●動き出す委員会
◆今回は虎助達が通う学校の風紀委員・宮本理恵のSSとなっております。
その一報がもたらされたのは、私が図書館で受験勉強をしていた時のことだった。
参考書を進めること一時間、そろそろ一旦休憩を入れようかと思ったタイミングで携帯が震えて、メッセージの着信を知らせたのだ。
メッセージはどうやら同じ風紀委員の後輩女子からのようだ。
私はそのメッセージに目を通して、
「写真部と新聞部がまたなにか企んでる?」
思わず漏れ出てしまった声に敏感な反応する視線から逃れるようにラウンジに移動。
メッセージをくれた後輩に電話をかけてみると、昨日今日と、写真部と新聞部がなにやら怪しげな動きをしているようだ。
もともと夏休みに入って盗撮じみた活動を活発化させていた写真部が、ここに来てそういう活動を縮小、新聞部と協力して、なにか調べ物をしているらしいのだ。
ふむ、私たち風紀委員が何度やめろといってもやめなかった活動をわざわざ縮小してなにかをするなんて、これはまた何かくだらない企みごとが進んでいそうね。
そこに、あの問題児、松平元春が関わっているというなら放ってはおけないわ。
私は『すぐに行くから――』と後輩からの応援要請に即了解、勉強道具を片付けて学校へ向かう。
ちなみに、図書館から学校までは、裏山を通り抜けるコースで徒歩五分くらい。
私が学校へ到着する頃には既に多くの風紀委員メンバーが委員会室に集っていた。
みんな、部活や夏期講習、プールの補習なんかで学校に来ていたそうだ。
その中には三年生の姿もちらほらあって、
意外とみんな学校に来てるのね。
私が委員会室に集まっていたメンバーの顔ぶれに、そんなことを考えながら自分の席に座ると、隣に座っていた後輩女子が申し訳無さそうな顔をして、
「すみません。先輩、この大事な時期に」
「気にしないで、私たちまだ風紀委員であることにはかわりないから」
参加不参加は個人的な判断になるけれど、私たち三年生も二学期にある生徒会選挙が終わるまでは現役の風紀委員だ。
それに、大事な時期といえば、私達だけじゃなくて二年生もそうだから、あなた達が遠慮する必要はないと後輩からの謝罪を軽く受け流して、早速ここまでの経緯を説明してもらう。
それによると、最初に情報が入ったのは昨日の午後のことだったそうだ。
自主的に風紀委員に情報を送ってくれるいくつかの部活動・同好会から、写真部の数名が慌てた様子で新聞部の部室に入っていったのが目撃情報がもたらされたのだという。
それだけなら風紀委員が動くようなことでもないのだけれど、その後、すぐに新聞部の部室がカーテンで閉め切られ、しばらくして新聞部の部室から出てきた写真部の面々が、いつもの不適切な活動を縮小、委員会でも問題になっている一年生のことを調べ始めたとなれば話は別だ。
たしかにそれは怪しいわね。
新聞部はともかく、写真部の連中が男子生徒の情報を集めるなんてあり得ないんだから。
特に、女子のことしか頭にないような松平元春までその動きに同調しているということは、その裏になにか違いない。
「問題は彼らの目的だな。なにを企んでいるんだ」
疑問を呈したのは宮下君、私と同じく三年生のメンバー。
今日はたまたま進路の相談があって学校を訪れていたのだという。
「残念ながらそこまでは――、
僕達もその多くがたまたま用事があって学校へ来ていて聞いただけですから」
そう、これは風紀委員だけではないのだが、生徒主導の委員会は基本的に学校が休みの間は活動していない。
ただ、風紀委員の場合、その特性上、こうしてあからさまに妙な動きをしている生徒を見つけたら、それが特に委員会として要注意人物だったとしたら、その限りではなくて、
「単純にその一年生と揉めたとか?」
「いや、それはどうなんだ。そもそもあそこはいつもトラブルを抱えているだろ」
「それもそうですね」
新聞部はともかく、写真部がなにかしらの問題を抱えているなんてのはいつものこと、
そもそも下級生男子相手に写真部が総動員で動くことこそがおかしなことなのよね。
でも、だったら、他にどんな可能性があるのかというと――、
「新聞部が出している新聞の最新号はどうなってるの」
「最新の記事は県大会の結果ですね。
あと、全国に進んだ選手のインタビューとかですか」
後輩が携帯を見せてくれるのは学校新聞の電子版。
「紙面を見る限り、特に変なところはないようだね」
私達もホームページ上にあるその記事をチェック。軽く流し読みをしてみたけれど。
記事の内容は、それぞれの部活が夏の大会をどこまで勝ち進んだのか。
そして、数少ない県大会を突破した選手の特集記事が組まれており。
本当、平時はちゃんとした記事を書いてくるのよね。ウチの新聞部は……、
私が心の中で嘆息していたところ、二年生の女子メンバーの一人、笹森さんが控えめに手を上げて、
「あの、もしかして、冬休み明けにあったみたいなイタズラ記事を企画しているとかじゃないでしょうか」
「冬休み明けのイタズラ記事というと――、例の天誅記事か」
それは、毎年クリスマスに、天誅と称し、女性の敵と認定される男子生徒にイタズラを仕掛けるという、あの巫山戯た企画のことだろう。
「それを今年は時期をずらしてやるってこと?」
「はい」
「だが、あの記事が他の時期に出るなんて、今までなかったんじゃないか」
「いや、ありえるかもしれないです。前にそういうことがあったって話を先輩から聞いたことがありますから」
ここで二年の高橋君が言う先輩っていうのは、私達の一代前の誰かってことになるのかしら。
そもそもなんであの時期にそんなことをやるのかは知らないけれど、例のイタズラ記事は必ずしも三学期のはじめに発表するワケじゃないのね。
「でも、どうしてそれを今年やろうとしているのかしら?」
「えっと、それは――」
「もしかして、それにふわさしいネタを掴んだから、とか?」
「あのイタズラにふわわしいネタね。それって去年あったみたいな」
その言葉にふと過るのは、今年の始め、新聞部が発表した記事絡みの不穏な噂。
普通ならその記事に取り上げられるハズの男子生徒の話題がまったく触れられず、その後、彼と彼の関係者が次々とこの学校を去った後に聞かれるようになった口にするのもおぞましい話だ。
「でも――、あの噂って本当に本当だったんでしょうか」
「さぁな。
だが、その関係者らしき男子達が退学になったり、転校することになったのは本当だぞ」
そう、あのおぞましい噂話は、当初、誰かを貶めるために作られたものかと思っていたのだけれど、後になって加害者とされる生徒が次々と学校を放逐されたことから、実は噂は本当だったんじゃないかって話になってるのよね。
ただ、もしも、そんなことがまた行われているのだとしたら――、
「これはちょっと私達も動いた方がよさそうよね」
「無駄骨に終わる可能性は高いが、放っておく訳にもいかないか」
いま私達が言ったことはあくまで彼等の動きからした想像に過ぎない。
けれど、前回、私達が何も出来なかった――、いえ、気づくことすら出来なかったことを考えると、それがたとえ無駄になったとしてもなにもせずにいられるだろうか。
「しかし、動くといってもどうすればいいんでしょう」
そして、委員会が動き出すことが決まり、そう聞いてくるのは二年の高橋君。
たしかに、まだ、あくまでその可能性があるというだけのことに、どう動いたらいいのか、それは難しいことではあるのだけど。
「その方法に関してはお前達に任せる」
「僕達ですか?」
「ああ、二学期からはお前達だけでこの委員会を運営していかないとだからな」
そう、二学期になれば私達はお役御免。
これからのことを考えると、この委員会を取り仕切っていく二年生に任せるべきなのよ。
あらためて私達に言われた一二年生のメンバーは顔を引き締め、すぐに、その中でリーダー格の一人である花村君が手を上げて、
「まずは全員で写真部の動きを追ってみるというのはどうでしょう」
「新聞部は部室とネットの方を抑えておけばその動きは把握できます。だったら写真部を追いかけた方が情報が集まりそうじゃないですか」
「そうだな」
写真部と新聞部を合わせてもそんなに数は多くないけど、その二つの部活の特徴を考えると、写真部はは独自の動きで情報収集、それを新聞部が自分達の情報網から集めたデータと照らし合わせて、なにかしらのニュースをまとめるといった動きになるのかしら。
「そうなると、問題は割り振りなんですけど。先輩たちは――」
「もちろん私達も協力するわ」
「そうだな。特に彼の動きは宮本がいないと予想できないからな」
「……宮下君、なにを期待しているのか知らないけど、私でも松平元春の行動なんて読めないからね」
「おや、僕は別に誰と言及をしたわけでもないんだけどね」
くっ、相変わらずいい性格をしてるわね。
「とにかく、まずは彼等がなにを考えているのか調べることね。
後は花村君――」
「はい。みんなのスケジュールを確認して活動の計画を立ててみます」
◆次回は水曜日に投稿予定です。




