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●夏休み対策会議

◆久しぶりの会議回です。

 これは夏休みに入る前、とある高校の写真部内で行われた会議の記録である。


 ――――――――――――――


「さて諸君、今日集まってもらったのは夏休み中の活動についてだ」


「夏休みの活動って、学校がないのにすることなんてあるんですか」


「馬っ鹿、夏休みつったら大会も近いし俺らへの警戒心も薄くなる。俺達も動きやすくなるってもんだ」


「それに夏は水泳部の活動が本格化しますからね。夏の海で写真なんか撮ってたら即タイーホですけど、学校なら風紀委員に捕まるだけですから」


「結局、捕まることはかわらないんですね」


「まあ、捕まらなけりゃいいんだよ。狙う相手を絞りゃ、そこまでガミガミ言われねぇからな」


「場合によりけりですが、アルバム作りの協力という名目もありますしね」


「ちなみに、俺のオススメは陸上部だ。あそこなら合法的(?)に写真を撮れっし、汗に張り付くユニフォーム。ごちそうさまです」


「ん、今年の陸上部は貧乳率が高いんじゃないか。ここはやはり地味ながら巨乳揃いの卓球部だろ。左右に揺られるパイオツ。乳ビンタくらいたいな」


「いやいや、テニスコートに舞うスコートこそが至高。非合法な撮影も屋上から狙い放題ですぞ」


「馬鹿な。スリルあってこその撮影だろう。そう考えると、プレイヤーとの距離感、アングル、そしてダイナミックな縦揺れからバレー部に行き着くのは道理なんじゃないのか」


「とまあ、こんな感じでな」


「要するに、公的私的に関わらず、休みに入って活発になった運動部を被写体に活動をするということですか」


「そうだな。ただ同時に警戒もしなければならない」


「警戒――と言いますと、さっき先輩が言ってた風紀や、あと、生徒指導の先生とかですか」


「いや、俺達が真に警戒するのは他の男子共だな」


「他の男子って、それは――」


「おっと勘違いするなよ。俺達は別にモテる男に嫉妬してるとかそういうことじゃないんだ。

 いや、まったくそういう理由がないというと嘘になるんだが」


「じゃあ、どういうことです?」


「去年はいろいろあってな。女子の一部がイケメンと外道共の卑劣な罠にかかっちまったんだよ」


「毒牙?」


「ああ、去年も夏の頃からちゃんとしていれば――」


「まあ、おかげで年末のネタには困らなかったけどな……」


「……愛ちゃん」


「思い出させるな」


「えっと、なにがあったんです。すごく気になるんですけど」


「胸糞悪い話は後でな。去年まで学校にいた田島ってヤツが、関係者がフォローに回らなかったら全国ニュースにもなりそうなお痛をしたんだよ。

 ただ、その内容はみんなの前で話して気持ちいいもんじゃないからな。聞きたかったら後で教えてやるよ」


「そ、そうなんですか、だったら後でよろしくお願いします」


「「「……」」」


「という訳で、今年は夏休みの活動のついでに事前に怪しいヤツを見定めて、もしもの時は早めに潰せるようにって証拠を押さえていこうって話だ」


「でも、潰すって――」


「まあ、言葉はあれだが、基本的には普段の活動と変わらないぞ。新聞部と連携してそういうのを牽制するような記事を出すだけだ」


「「「ああ――」」」


「そういえば、潰すといえば田島はどうなったんだ。なんか相当ヤバい場所に連れて行かれたって聞いたけど」


「それっすけど。なんかどっか全寮制の学校に送られて、いま矯正プログラムとかなんとかいうヤツを受けてるらしいっすよ」


「矯正プログラムって――、田島はどんな学校(しせつ)に飛ばされたんだ」


「俺も人づてに聞いた話っすからよく知んないっす。気になるなら調べてもらいますけど」


「いや、詳しくは聞かない方がいいだろ。ヤツが罰を受けているのならそれでいいんだ」


「そうだね。いまはそれよりも警戒すべき人間の選定が重要だよ」


「とはいっても基本的には去年とかわらねーんじゃね。野球部にサッカー部、バスケ部に軽音部あたりが要注意ってとこだろ」


「ただ軽音とか、ああいうトコを警戒するってのはつまんねーんだよな。あそこファンしかいねーし、たとえばアルバム名目で写真を撮らせてくれとか言うと、また面倒な注文出してきそうだろ」


「だな」


「正直、あそこは、あそこだけで完結してくれるなら僕達としては文句はないんですけど」


「ま、その判断は夏休みが始まってからだな。

 で、他はどうだ?」


「バスケ部は放置しておいてもいいのでは?

 田島とそのお仲間が綺麗サッパリいなくなってからは真面目に活動してるらしいですし」


「いや、その情報はちょっと古いかも。

 今年、生意気そうな一年生が入ってきて、また最近ちょっとおかしくなってるらしいから」


「生意気な一年?」


「でゅ、でゅふ、そ、それは原木(バラキ)君達のことでありますかな」


「バラキ?」


「ああ、ほれ、あれだよあれ、購買の前とかでたむろしてるのを見たことないか、中二病かって感じで前髪だけ赤く染めてる不良気取りの一年」


「ああ、なんか怖い人と知り合いだとか吹聴してる一年生ですね」


「『〇〇がバックについてる』とかそういうヤツか、馬鹿だな」


「馬鹿ですか?」


「まあ、松平たちにしてみればそんなものだろう」


「というか、お前等ならそんな一年、ボコにできるんじゃね」


「いや、できなくはないと思うっすけど……、

 いきがってるヤツ等に、いきがってるとか因縁つけてつっかかっていくってのはサムくないっすか。

 そいつ等と同レベルな感じで」


「ああ――、言われてみるとな」


「なんで、やるとしたら適当に――、

 そっすね。志保姉をソイツ等にブツケてやればいいんじゃないっすか」


「って、松平君。それは逆にやり過ぎなんじゃ」


「というか、あの【お姉様】がそうそうこちらの都合よく動いてくれるのか?」


「そこは適当に理由をつけて、ソイツ等がたむろしてそうなコンビニなんかに志帆姉を誘導すればいいんじゃないっすかね。例えば志帆姉の好きそうなスイーツが期間限定で出てるとかで志帆姉を誘導すりゃかってに処理できると思うんすけど」


「本当に適当だな」


「でも、間宮先輩って黙っていればふつうに美人ですから。そのバラキっていう一年生が先輩が向かった店の前にいたらあり得るシチュエーションですか」


「間宮先輩っていうと、場合によっては伊吹先輩や葵先輩なんかも一緒ってこともあるかもだよな」


「ああ、それなら何も知らんバカならよってくるか」


「――っすね。あの三人は見た目だけなら完璧っすから」


「見た目だけって、松平お前――、殺されるぞ」


「ここだけの話、ここだけの話っすよ」


「まあ、俺もとばっちりで殺されたくはないからな。別にチクったりしねーよ」


「あの――、少しいいですか、あのお方とか間宮先輩とか、先輩たちはさっきから誰のことを話しているんです?」


「って、坂東君は知らないの?」


「はい」


「とはいっても、僕も人のことを言えた義理でもないんだけど」


「まあ、志帆姉も最近あっちこっちに行ってるからな。エンカウント率がさがればさすがに忘れられちまうのは仕方ないんじゃね」


「ああ――」


「それで、その間宮先輩というのは?」


「一言で言えばジャ○アンだな。ガキ大将を地で行くのがあの人だ」


「おいおい、松平に続いてお前もか、お前ら、馬鹿なことばっか言ってっと消されるぞ」


「け、消されるんですか!?」


「いやいや、そんなことないと思うよ」


「待て、それがあながち無いともいえないのが間宮先輩だろ」


「そ、そんな人がいるんでゅふか」


「おう」


「つか、間宮先輩のことだから、噂くらい聞いたことがあったもいいと思うけど」


「都市伝説とかになっててもおかしくはないですね」


「ま、今年の一年は珍しく金白の出身ばっかだからな。噂も入ってこなかったんだろ」


「そういや、坂東や大徳寺ってボンボンだったか」


「ボンボンって、僕はそんなんじゃないですよ」


「み、右に同じくでありますな」


「というか、お前等、なんでこっちの学校にきたんだ。金白のヤツはほどんど私立にいくだろ」


「えっと、ちょっと事情がありまして――」


「って、これ、もしかして聞いたらマズい話だったか」


「いえ、僕がこっちに進学した理由は単純にこの学校に来たかったといいますか、向こうって勉強勉強でつまらないじゃないですか」


「せ、拙僧は単純に学力の問題ですな。あちらが無理ならこちらにと受験したのでありますな」


「ふむ、そういう理由なら物見を選ぶのも当然ですか。物見も一応進学校なんて呼ばれていますけど、進路の方もピンからキリまであって、勉強ができる人ばかりではありませんから」


「しかし、そういうことなら坂東君の期待に答えて、夏休みの活動は大々的にやったほうがいいのか」


「大々的といいますと遠征とかですか?」


「行くなら海だな」


「できれば、泊まってるトコからビーチが狙えるといいんだがな」


「先輩、それは不味いんじゃ」


「いや、俺はあくまで海をだな――」


「まあまあ、落ち着いてよ。それも問題だけど、海とかに遠征って、だいぶお金がかからないかな」


「そもそも、この時期からだと泊まる場所が取れないんじゃ」


「それは――、誰か家で別荘とか持ってるとかねぇの。坂東に大徳寺、ボンボンなんだろ」


「だからボンボンじゃないですって」


「ざ、残念ながら拙僧の家もその類の建物は持っていないですな」


「そっか――」


「え~と、俺、合宿所とかなら心当たりはあるんすけど」


「マジか」


「でも、そうすっとイズナさんが出てきそうなんですよね」


「イズナさん?」


「ああ、さすがの先輩もイズナさんは先輩も知らないっすか」


「俺も知らんな。イズナさんって誰だ?」


「虎助の母さんにして志帆姉の義母。

 で、俺等の師匠っていえばわかりますか」


「「「…………」」」


「ハイ終了。ハイ終了」


「えっえ!? どういうことですか」


「こ、これまた気になる反応ですな」


「フ……、世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」


「地獄を望むなら別だけどな」


「特殊潜入技術とかが使えるようになるかもっすよ」


「特殊潜入技術、そ、それは少し気になりますな」


「大徳寺、マジで言ってんのか!?」


「と、特殊潜入技術ですぞ、いろいろ使えそうではありませんか、ま、松平先輩の動きを知ると興味が出てくるのは必然でふ」


「ま、否定はしないが――、

 大徳寺、偉いヤツがこう言ってるのを聞いたことがないか『好奇心は猫をも殺す』と」


「あの、それなにか違いません」


「いや、それがある意味で間違ってないんだよ坂東」


「本当ですか」


「と、とにかく、夏休みの計画はまた後で考えるとして、最初いった活動と警戒だけど、とりあえず学校全体をカバーできるように、それぞれのテリトリーをすり合わせておかないか」


「そっすね。現時点での危険度も加味して人数をわりきっていきまっしょい」


「いや、いきまっしょいって……」


「でゅふ、せ、拙僧はいいと思いますぞ『いきまっしょい』」


「お、おう、ありがとよ」

◆次回は水曜日に投稿予定です。

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