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翻訳とタトゥー除去薬

◆先日、リアルで巨○Tシャツを着る勇者に遭遇しまして、短いですが書いてみました。

 というか、○根Tシャツ普通に売られているんですね。後で調べて愕然としました。

 ネタとしてそこそこの需要があるんでしょうか。

 ある日の夕方、日中、今日も今日とて部活動に精を出していたという元春が、地球の暑さから逃れるように万屋にやって来て、


「あのさ、前から思ってたんだけどよ、このタトゥー除去薬ってなんでおいてあんだ?」


 万屋に来る途中に買ってきたというインスタントラーメンをズズッと啜りながら目を向けたそれは、数は少ないが店頭の目立つところ置いてある、患部に直接塗ることで体に刻まれたタトゥーを消し去ることができる魔法薬。


「それはバベルの所為だね」


「バベルって虎助が首に避けてる翻訳の魔導器だよな。

 それがタトゥーとどう関係があんだ?」


「そうだね。たとえば外人さんが変な感じのタトゥーを彫っていてその意味を知っちゃったらどう思う。しかも仲間から言われて気付いたら――」


「ああ、そりゃ恥ずかしいな。

 って、それでこの薬がここにおいてあるんか!?」


 そう、このタトゥー除去薬は、このアヴァロン=エラに来訪し、バベルの影響下に入ってしまったことで、自分の身体に刻まれたタトゥーの本当の意味を知ってしまったお客様が、そのタトゥーをどうにかする方法はないのかと、そんな相談から作られた魔法薬だったのだ。


「しっかし、そういうのはどこででもあるもんなんだな」


「インターネットなんかでもネタ画像として見るくらいだからね」


 実際、インターネットでそういう画像が散見できることを考えると、カッコよく見える他言語をタトゥーなどにして失敗するというのは、どこの国――、いや、どこの世界でもあることなのだろう。


 と、僕と元春がそんな話をしていたところ、それを和室で聞いていたマリィさんがすごく納得したように頷いて、


「それで元春は変な文章の書かれている洋服を着ていたのですね」


 そう一言。

 訪れる一瞬の沈黙。

 しかし、すぐに元春が慌てたように。


「えっ、ちょっ、それってどういうことっすか!?」


「どういう事もなにも、そのままの意味ですの。

 貴方、いつも変な文章の書かれている洋服を着ているではありませんの」


 そんなマリィさんからの指摘に、『マジかよ』とすがるような目で僕を見てくる元春。

 しかし、残念かな。マリィさんが言っていることは事実であって、

 僕は優しげな笑みを浮かべながら諭すように。


「何回かそういう服を着てた時があったと思うよ。

 最近だと『バナナ効果で快食快便』って書いてあるTシャツをよく着てるかな。

 ほら、今年、あったかくなった頃から着るようになった黄色いTシャツなんだけど」


 本当はもっと際どい文章が書かれた服を着ていたことがあったんだけど、あえてそれを例に出す必要はないだろう。

 僕がまだダメージの少なそうな例を出して答えると、それを先日の迷宮探索のデータを手元に、マリィさんが、


「本当に、あの服に関しては、以前、ここでトワが元春が着ているのを見て――、

 いえ、これは止めておきましょう」


 なにか思い出すかのように言いかけて、不意に身の危険を感じたのか、その発言を途中でストップ。


「え、マリィちゃん。何ソレ、なんか怖いんだけど」


 そして、そんなマリィさんの態度に戦々恐々とする元春。

 あれはなんの話し合いの時だったかな。マリィさんがいま言いかけたのは、不意打ち的にトワさんがやってきて、元春が逃げ遅れた時の話だったとと思う。

 あの時はすごい元春のことを見てたね。

 そのおかげで元春の緊張に拍車がかかってしまったんだけど、この話をこれ以上掘り下げてしまうと、僕もトワさんに怒られてしまうかもしれないから、この話は適当に流すことにして。


「あと、よくわからない怪文書が書いてある服もよく着てますよね。骸骨がかかれたTシャツとかですか」


「ああ、あれにはわたくしも言葉をなくしましたの。マオも戸惑うくらいでしたから」


「ちょ、なんすかそれ、何が書いてあったんすか?」


 ここは話題そらしにと、もう一つ、元春本人にもダメージの少ないTシャツを例に出してみると、それにマリィさんが乗っかって、また元春が怖がるような素振りを見せる。


「たしか――、ピンク色の空がどうとか、可愛い女の子になりたいとか、もしそれを元春が言っていたのだとしたら正気を疑うような可愛らしい? 内容でしたわね」


「マジっすか!?」


 そう、そのTシャツに書かれていたのは、ちょっと天然が入ったアイドルの女の子が書いたようなファンシーな文章だった。

 しかも、それがヘビィメタルバンドのメンバーが着ていそうな、狐面やら骸骨やらが散りばめられたエッジの効いたTシャツに書かれていたのだから、僕もそれをはじめて見た時は、じっくりと見返して確認し直したくらいだ。


「つか、なんで俺はそれに気付かねーんだ」


「自分で着てるからじゃない」


 自分が着ている服の文字なんて、あえて読もうとすることはほとんどない。

 着る時にはその文章を目にしているだろうけど、その時は翻訳されていない状態だからね。

 それは違和感なく図柄としてしか認識されていなかったってところかな。


「けど、そんなことになってんなら、ちょっと教えてくれてもいいんじゃね」


 そうだね。元春の言うことはわからないでもない。わからないでもないけれど。


「僕がそういう服を着てたら元春なら言える?」


「うっ」


 果たして友人が変な文章の書かれた服を着ていたとして指摘できるだろうか。

 しかも、それに気づいたのが、実際にその服を着てしばらくたった後だったら。

 すでに複数の目撃者が気づいた後だったら。

 いかにも残念そうな――、

 あるいは、若干の、いや、あからさまな悪感情のこもった視線を向ける女性がいる前で指摘できるだろうか。


「まあ、そんな訳だから、それに元春も気付かなかったし、仕方がないって思ってもらうしかないね」

◆商品の紹介


 タトゥー除去薬……毒消しの魔法薬アンチドーテポーションをベースに、重曹や各種分解酵素を錬金合成して作られる。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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