迷宮の奥へ03
『う~。疲れたよ~』
『が、我慢ですよルクスちゃん。あとチョット、あとチョットの辛抱です』
両腕をだらんと下げて気だるそうに歩くルクスちゃんを応援するのは犬耳メイド少女のフォルカスちゃん。
いま、彼女達が歩くここは例の地下鉄ホームのような広場から進んだ先の通路だ。
彼女達はある目的の為にこの巨大な環状通路をもう一週していた。
『姫様、目標の反応はいかがでしょうか?』
「問題なく捉えていますの」
『ならば、あとひと踏ん張りですね。皆、油断をしないように』
『『『『『はい(は~い)』』』』』
『ルクス!!』
『はい』
ちなみに、ここまでの道中、当然のように、防御特化のメタルクレイゴーレムやハンドゴーレム、スピード重視の中抜きゴーレムなどに何度も襲われたのだが、倒すごとにその素材を回収したおかげで、今や、八龍が持つコールブラスト改やトワさんの持つ聖槍メルビレイでも手こずるメタルクレイゴーレムは徐々にその姿を消していき、通常のゴーレムも素材不足なのか、はたまた再生を急いだ結果なのか、中抜きゴーレムがそのほとんどを占めるようになっていた。
ただ、少なくなったメタルクレイゴーレムを補うように、その中抜きゴーレムの数が増えてしまい。
労力という意味で一周目よりも苦労をすることになってしまったのだが、それでもどうにかこうにか戦いを続け、例の隠し通路がある通路の終着点まで辿り着いた。
さて、どうしてマリィさん達が、この行き止まりとなっている通路をもう一周していたのかというと、地下鉄ホームのような拠点やら、回廊の各地に待ち構えていたゴーレムと接敵する直前に捉えた、反応の正体を確かめるためである。
『到着』
『やっとです』
ようやく辿り着いた行き止まりに、『さっきまでの疲労困憊の姿はなんだったのか』と、そんなトワさんのため息が聞こえてきそうなダッシュで、ルクスちゃんがフォルカスちゃんの手を引いて走っていく。
そんな二人にトワさんから『二人とも、警戒を怠らないように』との注意が飛び。
「それで、目的の相手は捉えられたでしょうか」
『マリィ様、あちらに――』
マリィさんのクエスチョンマークに、迷宮の行き止まりを指差したのは木霊型スクナのキキを肩に乗せたミラジューンさん。
そこには、地下鉄のホームのような広場に通じる隠し通路の入り口が隠されており、その目前にバスケットボールサイズの簡易結界が展開されていた。
ちなみに、そんな簡易結界の中には小動物のようななにかが捕らえられているようだ。
先に走っていったルクスちゃん達を追いかけるように近づいた八龍がそのカメラに収めたのは――、
『リ、リス? じゃなくて、これは――』
『ってゆうか、ちっちゃっ!?』
それは、額に大きな宝石のようなものがついた、どことなくカーバンクルを思わせるゴーレムだった。
名付けるのならメタルカーバンクルといったところだろうか。
さて、このメタルカーバンクルがなんなのかというと。
『これがこの迷宮を管理する核ですか?』
「正確には調べてみなければわかりませんが、少なくともここまでに出てきたゴーレムを操っていたのはこのゴーレムになると思います」
そう、今までのデータを鑑みるに、このメタルカーバンクルこそが迷宮の要、もしくはゴーレム達の司令塔と思われる。
これに関してソニアに意見を求めたところ、地下鉄のホームのような場所を起点に隠し扉も含めて、ぐるり一周している回廊そのものがこの迷宮のボス部屋のようなものという位置づけだったのではないかとのことだそうだ。
「とりあえず、このゴーレムをスキャンしてオーナーに分析をしてもらいましょう。マリィさん。お願いできますか」
「わかりましたの」
と、八龍がメタルカーバンクルに緑色の光線を照射している間に、僕はソニアとの連絡をつけ、八龍のスキャンによって続々とあがってくる情報をそのまま転送すると、通信の向こうからソニアの嬉々としたコメントが届き。
ただ、そのデータを分析には少々時間がいるそうなので、
「では、オーナーの分析が終わるまでに、そのゴーレムが逃げられないようにしましょうか」
「そうですわね。
しかし、逃げられないようにといいましても、どのようにして処理しますの?
このゴーレムが迷宮の核だとするなら、迂闊に止めることもできませんわよ」
マリィさんの言う通り、このメタルカーバンクルが迷宮の核だとしたら、その機能を停止してしまうのは迷宮の機能そのものを止めてしまうのと同義である。
そうなると、迷宮そのものは構造がしっかりしている為、すぐにどうこうなることはないだろうけど、迷宮の力で動いている転移システムは停止してしまうかもしれない。
そうなれば、メイドさん達がガルダシア城に戻れなくなり、迷宮の転移装置を介して繋がっている念話通信まで切断されてしまう可能性が高い。
その危険性をなくす為にも、このメタルカーバンクルをどうにかするではなく、動けなくする必要がある。
だから――、
「八龍のマジックバッグの中にある素材を使ってケージを作ってしまうのはどうでしょう。世界樹の樹液で作った接着剤もありますので、それでそのゴーレムを物理的に動けなくした上で閉じ込めておけばなんとかなると思うんです」
「成程――」
『それが一番ですか』
と、マリィさんとトワさんから納得の声をいただいたところで、さっそくケージ作りに取り掛かる。
八龍が簡易結界から取り出したメタルカーバンクルをがっしり捕まえている一方で、そのマジックバッグの中からケージに使う素材を放出。
その素材をウルさんが、トワさんが周辺の警戒する中、これまた八龍が取り出した専用の工具を使ってケージを作るのに邪魔な部分を気合一発裁断。
作られた部品をルクスちゃんとフォルカスちゃんが世界樹由来の接着樹脂で接着していくことで組み立てていく。
ちなみに、これら素材は、以前、空中要塞の下層の探索の時に足場を作る時に使ったものと同じになっている。
なので、ちょっとやそっとでは壊れないと思う。
気になるのは接着面を火属性の攻撃で集中的に狙われることだけど、こちらは簡易的にも結界で覆い、ちゃんとメタルカーバンクルの動きを見張っていれば問題ないと思う。
と、出来上がったケージに、八龍の協力を得たミラジェーンさんによって関節を接着剤で固められたメタルカーバンクルが無理やり押し込んでゆく。
すると、ゲージに押し込まれたメタルカーバンクルはもう逃げられないと悟ったのか。
というよりも、手足をガッチリ固められたら、さすがにどうすることも出来ないのかな。
大人しくなって、なすがままのようなので、
「とりあえず、これで一安心ですか。それでここからどうしましょう?」
もともとの目的であった下層の探索は最下層であると思われる環状通路、そしてメタルカーバンクルを確保したことで果たしたとは思うのだが、終点の隠し通路を考えるとまだ隠された区画があるかもしれない。
僕としては一度戻った方が安全だと思うのだが、時間的にはまだお昼前脱出、少し待てばソニアからメタルカーバンクルの簡単な調査結果が返ってくることを考えると、その報告まで探索を行うという方法もなくはないと、マリィさんに訊ねかけてみると。
「そうですわね。皆の安全を考えるのなら、一度、戻るのがいいでしょう」
マリィさんとしての判断は安全第一のようだ。
そして、そうと決まれば善は急げ。
トラップを仕掛けていた隠し通路から最下層の起点となっていたホームに戻り、そこから上層へ向けて移動を始めるのだが、
移動を始めてから二十分くらいか、時おり遭遇する魔獣を無視して下層を駆け抜けて、そろそろ転移装置のある中層へと入ろうかというそのタイミングで、ズズンと上方から地響きのような音が聞こえてくる。
『マリィ様、いまの音は?』
「八龍の感知にはなんの反応もありませんの。虎助、そちらは?」
「こちらでも原因はわかりませんね。とりあえず、音の発生源を特定してリスレムを送っているところですが、確認には少し時間がかかりそうなので、みなさんは転移装置まで急いで移動してください」
もしも、これがメタルカーバンクルが引き起こしていることなら、手元にないとどうにもならないからね。
「わかりましたの。
では、急ぎますわよ」
マリィさんの号令に『かしこまりました』と走り出すメイドさん達。
さて、なにが起きたのか。
みなさんに無事に帰ってきてもらう為にも、まずは音の発生源を探ることから始めないとね。
僕はそう気合を入れながらも、手元に浮かべていたリスレムを動向をモニターしていた魔法窓を多重展開、その一枚一枚にそれぞれのリスレムの視界を映し出し、迷宮でなにが起こっているのか調べ始めるのだった。
◆次回は水曜日に投稿予定です。




