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リメイク・アギラステア

「お待たせしました。

 右からフレアさんの盾、メルさんの胸当て、ティマさんのグローブ、ポーリさんのケープです」


「さすが注文通りの仕上がりだな」


 魔王様も帰った午後八時、フレアさん達パーテイを前に、僕がカウンターに並べていくのはヴリトラの素材で作った装備。

 そう、かねてよりご注文を受けていたアギラステアを使った装備が完成し、この時間に急遽お披露目会となったのだ。


 ちなみに、ティマさんとポーリさんの装備はアギラステアからではなく、破損したメルさんの黒装束をリメイクしたものである。

 当初、二人の装備はアクセサリを想定していたのだが、それよりもしっかりとした防具が欲しいと、ヒースとの戦いで大きく破損してしまったメルさんの黒装束を再利用して防具を作成。余ったアギラステア(ヴリトラの牙)万屋(ウチ)で引き取らせてもらうことになったのだ。


「でも、ポーリのケープはどうして白なの? ヴリトラの革って真っ黒だったわよね」


「ポーリさんのケープはちょっと特殊な加工がしてありまして」


 カウンターに並べられた装備の一つを見て、疑わしげな視線を向けてくるティマさん。

 ヴリトラレザーは本来、炭を煮固めたような真っ黒な素材になるのだが、ポーリさんの装備として作られたそれは純白のケープだったからだ。


「特殊な加工って?」


「その説明の前に前提となる共通の機能の説明からいいですか」


「ええ――」


 と、ティマさんの了承が得られたところで咳払い。


「まず、今回制作したヴリトラ素材の防具は、魔力を流し込むことで、ヴリトラが持つ龍鱗の護りを引き出すことが可能となっています」


「防御系の魔法機能か」


「ただ、その護りによって防御力が上がるのはあくまで防具ですのでその辺はご理解の程を――」


「まあ当然よね」


「しかし、龍の防御力を手に入れられるというのは破格ですよね」


 これに関しては、ヴリトラが健在であった頃の防御能力をそれぞれの魔力によって引き出せるようにしたというだけのことである。

 実際、復活龍であるヴリトラの護りの力は、特殊な力を持つ空切を除けばエクスカリバーさんの攻撃くらいしか受け付けないものだった。

 なので、討伐の方法や加工によって、多少防御力が落ちていたとしても、その護りさえ発動できれば、ミスリルやエルライトといった量産可能な魔法金属製の装備などより、よっぽどか防御力が高い防具となっていると思われる。


「でも、あまりそれに頼らないようにしてくれるとありがたいですね。その力の発動にはそれなりに魔力が必要になりますので、いざという時に魔力切れでは意味がありませんから」


「無論それはわきまえているさ」


 そこは、腐っても――というのは失礼か。

 たとえヴリトラが、戦隊ヒーローモノよろしく再生魔龍だとしても、その世界で恐れられた龍の能力である。これを作ったソニアが調整してくれたとはいえ、その力の発動には膨大な魔力が必要となる。

 だから、使いすぎには注意と、そんな僕の忠告に真剣にフレアさんは頷き。


「それでポーリのそれにかけられている特殊加工というのは?

 聞くに、その龍鱗の護りとやらが関係しているのだろうが」


「ええ、これを造ったオーナー(ソニア)の話によりますと、ポーリさんのそれは、素材そのものに特殊な加工を施して、その力を反転させているとのことです。

 その効果は浄化、ポーリさんのそれは、龍鱗の護りを利用して、浄化の力をヴリトラが使っていた黒靄のように周囲に展開できるみたいです」


「浄化の波動ね。

 でも、素材の保つ力を反転させるなんてのはもう失われた技術って話だったけど、

 まあ、この店ならできるんでしょうね」


 作ったのはソニアですから――、

 それにフレアさん達の世界ではすでに失われた技術だとしても、他の世界では意外とポピュラーな技術という可能性も無くはないのだ。


 と、ポーリさんのケープが白い理由を簡単に説明したところで、次に紹介するのはフレアさんのカイトシールドだ。


「フレアさんの盾は、龍鱗の護りの力をそのままに、拡大展開できるようになっています」


「拡大展開って全身に纏えるようなものなの?」


「単純に盾の防御範囲を広げるだけですね。魔力を込めることによってタワーシールド程度の魔力障壁を作り出せるようになっています」


 ソニアによると、やろうと思えば『少々防御力を落として周囲の攻撃から使用者を守る――』なんて魔法を付与することもできたそうなのだが、それをするには魔力の消費を考えて、攻撃に反応、自動で装備者を守るような魔法障壁を作らなければならないらしく、それではマリィさんの『楯無』と能力が被ってしまうからと、今回は盾の手前数センチの位置に強固な龍鱗の護りを作り出すという能力と相成ったらしいのだ。

 マリィさんお気に入りの『楯無』の魔法をフレアさんの盾に付けたなんて言ったら、マリィさんがどんな反応をするのかわからないからね。


「成程な。

 ちなみに、その場合、盾の重さはどうなるのだ」


「魔力でできた障壁ですから、もちろん重さはありませんよ」


「それはいいな」


「ただ、龍鱗の護りの範囲が広くなる分、魔力消費も大きくなりますので、その辺は注意は必要かと」


 アヴァロン=エラなら、その消費量が二倍三倍となっても特に問題はないのだが、魔力の自然回復が遅い元の世界では、きちんとそのランニングコストを考えなければならない。


 とはいえ、その問題は、ある程度の慣れと魔力の総量を増やしてしまえば解決できる。

 だから、このアヴァロン=エラでいろいろと試してみたらどうですかとアドバイスしたところ、フレアさんは「了解した」と、店内にも関わらず、さっそくその機能を試し始めてしまい。

 そんなフレアさんの姿に、僕を含めた他のメンバーは苦笑を浮かべながらも。


「次にメルさんの胸当てですが、こちらは単純にメルさんが使う毒弾などを強化するものになっていますね」


「毒弾の強化?」


「こちらはポーリさんのそれとは逆にヴリトラそのものの能力を引き出していまして、この胸当てを介して毒魔法を使うことによりヴリトラの毒を乗せることができます」


「なかなかエグい能力ね」


「しかし、それは安全なものなのでしょうか?」


 魔法の強化は歓迎する一方でヒースという前例があるからだろう。

 ポーリさんがメルさんの為に作ったその胸当ての力を聞いて心配そうにするのだが、


「メルさんには例の実績がありますから、特に問題はないかと――、

 まあ、強力な攻撃手段となりますので、そちらの配慮は必要かもですけど」


 メルさんにはヴリトラの巫女としての実績がある。

 なので、その力を使っても問題はないだろうというとポーリさんは「そうですか――」と安心したようにして、


「そもそも、アギラステアもきちんと処理してあげれば、あんな暴走するなんてことなかったと思うんですよ」


 アギラステアがああなってしまったのは、打倒魔王パキートさんという大目標を掲げ、職人にアギラステアの完成を急がせたからというのが原因だと思われる。


「言われてみれば、一ヶ月ちょっとでドラゴンの牙から武器を作るなんて無茶にも程があるわね。

 ここだと早くて当たり前っていうか遅い感じだから、普通の感覚を忘れてたわ」


 万屋にはソニアやエレイン君などといった規格外の生産者がいるから、これだけ早く仕上げることが出来るのだが、ふつう龍の素材を使って装備を作るのには相当時間がかかるものである。

 そもそも上位龍種の牙なんてものは、その加工に上位魔法金属製の道具などが必要となるもので、それを例えばミスリルの工具などを使って作るとなると、それだけ手間と時間が必要となってしまうのだ。

 それを上からの命令によって短期間で仕上げてしまった所為で、ヒースが割を食らう羽目になったということだ。


 ただ、ルベリオン王国側のフォローをするとすれば、牙をそのまま使ったとして、その形によっては名剣となるような素材だけに、とりあえず武器としての体裁を整えれば魔王くらいは倒せるのではという思惑があったとしてもおかしくはないと思う。


 と、アギラステア誕生に関する裏事情はそれとして、最後にティマさんの装備の説明なのだが、これがある意味で、今回の装備品の中でメインであり。


「それで私のこれは」


「ティマさんのグローブはティマさんに合わせて召喚具になってますね」


「え~と、それってヴリトラを呼び出せるってこと?」


「まあ、召喚とはいいましても部分召喚になるんですけどね。

 そのグローブを使うとヴリトラのしっぽを呼び出せるようになっています」


「それは――」


 ティマさんがここで声をつまらせるのは、フレアさんがしっぽの一撃によってノックダウンさせられたからかな。

 ただ、これは狙ってそうしたものではなく、ティマさんのグローブ作りに使われたメルさんの破損した黒装束がヴリトラのしっぽの皮が使われたものだったからであって、


「素材の量が量ですから、かなりサイズダウンしたものになりますけれど」


「そ、そうよね。さすがにヴリトラそのものを呼び出すとかは無理なのよね」


 召喚魔法の独特な制約なんかの関係から僕も試していないのだが、ソニアによると『ワイバーンのしっぽくらいになるんじゃないかな』とのことである。


「しかし、部分召喚といえど、それがヴリトラとなると、ちょっと試しておいた方がいいのかもね」


「それならヴリトラと戦ってみればいかがです。みなさんまだ実績も手に入れていませんでしたよね」


「ヴリトラと!?」


 僕の提案に驚くのはティマさんだ。

 しかし、フレアさんとしては、あの時、なにも出来なかったことに対する悔しさがあるのだろう。


「ふむ、俺としてはいまの実力を試したいところだな。負けっぱなしというのも悔しいからな」


「そうですね……。ディストピアなら危険もないでしょうし、このケープがあれば接近戦も挑めるでしょうし、フレア様がそう仰るなら」


「リベンジ?」


「そうだな。折を見てやるだけやってみよう。この盾を使いこなす訓練にもなるだろうしな」


 ということで、後日ヴリトラのディストピアに挑戦することになったフレアさんパーティは、幾度かの失敗を繰り返しながら、陽だまりの剣や新装備の性能もあって見事リベンジを果たすこととなる。

 弱体化しているとはいえ、実績も手に入れられて、フレアさんの心残りもこれで少しは晴れたかな。

 ◆アギラステアのリメイク品。


ルーナルード……ヴリトラの龍牙盾。小さめのカイトシールドで龍鱗の護りによって物理と魔法の両面に対して高い防御力を持つ。ちなみに、その護りの力は魔法障壁として展開可能で、使用者をすっぽり隠すほどの魔法障壁は軽量のタワーシールドとしての役割を持つ。装備者であるフレアの趣味によって盾の表面にはアダマンタイトパウダーを混ぜ込んだ塗料でコーティングされ、艶のある真紅に仕上げられている。


黒雲龍牙の胸当て……ヴリトラの牙とヴリトラレザーを合わせて作られた胸当て、龍気による護りが付与されているのはもちろん、装備者であるメルの毒魔法をヴリトラの力で強化する魔法式が組み込まれている。牙を加工して作られた胸当て部分にはヴリトラレザーが貼り付けられて、隠密行動が可能となっている。


黒雲龍のサマナーグロープ……召喚士が使うことを想定され作られたグローブ。ヴリトラの革を中心に牙と細毛とすべてをヴリトラの素材で構成することにより、そのグローブを媒体にヴリトラの部分召喚(サイズダウンした尻尾による薙ぎ払い)を可能としている。


黒雲龍のホワイトケープ……破損したヴリトラレザー(メルの黒装束)をパッチワークのように張り合わせて作ったケープ。ソニアによる反転加工により、龍気による護りを拡大展開したフィールド内に浄化効果を与えられるようになっている。反転加工によって、素材の色が黒から城に反転している。

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