実績とステイタス※
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義姉の襲来にオークの襲来と短い間に立て続けに厄介事が発生した結果、万屋の横にはライトバンサイズのオークが5匹、氷漬け状態だったり完全にローストされていたりと様々な状態で駐車ならぬ駐豚されていた。
そして、そんなオーク達の解体にかかるエレイン君達。
僕はその傍らでへたり込む義姉さん達、地球組の皆に声をかける。
「義姉さんに元春、大丈夫?」
「全然ヨユーよ」
「死ぬかと思ったぜ」
そう言って、強がりながらも全然平気そうには見えない義姉さんと、言葉とは裏腹に肉体的には余裕そうな元春に「お疲れ様」と配るのはスタミナを回復させる魔法薬〈元気薬〉だ。
因みに渡す魔法薬が怪我や体調不良を直すポーションで無かったのは二人が怪我をしていなかったからだ。
二人が怪我一つしていないのは、この世界の主たるソニアが僕の要請に気を回して、強めの加護を義姉さん達に付与していてくれたからだろう。
後で何か差し入れを持っていかないとな――と、僕がオーナーへのフォローを考えていると、
「しかし、倒しましたわね」
万屋のすぐ横に並んで横たわるライトバンサイズの豚を眺め、声を掛けてくるのはマリィさんだ。その隣には所在なさげな【魔女】のお姉さんがいるのだが、手持ちのディロックが減っていないところを見るに、所在なさげにしているのはオーク相手になにもできなかったからだろう。
「しかし、虎助のお義姉さんはなかなかに豪胆な人ですね。初戦闘のでいきなりオークを討ち取ってしまうだなんて、私少し見直しましたの」
まあ、僕が言えた義理じゃないかもしれないけれど義姉さんの適応力は並じゃないから。
そんな風に雑談を交わしながらも、一息ついたところで、
さて、これからどうしようか。順調に解体されるオークや、色々あってお疲れ気味の義姉さんに目を配っていると、ふとこんな声が掛けられる。
「なあ虎助、俺等ってオークを倒したんだよな。だったら、これってレベルアップとかすんじゃねえのか?」
順調に進むオークの解体作業を眺めて言うのは元春だ。
確かにモンスターを倒した後だ。元春がそう言いたくなるのも分からないでもないんだけど、
「ゲームじゃないんだからレベルアップなんてないよ」
魔物を倒すことで経験値を入手して、テンポよく身体能力上がっていくなんて現象が起きるのはゲームの中だけの話である。
「ただ、あれだけ使ったのですから魔力の向上や、あとオークを倒したことで実績がついてるかもしれませんの」
「実績?」
元気薬が効いてきたのか、立ち上がりながらも聞いてきたのは義姉さんだ。
「ええと、こっちは本当にゲームとかにあるそれに近いかな。戦闘に限ったことじゃないけど、いろいろな場面で特定の条件を満たすことで【実績】っていう力を獲得できたりするんだよ。この場合は、オークを倒したことによる【魔獣殺し】が一番の候補かな。まあ、全部が全部、そうって訳じゃないんだけど、身体能力があがったり、スキルとかアビリティとかそんなのがついてみたりとか、種類によっては特殊な魔法とか覚えられる。そんなシステムみたいなものが世界には存在するんだよ」
これは人の思念などが現実に影響を及ぼす魔素によって構築されているシステムだと言われている。
宗教や思想、共通認識として語られる価値観など、様々な世界で作り出される集団意識が世界をまたいでネットワークを繋ぎ、それぞれの世界に住む生物に、魔素という概念上のエネルギーとの接触を経た集団意識が影響を与えているのではないか――というのが実績と呼ばれるシステムの根幹であるといわれているらしい。
と、そんな小難しい説明はさておいて、実績に関する説明を聞いた元春が普段なら女性関係でしか反応しないその瞳を輝かせる。
「マジで!?そんなゲームのスキルみたいなのがあんのかよ。まあ、こんな銃を使った後であれなんだけどよ」
たぶん元春は未だこのアヴァロン=エラがどんなところか分かっていないだろう。
しかし、魔法なんて現象を実体験してしまった後では、否応にもファンタジックな力の獲得に期待を持ってしまうというものだ。
「僕達の世界じゃ知られてないけど普通にあるみたいだよ。ただ気付いていないだけで、僕達くらいの年齢なら、みんな2、3個の実績を持ってるのが普通みたい」
もしかしたら僕達の世界にも実績というシステムの存在を知っている人は居るかもしれないけど、少なくとも魔女のお姉さんは知らないみたいだ。驚いたように目を見開いている。
そして、義姉さんはというと――、
「で、その実績ってのは調べたりできるの?」
弟分の手前、クールぶってはいるものの、異能系少年漫画なんかが大好物の義姉さんだ。物凄く気になるのだろう。パタパタと小さな足先が急かすようなビートを刻んでいる。
こんな状態の義姉さんをお預け状態にしておいたら殴られかねない――ということで、
「店に戻れば調べられる魔具があるよ」
「すぐに連れて行きなさいっ!!」
僕がそう答えると、とうとう我慢できなくなったのか胸ぐらを掴んでくる義姉さん。
そんな義姉さんの態度に、マリィさんが魔法剣なんかを作る時の自分の態度を棚に上げたように「本当に図々しい方ですの」たぷり腕組みして不満気にするけれど、この二人がいがみ合ったらまた面倒だ。まあまあと二人を宥めて万屋へと移動してもらう。
そんなこんなで万屋へ戻ってくると、オークの襲来があったにもかかわらず、マイペースにもテレビゲームに興じる魔王様の姿があったりして、
その後ろ姿に呆れたり驚いたりと僕以外の地球の面々がリアクションをする一方、僕はカウンターの引き出しの中から一枚のプレートを取り出す。
「ふぅん。これがその実績ってのが見られる魔具ね」
それはポイントカードのような小さな金属板。そこに刻まれている魔法式によって発動する魔法は〈自己確認〉。魔法名そのまま自分のステイタスが調べられるという魔法である。
「で、どうやって使うのよ?」
「ただ魔力を流すだけですよ」
「魔力を流すってどうすんだ?」
義姉さんに続いて聞いてきたのは元春だ。
そんな元春の疑問を耳にした義姉さんは、ニヤリと口元に得意気な笑みを浮かべて、「見てなさい」と皆を押し退けるように魔具の前に立つと、〈ステイタスプレート〉に魔力を注いでいく。
すると魔具に刻まれた〈事故確認〉の魔法式に赤い燐光が灯り、それが魔法式として込められた意味をなぞるように広がっていく。
そうして浮かび上がるのはウィンドウ。ベル君達のフキダシとはデザインが異なり、どこかゲーム画面のようになっているのはオーナーの趣味だろうか。
「おおっ!!なんか凄ぇな。SFか?」
「どっちかといえばファンタジーだと思うけど……」
ある意味で的外れともいえる元春のセリフに訂正を入れつつも、僕は魔力を灯した指先で皆に見やすいように魔力を灯した指先でウィンドウそのものを移動させる。
「まず魔力は1だね」
そう言った瞬間だった。
「しょぼ――プゲラッッシュ!!」元春が義姉さんに殴られて、「どうなってるのよ」元春を殴り捨てた義姉さんが詰め寄ってくる。
だけど、ここで慌てて義姉さんの機嫌を損ねたらまた面倒だ。
「いや、僕達の世界では1あるだけでも凄いんだよ」
そもそも魔素が薄い僕達の世界では、計画的に魔力を鍛えようとでもしなければ、死ぬまでに魔力が1を超えるなんてことはまずあり得ないことなのだ。
たぶん義姉さんの場合、魔素に溢れるアヴァロン=エラで常時発動型の魔法式〈吸精〉が込められた〈吸魔剣キスキル〉を使った事が原因だろう。
それ以外にも、魔法銃を片手にオークと戦ったこともあると思うけど、最終的には才能によるところが大きいのではないか。
そんな説明を簡単にしたところで、義姉さんはようやく納得――というか満足して、胸ぐらを掴んだ手を離してくれる。
因みに義姉さんの詳しいステイタスは以下の通りだ。
魔力:1
獲得実績:【我流格闘家】【死の料理人】【見習い忍者】
【魔獣殺し】
付与実績:【小さな暴君】【メスゴリラ】【お姉様】【赤点王】
うん。いろいろとツッコミどころが満載だけど、本人を前にしてそれを指摘するにはなかなか勇気がいるものだ。
そんな義姉さんのステイタスに元春すらも気を使っているらしい一方で、地球の常識など僕から聞いた話と漫画くらいしか知らないマリィさんがその地雷を思いっきり踏みにいく。
「虎助、貴方は自分の家庭を一般家庭といいましたが、【小さな暴君】や【赤点王】などお義姉様の持つ実績を見る限り、王族関係者としか思いないものなのですが、どうなっていますの?」
「ブホッ!!」
マリィさんのセリフを聞いた途端に元春が吹き出して、腹を抱えて笑い出す。
普段の義姉さんを知る元春としては、マリィさんの指摘が殊更ツボに嵌ったらしい。
とはいえだ。そんなリアクションをしていると――、
ドゴッ!!
例のごとく義姉さんに殴られてしまう元春。そして、その原因を作ったマリィさんにはキッと射殺さんとばかりの視線が向けられてしまう。
しかし元春よ。義姉さんの前でそんなリアクションをしたら、こうなることくらい分かっていただろうに、本当に学習能力が低い友人だ。
そんなどうしようもない友人は放置するとして、義姉さんとマリィさん、完全にすれ違うこの二人をどう収めたらいいものか。
「なんですの」
「なんでもないわ」
と、僕の心配は杞憂に終わったようだ。さすがに悪気のない質問に文句をいうのは地雷であると、信じられないが義姉さんにもある程度の理性というものがあったのだろう。一度はマリィさんに向けかけた怒りの矛先を僕に向けてくる。
「私のだけ見られるのは不公平よ。虎助のステータスも見せなさい」
「そういえば私、虎助のステイタスを見たことありませんの」
八つ当たり気味な義姉さんの命令にマリィさんが乗っかってくる。
でも、本来ステイタスというものはあまり他人に見せるものでもないってオーナーは言っていたんですけど。
まあ、マリィさんの反応を見る限り、ところ変われば常識も変わるものなのか?
どちらにしても、このプレートで確認できるステイタスは本格的な本格的なものでもないというし、義姉さんやマリィさんになら見せても問題ないだろう。
それに僕も万屋設立当初に1、2回チェックしたっきりで暫く確認していなかったからな。
いろいろと経験を積んできた今なら何か新しい実績がついているかもしれないか。
そう思って〈自己評価〉を発動させてみると、
魔力:49
獲得実績:【忍者】【学徒】【調停者】【見習い人形師】【豪商】【整備士】【見習い設計士】【見習い魔法使い】【見習い冒険家】【見習いトレジャーハンター】【見習い祈祷師】【錬金術士】
【魔獣殺し】【巨獣殺し】【死霊祓い】【龍退者】
付与実績:【黒い委員長】
おおっ、物凄い増えてる。
「ちょ、何だよコレ。志帆姉とは比べ物にならねぇなんかスゲェのが――ゴッ!!」
ちょっと――、本当にどうしようもないおバカなのかなキミは?
義姉さんに拳骨を落とされた元春はそのままノックダウン――するかと思いきや、
「志帆姉。いきなり何すんだよ」
「なんとなくよ」
さすがに毎度の如く制裁を受け続けているだけのことはある。普通に頭を殴られたくらいではダウンするようなダメージにはならないらしい。
そんな元春の変態的な打たれ強さに哀れみが篭った視線を向けるマリィさん達、女性陣。
しかし、元春はそんな視線に全く気付くことなくこう続ける。
「でもよ。これはいくらなんでも、その、実績ってヤツ?多過ぎなんじゃねえの。志帆姉の倍はあるぜ。どうなってんだよ」
まあ、このステイタスを見たら、元春がそう言いたくなるのも当然なのかもしれないが、
「実績の殆どが魔法系だからね」
「確かにそうですの……。しかし、見習いの取れた錬金術士なんていつの間に――、それにお義姉様もそうでしたが忍者とは一体?虎助達の世界特有の実績でしょうか?」
手に職をではないけれど、ここでしか覚えられないような魔法系の技術に特化して練習していたのが功を奏したのかな。
しかし、ここまで増えるとゲームのスキル集めみたいで面白い。これからは狙っていろんな事にチャレンジしていってもいいかもしれないな。
僕が思案するように零したマリィさんの呟きを聞き流しながら考える一方で、錬金術を教えた側のマリィさんは納得いかないのだろう。むむむと眉を立てている。
しかし、やはり見たことがない実績は気になるようで、僕の実績に義姉さんの実績、地球ならではだろう実績について聞いてくる。
「そうですね。取り敢えず【忍者】というのは僕達の世界――というか、僕達の国独特の職業系の実績ですか。マリィさんが知っていそうな実績で例えるなら【暗殺者】や【盗賊】と同じ類の実績ですね。オーナーの説明ですと、ウチの母さんがその職業の末裔で、色んな技を教えてもらってるからこそついた実績なんじゃないかってことらしいですよ。あと、錬金術に関してですが、こちらは魔力を主とする職業系の実績ですからね。この世界だと実績を積むのが割りと簡単なんですよ。まあ、あれから一ヶ月、いろいろと錬金してきましたからね」
と、長々と語った僕の説明が切れたのを見計らって、あの――と小さく手を上げたのは魔女のお姉さんだ。
話が魔術的なものだけに気になる部分があったのだろう。どうぞとばかりに微笑む僕に、緊張からか喉をゴクリと鳴らして言ってくる。
「れ、錬金術って、そんな簡単に覚えられないと思うんですけどぉ」
「確かに、純粋な錬金術はすぐに覚えるのは難しいですね。ですけど、僕の錬金術は高性能な錬金釜を使った力技ですから。たぶん他の人が同じように錬金術を覚えても、初日でポーションくらい簡単に作れるようになると思いますよ」
「し、信じられません。初日から魔法薬が作れるなんて、こここここここ、工房長を任される人だって、数年単位で修行しなければいけないのに……」
あれ、マリィさんは一発でポーションを作っても平然としてたけど……。
ふむ、どうやら僕達の世界における錬金術というのは相当に難度が高い技術らしい。
まあ、地球の場合、素材からして既に不利な状況にあるのだから仕方が無いといえば仕方が無いのだが。
僕が魔女のお姉さんのリアクションにそんな想像をしていたところ、今度は元春が割り込んできて、
「つかよ――、俺としちゃあ、この巨獣殺しとか竜殺しとかって物騒な実績?そっちの方が気になるんだけどよ。もしかして虎助さ。もう志帆姉よりも強いんじゃね?さっきのオークも余裕で仕留めてたし」
さすがの元春でもあれだけ派手にやってしまえば分かってしまうみたいだ。
たぶん元春の言う通り、このアヴァロン=エラで鍛えられた僕なら、まさに【小さな暴君】だった義姉さんすらも完封できるだろう。
しかし、それを正直に話したら、ただでさえ悪い義姉さんの機嫌が更に下降線を辿るのは明らかだ。
だから、ここらでワンクッション入れておいた方がいいだろう。
そう考えた僕は――、
「それも実績の効果ってやつかな。強い魔物を倒すとその恩恵がかなり得られるんだよ。まあ、その辺りの実績の入手法はまた後で説明するから、それよりも元春もステイタスを調べてみない。気になるでしょ。意外と凄いのを持っているかもしれないよ」
生贄羊ではないのだが、こういう時は元春の残念さでお茶を濁すのが一番だ。何気にひどい仕打ちではあるが、お決まりのパターンなのだから気にしたって仕方が無いというものだ。
という訳で、
「おう。真打登場ってヤツだな」
僕の思惑など露知らず、水を向けられた元春は意気揚々とプレートの前に立つ。
そして、簡単な説明を聞いた上でプレートに魔力を注ぐ、さすがに義姉さんよりかは時間がかかったものの、そこは義姉さんに匹敵するくらい単純な元春だ。どうにかこうにか魔力の充填をこなし、魔具の発動に成功する。
そうして浮かび上がったステイタスはといえば――、
魔力:0
獲得実績:【助兵衛】【遊戯巧者】【闇商人】【曲芸士】
付与実績:【G】【赤点王】【HENTAI】
「つか『魔力:0』ってなんだよ。俺、魔法の銃とか使ってたよな。使ってたよな」
魔法の銃はきちんと発動していたのに魔力が0とはこれいかに、元春の文句は当然なのかもしれないが、
「ここに表示される魔力っていうのは、魔具の補助もなしに使う基本魔法〈魔弾〉一発分の魔力量を1として換算しているからね。それ以下の魔力は0って表示されちゃうだよ。だから、魔力をまったく持っていないってことは無いんだけどね」
要するに元春の魔力は自力で〈魔弾〉が使える領域に達していないということなのだ。
だが、義姉さんは元春が叩き出したこの結果にご満悦。さっきバカにされたお返しにとばかりに、ニヤニヤといやらしい笑みを口元に、元春の肩を手を置いて、ザマァとそんな声が聞こえてきそうな蔑んだ表情を浮かべている。
しかし、元春はへこたれない。
「0も1も大して変わんねえじゃんか」
「何か言った?」
おそらくこれは【小さな暴君】あたりの実績が醸し出す圧力なんだろう。元春のささやかな反撃に、この場に小動物がいたら脱兎の如く逃げ出していきそうな殺気が義姉さんから放たれる。
ただ、この手の殺気を向けられる事は元春や僕にとっては日常である。
「け、けどよ。この場合、実績ってやつが重要なんだろ。それはどうなってんだ」
強がっているようで軽く裏返る元春の声に促されて、魔力0というインパクトに全てを持って行かれた元春のステイタスを改めて見直すと、そこに表示される実績の数々は、当初、僕が考えていた数よりもずっと多いものだった。
でも、これもまた義姉さんに負けず劣らずコメントに困る実績ばかりなんだよね。
と、そんな実績の中で一つ気付いたことがある。
いや、正直に言うと気になる箇所を一つに絞るのは難しいんだけど……。
「あれ、【魔獣殺し】の実績がついてないね。どうしてだろ?」
一緒に戦った筈なのに実績を得ていないとはこれいかに?
そんな疑問に答えてくれたのはマリィさんだった。
「単純に貢献度が低かったのではありませんの」
そういえばベヒーモの時にも同じようなことを聞かされたっけ?
たしかMMOなんかにありがちなパワーレベリングができないって話だったかな。
思い出してもみれば元春がオークとの戦闘中に攻撃していたという印象はあまりなかったような。
義姉さんもその事に気付いたのか、じっとりとした目線を元春に向けるものの、それが何らかの行動に派生をする前にマリィさんの声が割り込んでくる。
「それよりもまたありました。【赤点王】とは一体どんな実績ですの?」
マリィさんとしてはこの【赤点王】という実績がよほど気になるようだ。
まあ、普通に考えて『王』という表現が入る実績は強力なものが多いというのだから、マリィさんが気にするのも分からないではないけれど、明らかに地雷と分かっているその説明を、義姉さんがいるこの場でする訳にもいかないだろう。
という訳で、僕は「後で説明しますから」とマリィさんに耳打ち、それ以上の質問を抑えてみる。
義姉さんとしても元春と同類と思われるのが嫌なのか、ただむっつりほっぺたを膨らませるだけで【赤点王】の話を広げる気はないようだ。
そして、話題を変えるという意図でもあるのだろう。こんな事を言ってくる。
「というか、この【G】ってなんなのよ。自慰?」
えと、義姉さん。女子がそういうことをするのはどうかと思います。
話を逸らすという意味では、ある種、有効なのかもしれないけれど、手を上下にシェイクするなんてあからさま過ぎやしないだろうか。
マリィさんなんか真っ赤になっちゃってるよ。
しかし、そこにツッコミを入れるのはまた藪蛇な訳で、
だからと僕は何気なく会話を繋げるフリをしてマリィさんの気をそらそうと、
「気になりますね。マリィさんは知っていましたか?」
そもそもアルファベットというものがマリィさんの世界にあるのかすらも謎ではあるが、そこの辺りは〈バベル〉による翻訳が頑張ってくれていると信じよう。
訊ねる僕にマリィさんは、義姉さんによるセクハラ攻撃による動揺が大きいのか、若干ぎこちなくもこう答えてくれる。
「ひゃっ、虎助?あ、ええ、そうですね。は、初めて見る実績ですのね」
しかし、王族であり、高位の魔導師であるマリィさんですら知らない実績ということは僕達地球ならではの実績なのか?
それに――、
「もしかしてレアな実績なんでしょうか」
「さすが俺?」
誰ともなく訊ねかける僕の横で元春は鼻高々といった様子だが、実績の場合、普通にただの称号だけとかってこともありえるから単純に喜べるようなものでも無いんだけど、その辺りどうなんだろう?
そう考える僕に、まだ動揺を残すマリィさんがくれた解決策は、
「け、権能から推測してみるのはどうですの?」
「権能ってのは?」
「実績を得たことによって目覚めた力って感じかな。ほら、さっき言ってたゲームにあるようなスキルとかアビリティみたいな力のことだよ。実績を得るまでの過程で手に入れた経験の結晶みたいなものかな」
そんな僕の説明に「聞いてないわよ」と義姉さんが不満げに口を尖らせる。
たぶん自分のステイタスを見ている時に教えて欲しかったのだろう。
とはいえだ。
「権能まで一つ一つのチェックしていると時間がかかるから。気になるなら後でチェックしてみて、このプレートも普通に万屋で売っているものだから。何なら後で一枚譲ってもいいけど」
〈自己評価〉の魔具は単に魔法式を刻んだ金属プレートでしかない。機械加工の技術も未熟な一般的な魔具職人ならいざしらず、精密作業すらもこなすゴーレムを多数抱える万屋にしてみれば、それほど価値のある魔具という訳でもないのだ。値段も銀貨一枚だから譲ったところで特に問題は無いだろう。
義姉さんの不満に応えながらも、僕はウィンドウに表示される【G】の実績を元春にタップしてもらう。
すると、【G】の権能がざっと表示されるのだが、
【G】……〈俊敏性向上〉〈生命力向上〉〈不屈の精神〉〈嫌悪強調〉
どうせなら実績に関する説明も付けてくれると有り難いんだけど……そこら辺はソニアと応相談かな。
〈ステイタスプレート〉の改造案はまた別の話として、
「これって凄いの?そうじゃないの?よく分からないわね」
「〈嫌悪強調〉なんてマイナス効果はあるものの結構凄い、のかな?」
「ええ、〈不屈の精神〉などは騎士にとって必須の恩恵ですの」
〈不屈の精神〉というのは確か――『致命的な状況に陥った状況下における自己治癒力上昇と、痛覚軽減、即死攻撃への耐性が発揮される』そんな権能だったと記憶する。
「何?それって特別ってことか、俺って凄かったってことか。いや、参ったな。ついに志帆姉を越える時が来ちゃったって――オブァ!!」
しかし、本当にここまで短時間の間に何度も何度も――、もう、わざと殴られにいってるとした思えないんだけど。
僕とマリィさんの好意的な評価に必要以上にはしゃぐ元春の声は、義姉さんの鉄拳制裁によってすぐに遮られてしまう。
そして、この哀れとも思える元春の扱いにはマリィさんも慣れてしまったご様子で、殴り倒された元春のことなんて一顧だにもせずに。
「虎助が持っている忍者と同じで、常人が持てるような実績で無いことは確かですわね」
「でも【G】って一体何なのよ」
義姉さんとしては弟分が自分よりも珍しい実績を持っていたことが苛立たしいのだろう。舌打ちでも聞こえてきそうな声で言い放つ。
しかし、義姉さんじゃないけど、本当にこの【G】って実績は何なんだろう?
本来、実績というのはその所有者に合わせて分かり易い表現になっているのが一般的だ。
だとするなら、この【G】という実績も普通に僕達の回りで使われている言葉である筈で、
でも、この【G】に関してはただのアルファベットの一文字でしか無く。
もしかして、ゲームとかにありがちな複数集めると本当の力を発揮するようなコレクターズアイテムのようなものだったりして?
いや、それならば最初から高性能な権能なんてつかないだろう。
だとするなら、やっぱりこの【G】の一文字には何らかの意味が込められているってことになるけど、
けれど、危機的な状況に強くて、俊敏性と生命力。さらに嫌悪強調なんて権能がつくアルファベット一文字の実績って何なんだ?
普通に考えると頭文字だよね。
…………G、G?
ローマ字だったら、が…………、ぎ…………、ぐ…………、げ…………、ご…………?
っ!!もしかして、いや、そんなまさか!?
【G】という実績に付随する権能を反芻するように見返して少し、ふと閃いたその可能性に、おそらくはそれが正しいと思いながらも、確信が持てない。そんな逡巡を得た僕は皆の意見を聞くべきだと手を上げる。
「あの――、僕、分かっちゃったかもしれないんですけど」
「なら、さっさと言いなさい」
とにかく負けず嫌いなのが義姉さんだ。控えめなその挙手に棘の生えたセリフで言うのだが、
しかし、僕の思いつきを直接言うのはちょっと憚られる。特に義姉さんは天敵ともいえる存在だ。慎重に言葉を選ばなければ、今度は僕が殴られる番となってしまうだろう。
僕は未だに回復してこない元春を見下ろしながらも、脳内に描くモザイクそのままに、ぼやかして伝えてみる。
「【G】っていうのはアレじゃないですか」
「アレってなによ。ハッキリしないわね。殴られたいの」
どうにもハッキリしない僕の態度に拳を振り上げる義姉さん。
「いや、そうじゃなくて、なんといいますか――、ほら、暖かくなってくると見かけるようになる――」
と、先ずは軽いジャブから――と僕の説明に魔女のお姉さんがいち早く気付いたみたいだ。
そして――、
「黒くてテカテカしていて――」
ここまで言えばさすがの義姉さんも気がついたのだろう。まさか――と手を口に持っていく。
「キッチンなんかによくいますよね」
そして、そこからワンテンポ遅れてマリィさんが悲鳴のような声を上げる。
「も、もしかして【G】とはゴキブリですの!?」
どうやら魔法世界にもヤツは存在するようだ。
「はい……、多分、そうじゃないかと」
僕の言葉を受けた二人はステイタスウィンドウに視線を落とし、改めてそこに記された情報を吟味した上で床に倒れる元春を見る。
マリィさんと魔女のお姉さんはこの数時間の出来事を、義姉さんは小さい頃に知り合ってから今まで共に過ごしてきた思い出を振り返ったのだろう。
「ああ」「ですわね」「ですぅ」
こうなると、もうそれ以上の言葉はいらない。
ただただ残念そうに納得の声を零すばかりの三人だった。
〈魔弾〉……放出系攻撃魔法の基本。使用者個人の資質によって弾の大きさ威力などが変わる。この魔法に属性を加えることによって〈火弾〉などに派生する。
因みに個々の魔法名のニュアンスが違うのは翻訳魔法がその魔法の形状など特徴から適切なワードを選択する為、そういう表現になっている。(マリィの世界には実銃やパチンコの類は存在していない)
実績関連の説明や魔法関連の説明はいずれまとめたいと思います。
因みに別の人間が同一の実績を持っていたとしても必ずしも同じ権能を持つとは限りません。
例)
オーク討伐→【魔獣殺し】……〈脚力向上〉
シャドートーカー討伐→【魔獣殺し】……〈潜伏〉
オーク+シャドートーカー討伐→【魔獣殺し】……〈脚力向上〉〈潜伏〉
取得方法やその後の努力によって変化します。
(権能のダブリは完全なハズレ。下位互換は入手可能だが効果を発揮しない)
※虎助のステイタスを少し弄りました。




