再来、三人娘01
◆もはや読者様の記憶の彼方に行ってしまったと思われる獣人三人娘の再登場です。(四章ラスト『元春垂涎のお客様』参照)
それはテスト週間の真っ只中のお昼過ぎ、手軽に昼食を済ませて、いつものように勉強をしながら店番をしていたところ、ゲートから光の柱が立ち上り、三人の獣人女性が来店する。
「アタシは帰ってきた」
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね。みなさん」
「あら、私達のこと憶えているの?」
「客商売ですから」
胸を張って入ってきた見覚えがある狼少女に挨拶したところ、返事をくれたのは妖艶なうさ耳のお姉さん。
彼女達は以前このアヴァロン=エラを訪れたことがある獣人娘三人組。ウォルさん、ゼラさん、テスさんだ。
僕が彼女達のことをよく憶えていたのは、僕たちが彼女たちのことを待っていたこともあるし、そもそもケモ耳で女性のお客様なんてほとんどこないからである。
何よりも元春がはしゃぎまわって印象深かったということが大きいかな。
「しかし、よくまたここに辿り着けましたね。もう戻ってこないと思っていましたけど」
「それな。本当に大変だったわ」
そもそも以前ここに来た時は完全に運だって話だったから、戻ってくる可能性は低いとは思っていたのだが、聞けば、みなさんはふたたび万屋に訪れるべく、以前ここへやって来た時に飛び込んだ転移の扉を見つけたその場所に暇を見ては通っていたのだという。
そして、つい三十分ほど前、その扉を再発見。
狼少女のウォルさんとウサ耳お姉さんのゼラさんがその扉を見張っている内に、猫娘のテスさんがお金を取りに拠点へ帰って、運良くも(?)まだ扉が消えていなかったことから、この扉に飛び込んだのだという。
普通に考えると、どこに繋がっているかわからな扉に自ら飛び込むっていうのは、かなりリスキーな行為のように思えるが、そこは僕が彼女達が帰り際に持たせた〈メモリーカード〉を――、アヴァロン=エラの座標を記録させた〈メモリーカード〉を信じてくれたみたいだ。
ソニアのお墨付きがあってのアイテムだったけど、ちゃんと上手くいってよかったよ。
まあ、その〈メモリーカード〉はゲートの機関機能を利用して作った魔法式だって話だったから、万が一の事故も起きないようにはなっていると思うんだけど、それでも心配は心配なんだよね。
しかし、またこうして来店してくれたのだから、訊ねるべきはこうだろう。
「それで今回はどのようなご用件で?」
「「「それはもちろん」」」
「グリーブや」「マジックアイテムを」「新しい魔法ね」
できれば一人づつ言って欲しかったけど、聞き取れたからいいかな。
「えと、ウォルさんがグリーブで、テスさんがマジックアイテム、ゼラさんが新しい魔法ですか、取り敢えず一人づつ細かい要望を出していただけますか」
注文を繰り返し、その詳細を求めたところ、ウォルさんが手とそのフッサフサの尻尾をピンと立てて、
「はいはい、アタシからグリーブな。これとおんなじ感じのを作られへん」
早口でまくし立てながら見せてくるのは、前にこの店で買っていった試作品のガントレット。
ウォルさんはこれと同じ機能を持ったグリーブを作って欲しいそうだ。
そんなウォルさんに続いて声をあげたのはゼラさんだ。
彼女はその豊満な胸元から一枚のカードを取り出して、
「私はこのメモリーカードに新しい魔法を追加して欲しいわ。いまここに入っている魔法はたいだい覚えてしまったから」
ゼラさんは、この万屋を訪れた際にメモリーカードに入れていった魔法式をほぼ自分のものにしたみたいだ。
まあ、魔法式があるとないとじゃ魔法の発動スピードにけっこう差が出るから、それで〈メモリーカード〉が無価値になったかといえばそうじゃないんだけど、せっかくここに来られたのだから、新しい魔法を仕入れて帰りたいみたいだ。
「わ、私は魔法薬とかマジックアイテムとか、そういうのをいっぱい買っていきたいです」
そして、テスさんはとにかくこれからの活動に役に立つアイテムをお求めらしい。
テスさんとしては、またアヴァロン=エラに訪れることができるのかが、いつになるのかわからないということで、これを機会にできる限りのアイテムを買って帰りたいみたいだ。
と、三人からの要望を一通り聞き終えたところで、
「取り敢えず、ウォルさんの注文うけたまわりました。
しかし、オーダーメイドでの生産となりますと、完成までに少しお時間をいただくことになりますが、よろしいでしょうか」
「それはわかっとる。ここには泊まる場所があるんやろ」
「外へ出て左側の建物がそうですね」
「じゃ、そこでお願いな」
ちなみに、ウォルさんたちには最近お客様からの要望があって作った女性冒険者専用の宿泊施設を使ってもらおうと思っている。
今日は他のお客様もいないし、宿泊施設にはちゃんとエレイン君が配置されているから、防犯の面では完璧であると思うのだが、せっかく珍しい女性ばかりのパーティなのだから、テストケースになってもらおうと思ったのだ。
なにより、その方が三人も過ごしやすいだろうしね。
さて、宿泊施設の件は向こうの施設で仕事しているエレイン君にメッセージを送っておけばいいとして、
「ゼラさんは新しい魔法とのことですが、そちらはパソコンを使えば銀貨数枚で書き換えられますけど」
「あらら、そうなの。そうなると、私だけあんまりお金がかからないことになるのかしら」
そう言いながら、あえて困ったような顔をして物色するように店内を見渡すゼラさん。
僕はそんなゼラさんに、カウンターのすぐ前にあるカードを手にとって、
「それなら、他にこんなカードがあるんですけど」
「それは?」
「精霊を宿したゴーレムを召喚するカードです」
僕が紹介したのは万屋の目玉商品の一つであるスクナカード。
ただ、それを聞いたゼラさんの反応はあまり良くなかった。
その理由は――、
「私、召喚魔法なんて使ったことないのよね」
「それなら大丈夫ですよ。制御の方はカードの方でしてくれますから、誰にでも使えますよ」
スクナカードというのは極論、スクナを顕現させるだけの魔力さえ持っていれば、誰でも扱えるマジックアイテムだ。
なので、たとえ魔法がうまく使えない人でも〈スクナカード〉は使えると言うと、ウォルさんが横から、
「ちょい待ち、それってアタシにも使えるってことになるん?」
「そうですね」
もしかしなくても、ウォルさんは魔法らしい魔法が使えない肉体信奉者の人なのかな。
「私もですか?」
「ええ」
と、ここで慌てたのがテスさんだ。
どうやら彼女もそうした魔法に憧れがある人のようだ。キラキラとした目でスクナカードを見つめ。
ただ、ゼラさんとしては、二人までスクナカードを欲しがってしまったら、自分のカードが買えなくなるかもと思ったのだろう。
「アナタたち待ちなさい。二人は、いいえ、この場合はウォルね。アナタ、グリーブを注文したじゃない。それでこのカードまで買うのはどうなのよ」
「別にみんな買えばいいやん」
「アナタねぇ」
焦ったゼラさん反発の声をウォルさんが軽く受け流す。
すると、ゼラさんはそんなウォルさんの態度に『アナタの金銭感覚はどうなっているのよ』とでも言わんばかりに眉間を抑える。
ただ、これに関しては意外とウォルさんの意見が正解で、
「大丈夫ですよ。種類さえ選べば、それほど高いものでもありませんから」
わざわざお金を持ってきていると行っている以上、銀貨数十枚程度のスクナカードなら何枚も買えるだろう。僕がそう言うと、ゼラさんはビコンと二つのエクスクラメーションマークを頭上に浮かべるようにそのウサ耳をピンと立てて、
「そ、そうなの?」
「オリハルコンなどの上位魔法金属を使ったカードともなると、それなりの価格になりますけど、ミスリル程度のカードなら銀貨が三十枚もあれば事足りますから」
「はぁ、前に来た時もわかってるけど、ミスリルを程度って……」
ゼラさんは疲れたようにそう言うけど、こればっかりはそういう店と理解してもらう他ない。
そもそもミスリルなんてものは、このアヴァロン=エラにおいては、原材料である銀さえあればいくらでも生成できるお手軽な魔法金属なのだ。
「そうね。それじゃ、カードの枚数で差をつけるのが良いのかしら」
「ああ、でも、それは止めた方がいいかと、スクナカードから呼び出せるゴーレムには精霊が宿りますから、契約できる数も絞らないとなりませんから」
「そうなのね。それなら希少な魔法金属で作られたカードを買うのもありってことになるのかしら」
「その分、価格もぐっとお高く、それこそ硬貨そのものの色が変わるくらいの差になりますけどね。素材がよければ、それだけスクナの性能も上がりますから」
それ以外にもスクナに宿した精霊と使用者本人の相性とか、いろいろ条件はあるけど。
「考えさせてもらってもいいかしら」
「構いませんよ」
ということで、ゼラさんが悩み始めてしまったので、先にテスさんのリクエストをといくつかの魔法薬や魔具、魔導器とピックアップ。
ただ、テスさんも〈スクナカード〉はいいものが欲しいみたいで、最終的に、ゼラさんとウォルさんとそしてお財布の中身と相談することになったみたいだ。
◆
「それでどんな感じ?」
「面白いデータは取れたかな。先に彼女達の方からデータを取れるとは思わなかったけど」
「そういえばエルマさんからの報告おそいね。もうあれから結構たってるけど大丈夫かな」
「無事か無事じゃないかでいうなら無事だと思うけどね。
もともと彼女にわたした船は最悪の自体を想定指して作ったものなんだし。
ただ、あっちは『掃除屋』だよりのところがあるからね。あの三人娘の方も『扉』だよりだけど、何らかの条件が合わないと出現しないってパターンもあるから」
「ああ、普段は定期便が出ている海域で遭遇したみたいだからね。かなり運が悪くないと遭遇なんてしないってことなのかな」
「ボク達の場合は運が良くないとってことになるんだと思うけどね」
「まあね。それでウォルさん達が持ってきたデータはどうだったの。面白いってことだけど」
「証言で異世界へ続く『扉』が存在することはわかっていたけど、これ本当に伝説そのままの『扉』みたいだね」
「なら、これを調べればソニアのお姉さんも――」
「うーん。残念ながらそううまくはいかないと思う。
彼女達のとこにある『扉』は、その『扉』が移動したことがある世界にしかいけないみたいだから」
「どういうこと?」
「こう言えばわかりやすいかな。『扉』からの転移は『扉』に使われているものが行った場所にしか行けないみたいなんだよ」
「つまり、その扉の材料になったナニカはアヴァロン=エラに来たことがあるってこと」
「たぶん……、とりあえず手持ちのデータで調べてみるけど、もっと詳しいデータが欲しいかな」
「なら、彼女達にはサービスしないといけないね」
「ふふ、その辺は雇われ店長さんにお任せするよ。ボクがやると大袈裟になっちゃうからね」
◆またしてもこの時期に一発キャラが再登場することになってしまいました。
別に狙っていた訳じゃないんですが……。