を改造したところだから、いろんな場所が結構崩れててね。その改修工事に壊れた装備品を使ってるんだよ」


 ソニアが調べたところによると、パキートさん達が前に拠点にしていたその遺跡は、建造されてから既に千年以上の時が経過しているらしく、もともとは頑丈に作られていた上に魔法的な強化が施されていたそうだが、さすがに千年を超える経年劣化には耐えられず、場所によっては崩壊寸前のエリアもあったりして、そんな場所の補強や再建にバフォメットが回収した装備などが再利用されていたりするのだ。


「つか、あそこ一応、他人(ひと)の家だろ。勝手に弄っちゃっていいのかよ」


「それは大丈夫。むしろ頼まれてやっていることだから」


 そもそもこの補強作業は、ずいぶん前からその遺跡で暮らしていたパキートさん達がやっていたことなのだが、それが現在拠点から離れて出来なくなってしまったからと、今は僕にソニアにベル君たち、そして、パキートさんの部下であるリーヒルさんとキングさんとで、遠隔操作で手伝ってもらいながら進めていたりするのだ。


「そういうことだから、この新しく作る通路もちゃんと許可を取ってあるから」


「成程な。

 けど、こっから別の入口を作るのってムズくね。

 この地図を見るに、バフォメットが守ってる部屋って遺跡の真ん中近辺にあるんだろ」


 実際、元春の言うように、このアヴァロン=エラへと繋がる遺跡の隠し部屋は、中心から外れているとはいえ、大きな遺跡の中では建造物が密集する中央に近い場所にある。

 だから、目くらましの為に作った小さな部屋のようなスペースならまだしも、遺跡外へと繋がる長い入り口を作るのは、かなり難しいといった事情があるのだが、


「そこはメタルカーバンクルを使って作っちゃおうかなって思ってるから、たぶん大丈夫だと思うよ」


 メタルカーバンクルによる迷宮作成は基本的に錬金術の応用技術が使われているという。

 ゆえに地下通路の掘削は勿論、遺跡そのものの改造も静かにかつ安全にできると思うのだ。


「ん、メタルカーバンクルってアレだよな。マリィちゃんのトコからワープできるダンジョンのゴーレム。

 でも、あれってまだ解析の途中とか言ってなかったっけか」


 うん。つい先日、説明したばかりだから、元春もメタルカーバンクルのことはちゃんと覚えていたみたいだね。

 たしかに、あの時はまだ解析途中と言っていたんだけど――、


「まだ解析されていないのは、巨大な迷宮のランニングコストはどこから持ってきているのかとか、迷宮を構成している物質がどんなのもかとかだからね。その辺り、ある程度、こっちで調整してやれば似たようなゴーレムは作れるみたいなんだよ」


「つまり実地試験のようなものも兼ねているのですね」


「そうだね」


 ソニアとしては得られたデータから、実際にメタルカーバンクルと同じようなゴーレムを作り、動かしてみることでどのデータが足りないとか、そういうことを洗い出したいんだと思う。


「でもよ。ああいうゴーレムって誰かに起動してもらわねーといけねーんじゃなかったっけか」


 おっと、またしても元春にしてはよく憶えていたものである。

 けれど、この問題に関してはすでに解決策があったりして。


「そっちも大丈夫。オーナー(そにあ)がちゃんと手を打っておいてくれたから」


 開発物の問題をそのまま放置しておくソニアではない。

 いまは、特殊なマジックアイテムを使うことによって、ある程度、複雑なゴーレムでも遠隔操作で起動できるようになっているのだ。

 とはいえ、現地への移動やら、遠隔起動した後にゴーレムの位置情報を変更することはまだ出来ていないので、一度、そこへの移動をしてしまうと、その拠点限定――というか、フレアさん達が住む世界にしか転移できないという問題点が残ってるんだけど。

 まあ、そちらはゲートの仕様など異世界転移に関わる問題なので、まだまだ解決には時間が必要だそうだとのことなので。


「まあ、とりあえず、メタルカーバンクルを向こうに送ることはできるようになっているから、先にどんな風に遺跡を改造するのか、その設計をしないと」


 ということで、話題を手元の魔王城という名の古代遺跡に戻したところで、バフォメットが守るゲートに繋がる隠し入り口の設計に取り掛かるのだが、あらためてその地図を見直した元春がため息を吐くように。


「しっかし、うらやまおっさんの家はホントにデケーな」


 いや、うらやまおっさんって――、


「もともとが巨大な遺跡だからね」


「ゲートポートのような場所とのことですが」


「まだ確定じゃないんだけどね」


 すべての転移先がハッキリしないと、本当にこの遺跡がゲートポートとは断定できない。


「だけどよ。この地図、なんか前見たヤツよりも細かくなってね」


「転移装置の調査のために隅々まで調べたからね」


 研究の為、ソニアが自ら進んで隅から隅まで調べているから、この遺跡の地図は日々更新されている。

 そんな細かな立体地図をしげしげと眺める元春と次郎君を横に、僕はとりあえずバフォメットがいる部屋を起点に地下へと続く道を作り、そこからまっすぐ地下道を伸ばしていって――、


「なんか普通にゲームのシミュレーションみてーだな」


「けど、こっちの方が使いやすいでしょ」


 無駄にオリジナルのインターフェイスを作るよりも、ゲームを参考に作った方が使いやすいと僕は思う。


「しっかし、結構なげー通路を作るんだな」


「出入り口が遺跡の近くだと他の人に見つかっちゃうから」


 出入り口には万屋でも使ってる認識阻害の結界やらなんやらを仕掛けるつもりだけど、それでも絶対ではないからね。見つかった時にすぐに遺跡に侵入されるなんてことがないように、ある程度の距離は確保したい。

 だから、僕は表示している地図の範囲を広げ、遺跡を囲む魔の森までその地下道を延ばすと、目立たないように、もともとそれも遺跡の一部だったのだろうか、森の中にどこか人工的な加工も見て取れる巨石が屋根になるように、遺跡から伸ばしてきた地下通路を接続。

 後は場所は遺跡といえどパキートさんのお家でもあるんだから、ちゃんとしたセキュリティも作っておかないといけないからと、ここで少し手を止めて。


「やりすぎると使い勝手が悪くなるから、加減が難しいよね」


「つか、防犯ってんなら、転移部屋みてーにデカ山羊ゴーレム(バフォメット)を置いとけばよくね」


「いや、それだと遺跡の隠れ部屋とのつながりがわかっちゃうでしょ」


「あ」


 そう、すでにバフォメットは魔王城(パキートさんの家)を守るゴーレムとして、遺跡の近くに作られた簡易的な拠点で有名となっている。

 そんなバフォメットを新しく作った通路にも配置したら、繋がりがあると言っているようなものである。

 だから、この通路の防犯はバフォメットなどのゴーレムによる警備ではなく、それ以外の防犯装置でやらないといけないから。


「幻覚魔法を利用した無限ループとか、相手の方向感覚を鈍らせて追い返すようなトラップを備え付けるのがいいかな」


「もしくは通路の途中を迷路状にして相手を別の入口に誘導するとかですか」


 成程、森の地下なら弄り放題だし、次郎君の意見はいただきだ。


「というかさ。そういうのを作んなら、その途中に、装備が溶けっちまうスライムプールとかの方がいいんじゃね」


 いや、それはそれで危険なんじゃないかな。


「というか、そんなスライム、どこから持ってくるのさ」


「そりゃ、あの遺跡の周りの森の中とか」


 たしかに、遺跡の周りの森ならば、探せばスライムくらいはいると思うんだけど。


「あそこの森にスライムがいたとしても、元春がいうようなトラップに使えるスライムなんていないと思うよ」


 遺跡の周りの森はパキートさん達が遺跡の防衛に利用するくらいに魔素の濃い森だ。

 今はルベリオン王国の手が入り、森の危険度は多少下がったといわれているみたいだけど、それでもそこに暮らす魔獣が危険なのには変わりない。


「そもそも、装備だけを溶かすなんていうような。エッチなゲームにありがちなモンスターがいるんでしょうか」


 うん。それこそ次郎君の言う通りだ。

 僕もそう思ったのだが、僕達は元春の情熱を舐めていたみたいだ。


「フッ、そこんとこ抜かりはないぜ。

 じゃーん、メルティスライム。

 人間のマナが染み込んだ装備品を好んで食すスライムってのがいるらしいぜ」


 ああ、本当にいるんだ。そういうスライムが……、

 格好をつけて鼻で笑った元春が出した魔法窓(ウィンドウ)には肌色のなまこのような粘体生物が映し出されていた。


「ですが、その個体が遺跡周囲の森にいるとは限らないでしょう」


「ぐっ――、だから探すんだって、

 んで、できれば、俺にもそのスライムをくれ」


 それが目的か。

 ただ、いましなければいけないのは、白盾の乙女のみなさんを受け入れるための隠し通路の警備をどうするかであって、そんな訳のわからないスライムの探索に割く時間はないから。


「そういうのが探したいなら、遺跡の監視に使ってるゴーレムを一匹、元春に回すから勝手に探してよ」


「よっしゃ言ったな。ぜってー見つけてやんぜ」


 と、無駄に気合を入れる元春に「はいはい」と生返事を返し。


「それで結局どうするんです?」


「そうだね。とりあえず、次郎君がいったみたいに森の地下を迷路状にして、魔王様の森に張り巡らせてある迷いの結界を使えばたぶん行けると思うんだよ」


 万屋製の迷いの結界は魔王様が暮らす森、そして賢者様が暮らす森できちんと結果を残している。

 それに迷路状の地下通路を組合せてやれば、ほぼ突破されることはないと思うからと、元春が無駄な努力を始める一方、隠し通路の大雑把なセキュリティの方向性を決めると、僕は「だったら出口を他に増やしてみたらどうです」などの次郎君からの助言を参考にしつつも、その日は終日、その格子通路の設計に取り組むのだった。

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