終業式後の一幕
◆新章開始。
珍しく一発目から地球側、学校での一幕です。
「じゃ、ハメを外しすぎんなよ」
「夏休みだ」
定番の言葉を残し教室を出ていく先生にはしゃぐクラスメイト。
そう、今日は一学期の終業式。
これから始まる長期休暇にザワザワする教室。
そんな中、中学からの顔なじみである水野君と関口君がやってきて。
「元春、お前、夏休みの補習何教科?」
先にそう聞いてきたのは、毎回テストの度に元春とテストの点数を競い合っている水野君。
ちなみに、聞かれた側の元春はというと「フー⤴」とテンション高めの外国人ばりに肩を竦め。
「悪りーな。ノブ、今回、俺は赤点無しだ」
「そうだったわ。てかお前、なんであんなに期末の点数が良かったんだよ。ありえねぇだろ」
珍しく赤点の一つも無いと自慢げな元春に逆ギレ気味に叫ぶ水野君。
しかし、元春はムカつくほどの余裕の笑みで「ふふん」と鼻を鳴らし。
「ジツリキだよ。ジツリキ、な、虎助」
「間違ってはないんだけど、あれを実力と言っていいのかな」
バチコンと鬱陶しいばかりのウィンクを飛ばしてくる元春に、『あれを実力といっていいものだろうか』と僕が曖昧な返事をすると、その態度に引っかかりをおぼえた水野君が食い気味に。
「どういうことだよ」
「実は千代さんから頼まれてね。ウチでみっちり勉強してたんだよ」
ちなみに、これはあらかじめ考えていた表向きの言い訳だ。
さすがに魔法薬うんぬんの説明は信じてもらえないだろうと、こう聞かれた時にはこう返そうと、想定問答をあらかじめ考えてきたのだ。
「いや、みっちりっつったって元春だぞ。ありえねぇだろ」
しかし、テストを終えて赤点が一つもないというのは元春としてはありえない。
と、こちらは赤点がなかったのかな? 余裕のある関口君から冷静なツッコミが入り。
ただ、元春としては、そのあんまりにもあんまりなその評価が納得できないみたいだ。「失礼だな。失礼だな」と大事なことだからと二回繰り返し。
しかし、ふだんの元春を考えると『元春が赤点の一つも取ってないなんてありえない』。そんな関口君の言い分にも説得力があって――、
ふむ、こうなったら。
「母さんの見張り付きでも」
「げぇ、イズナさんの見張りかよ」
「そりゃヤバイな」
問答無用で母さんの名前を出してその証言に説得力を持たせて、もう一つ、元春がテストでいい点数を取れた理由を追加する。
「それに今回は次郎君にヤマを張ってもらってたからね。それも良かったんじゃないかな」
「ああ、それなら納得だ」
「って、うぉい!? セナ、なに納得してんだよ」
ちなみに、次郎君のヤマを張ってもらうという話は、仲間内では以前から定番のやり取りで、一教科につき、最低限、これさえ憶えておけば赤点を取ることはないだろうという予想問題を、コンビニなどでなにか一品奢ることで教えてもらうことになっているものだったりする。
だから、次郎君にそういう予想をしてもらうのは特に珍しいことでもないのだが……、
「ってゆうか、一学期から次郎に予想を頼むとか、本気過ぎね」
「補修で夏休みを潰されたくねーからな」
これは驚きというよりも感心かな。水野君のそんな声に元春は頭を左右に振って、
「たしかに俺も中間の感じだと余裕で赤点回避だろなんて甘く考えねーで、次郎にヤマを張ってもらえばよかったぜ」
前回の中間テストは平均でも七十点越え、誰でも点数が取れた教科が多かったからね。
期末も同じ傾向かと思ったら、急に難度を上げてきた先生が多かったからこその、この結果ってところかな。
「で、二人共、夏休みはどうすんだ?
イズナさんの見張りはイレギュラーだったとしてもとしても、わざわざ次郎にまで頼ってんだからなんかあるんだろ」
「ああ、いろいろ考えてっぜ。
また海とかプールとか遠征を計画してんだけど、お前らどうする」
「もち参加に決まってっぜ」
「ああ、今年こそは彼女をゲットしてやる」
夏休み恒例のナンパ行脚だね。
毎年毎年お疲れさまだよ。
「虎助は今年も不参加か」
「今年もバイトが忙しいからね」
「海とかプールとかだと虎助がいた方が女ウケがいいんだけどな」
去年に続いて今年も不参加の僕を惜しむ声が二人から聞こえてくる。
正直、僕としては女性ウケがいいなんてまったく実感がないんだけど、なんで二人はそう言うんだろう。毎回こう言ってくるからには、なにか理由があるんだろうけど、僕としてはまったく心当たりがなかったりする。
「でも、虎助、高校入ってからずっとバイトばっかじゃね。なんか欲しいもんでもあんのか」
「特にこれといってほしいものはないかな」
まあ、あえて探せば、新作ゲームとか漫画とか、欲しいものはいくつかあるけど、わざわざバイトをしてまでこれが欲しいというものは無いかな。
「だったら、なんでそこまでバイトばっかすんだ」
と言われましても、本来の目的とか、アヴァロン=エラの話をするわけにもいかないから。
「いきがかり上かな。仕事も楽しいしね」
強盗がやってくるとか、残念な状態でアヴァロン=エラに迷い込んできてしまうお客様の処理とか、時としてキツイ仕事もあるんだけど、ソニアにベル君にマリィさんとか魔王様とか常連さん達、それにちゃんとしたお客様との交流は純粋に楽しかったりする。
「ふ~ん。そういや虎助はなんのバイトをやってんだっけ?」
「武器商人だな」
続く水野君からの問いかけに、僕が答えようとしたところ、その声に被せるように元春が言う。
「武器商人!? いやいや、まあ、わからなくは――ないのか。えと、マジ?」
元春の珍しく真面目な顔に困惑する水野君と関口君。
まあ、この二人は中学からの知り合いだから、当然ながら母さんのことも知っているし、ある意味でこのリアクションは間違ってはいないんだけど。
「サバイバルグッズなんかを売ってる店かな。だから元春のいうこともあながち間違いじゃないかもしれないね」
「サバゲグッズなんかも置いてある本格的な店か?
でもよ。近所にそんな店なんかあったっけか?」
はて、どうなんだろうか。
駅前の裏通りを探せばそういう店もありそうではあるけれど。
「だからアングラな店なんだよ。
一般客とかゼッテーこねーところにあるしな」
いや、条件によっては一般のお客様も来るんじゃないかな。
たとえば、エルマさんとか――、
彼女なら一般客のカテゴリに入るんじゃないかと思うんだよね。
ただし、魔法世界においてはと但し書きがつきそうだけど。
と、僕がそんなツッコミを脳裏に浮かべる一方で、本当の意味で一般的な二人の友人は当然の心配をしてくれるわけで、
「アングラなサバイバルグッズって本格的にヤバい店なんじゃないのか」
たしかに、海外の映画なんかにある秘密の武器が売ってる店とかそんな印象だよね。
しかし、そんな心配も――、
「母さんご指名のアルバイトだから」
「「ああ――」」
母さんの紹介だといえば一発で納得してくれる。
「まあ、そんなワケだから、僕もバイトを頑張らないといけないんだよ」
「俺としてはそろそろ二人も虎助のバイト先に連れてった方がいいと思うんだけどな」
「「いやいや、遠慮します」」
「そっか、金髪爆乳美女とか来るんだけどな」
「……ふむ、ちょっとお話を聞こうか」
「そうだな」
はてさて、この二人を万屋に連れて行く機会があるのだろうか。
元春はともかくとして、次郎君も正則君も自分で魔獣の相手をできるようになった今、僕としては二人を連れてきても構わないとは思うんだけど、そうすると、和室とかトレーラーハウスとかを拡張しないと対応できない場合もあるから――、
とまあ、細かいことはもしも二人が来るとなったその時に考えればいいか。
◆次回は水曜日に投稿予定です。