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地上を目指して01

 前日の空中要塞の探索に続き、今日は謎の巨大迷宮の探索をする。

 ちなみに、空中要塞の調査の方は、あの後、さらに上層の要塞部分の調査を進めてみたのだが、鐘楼の地下(?)にあった装置のような大きな発見はなかった。

 テラスに並ぶ謎の魔動機のようなオブジェのようなものはいろいろと発見したんだけどね。


 そんな細々としたものも合わせて、昨日の探索で見つかったものはソニアの分析結果待ちということで、空中要塞の調査はいったん打ち切り。

 得られたデータによっては、後日、さらなる調査が必要かもしれないが、それにもまた時間が必要だということで、今日は迷宮の探索というわけだ。


 さて、そんなこんなで午前十時、みんなの準備が完了したところで、ガルダシア城にある魔鏡から謎の迷宮にアタック。

 迷宮探索に入るのだが――、


「おう、魔獣なんかがいっぱいいるダンジョンってことで、ちょっち期待してたんだけど意外と普通だな」


  魔法窓(ウィンドウ)越しに見る、魔鏡をくぐり抜けた先にある迷宮の映像に、ポツリと呟くのは元春だ。

 元春としては、RPGなんかの後半に出てくる豪華なダンジョンでも想像していたのかな。

 まるで田舎町にある小さなトンネルのような迷宮の様子に拍子抜けといった感じだ。


 ちなみに、元春がどうしてこの時間から万屋に顔を出しているのかというと、きのう友人一同とプール出かけている間に学校の方でなにか動きがあったみたいで、朝早くから義姉さんに相談事があると家に押しかけてきて、一義姉さんが起きてくるのを待っている間に、話の種に昨日の報告と今日の予定を話してみたところ、今日の探索にトワさんも参加するということを聞いて、だったら自分も――と、ここに来ているという訳だ。


 うん。義姉さんにも報告したっていう学校の問題はいいのかな。

 僕は夏休み――いや、実際に元春達が動いたのは年末だったか――にあった騒動を思い出し、そんな心配しながらも、ただ義姉さんが動いている以上、『ここで僕がなにを心配したところで、結局はなるようにしかならないか』と思い直して、


「場所が場所だから、そんなに大袈裟な転移装置を設置するのは難しいんでしょ。それにオーナー(ソニア)が調べたところによると、ここの装置は特定の場所に移動するものみたいだから、コンパクトにできるそうだよ」


 この迷宮にある転移装置も、マリィさんの城にある魔鏡と同じようなもので、特定のチャンネルしか移動できないからこそシンプルに見えるってところかな。

 まあ、マリィさんのお城にある魔鏡は、結構凝った装飾とかがされてたりするから、こっちが無駄にシンプルに見えるっていうのもあるだろうけど。


「よくわかんねーけど、そういうもんなんか。そにあの口もちっちぇーしな。

 そう考えっとアヴァロン=エラのゲートってデカ過ぎね。あれ、もっとちっこくできなかったんかよ」


「アヴァロン=エラのゲートはいろんな世界から集める目的があるから――」


 アヴァロン=エラのゲートには、本来他の世界へと飛ばされるような転移を集めるパラボラアンテナみたいな役割があり。


「それにアヴァロン=エラのゲートには結界の機能もあるから」


「ああ、そっちがあったか」


 実はゲートの機能の半分くらいが、このアヴァロン=エラで使える結界システムに関するもので、ゲートの特性上、以前やってきた大魔王アダマーのような強力な存在に対する備えが必要となるから、その余波を食らう可能性を考えると、装置本体も頑強にしなければならないと、あれだけ大掛かりな装置になっているというわけだ。


 ちなみに、元春が指摘した『そにあ』の口内に仕込まれている転移機能に関しては、ソニアが僕と出会う前、いろいろな世界に『そにあ』を送っていた時に、転移先でなんの成果があげられなかったとしても、せめて転移装置だけは回収できるようにと、その核に希少な素材をふんだんに使用したらしく、あれだけ小さな体の中に転移の魔法を組み込むことができているそうだ。


 と、元春の何気ない疑問から続く会話を僕達がしている間にも、マリィさんが操作する八龍ひきいるメイドさん達が、転移装置の前を出発したみたいだ。

 トンネルの途中に見かける非常駐車帯のような円形の広場から、土中の魔素を利用しているのだろうか、かまぼこ型の天井付近から落とされる、ややオレンジ色を帯びた魔力光に照らされる迷宮内部へと進んでいき。


ちな(ちなみに)、これってどこに行くのかとか決めてあんの?」


「当然だよ」


 目的を決めずに探索するのは不効率極まりない。


「まずはこのダンジョンがどこにあるのかを調べないとだから、上層を目指すことになってるよ」


「そりゃどういうこったよ。別にそういうん調べるんならリスレムとかでも十分なんじゃね」


 たしかに、ここが森の中や魔獣がほぼいない施設の中なら問題ないのだが。


「行く手に邪魔な敵がいるそうですの」


「えっと?」


 八龍を操りながらも僕たちの話を聞いていたみたいだ。そのボリューミーな頭をすっぽりと仮想のモニターで覆い隠したマリィさんが声を弾ませ言ってくるのに、元春が少し戸惑うようにして、


「地上へ向かう通路の途中に厄介な特徴を持つ敵がいてね。リスレムだけじゃどうしても突破できなくなってるんだよ」


「なーる。

 で、マリィちゃん達がそいつを倒しに行くって感じか」


「だね」


 元春にも今回の探索の目的を理解してもらったところで、マリィさん達には地上を目指して進んでもらう。


 ちなみに、今日の探索に協力しているメンバーは、昨日、空中の要塞を探索したメンバーから、スノーリズさんとトワさんをチェンジしただけのメンバーとなっている。今日は空中じゃなくて地下空間だからね。

 まあ、これで実はこの迷宮が空中をさまよっている巨大施設とかだったら、トワさんがまた怖がりそうなんだけど。


 と、僕はそんな埒もないことを考えながらも、迷宮を進むマリィさん達の反応を魔法窓(ウィンドウ)の横に浮かべた3Dマップで確認する。


 ちなみに、迷宮を進む際の隊列は、マリィさん操る八龍を先頭にルクスちゃんにトワさん、中衛にフォルカスちゃんとミラジェーンさん、殿にウルさんとそのスクナであるギルという編成となっている。

 ちなみに、マリィさんが操る八龍が先頭を歩いている理由は罠を警戒してのことである。

 この迷宮の罠は、前もってリスレムが行ける範囲で調べてはあるのだが、それでも調査の後、新たに罠が追加されたという可能性も捨てきれない。

 そんな時、ただでさえオリハルコン合金製の鎧なんてオーバースペックな鎧を装備している八龍が先頭なら罠にかかったところで被害はないというわけだ。

 ようするに、もしもの場合、八龍の頑丈さにあかせた漢解除してしまおうという魂胆である。


「しっかし、このダンジョン、ダンジョンっつーよりも下水道って感じだよな」


「あら、(わたくし)は、虎助達が暮らす世界にある地下鉄でしょうか、あのトンネルのような印象が強いのですが」


「……東京地下迷宮」


 たぶん元春が言う下水道というのはゲームとかのイメージなんじゃないかな。

 一方、マリィさんや魔王様は下水道に関する知識から、純粋に汚いというイメージがあるのかもしれない。

 ちなみに、本来の下水道は場所や用途によってきれいなのか汚いのかは大きく変わるらしいので、元春の言っていることもあながち間違いではない。

 しかし、この迷宮に関しては、水が流れているような形跡もないことから、少なくともここが下水道の類でないことは明らかである。


「つか、ダンジョンって普通こんな感じなん』


『本来は洞窟のようになっている場所が大多数を占めますね』


「そ、そうなんすか」


 おや、この反応は――、

 元春はこっちの声が向こうに届いているとは考えてなかったのかな。

 トワさんから声をかけられて(ども)ってしまった。

 と、不意打ち的にトワさんから声をかけられ、軽くフリーズしてしまった元春は放置するとして、


「となると、やはりここが何らかの施設であるという説が有力でしょうね」


「罠がほとんどない理由もそれなら説明がつきますわね。その可能性は高いと思っていますの」


 とりあえず、その雰囲気からここを迷宮と呼んでいたマリィさんだけど、現れる魔獣や魔法生物の種類、そもそも基本的に罠が存在しないというその状況から、ここが俗にいう迷宮(ダンジョン)のような場所でないことはなんとなく予想していたみたいだ。


『でも、それならなんで魔獣がいるんだろう』


 ここが何らかの施設なら、魔獣が入り込んでいる状況はふつうではないハズだ。

 しかし、この迷宮では数は多くはないが、魔獣も普通に現れる。

 ルクスちゃんの指摘はもっともだ。


 とはいえ、メインの敵がゴーレムであることを考えると、ここがなんらかの意図をもって作られた場所だというのは推測できるから――、

 理由は定かではないのだが、ここも昨日調べた空中要塞のようになんらかの理由で放置され、その場所柄、多くの魔獣が住み着くことになったとか、そういうパターンになるのかな。


 ただ、それならそれで、ここが妙にきれい過ぎるのはどういうことなんだろうという疑問もあったりするけど。


 と、何気ない雑談から始まった思考に僕がふけっていると、『止まって』と通信の向こうルクスちゃんが鋭い声でみんなを制止する。


 どうも通路の先に何かがいるのを察知したみたいだ。

 マリィさん操る八龍が暗視と望遠で前方の状況を確認すると、壁に張り付くオオトカゲのような生物を複数見つかり。


「サラマンダー――にしては小さいですか」


「……レッサーバジリスク」


「みたいですね。万屋のデータベースへの照合でもそう出てます」


「バジリスク?

 バジリスクってアレだよな。石化の魔眼のヤツ。やばくね」


 ここで元春が現実復帰してきたみたいだ。

 元春の言う通り、あれが睨んだ相手を石に変えてしまうとか、石化の息を吐き出したりとか、そんな伝説上の魔獣だったら脅威だろうけど――、


「大丈夫。あくまでレッサーだから、パンダとレッサーパンダくらい差があると思うよ」


「パンダとレッサーパンダって、その例え、あってんの?」


 僕もバジリスクとは直接出会っていないからわからないけど、たぶんそこまで間違っていないと思う。

 事実、このレッサーバジリスクという魔獣は、一部の世界に伝わるバジリスク――あくまでこの名前はバベルの翻訳結果なので、別の世界では別の名前かもしれないが――の伝説を元に石化毒を持つこの大型トカゲ魔獣のことをそう名付けたのに過ぎないみたいだ。


「それでどうしましょう?」


『噛まれても面倒ですので、ここはルクスのナイフ投げで――』


「いえ、(わたくし)が出ますの」


 相手は雑魚とはいえ、石化能力持ち、ここは慎重に遠距離からの攻撃を提案するトワさんの声を遮るようにマリィさんがそう言う。

 その作戦はややも無謀なような気もするのだが、実行するのがマリィさん本人ではなく、八龍という規格外の鎧を身にまとうゴーレムだと考えると最適解とも言えるだろう。


 マリィさんはトワさんの返事も聞かずに意識を集中、狙いを定めて一気にダッシュ。

 通路の奥の壁に張り付くようにしていたレッサーバジルスクをその壁ごと斬り裂くが、壁に張り付いていたレッサーバジリスクは一匹ではない。

 仲間がやられた隙をつくように、レッサーバジリスク達はマリィさんが操作する八龍に群がり、獲物である八龍に石化毒を注ぎ込むべく、その牙を突き立てる。

 しかし、その毒は非生物である八龍には効果が無く、それどころか八龍が装備する鎧はオリハルコン合金で作られた鎧だ。

 ただ単に石化の毒を持つだけで、バジリスクなんていう大仰な名前をつけられた魔獣ごときの牙で貫けるものではなく、八龍に噛み付くことで動きが止まったところを狙われ、次々と倒されていく。

 と、どうやらこの魔獣は石化能力に特化しているからか、本体はかなり貧弱なようである。

 ほぼすべてのレッサーバジリスクが、八龍の一刀により斬り伏せられ。


 そうしている間にも、トワさんが現場に追いついてきたみたいだ。


「ふふん、始末しましたの」


『まったく、『始末しました――』ではありませんよ。魔獣の群れの中に飛び込んでいくなど無茶にも程があります』


 自慢気に鼻を鳴らすマリィさんにトワさんのお小言が炸裂する。

 ゴーレムだからよかったものの、レッサーとはいえ、石化能力を持つ魔獣は生身で群がられたら危険な相手だ。

 マリィさんが作っている源氏八領のどれかを装備してたなら、それもほぼ問題ないといえるが、普段から身につけているドレスなどの装備では防ぎきれなかったのかもしれない。

 戦いというのはその時、手持ちの状況で戦略を変える必要があるものだが、装備などの性能にあかせた戦い方というのは推奨できないのだ。


『まあまあ、トワ様、姫様にも悪気があったわけじゃないと思いますよ』


『そ、そうです。それよりも早く回収をしてしまいましょう。またアレが出ても面倒ですから』


『……仕方がありませんね。レッサーとはいえバジリスクというくらいです、それなりに希少な素材も取れるやもしれません。急いで回収をしてしまいましょう。ただ、姫様には後でお話をさせてもらいますよ』


「むぅ、わかりましたの」


 と、そんないつも通りの主従コンビのやり取りに、ウルさんとミラジェーンさんからのフォローが入り、とりあえず本格的なお説教は回避。メイドさん達は解体と警戒、それぞれ役目に別れて解体作業を始めるのだが、解体を始めてすぐ、迷宮内にガンと大きな音が響き渡る。

 何事かと見ると、そこには砕けた手のようなものがあって、


『ハンドゴーレムです。問題ありません』


 どうもルクスちゃんがフォルカスちゃんと一緒に、レッサーバジリスクをマジックバッグの中に回収しようとしていたところに、こいつが現れたみたいだ。

 ただ、そのハンドゴーレムそのものは強力なゴーレムではなく、その後もたびたびハンドゴーレムの襲撃を受けながらもレッサーバジリクスの回収を終えて、八龍(マリィさん)とトワさん達は無事この場を立ち去るのだった。

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