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人工アルケミックポット

 放課後、いつものように僕が元春を連れて万屋に出勤すると、そこには珍しくアビーさんとサイネリアさんの姿があり。

 待ってましたとばかりに、先に来店していたマリィさんと一緒に連れて行かれたのは、工房の裏側、世界樹農園を遠くに望む荒野の一角だった。

 すると、そこには一つ、小さな結界が張られてあって、アビーさんとサイネリアさんは、僕達をその結界の前まで案内していくと、結界の中を飛び回る黒くずんぐりとした壺のような物体を紹介するように『じゃーん』と手を広げ。


「「人工アルケミックポット~」」


 そのダミ声はどこでおぼえたのかな――、

 と、犯人はどうせ一人しかいないだろうから、それはどうでもいいとして、


「これが人工のアルケミックポットですか」


「ゴーレムと同じものだとは聞いていましたが、本当に作れるものなのですね」


「苦労はしたけどね」


 そう、それは、以前このアヴァロン=エラに紛れ込んできた、錬金釜の魔法生物であるアルケミックポットを人工的に生み出したものだった。

 カリアが集めてくれたデータ、ベル君やエレイン君のデータやスクナの根幹をなす魔法式、エクスカリバー様にも意見をもらってなんとか形みたいだ。


「でも、これって使うには壊すしかなかったハズっすよね」


 アルケミックポットとは残して壊れてしまうという魔法生物だ。

 元春がもったいなさそうにそう言うと、製作者であるアビーさんとサイネリアさんは「アハハ」と空笑いをしながら。


「そこのところは問題ないよ。このアルケミックポットは純粋な悪意の固まりを詰め込んだようなものだから」


「それに、何かを生み出し壊れてしまうことがマジックポットの存在意義だからね」


 素材を喰らい自らの身を引き換えに規格外のアイテムを生み出す、それがマジックポットという

魔法生物の存在意義だ。

 ただ、その説明の中になにか聞き捨てならないワードが聞こえてきた気がするんだけど。

 そう思ったのは僕だけじゃなかったみたいだ。


「純粋な悪意の塊を詰め込んだってどういうことっすか?」


「実は、当初、人工的にアルケミックポットを作ろうとした時に、錬金釜に精霊が宿ってしまってね」


 元春からの質問に、そう言ってアビーさんとサイネリアさんが懐から取り出したのは一枚のカード。

 二人はそれぞれ、そのカードを使ってお釜の形をした銀と黒の浮遊生物? を召喚する。

 曰く、この二体は、二人がスクナカードを利用して作った最初の人工アルケミックポットだそうだ。

 ただ、彼等の特技を調べてみると、錬金できるのは一回こっきりで、その特技を使ってしまうと彼等自身が壊れてしまうのだそうで、さすがに精霊に自爆させるのはと、二人はこの方式でのアルケミックポットの作成は断念。

 だったらと、別に壊れてもいいようなものが作れないかと試行錯誤していたところ、ソニアとエクスカリバーさんから、魔剣を使ってみたらどうだろうとのアドバイスがなされ、結果、完成したのが、この魔剣ならぬ、魔アルケミックポットだったみたいだ。


「でも、魔剣から作ったってなると、なんか呪われそうじゃないっすか」


「私達の計算ではアルケミックポット自体が魔剣に近い成り立ちだから上手くいくと思うんだけど」


 どうなんだろう。アルケミックポットは、錬金術師などに使い込まれた錬金釜が、魔素の影響やそこに残った記憶の残滓のようなものが影響して生まれる魔法生物だという。

 それを考えると、呪われたなにかというよりも付喪神に近い存在のようにも思えるけど。

 何にしても試してみないとわからないと、そのまま実験となるのだが、


「つか、滅茶苦茶攻撃してきてるんすけど、これ大丈夫なんすか」


「材料が材料だけにちょろっと凶暴に仕上がっちゃったんだ。

 でも、結界を上手く使えば完封できるから」


 なんでも、作る前からこうなることが予想されていたということで、制作段階からすでに結界の中で作業を行っていたのだそうだ。


 ただ、僕達が来てからというもの、ガシガシと結界に体当たりを続けるこのアルケミックポットの様子に、どちらかが壊れてしまうのではと元春としては心配みたいだ。


 しかし、開発者のお二人が言うには、このアルケミックポットの元になったものが魔剣ということで、そのずんぐりむっくりなボディは、下位ではあるものの魔法金属化しており、さらに結界の方も硬いものではなく柔らかいものにしてあるので、アルケミックポットや結界が壊れることはないのだそうだ。


「それで、投げ込むものは?」


「もちろん、ちゃんと用意してきたさ」


 アビーさんとサイネリアさんがそれぞれのマジックバッグから取り出したのは様々な武器や素材。


「それは?」


「虎助君なら知ってると思うけど、バックヤードというところに保管されていた装備群と、最近になって万屋に持ち込まれるように素材みたい。師匠が言うには、在庫一掃処分らしいよ」


 一部の武器に興味津々な視線を送るマリィさんの問いかけに調べてみると、どうもそれはソニアがこつこつと集めていたアイテムの中で、下位に甘んじてしまった武器や防具みたいだ。

 そして、比較的量が多くある素材の方は、いまフレアさん達がいる森から送られてきた素材が、その殆どを占めているみたいだ。


「ということで、僕達は記録するからみんなで投げ込んで欲しいんだけど――」


「手伝ってくれるかい」


「勿論ですの」


「……やる」


 アビーさんとサイネリアさんとしては、どんな物を投げ込んでどんなものができるのか、そういうデータが欲しいのだろう。研究者の二人はデータ収集に回るようで、実際に装備や素材を投げ込むのは僕達にやって欲しいみたいだ。


 ということで、マリィさんに関しては、装備の一部に若干気になるような視線を向けているのだが、それはいつものこととして、僕達は投げ込むアイテムの一品一品を、アビーさんとサイネリアさんの二人に確認してもらいながら、結界内に閉じ込めたアルケミックポットにどんどんとそれらを投げ込んでいく。


 すると、投げ込んだアイテムの数がそろそろ三十に届こうとした頃、一回り体が大きくなったアルケミックポットがまばゆい光を放ち始め。


「……ん」


「あら、これは――」


「限界を迎えたみたいですね」


「意外と早かったな」


 アルケミックポットの受け入れ限界がきたようだ。

 全体からどことなく禍々しく見える魔力光を放ち始めたアルケミックポットに、僕達はアイテムを投げ込む手を止めて、


「たしかに、動画ではもっと時間がかかってたね。

 でも、投げ込む量もスピードも違うから――」


「いや、質量も少ないね。

 個体差? それとも投げ込んだアイテムの種類かな。

 取り敢えず、出来たものを調べてみよう」


 アビーさんとサイネリアさんがこの状況を話し合う中、全身からまばゆい魔力光を放っていた人工マジックポットがパンと弾けて、その場に残ったのはシンプルなデザインの半月刀(シャムシール)

 それを見て、さっそく拾いに行こうと走り出そうとするアビーさんとサイネリアさんだが、


「待ってください。呪われた装備かもしれませんので、まずはベル君にスキャンしてもらいましょう」


「おっと、これは迂闊だったね」


「つい焦ってしまったよ」


 やっと出た研究成果だからね。二人の気持ちがはやってしまうのもわからないでもないのだが、ものがものだけにここは慎重にと、僕はお店からベル君を呼んでそのシャムシールをスキャンしてもらう。

 すると、それは〈練魔のシャムシール〉という、魔法を斬り裂き、魔法を吸収する呪われた剣のようで――、


「やっぱり魔剣化しちゃってますね。アルケミックポットの材料ですかね。いろんな呪いが混ざっちゃってる感じです」


「スキャン結果、見せてもらってもいいかい?」


「ええ、どうぞ」


 アビーさんに乞われ、僕がその魔法窓(ウィンドウ)を横にスライドすると、二人は――、というよりも、その場にいた全員がその魔法窓(ウィンドウ)を覗き込み。


「魔力消費増大に運の低下、痛覚共有に抵抗力の弱体化か」


「呪いは呪いだけど微妙な感じっすね」


「……ん」


「アルケミックポットの元にした魔剣はどんなものだったんですの」


「これだね」


 それはこの検証の為にあらかじめ用意してあったデータであると思われる。

 マリィさんからの要請にサイネリアさんが新しい魔法窓(ウィンドウ)を素早く展開、そこに記されていたのは、人工アルケミックポットの大まかな設計図とそれに使われた素材(成分表)


「ただ、使われた魔剣に対して呪いの数が合いませんわね」


「それぞれの呪いが打ち消し合ってる部分があるんじゃないですか」


「剣を使う人間が火傷するのと凍傷になるのって、完璧に反対だもんな」


「……ん」


「その結果、呪いが弱体化してしまったと――、

 しかし、武器の性能自体はそこまで悪くはありませんか」


 大量の鉄を使うことで金属の格が上がったが、呪いは分散して薄まってしまったってところかな。


「それで結局、実験の結果はどんな感じになるのです?」


「う~ん。正直いって微妙って評価になるかな」


「マリィ君の〈百椀百手の格納庫〉には遠くおよばないからね」


 たしかに、対魔法武器としてはこの〈練魔のシャムシール〉は優秀な武器である。

 しかし、呪いというデメリットもあるし、マリィさんの〈百椀百手の格納庫〉と比べると、使った素材の豪華さの割に微妙な能力のアイテムになってしまったという結果だろう。

 そして、これは個人的な意見になるのだが、シャムシールというやや使い手を選ぶ武器になってしまったのも痛い。


「こうなると、別のアプローチを考えた方がいいかもね」


「また、一から設計の練り直しだね」


 ただ、この二人にとっては、そんな微妙な結果も一つの結論であり、やはり研究そのものが面白いのだろう。このデータを元にどんな改良をすればいいのかと、どこか嬉しそうに語り合い、最終的に自分たちの研究室(らくえん)があるトレーラーハウスに帰っていってしまった。


 その様子は楽しげで、二人とも充実しているようでなによりなんだけど。

 出来てしまったこのシャムシールはどうすればいいのかな。

 僕はデータを見ながら討論を重ね、すっかりその本体を忘れていってしまった二人に、とりあえず、このシャムシールを誰も触らないようにと処置しながらも、シャムシールの処分をどうするのか、その確認のメッセージを送るのだった。

◆今回登場したスクナ。


クライン(アビーのスクナ・魔女釜(タイプ))……〈爆裂創造〉〈吸収〉


ポックル(サイネリアのスクナ・機械釜(タイプ))……〈リバースデイ〉〈ユニオン〉


◆今回登場した装備。


練魔のシャムシール……魔を喰らい、魔を断つ呪われた魔剣。前述の効果以外に、魔力消費増大・運の低下・痛覚共有・抵抗力の弱体化とマイナス効果も数多く持つ劣化金属製の半月刀。


◆次回の投稿は水曜日の予定しております。

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