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テストの順位発表と進路の話

◆漫画とかだと定番のネタですが、実際にテスト順位が張り出される学校ってあるんでしょうか?

「不正だ。不正以外にありえない」


 テスト週間も終わり、一学期も残りわずかというその日、職員室前の掲示板に張り出された期末テストの順位の前でちょっとした騒ぎが起こっていた。


 通りすがりの虎助がなんの騒ぎだと覗いてみると、そこには虎助もよく知っている坊主頭が神経質そうな男子生徒に絡まれている状況があって、

 どうして元春がその男子生徒に責め立てられているのか――、

 それは『こんな男が僕よりも順位が上なわけがない。絶対にカンニングしたハズだ』との理由からのようだった。


 正直、男子生徒の文句は本当に理不尽なものでしかないが、その対象が元春だということで、失礼ではあるが周囲からは『たしかに――』という反応がちらほら見られ、その辺り、虎助もことの真実を知らなかったのなら『元春、正直に話そう』と言っていたかもしれないが、今回、このテスト結果に限っては、虎助には元春が不正をしていないことがわかっていたということで、正直、面倒ではあるのだが、さすがにここは放ってはおけないと、わざわざ人波をかき分けるように、火中の栗を拾いに行こうとするのだが、

 いざ虎助が覚悟を決めて騒動の中心に飛び込んでいこうとしたところ、黒縁メガネの女生徒が肩をすくめながら二人の間に割って入り、不承不承とばかりに軽く片方の手を横に広げながらも覇気のない声でこう言い放つ。


「残念ながら彼に不正はないわ」


「誰だ!?」


「風紀委員の宮本よ」


 男子生徒の誰何の声にそっけなく答える彼女の名前は宮本理恵。風紀委員の花として、それなりに有名な女生徒である。

 ただ、真面目街道を邁進(まいしん)し、風紀委員と関わる機会がまるでなかった男子生徒からすると、彼女は単に顔を知らない上級生でしかなかったようだ。


「はぁ、なにを証拠に言ってるんだ」


「この場合、残念ながらでいいのかしらね。そこの彼は風紀からも先生からも要注意人物にしていされているのよ。だから、ここにこうして順位が張り出されているってことは、つまり不正がなかった証拠なのよ」


 怒っているというよりも小馬鹿にしているといった方が正しいか、きっちり七対三に分けられた前髪を軽く払いながら男子生徒の問いかけに対する理恵の答え、それは、つっかかっていた彼よりも元春にとって衝撃の内容だった。


「えっ!?」


 どうやら元春はいつかカンニングをやらかすのではと、テスト中、教師からの監視が強化されていたようであった。


 理恵の発言に驚く元春。

 ちなみに、これは差別ではなく区別であり、最初から問題を起こしやすそうな生徒が目をつけられるのは已むを得ない宿命でもあるのだ。

 ただ、今回はその宿命が元春の疑いを晴らしたというわけだ。

 しかし、男子生徒はその説明では納得できないようだった。


「だったら、コイツはどうやってこんな点数をとったんだ」


「それは勉強とか?」


 カンニングをしていないということは、すなわちそういうことなのではないか。

 口角泡を飛ばす男子生徒に自信なさげに答える理恵。

 一方、渦中の元春はというと理恵が味方についてくれたことが嬉しいのだろう。フフンと鼻を鳴らして何故か自慢げで、

 かたや男子生徒は、そんな元春の態度が気に入らなかったのか、すかさず突っかかっていこうとするのだが、彼がいざ元春に詰め寄ろうとしたところで、この騒ぎを聞きつけてか、それとも野次馬の誰かが職員室に駆け込んだのだろうか、一人の男性教師が職員室の入り口から顔をのぞかせて、

 そんな教師の姿を視界の端に捉えた瞬間、男子生徒の勢いがストップ。

 優等生である彼にとって、教師の前での騒ぎは避けるべきことなのだ。

 いや、そもそも今回の文句は元春のふだんの行いからくる言いがかりのようなもので、男子生徒とて、自分の文句が言いがかりのようなものだと理解はしているのだ。

 ただ、それでも納得できないからこそ、こうやって普段はしない行動に出たわけで、

 最終的に男子生徒はこれ以上ここで文句を言っていても自分の内申に響くだけだと判断したのだろう。「くっ」と悔しそうな声を漏らしながらも、「おぼえていろ」とその場を立ち去るしかなかった。


 図らずもそんな一部始終を見せられた虎助はこう思う。またなにか面倒な因縁を抱えたんじゃないかと。


   ◆


 昼休みに元春が引き起こした――正確には相手の男子生徒が騒いでいたのだが――騒動は、虎助と元春の友人達の耳にも届いていたらしい。

 そして、例のごとく部室棟に連行された元春は、古くからの友人二人に詰め寄られていた。


「それで、どういうカラクリなんですか?」


「どういうカラクリってどういうことよ」


「あの点数ですよ。君にあんな点数が取れるハズがありません。なにをやったんです」


「ひで、お前らも俺を疑うのかよ」


「当たり前じゃないですか。普段の行いを考えてください。

 あと、泣き真似とかそういうのはいいですから、早く本当のことをキリキリ吐いてください」


 わざとらしく涙を拭う仕草をする元春に、問答無用と言葉を返すのはシルバーフレームのメガネが凛々しい次郎。

 だがしかし、


「吐けっていわれてもな。今回はホントに実力(ジツリキ)だからなー。次郎にもヤマ教えてもらってたじゃねーか」


「ハイハイ、そういうアリバイ作りのことはいいですから。

 もう仕方ないですね。虎助君、今回のテストのからくりはなんです?」


 質問に対してあからさまにとぼけているような元春の態度。

 その発言を聞いて、次郎は元春に聞いていていは埒が明かないと、そう判断して、真相を知っていそうな虎助にその矛先を向けるのだが、虎助はそんな次郎の質問に苦笑を浮かべながらも。


「次郎君が疑うのも尤もだけど、今回に限っては実力かな」


「本当ですか?」


「少なくともカンニングとかの類はしてないと思うよ」


「虎助君がそういうのでしたら――」


「って、うおいっ!? なんで俺ン時はあんなんで、虎助ン時はあっさり信じんだよ」


 あまりにも違いすぎる次郎の対応に文句を言う元春。

 しかし、次郎から「ふだんの行動をかえりみてください」と言われてしまっては反論も難しい。


「僕としては魔法窓(ウィンドウ)を悪用したのかと思っていたのですが……」


「ん、そりゃどういうこったよ」


 自分の抗議はしれっとながされたものの、気になる話に元春はすぐに気を取り直す。


「考えても見てください。不可視モードを利用すればカンニングし放題じゃないですか」


「マジかよ。モト――」


「ちげーって、俺はやってない」


「犯人ってのはみんなそういうんだよな」


 次郎が考えるカンニング方法に正則が元春に白い目を向けるが、


「しかし、その反応を見るに、本当に不正はしていないようですね。ですが、それならどうやって――」


「まあ、ある意味で反則技を使ってはいるんだけど、犯人呼ばわりはない方法だよ」


 たしかに、次郎の考えたカンニング方法は可能である。

 ただ、今回はその方法を使っていないと虎助はハッキリとそう言って、しかし続けて、元春が使った手段はある意味で真っ当な方法ではないという虎助に、次郎と正則の二人はやっぱりといった顔を浮かべ。


「それはどのような方法なのです?」


「魔法薬を使ったんだよ」


「魔法薬ですか……、

 それはどのようなものなのです?」


「知力なんかをブーストする魔法薬だね。それを飲んだ状態で勉強すると普通よりも何倍も勉強が捗るんだよ」


「成程、それならたしかに真っ当ではあるかもしれませんね」


「おいおい、それマジかよ。だったら俺もそれを使えば赤点回避できたってことかよ」


 虎助から開示された勉強法に納得の色を浮かべる次郎。

 かたや正則は今回のテストで赤点があったみたいだ。虎助から元春の反則じみた勉強法を聞いて悔しそうにするのだが、


「てかよノリ。お前、ドーピングはやらねーんじゃねーのか」


「スポーツと勉強は違うだろ。その魔法薬ってのはあれだろ、ディーエッチなんたらってやつを飲むみたいな」


「DHA。ドコサヘキサエン酸ですね。まあ、その学習機能向上という効果については、どういった理由でそうなっているのかがわからないということで、まだ検証が不十分だという話ですが……」


 主義主張を指摘する元春のツッコミに、正則はどもりながらもなんとか抜け道を探し出す。

 そして、次郎がそのやや的外れなコメントに補足を付け加え。

 その一方で魔法薬うんぬんに関しては、


「それに実績の関係もあるかな。錬金術を練習してる次郎君なら、その効果は実感してると思うんだけど」


「言われてみるとたしかに、若干ですが順位が上がっていましたね。今回はヤマが的中したとそんな風に思っていたんですが」


 どうやら次郎は微妙にテストの点数が上がっていたらしい。

 見習い程度の補正では、そんなに恩恵が受けられていないのだろうと虎助は次郎のコメントにそう理解を示し。


「ちょっと待てよ。だったらなんで俺の点数は上がってねぇんだ」


 一方で正則はその実感が得られなかったみたいだ。虎助にそんな疑問を投げかけるのだが……、


「正則君の場合、知力とか、そういう力が向上するような実績を持ってないからだね」


「どういうこったよ?」


「前にも言ったと思うけど実績で強化される部分はその実績次第だから、知力とか上げたいなら、知力に関係ありそうな職業系の実績を獲得するとか、魔獣を倒すにしても、たとえば魔法が得意な相手を倒したりしないと意味がないんだよ」


 そう、勉強などに役に立つのはあくまで知力に係る実績なのである。

 それを持っていなければ全く意味がないのだ。


「うへぇ、そういう敵ってあんま好きじゃねぇんだよな。

 外からチクチクとストレスが溜まるって感じで」


「苦手を克服するには簡単じゃないからね。それに、そもそも知力に関係する魔獣が少ないからね」


 ちなみに、魔獣関係の実績の場合、相手の土俵に立って打ち勝てば更に効果が倍増したりすることもある。

 つまり自分の力を制限することによって、その効果を向上させることもまた可能なのだ。


「しかし、そういうことなら夏期講習に行くよりも錬金術や魔法の練習に時間を費やした方がよさそうですね」


「そういうことなら俺も――」


「いや、ノリは錬金術もできねーだろ。ノリの場合、スポーツ推薦狙って全力でやった方がいいんじゃね」


 元春が言う通り、ただ進学を狙うだけなら、正則の場合、スポーツ推薦を狙う方が遥かに簡単だろう。

 なにしろ、アヴァロン=エラで戦闘を繰り返し、いくつかの実績を手に入れているのだから。

 しかし、正則としては実績による強化を地球側で使う気持ちはないようで、


「いや、それってどうなのよ。反則だろ」


「まあな。でもよ、ノリの場合、本気を出せばスポーツ推薦を確実にとれんだろ」


「まあ、そうなんだけどな。それってどうなんだ」


 正則としては実績による恩恵によって強化された力を使ってスポーツ界で活躍するのは反則なのではという思いがあるのだ。

 しかし、この地球でも、本当にトップの人間には技能や厳しい練習の結果得た実績によって身体能力が強化された人間もいたりもする。


「つか、俺等の場合、大学とかに行かんでも、アヴァロン=エラとかで魔獣を狩ってるだけで、ふつうに稼げねぇ」


 実際、正則の意見も間違いではない。

 多少、運も絡むのだが、北海で戦うマグロ漁師のように、アヴァロン=エラでの魔獣狩りというのは、ある意味で一攫千金なのだ。

 ワイバーンの一体でも仕留めれば、それだけで数年は遊んで暮らしていける金貨が手に入るだろう。


「それはそうなんだけどね。やっぱり大学は出ておいた方がいいと思うよ」


 ただ、現代日本を生活の拠点とする場合、万が一に備えて大学に通っておくことも必要だ。

 虎助としてはそんな考えのようで、


「ま、大学なんて遊びに行くようなもんだ」


「いや、勉強に行こうよ」


 大学生といってもいろいろである。きちんと自分のキャリアのために行く人間もいれば、そこまでの過程がすべてだという人間もいる。

 ゆえに、自分が望んでいた大学に入学した時点で満足し、そこからの勉強がまったく身につかないという元春のような人間も少なからずいるのも、また確かなことなのだ。


「成程な。そうすっと、最悪、俺だとマジで推薦狙ってく方がいいのか」


「まあ、正則君の場合、母さんのツテを辿って特殊部隊に入るってのもあるけど」


「特殊部隊?」


「あれ、正則君って会ったことがなかったっけ?

 加藤さんのお願いで万屋(ウチ)で訓練を受けたことがあるんだけど、なんか警察? の中に魔獣とか魔法対策の部署を作ろうとしてるみたいなんだよ。正則君ならそこでやっていけるんじゃないかな」


「おお、なんか面白そうだな」


 しかし、それもまだまだ未来の話だ。


「とりあえず夏期講習はいかないにしても、どうせだから実績や知力ブーストを生かす感じで夏休みの宿題をやったらどうかな」


 夏休みに出される宿題というのは、基本的にこれまでの復習である。それを知力ブーストがかかる魔法薬を飲みながらやれば、かなり効率的に学力を上げることができるのではないか。

 なにより毎年夏の終りにつきあわされる宿題消化を防げるのではないか。

 多少、個人的な思惑も挟みながらも、そんな提案をする虎助。

 しかし、勉強嫌いなこの二人にはそんな友人の言葉は残念ながら響かなかったようである。


「そこは写させてくれてもいいんだぜ」


「だな」


「いや、そんなこと言わないで、基本、一学期の復習なんだから少しでも自分でやろうよ」

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