空中要塞の再調査
「……きれいなところ」
「そうですね」
僕と魔王様が見ているのはマリィさん操る八龍が見る雲の上の世界。
ここは、ガルダシア城にある転移の魔鏡から行ける七つの移動先の一つ、天空をさまよう要塞の上から見た景色。
形式上、僕達はここのことを空中要塞と呼んではいるが、この空中要塞がなんの為に存在し、どんな世界の空を飛んでいるのかは、まだ実はよくわかっていない。
とはいえ、数ヶ月前、この要塞から海に放った小魚型探索ゴーレムが、それなりに人が住んでいると思われる港町を見つけているそうなので、そちらの調査を進めていけば、いずれなんらかのヒントは得られるだろう。
しかし、それもゴーレムの遠隔操作に必要な中継機の設置やら、陸上の調査に特化したゴーレムなどの用意を新しくしないとならないから、まだまだ先のこと。
今はこの空中要塞の調査をするしかないというのがこの転移先の現状である。
「マリィさん。八龍の状態は――」
「問題ないと思います」
僕はこの空中要塞に降り立って、メイドさん達の点呼を終えたマリィさんに声をかける。
二つの世界を越えた操作だけに、なんらかの不具合があるかもしれないと思い、そう声をかけたのだが、特に問題はないようだ。マリィさんはちょっと近未来的な銀色のグローブを嵌めた手をわきわきと動かしながら答えてくれる。
しかし、考えてもみれば、二つの世界をまたいだ通信というのは、すでにエルフの里にまつわる騒動で経験済み。
実際に動かしているマリィさんが特に問題がないというのなら、きちんと操れていることなのだろう。
「それで、私たちは調べるたらいいのです?」
「下層のの調査はオーナーがしてくれているみたいですから、僕達は上層の砦の探索になりますか」
ちなみに、ソニアはお手製の蜘蛛型小型ゴーレムを複数操り、以前トワさん達と調査した巨大な魔石のあるメインルームを中心に下層の調査を行ってくれている。
なので、わざわざ僕達が手伝わなくてもきちんと調べてくれるハズだからと、そんな建前がありながらも正直なところは、
「今回のメインはマリィさんが八龍を乗りこなす練習という目的もありますから、重要施設の多い下層を調べるよりも、上層で、散策がてら、なにか発見できたらいいといった感じになりますね」
八龍は未だ慣らし運転の最中だ。ソニアが作ったものに不具合はないと思うのだが、精密機械のような魔導器がある要塞の心臓部を調べるのは危険じゃないかと、八龍をリーダーとしたメイド隊が調査するのは、八龍に問題があったとしても影響が少ない空中要塞の上層部、黒曜石のような艶のある石材のような物質で作られた箱状の建物が折り重なる、こちらと相成ったわけなのだ。
「成程、そういうことであれば私達は上層を調べるべきですわね。行きますわよ」
『は~い』『かしこまりました』『了解です』
ちなみに、今回、空中要塞を探索するメンバーは、マリィさんが操る八龍を始めに、ウルさんにルクスちゃん、獣人とのハーフのフォルカスちゃんに精霊使いのミラジェーンさん、そしてスノーリズさんとなっている。
ここにマリィさんの腹心であるトワさんの名前がないのは、場所が空に浮かぶ砦だからだ。
高所恐怖症のトワさんにとって、この空中要塞はなんとしても忌避すべき場所、ということで、今回はメイドさんのまとめ役をスノーリズさんに譲り、お城の方でお留守番。
いつもとは少し違うメンバーで、卵型の兵器のようなオブジェが並ぶ広場から、建物が乱立する区画を目指し歩き出すことになったわけだ。
ちなみに、この広場にあるオブジェを『兵器のようなもの』とあえてそう表現した理由は、ソニアがここに設置されるゲートを調べた時に、このオブジェの中身が攻撃を主目的にした魔動機――たとえば、先日、魔王様が暮らす世界で発見されたティターンの肩についていた魔砲クリスタル――と同じようなものだと判明したからだ。
とはいえ、そこにあったハズの部品のいくつかが散逸しているそうで、兵器と断定するにはまだ足りない部分もあるというが、それはそれとして、
魔鏡からの移動先となっている広場を通り抜けたマリィさん御一行が辿り着いたのは、まさに要塞という表現がピッタリな建物。
その内部は外観から受ける無骨なイメージとは違い、意外にも明るくスッキリした印象となっている。
ちなみに、要塞の中がどうしてここまで明るいのかというと、地下の施設にもあった光る壁がこの要塞内にも各所に設置されているからだそうだ。
なんでも、この光る壁の中に光ファイバーのようなものが張り巡らされており、それによって効率的に外部から光を取り入れられるようになっているとのことだ。
ちなみに、その光ファイバーみたいな素材は蓄光もできるみたいで、夜になっても、スイッチひとつで昼のような明るさが確保できるみたいだ。
と、意外と明るい要塞内に入ったところで、八龍は周囲を見渡すようにして、
「さて、ここからどう調べていきましょう」
「そうですね。とりあえず固まって、それぞれの感知能力を使って怪しい場所を探していくというのはどうですか」
「……みんなでやったほうが効率的」
「ふむ、たしかに、真央が言うように効率的ですし、ここまでの調査で特に危険はないとのことですが、単独行動は控えた方がよさそうですか」
というわけで、みんな固まって調査開始。
ちなみに、今回のメンバーは、護衛としての能力も高く直感による索敵能力を持つルクスちゃん、ギルによる音響探知と魔法による周辺の調査ができるウルさん、獣人のハーフとしての聴覚や嗅覚に優れるフォルカスちゃん、精霊使いとして感知能力が使えるミラジェーンさん、そして、特殊な魔法を使っての領域支配が可能なスノーリズさんと、基本的になんらかの形で調査能力の高いメンバーとなっている。
もちろん、マリィさんが操る八龍には一定エリアごとにスキャンを使って調べてもらう。
「しかし、本当になにもありませんわね。やはり目ぼしいものは、あのコロコロに回収されてしまったということでしょうか」
「……かわいい」
マリィさんのいうコロコロというのは、この天空の要塞の上層のそこかしこに転がっている大小様々なボール型ゴーレムのことである。
ソニアによると、どうもこのボール型ゴーレムがこの要塞の維持管理を行っているそうで、この要塞が空中を彷徨う中、風化してしまった資料なんかをすべて綺麗に掃除してしまったのではないかということだが。
「しかし、このコロコロは本当になにもしてきませんわね」
『役割に忠実ということではないでしょうか。見た限り、攻撃的な要素は皆無ですので』
あくまで彼等の仕事はこの施設の維持管理。こちらが近付いても、直接触れても、攻撃されるようなことはない。
スノーリズさんが言ったように、このボール型ゴーレムに関しては、こちらからわざと攻撃しても、まさにボールのように弾むだけで、特に反撃のようなことはしてこないみたいだ。
これは、僕達や先にこの要塞部分の調査に入っていたメイドさん達が試してみたのではなく、たまたま砦内の窓辺に巣を作っていた鳥が、近づいてきたこのボール型ゴーレムに攻撃を仕掛けたことで判明した事実なのだという。
ソニアによると、本来こういったゴーレムは、警備システムと連動していて、何らかの対処がされるというのがふつうの反応だそうだが、その機能がきちんとはたらいていないのか、このボール型ゴーレムを攻撃したとしても、特になにがあるという訳ではないらしい。
ちなみに、その時、鳥が作っていた巣は、後でメイドさん達の手によって木の上に退避させたそうだ。
いろいろと設置場所を試した結果、庭園に生えている木の上はボール型ゴーレムの清掃範囲内には入らないようになっているみたいだ。
『でも、今更だけど、ホントに大きい建物だね』
そう言ったのはルクスちゃん。どこぞの大聖堂いありそうな、陽光降り注ぐ高い天井を見上げながら呟くと、
『だよねぇ、ガルダシアのお城よりもおっきいよ』
フォルカスちゃんが可愛らしいタレ耳をピクピク動かしながら周囲を見渡して、
『でも、これだけ広くて全くなにもないっていうのは不気味だね』
まさに空虚という言葉がピッタリなくらいになにもない要塞内の風景に、こういう場所が苦手なのか、ウルさんが落ち着かない様子でそう呟き。
「そうですね。例えば、この要塞が完成して、いざ荷物なんかを乗せるぞ――といったタイミングで、この要塞が勝手に空に飛んでいってしまったとか」
『それは――』
うん。戸惑うようなスノーリズさんのリアクションはわからないでもないが、これはあくまで極端な例である。
ソニアによると、そもそもこの要塞の建造と内装を整備する場所が別の場所で、移動の途中でコントロールを失ったとか、なんらかの緊急事態に、急遽、この建造途中のこの要塞が飛ばされてそのまま降りられなくなってしまったとか、いろいろとパターンが考えられるそうだ。
『たしかに、そのような状況でしたら最終的に無人になってしまった理由も通りますね』
と、そんな会話をしながらも探索を続けていると、ウルさんがふと気づいたように手を上げて、
『ギルが何かを見つけたみたいです』
見ると、ギルが床すれすれのところでパタパタとホバリングをしていて、ここで前に出るのは精霊使いのミラジェーンさん。
ギルは原子精霊の為、話すことはできないが、精霊使いであるミラジェーンさんなら、少々あやふやになってしまうものの、ギルのイメージを読み取れるのだという。
ということで、ミラジェーンさんの仲介で、ギルがなにを見つけたのかを確認してみたところ、どうも、いま八龍とメイドさん達がいる部屋のすぐ下に、大きな空洞があるみたいなんだけど。
「問題はどうやってそにこ入るかですよね」
『こういうのって隠し通路があるんだよね。フォルカスちゃん、なにか変な音がするとか、変な臭いがするとかない?』
『う~ん。特におかしいところはないけど』
ルクスちゃんが隠された空間があると聞いて、フォルカスちゃんに声をかける。
床下に通路なんかがあるのなら、そこの続く入り口の隙間から空気流れていているのではと、そう考えたみたいだが、フォルカスちゃんの五感を持ってしても、特に隙間のようなものは見つけられず。
「マリィさん、八龍のスキャンは――」
「こちらも特にこれといって反応はありませんわね」
ということは、別のところに入り口があるのかな。
「ウルさん。その空間を辿ることはできますか」
『やってみます』
ウルさんのスクナであるギルの先導のもと、移動を再開。
すると、辿り着いたのは砦の中央、ひときわ高い塔のような建物だった。
「鐘楼ですか」
「塔の上の部分になにか設置できるような場所はあると聞いていますが、詳細はわからないみたいです」
ちなみに、この塔のてっぺんには大きな鐘とかそういうものはなく、ただ大きな空洞が一つあいているだけのようだ。
ソニアも気になって調べてみたそうだが、そこにどんなものが設置されていたのかは分からなかったという。
僕達はそんな鐘楼らしき建物の話をしながらも、その建物の中に立ち入り、そして、みんなで手分けして螺旋階段のようになっているその建物内部を調べたところ、ギルとフォルカスちゃんがその地下通路の入口らしき場所を発見。
「ここですわね」
『はい』
「どうやって開けるのでしょう」
しかし、その入口を開く方法が不明で、
『漫画とかだとランプをひねったりして開けたりするよね』
『ああ――』
「……ありがち」
『例の紋章のようなものではないでしょうか』
例の紋章というと、いまソニアが調査に入っている、下層部分の入口となっている隠し通路の前にあった紋章かな。たしかに、秘密の通路があるとしたら、同じ方法で隠すってパターンもあるのかも。
ということで、件の紋章をメインにさらに建物内を調べてみるたところ。
『ありました』
見つけたのはルクスちゃんが契約するスクナの一体、指揮官狼のチョコだった。
どうも、その紋章は床ギリギリの壁の隅、かなり低い位置にあったようで、手のひらサイズでチョコが臭いをヒントに探していたところ偶然発見したみたいだ。
「では、マリィさん。例のものを」
「ええ、わかっていますの」
ここでマリィさん操る八龍に取り出したのはショットガンのような魔導器マスターキー。
この魔導器には魔法破壊の効果があり、魔法的なシステムで動いているシステムを解除することが簡単にできる。
ということで、ズドンと一発、紋章に向けて魔弾を放ってもらったところ。
ゴゴゴ――と、重々しい響きと共に鐘楼とおぼしき建物中央の床が左右に割れて、現れたのは地下へと続く階段。
「これは、ソニア様が調べている下層に向かう通路でしょうか」
「どうでしょう。いまのところ判明している通路にそういう場所は無いハズなんですけど」
ただ、この地下通路は、現在判明しているこの要塞のどの道にもつながらないような位置にある。
八龍とスノーリズさん達は、今回の調査にあたってソニアが作ってくれた3Dマップを片手に浮かべ、マッピングを行いながら慎重にその階段を降りて、その先にあった通路を探索、その結果をきちんと地図上で確認した上で、
『ここが中心でしょうか』
「ですわね」
『では、開けます』
と、映画かなにかを見て憶えたのかな、どこぞのスパイ映画のワンシーンのような、扉を背にアサルトライフルを構えて室内の状況を確認、スノーリズさんの合図でそれぞれに武器を構えて一斉に駆け込んだ扉の向こうにあったのは、要塞の下層で見たような巨大装置。
ただ、そこには巨大な魔石が取り付けられているとかはないようで、
「巨大な魔導器? 機械のようですが――」
「これは僕達の手におえる代物ではなさそうですね。オーナーをお呼びしましょうか」
「お願いしますの」
マリィさんにも乞われ、僕が下層で調査をしているソニアにメッセージを送ると、工房の研究施設から空中要塞下層の調査を行っていたソニアが、すぐに操っていた蜘蛛型のゴーレムを上層に回してくれて、その巨大な装置を調べてもらった結果。
『これは変換器のようだね。下から届けられる魔力をなんらかの形に変換して上に送ってるのかな』
「つまり、ここは上層の変電設備みたいな感じになるのかな?」
『いや、そっちは別にあるから、たぶん鐘楼の上にあったなにかを動かすためのものじゃないかな』
この装置はあくまで鐘楼にあったなにかを動かすための装置ってことか。
「なにがあったんでしょう」
『さあ、単純に考えるなら放送設備だけど、いまあるデータだとこれ以上調べる方法がないんだよね』
大いに気になるこの装置、しかし、肝心のものがなければ調べられないと、結局この発見は上層にある鐘楼の謎をさらに大きくしたに過ぎなかった。
◆次回は水曜日に投稿予定です。




