ロゼッタ姫の休日
出産からの忙しい日々も落ち着いたこの日、魔素の濃い森の奥で仮暮らしをするロゼッタ様が、静養 という名目でこのアヴァロン=エラを訪れていた。
その傍らには黒髪赤目のホムンクルス、レニさんがいる。
「ようこそおいでくださいました」
「今日はよろしくお願いします」
ゲートの近くでエレイン君と待ち構えていた僕に、深々と頭を下げてくれるロゼッタ姫――と仄かに不満そうなレニさん。
ちなみに、本日ニナちゃんは賢者梟のエドガーさんが中心となって面倒をみてくれているそうだ。
親馬鹿ならぬ従魔馬鹿のエドガーさんが中心となっているのは少し心配だけど、あちら側の様子は念話通信をつかってほぼリアルタイムで見られるようになっているので大丈夫だと思う。
と、そんなちょっとした心配はありつつも、僕は二人を万屋に案内して裏口から工房へ。
今日のお茶会は、石壁に囲まれた工房内にある僕と元春製作のトレーラーハウスの目の前で行われることになっている。
ここなら魔獣の来襲があったとしても安全だからね。
二人をエスコートした工房で待っていたのは、マリィさんのお母様であらせられるユリス様と魔王様。
二人のサポートとしてスノーリズさんと前髪スラッシュな双子メイドであるアシュレイさんとシェスタさん。
あと数名の妖精が控えている。
ちなみに、本来ならここにルベリオンの聖女として知られるポーリさんや、ベルタ王国の侯爵の娘であるアビーさんも呼びたかったのだが、残念ながらアビーさんはまだアヴァロンへ帰ってくる旅――という名のフィールドワーク――の途中で、ポーリさんは普段からロゼッタ姫と一緒にいることに加えて、ロゼッタ姫がいない間、ニナちゃんになにかあったらと心配性なエドガーさんの懇願により、向こうに残ることになったそうだ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ――、
このような機会でもなければ、誰かとお茶会を開くような機会もありますせんでしたから」
ロゼッタ姫の綺麗なお辞儀に、まず挨拶するのはマリィさんのお母さんであるユリス様。
ちなみに、ユリス様がいつも以上にニコニコと嬉しそうなのは、王位簒奪からの軟禁生活、そして娘の収める領地で隠居生活となかなか誰かとお茶をする機会がなかったからだという。
「ええと、そちらの精霊の姫君であられる――」
「……ん、マオ。よろしく」
続く挨拶は魔王様。
魔王様が頭を下げるのに合わせて、魔王様が着るジャージのフードの中にいたシュトラが「にゃ」と片足を上げて、虎でありながら精霊でもあるからだろう、見た目通りというかなんというか、やや控えめながら愛想を振りまくと、それを見たロゼッタ姫から、
「あら、可愛らしい猫ちゃん。
この子の頭を撫でてもいいでしょうか」
お伺いの声があがり、魔王様から「……ん、いい」と許可が降りたところでロゼッタ姫がシュトラの頭を撫で繰り回す。
ちなみにロゼッタ姫が口にした『妖精の姫君』というのは魔王様が持つ実績の一つ【妖精姫】からきた呼び名である。
今回、魔王様がこのお茶会に参加することに先駆け、名目上、魔王と称されるパキートさんの奥さんであるロゼッタ姫に魔王様をどう紹介したものかと、いろいろな方に意見を頂戴したところ、魔王様の忠臣であるリドラさんから、前情報として魔王という実績を持っていることを明らかにしながらも、あくまで妖精の姫君としての立場を全面に出していった方がいいのではと助言されたからだ。
ちなみに、そうなると普段から『魔王様』呼びをしている僕はどうなるのかという話が出てきそうであるが、こちらは初めて魔王様と出会った時の状況と、僕が魔王様と呼びながらもきちんとした敬意が込められているとされ、魔王様本人がそれを喜んで受け入れてくれているそうなので、問題なしとリドラさんが嬉しそうに語っていた。
さて、そんなこんなでロゼッタ姫とユリス様、魔王様の挨拶に加え、レニさんやスノーリズさんの挨拶が簡単に終わったところで、それぞれが席につく。
ちなみに、お茶会のテーブルを彩るのは、各有名通販サイトからお取り寄せしたスイーツ傑作選。
大阪土産として有名なロールケーキやら、ザクザク食感のミルフィーユ、人気パティシエが作る濃厚チーズケーキなど、ユリス様と魔王様がセレクトした洋菓子をいろいろと集めてみた。
それを、ユリス様とマリィさんが選んでくれた紅茶に合わせてお出ししたところでお茶会がスタート。
あらためて、お茶会が開けたことに対するロゼッタ姫からのお礼が入り、ユリス様がそれは自分も同じですとフォロー、最初は探り探りながらも、徐々に打ち解けるようにしておしゃべりを始めるユリス様とロゼッタ姫。
そんなお二人の会話の内容を一部抜粋するとこんな感じだ。
「私としましては、皆と同じように扱って欲しいのですけれど気を使われて」
「わかります。私もなかなか外に出る機会がなくて――」
王族あるあるかな。
お二人はもともと外へ出ていきたいという思いが強いみたいだが、その立場上なかなかうまく行かなかったという共通点があるみたいだ。
まあ、二人とも自然と高貴な雰囲気が滲み出しているような方だから、周囲の反応もわからないでもないかな。
あの元春ですらユリス様には迂闊に話しかけられないくらいだからね。
と、そんな元王族二人の談笑の傍ら、魔王様がせっせと準備するのは今日のためにチョイスした遊び道具。
「……準備できた」
「あの、先程から用意をしておられたそちらの軍棋のようなものは」
「……みんなで遊べる簡単なゲーム」
それは、無口の自分がお茶会に出て相手を退屈させないかと心配した魔王様が、事前に選んだテーブルゲームの一つ。
まあ、実際に買ってきたのは僕なのだが、今回のゲームはお二人に合わせてアナログなゲームばかりとなっている。
「それで、これはどのように遊ぶのです?」
そんなゲームにまず食いついたのはユリス様。
普段からテレビゲームに興じる魔王様の後ろ姿を見て興味を持っていたのかもしれない。実際に手にとって遊べるタイプのゲームを見せられ、興味津々のご様子だ。
「それは私から説明させていただきます」
そして、そんなユリス様からの質問に、ふわりとテーブルの上に飛んで出てきた妖精はリィリィさん。ショート紫髪とシャープなフレームの伊達メガネがよく似合う、しっかり者の妖精さんだ。
ちなみに、魔王様が最初に用意したゲームは、初心者の二人にもとっつきやすいようにという配慮から、お化けをモチーフにしたチェスのようなゲームである。
そして、リィリィさんの説明でプレイすることになったゲーム。これが意外と盛り上がった。
単純な駒の動きにシンプルなルール、そこに騙し合いの要素が加わることで、計算と直感、相反する二つの能力が必要となり、単純に頭がいいだけでは勝てないそのゲームに、お茶会のメインである三人はもちろんのこと、魔王様に誘われて妖精のみなさん、ユリス様に誘われてスノーリズさん、そしてロゼッタ姫に勧められてはレニさんも断ることが出来ないのだろう。
最終的に全員がプレイすることになり、負けて悔しがり、勝って喜び、その後、どうしても勝てないシェスタさんから泣きが入りゲームを変更。
プレイするゲームごとにそれぞれに得手不得手があって、シェスタさんとまではいかないものの、勝てない人から降参の声が入ったところでゲーム変更という流れになり。
その後、いくつかのゲームを楽しんだところでタイムアップ。
「あら、もうそんな時間?」
「楽しい時間はあっという間ですね」
「……ん、また遊びたい」
「そうですわね」
「次は負けません」
「あの、虎助様、このゲームを買い取ることは出来ますでしょうか」
「ええ、というか、気に入ったゲームがあれば持って帰ってもらって構いませんよ」
「よろしいのですか」
「もともとそのつもりで揃えたゲームですので、ですよね。魔王様」
「……ん」
そう、これらゲームははじめからお持ち帰りを想定していた。
ということで、魔王様と妖精さん達が最初にプレイしたお化けをモチーフにしたゲームを――、
ユリス様がとりわけ気に入ったとある無人島を舞台にした開拓ゲームを――、
ロゼッタ姫がみんなで遊べるようにとシンプルな犯人当てのカードゲームを――、
スノーリズさん達はラブレターを題材にしたゲームを――、
そして、レニさんはニナちゃんにお土産と木製ピースを積み上げるバランスゲームを選び、ホクホクの解散となった。
勿論、次回のお茶会の約束を交わして。
◆ということでお茶会回でした。
ボードゲームのルールなど、どこまで書いていいのかわからなかったので、あっさり目の内容になっております。
個人的には、今回のメインに書いたガイスターもそうですが、コリドールとかブロックスとか、シンプルだけど頭を使うゲームが好みです。
テーブルトークゲームも好きなんですけど、あれって気軽にできるメンバーを集めるのが大変なんですよね。
◆次回は水曜日に投稿予定です。




