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退屈な一日

続けて短めのお話です。

 万屋を訪れるお客様の数は日によってまちまちだ。大挙として訪れる日もあれば、誰も訪れないなんて日もある。

 それはこの万屋が次元の狭間なんていう、RPGゲームのラストダンジョンくらいでしかお目にかかれないような立地にあるのが原因で、アヴァロン=エラと外部を繋ぐ次元の歪み、つまりゲートの発生そのものが、魔素と呼ばれる自然エネルギーに依存しており。

 そのゲートも魔素の濃度が極端に高い場所でなければ発生確率が天文学的な数字くらい稀らしく。

 魔素の濃い空間には魔獣や神獣、その他諸々の強力な生物が好んで住んでいて、普通の人間にはなかなか近づきにくい場所ということから、自ずとゲートへ到達できる人間の絶対数は限られてしまうからだ。


 とはいえ、中には常時この空間に移動できる伝説クラスの魔導器、所謂マジックアイテムを持っている例外的な人もいたりして、

 今日も今日とてエクスカリバーを眺める為だけにやってくる困ったお客様もいるのだが。

 彼女に関して言うのなら、エクスカリバーさえあればご飯三杯は軽くいけると形容してもいいほどの重篤な趣味趣向の持ち主ということで、逆に邪魔をしようものなら噛みつかれかねないと特段の配慮も必要無かったりする。


 そして、店の掃除なんかにしても、万屋の従業員というか、このアヴァロン=エラそのものを管理してくれている量産型ゴーレムであるエレイン達によって、全てが正常が保たれているということで、

 店長という名ばかりの肩書を持つ僕の役目は主に接客に限られ、大抵の時間、人の訪れない万屋で暇な時間を過ごしたりするのだ。


 と、そんな暇な時間に僕が何をいるかといえば、主に宿題や予習といった健全な高校生らしい事なのだけれど、今日はそんな宿題も学校にいる内に終わってしまい。

 現在、暇を持て余した僕は、勤務中にも関わらずいまは毎週買っている漫画雑誌に目を通していたりする。


 と、そんなところにエクスカリバーでたっぷり目の保養をして、ほくほく顔でレジカウンター脇の上がり框まで戻ってきたマリィさんが訊ねてくる。


「先程から虎助は何を読んでいますの?」


「漫画ですよ」


 たぶん表紙に描かれた少年剣士の持つかっこいい刀に目を奪われてしまったんだと思う。

 興味津々で覗いてくるマリィさんにも見えやすいようにと漫画雑誌を傾ける。


「マンガ……絵本とは違いますの?」


 そうか、いまでは当たり前のように世界中で読まれるようになった漫画だけど、別の世界の人から見ると未知の読み物だったりするのかもしれないな。

 うずうずと落ち着きなく揺れるナイスバディを見た僕が「読んでみますか?」と問い掛けると、マリィさんはぶんぶんと勢い良く首を振り、差し出す雑誌を受け取るのだが、

 その直後、思い出すようにマリィさんが言うのは――、


「けれど(わたくし)、虎助の国の文字なんて読めませんの」


「あれ?でもこの万屋の中では、どんな国の言語でも、意識すると自分に理解できる言語に変換されるようになっているんですがですが」


 そんなマリィさんの発言に僕が今更だという感想を抱いたのは、普段から店内の商品に添えられるポップ広告を読んでいる姿を見ていたからだ。

 指摘されて再び雑誌へと目を落としたマリィさんから「まあ」と感嘆の声があがる。


「これはいったい?言語翻訳魔法ですの?しかも範囲型の?聞いたことがありませんの」


「ですよね。僕の世界にも似たような機能を持つ機械はありますけれど、これを体験した時はさすがに驚きましたよ」


 推察混じりに零されたマリィさんの驚嘆に、僕は胸元から取り出したペンダント型の魔導器を目の前に掲げ、初めて装着した際の驚きで共感する。

 しかし、マリィさんからの返事は以外なものだった。


「虎助の世界も中々凄いところですのね」


 それは台詞の前半部、チラッと漏らした翻訳サービスについての反応だった。

 確かに昨今携帯端末などに組み込まれる翻訳機能は、念話を応用したこのペンダントの機能には叶わないものの、かなりの高水準にることは間違いないだろう。

 まるで自分が褒められたようで、僕が少しくすぐったそうにしていると、マリィさんがおずおず申し訳なさそうに聞いてくる。


「それでこれなのですが、どう読めばいいんですの」


「ああ。それはですね――」


 と、漫画初心者にありがちな質問に読み方を教える傍ら、僕はパラパラとページを捲り、最強の剣士を目指す少年を主人公にした剣術アクションマンガを開く。

 そして「どうぞ読んでみてください」と手綱を渡すと、予想通りというか何というか、マリィさんはその剣術漫画に没頭する。


 と、その真剣な姿を静かに眺めること十分くらい、顔を上げたマリィさんがサファイアのように深い青を湛える瞳を輝かせて詰め寄ってくる。


「日本刀とは凄い剣ですね。私も欲しいですの」


 何を言うかと思ったら。まず言う事がそれですか?


「あの、漫画はあくまでフィクションですから、その通りには扱えないかと」


「では、この剣はありませんの?」


 パラリ捲ったページには炎を纏わせた刀で巨大な鬼へと斬りかかる少年の姿が迫力満点に描かれていた。


「残念ながら炎が吹き出す日本刀はありませんね」


 ガーンと現実的な回答に肩を落とすその姿を少し可哀想だなと思ったのが失敗だった。


「でも、切れ味がすさまじいってのは本当ですよ。弾丸を切ったり、兜割りとかの話は本当にあった話らしいですからね。居合の達人は鉄パイプをもスパっと切っちゃうらしいですよ」


 どうにかフォローしようと、何処かで見聞きした知識にマリィさんが機嫌を回復傾向させつつあったのに気付かず、続けた言葉が失敗を加速させた。


「考えてもみれば、ここに流れ着く魔法剣みたいに魔法処理を施したのなら同じような事ができるかも――」


 万屋に務める中で得た魔法の知識による可能性を提示した瞬間、ぐわしっ!とおもいっきり肩を捕まれてしまう。


「お金ならいくらでも出しますの。ですので、今すぐその日本刀を購入してきて魔法的な加工を施して下さいまし」


 そして、マリィさんはプリーツスカートに隠れていた金貨のたっぷり詰まった革袋をドンとカウンターに放り出す。

 降って湧いた商談に、僕は『無理なんじゃないのかなあ』そう思いつつも『まあ、模造刀くらいなら』と日本刀の手に入れ方を考え始めていた。


尺の長さが安定しなくてすみません。

どうでもいいことですが、マリィが気に入った剣術漫画は『戦国剣風伝マサチカ』というこの小説内のオリジナル作品という設定です。(特に覚えておく必要のない設定かと)

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