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●地上を目指して02

今回はマリィ付きのメイド、トワ視点のお話となっております。

 まったく困ったものです。

 私ことトワは、前を歩く八龍の背中を眺め、ため息を吐きます。

 先日、虎助様が長いお休みに入られたことを機会に、魔鏡の調査を行うことになり、今日こうして迷宮の探索に来たのですが、マリィ様は、またあのような無茶をなされて――、


 本来のお体ではなく、ゴーレムを操ってという状況だからこその行動でもあるのでしょうが、それがクセになってもらっては困ります。

 魔導師としては一流以上の実力を持つマリィ様ですが、戦士としてはまだまだ素人を脱しないようなものなのですから。

 今回の成果もあくまで装備の力で、ただ、その辺りの認識に関しては、日々の稽古でお教えしておりますので、大きな勘違いをなさることはないでしょうが、それでも危なっかしいことには代わりありません。


 やはり、普段ご自分ではできないことができてしまうという状況にはしゃいでしまっているのでしょうか。

 『盾無』などを使えば、それと同じようなことができるとは思いますが、マリィ様が『盾無』を装備するような機会はほぼありませんしね。


 まあ、マリィ様の性格を考えますと、ご自身の理想を現実化させた、あの芸術品といっても相違無い『盾無』をあまり乱暴には扱いたくないという理由もありそうですけれど。


 とりあえず、この迷宮探索に限っては、私が暴走するマリィ様のフォローに回ることで、しっかりとした立ち回りをしてもらうようにしなければなりません。


 しかし、それにしても今日のマリィ様はいつにも増して楽しそうにしておられますね。

 やはり、虎助様はマオ様と一緒というのが大きいのでしょう。

 天才と持て囃され、それ以上に周囲から恐れられ、あの無能王による王位簒奪により、本来の微笑みを見せられなくなったマリィ様が、今こうして楽しそうにしておられるのは本当にありがたいことではあります。


 ただ、それはそれとしてお諌めすべきところはしっかりとお諌めしなくてはなりませんね。

 私が先ほどとはまた別のため息を吐きながら、八龍からやや遅れて迷宮を進むルクスと、その後ろについていくフォルカスにマリィ様の補佐を念入りに行うようにとのメッセージを送っていると、その魔法窓(ウィンドウ)から、虎助様とマリィ様、そしてマオ様の話し声が聞こえていくる。


『しかし、この迷宮に出るゴーレムは本当にゴーレムコアを持ってないんですね』


『迷宮そのものが一つのゴーレムのようなものになっているのではということでしたか』


『……ゴーレム迷宮?』


オーナー(ソニア)が言うにはそうらしいです』


 お三人が話し合っている内容は先ほど倒したハンドゴーレムのことのようです。

 今回の――というよりも、この迷宮の調査を幾度か行い、集めた情報を万屋のオーナーであらせられるソニア様に調べていただいたのですが、この迷宮に出現するゴーレムは、迷宮の壁そのものがゴーレムの一部となり、この施設を維持しているのではとのことのようです。

 ソニア様が仰るには、戦力の目減りが少なくいい手だとのことですが、たしかに、施設そのものがゴーレムの機能を持っているのなら、破壊されたゴーレムの残骸を回収して、再利用することも容易でとなり、ほぼ無限に戦力が生み出せるということになるというのは厄介でしょうね。


 ただ、それにも制限があるだろうとのことですが――、

 まあ、攻略する側の私共が面倒だということはあまり変わらず。

 とはいえ、この迷宮が、私共がよく知る魔獣などを排出、他の生物を自らの糧とせんと誘い込むような迷宮ではなく、なにかしらの施設なのではとのことなので、それもまた当然なのでしょう。


 と、不意に現れたハンドゴーレムを突き壊しながら、私がそのような考えを巡らせていたところ、通信の向こうから、虎助様の私の愛槍に関する質問が飛んできます。


『そういえばトワさん。聖槍メルビレイの調子はどうでしょうか』


「ええと、特に問題はありませんが――、

 いえ、水をまとわせるだけではなく。ちょっとした水の魔法も飛ばせるようになりましたか」


 誠に畏れ多いことではありますが、私の使うグレイブ(西洋薙刀)は、マリィ様がお好きな英雄譚などに登場する伝説の武器、聖槍になります。

 虎助様が仰るには、聖槍を人工的に生み出せるかという実験の産物とのことなので、私が想像するような伝説の武具とはまた別の、どちらかといえば魔法の自立武器インテリジェンスウェポンというものになるそうですが、それとて私共の世界では伝説の品、唐突にこの武器を賜ることになった私としましては正直どう扱ったらいいものか困ってしまいます。


 しかし、それはあくまで私個人の意見。

 虎助様をはじめとした万屋の皆様からしてみますと、あくまで魔法剣の延長線上にある武器――、

 いえ、スクナの扱いに近いと、そのような捉え方のようですので、私としましては少々困惑してしまいます。


「ただ、宿っておられる精霊様の性質なのか、どうも攻撃寄りの特技は苦手なような気が致します」


『そうですよね』


 聖槍メルビレイに宿っている精霊は朝露の精霊とのことで、戦闘で役に立つ性能となると、単純に武器としての性能であって、お掃除などの日常の仕事に関しては、このメルビレイの力は重宝させてもらっております。

 聖なる槍をそんな風に使うのが正しいのかというと、私個人としましては違うと思うのですが……、


『ふふん、トワもまだまだですわね。(わたくし)の風牙は順調に育っていますのに』


 私とメルビレイの現状にマリィ様が自慢気に笑います。

 マリィ様の聖剣・風牙は私のメルビレイのように、誰にでも合わせられる聖なる武器ではなく、マリィ様個人が選ばれた聖剣であり、私のメルビレイよりも格が上となるのか、特に月数との組み合わせで使われますと、私でも驚く打ち込みを受けてしまうことがあります。


 まあ、私としましてはメルビレイと風牙、それぞれに別の特性を持っていると思いますので、その運用もまた違ってくると、そのような正直な意見を、しっかりと、ええしっかりと、マリィ様にお伝えするのですが――、

 すると、それを聞いておられました虎助様が『あの……』とやや遠慮がちにしながらも。


『水の魔法が使えるなら、相手の呼吸できなくするとか、そういう方向で攻めるのはどうでしょう』


「相手の呼吸の邪魔をする。ですか?」


『ええ、例えば自分の周囲に拳くらいの水の玉を浮かべることによって、相手の呼吸を遮るとか、そういう方法はどうでしょう』


 たしかに戦闘において呼吸というのは重要なものの一つです。

 それを、私がふだんから掃除などに使っているメルビレイの操水術を利用すれば、うまく立ち回ることができるというのは虎助様の言う通りでしょう。


 しかし、虎助様のこういう思いつきは、メルビレイに宿る朝露の精霊の上位であるアクア様をスクナとしているからでしょうか。

 ためになりますね。


 そして、このくらいのことならば、今のメルビレイでも出来そうだということで、マリィさんの呼びかけで、とりあえず、どれくらい消耗するのか試してみることになるのですが、


 ちなみに、このメルビレイに限らず、精霊などの存在が宿る武器の装備によって発揮される効果に関しては、基本的に装備に宿る存在がその発動を担保して、足りない部分を装備者が補うという形になるようです。


 私が歩きながらメルビレイに語り掛け、自分の周囲に水球を数個うかべてもらうと。


「「わぁ、綺麗です」」


「トワ様、これはどれくらいの範囲に展開できるんです?」


 空中に展開されたいくつかの水球を見てルクスとフォルカスが声を揃えて称賛し、ウルが率直に聞いてくる。


 我々は魔法窓(ウィンドウ)や各種魔具を手に入れたことによって、詠唱はほぼ必要なくなりましたが、他はそうもいきません。

 剣も魔法も使えるウルとしては、この水球が遠距離まで届くとすれば、魔法の詠唱の邪魔もできるのではと考えたのでしょう。


「そうですね。完全に制御できるとなるとこの程度でしょうか」


 水球を広げられた距離は二メートル程度、手に持った槍を最大に伸ばした距離です。つまり攻撃範囲がそのまま魔法の効果範囲となっているようです。


「この距離だと後衛への牽制は難しいですかね」


「その浮かべた球を精霊に頼んで飛ばすことはできないのでしょうか」


 ウルに続いて聞いてきたのは精霊使いのミラジューン。

 この水球がメルビレイに宿る朝露の精霊によって生み出されたものであるからと、精霊に語り掛ければ、ある程度、水球の動きも融通できると考えたようです。


「試してみましょうか」


 ミラジューンのアドバイスに従い、私がメルビレイに語りかけてみたところ。


「問題なく飛ばせるようですね」


 威力は大したものではないようですが、これが私の意思ではなく、メルビレイの意思によって動かせるという事実は大きなことだと私は思います。

 あらかじめ、メルビレイと打ち合わせをして、適宜、敵に向かって水球を放ってもらえば、いい牽制になるでしょうから。


 と、私がメルビレイの新たな可能性に触れ、その運用方法を考えていると、それが羨ましくなったのでしょうか、マリィ様が突然大きな声を出して。


『虎助、わたくしの風牙でも、そういうことができますの』


『多分できるとは思いますが、マリィさんの場合、それをやるよりも、単純にその風の力を自分の有利に働くように使ったほうがいいように思いますが』


 マリィ様が持つ聖木刀『風牙』にはその名前が示す通り、風の精霊が宿っています。

 ただ、風でも呼吸を乱すことはできますが、水ほどの効果は出ないでしょう。

 それならば風という属性にあった能力をもたせた方が有効という虎助様の助言は尤もな話でしょう。

 と、そんな虎助様の助言にマリィ様がフムと考え込むようにしたその時でした。


「あれ、前の方になにかいない?」


 我々の話を聞きながらも前方を注意していたようです。ルクスがなにかに気付くようにそう言って、


「マリィ様」


 私がルクスが気付いたそれがなんなのかを調べていただこうとマリィ様に声をかけたところ、マリィ様は八龍にスキャンを使わせたようです。ふっと一瞬、緑色の光が前方に照射され。


『アリですわね。一匹だけのようですので(わたくし)が行って倒してきますの』


「あ、マリィ様――」


 私が止める暇なく八龍が飛び出し、その対象を撃破となったのですが、

 私は慌ててその後を追いかけて、


「マリィ様、すぐに回収を」


『どうしましたのトワ。そのように慌てて』


「軍隊アリは死ぬと、その全身から特殊な臭いを放ち、仲間を呼ぶのです」


 正確にはフェロモンというものでしたか、軍隊アリは自らが死ぬのと同時に、誘引物質なるものを周囲に撒き散らし仲間を呼び寄せるそうなのです。

 しかし、今回に限っては注意するのが遅かったみたいです。


「トワ様、いっぱい来る」


 慌てた様子で追いかけてきたフォルカスがそう叫びます。

 おそらく彼女の耳には近づいてくる軍隊アリの足音が聞こえているのでしょう。


「こうなっては仕方がありません。みんな迎え撃ちますよ」


「「「「了解」」」」


「マリィ様も全力でお願いします」


『面白くなってきましたわね』


 本当に我が主は血の気が多い方ですね。

 私はマリィ様の発言に軽い頭痛をおぼえながらも、通路の奥から近づいてきた蠢く黒い波に、薄ら寒いものを背中に感じながらも、これら虫どもはここで確実に殲滅せねばと槍を構えるのでした。

◆ちょっとしたこぼれ話。


 トワからすると元春は無口な少年というイメージで、そこまで重要な人物と扱われていません。マリィもガルダシアの方では(火弾で制裁したなどの話題を出して怒られるのも嫌なので)あえて元春の話題を出すこともないということで、トワからしてみると、虎助との繋がりでマリィも交流のある友人の一人という認識しかなかったりします。

 ちなみに、ルクスやフォルカスの年少組からしてみると、面白いお兄ちゃんというイメージです。(トワさえいなければ元春は平常運転で、二人は元春からしてみると劣情の対象外)


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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