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シューズメイキング

 ガラティーンさんを今後どう扱うのかという話は一旦棚上げに、フルフルさん達がその報酬のことをアレコレ話し合っているその横、ガラティーンさんを譲ってもらう代わりになにか用意するというのなら、魔王様にはこれがいいんじゃないかと、僕がそう思ったそれは――、


「魔王様、ガラティーンさんの報酬といいますか、その代替品として、まずは靴を作りませんか」


「……靴?」


「はい。だいぶヘタってきているようですので」


 僕が落とした視線の先にあるのは、あちこちすり減った小さなスニーカー。

 そんな僕の視線を追いかけたのか、魔王様ではなくマリィさんが聞いてくるのは、


「そういえば、以前から気になっていたのですが、マオの靴は虎助の世界のものですの」


「……買ってもらった」


 そう、魔王様の言う通り、魔王様の靴は僕が地球で買ってきたものである。

 魔王様がアヴァロン=エラに訪れた当初、靴を履いておらず、裸足の女の子を放っておけないと、折を見て地球側で買ってきた靴をプレゼントしたのだ。

 あれからもう一年以上、その靴はかなりヘタってきているようだった。


「しかし、今回は『買う』のではなく『作る』のですね」


「それは耐久力を考えてのことですね。ふつうのスニーカーだと、魔王様が暮らす深い森やら洞窟を歩くのにはあまり向いていませんから」


 いま思うと、その辺の配慮が足りなかったよね。

 ただ、これは言い訳になるけど、あの時の僕は魔王様がどんな場所に暮らしているのか詳しく知らなかったから、単純に靴に慣れていな人でも履きやすい靴を選んだんだよ。


 今なら――、登山靴ってのはちょっと大袈裟か……、

 トレッキングシューズみたいな靴をチョイスすると思う。

 ただ、魔王様としては、すっかり履き慣れてしまったスニーカータイプの靴が気に入っているみたいなので、万屋で耐久力の高い靴を作ってみてはどうかと、そう提案した次第である。

 万屋で作れば素材も厳選できるし、靴そのものに魔法式を組み込むことで戦闘時、耐久力を上げたりできるからね。

 まあ最近、魔王様の移動はもっぱらスライムのクロマルに乗っかってなんだけど……。


「そういえば、虎助の靴は魔法の靴でしたわね」


 ちなみに、僕がふだん使っている靴には〈空歩(エアウォーク)〉に〈浄化(リフレッシュ)〉、〈乾燥(ドライ)〉に〈硬皮(ハードコート)〉と、便利な魔法式が付与してある。

 これは、冒険家として世界中を飛び回っている義父さんにも好評の機能だったりする。


「ええ、なので、これを使ってどんな靴がいいのかをデザインしてもらおうかと思いまして」


 僕が開いたのは某有名スポーツ用品メーカーの公式サイト。

 このサイトでは、そのメーカーから発売されている商品をベースに、オリジナルデザインの靴を設計することができるのだ。

 今回はそれを利用して魔王様に靴のイメージイラストを作ってもらおうと考えている。

 ということで、開いたそのホームページを魔王様にパスしたところ、


「あの、(わたくし)もお願いできますか、お代はお支払いいたしますので」


『それなら私達も~』


「構いませんよ」


 マリィさんにフルフルさん達がそれに追随。

 フルフルさん達にはすでにガラティーンさんの代わりというか、装備一式を送ることになっているんだけど、彼女達は体が小さいから、靴を追加したところでまったく問題はないだろう。

 そして、マリィさんは自費で作りたいみたいだ。

 ということで、僕はぱぱぱっと大量の魔法窓(ウィンドウ)を展開、用意しておいたブックマークから同じサイトを開いていき。


「ちょ、俺もいいか」


「構わないよ」


 楽しそうにするみんなが羨ましくなったのかな、元春も追加だね。

 ただ、元春の場合、万屋にプールしてあるお金がちょっと心もとないんだけど。

 まあ、素材を勉強すれば量販店くらいの価格で作れるかな。

 僕はその旨を伝えて元春に了承をもらったところで、ようやくデザイン開始。


 魔王様にフルフルさん達、マリィさんはスニーカータイプの靴を、元春はバスケットシューズを選んだみたいだ。

 しかし、マリィさんがスニーカーを選ぶとはちょっと意外だな。

 普段履いている靴の印象から、マリィさんなら、例えばエアクッションが入るような厚底の靴を選ぶかと思っていんだけど、靴底がぺたんとした靴底のスニーカーを選んだみたいだ。


 そして、靴の種類を決めてしまえば後はデザインや色を選択していくだけだ。

 あらかじめ用意されている中から基本となるデザインを決定、各パーツにどんな色を落としていくのかを選ぶだけである。


 とはいえ、基本のデザインのパターンだけで数十種類。

 とはいえ、靴の種類によっては基本パターンは少ないものもあるが、そこから各パーツに落とす色の方が数百種類、それ以外にも迷彩柄やアニマル柄などがあるということで、みんなちょっと苦戦しているみたいだね。


 ただ、このお方の場合はそこまで悩む必要はないみたいだ。


「あの、マリィさん。さすがにすべてが金色というのはどうかと――」


 シンプルイズベスト――ではないだろうが、マリィさんがデザインしたスニーカーはただただ金色を配色しただけというド派手なスニカーだった。


(わたくし)としましてはこれ以外にないと思うのですが」


 しかし、さすがにまっ金金のスニーカーというのは普段履きには向かないのでは?

 僕はやんわりと指摘して、例えば靴に入っているラインを黒にしてしまうとか、靴紐だけでも金色と対比するような色にするとかと、そんなアドバイスをしてみたところ、マリィさんは「成程」と納得してくれたご様子で、


「……虎助、こっちも見て」


『見て、見て』


 おっと、マリィさんにアドバイスをしていたら、魔王様もなにやらご相談があるようだ。

 透明感のあるウィスパーボイスに振り返ると、そこには黒を基調としたシンプルなデザインの靴を映し出す魔法窓(ウィンドウ)と、その他にもカラフルではなるもののデザイン傾向は基本的に同じな小さな魔法窓(ウィンドウ)がいくつか浮かんでいて、


 ふむ、魔王様たちとしては市販のシューズをモデルにちょこっと色を変えて自分に似合うものをと考えているみたいだね。

 そして、フルフルさんたちは魔王様のデザインを基本に、それぞれ好きな色に変更したって感じかな。

 でも、これだと、わざわざ新しくデザインする意味があまりないので、


「そうですね。例えば魔王様の場合、基本色が黒ですので、靴の側面にファイアーパターンを入れるとか、思い切ってソールの色を派手なものに買えてみてはどうでしょう」


 これは魔王様の靴に対するアドバイスなのだが、基本となる色が黒だけに、リドラさんをイメージして、そんなアドバイスをしてみたんだけど……、

 魔王様にそれはちょっと派手かもしれないな。

 実際にデザインを変えてみてそう思ったのだが、魔王様としては存外このデザインを気に入ってくれたみたいだ。


「……ん、いい」


 すると、それを見ていたフルフルさん達が――、そして、マリィさんも魔王様が満足そうにするその魔法窓(ウィンドウ)を覗き込むようにして、「成程ね」「そういうの方法もあるのですね」と感心したようにしたかと思いきや、また自分のデザインに没頭して、


「これでどうでしょうか」


 マリィさんが新しくデザインし直したものを見せてくれるのだけど……。

 うん。金色のスニーカーに蛍光カラーの幾何学模様を入れるっていうのは、マリィさんにも元春の病気が移っちゃったのかな――、

 いや、これはどちらかというと魔力障壁の展開をイメージしているのかな。

 ともかく、このままだとちょっと奇抜な靴に一直線なので、少しデザインを落ち着かせる意味でも、


「靴ひもと、靴ひも周りの縫込みの色を黒にしてみたらどうです」


 と、微妙にデザインを修正。


「いいですわね。そのアイデアは採用ですの」


 すると、マリィさんもどうにかこれで納得してくれたみたいだ。


 そして、フルフルさんに元春と、うん。元春のどこかで見たようなデザインのバスケットシューズとか、気になるところはあるんだけど、デザインが決まったところでみんなの靴に使う素材なんだけど。

 元春のバスケットシューズは適当な魔獣の革で作るとして、女性陣のスニーカーはアラクネの糸を使った本体に、世界樹の樹脂をベースにしたものでソールを作ればいいと思う。

 ちなみに、魔法式は薄い金属板に刻印してソールの中に埋め込む設計となっている。

 他にも細々とした設計をしたら、後はエレイン君たちにお任せだ。


 そして後日、完成品のお披露目会になるのだが――、


「おお、これが万屋メイドの靴か」


「既製品とまったく変わりないですね」


 一番に反応してくれたのは、靴作りの話を聞きつけて顔を出してくれた正則君と次郎君。

 このお披露目会は部活帰りの二人も見学がしたいということで、二人に合わせてちょっと遅めの開催となっている。


「マオっちのそれもカッコイイな」


「……自信作」


(わたくし)の靴の感想はありませんの」


 魔王様とフルフルさん達が履くカラフルな靴に注目する元春と正則君にマリィさんが口を尖らせる。


「マリィさんの靴もカッコイイですよ」


「ただ、この靴は人を選ぶデザインでしょうね」


 これは次郎君の言う通りだね。

 ボリューミーな金色の髪に健康的かつ活動的な赤いミニドレス。マリィさんデザインのスニーカーは、修正を加えたとはいえ高貴な雰囲気を持つ人物でもない限り履き熟せないような靴になっていた。


 そして、付与されている魔法式がきちんと発動するのかの実験に入ったところで、正則君がそれら機能を確かめる面々を羨ましそうに眺め。


「なあ虎助、部活で使う靴もここで作れるか」


「作れるけど、いいの?」


 万屋で作った靴を地球で使ってもいいのだろうか。

 こと陸上に関しては慎重な正則君に聞き返すのだが、


「別に魔法とか、変な加工をするんじゃなければいいと思うぜ。

 単純に向こうのあるような靴をコピーして、頑丈に作るってこともできるだろ」


 そういうことね。

 そういえば、正則君はいつもすぐに靴がダメになって『お金が――』という愚痴を言っていた気がする。

 万屋で丈夫な靴が作れるのなら、たしかにそっちの方がいいかもしれない。


「要するに、市販の陸上靴に近い感じで靴を作ればいいんだね」


「おう、できれば、いま俺が履いてるのと同じのがいいかな」


「正則君がいま部活に使ってる靴ってあのちょっと派手な靴だよね」


「一時期ちょっとニュースになった靴のニューモデルだな」


 どこかで見たことがあると思ったら、あれは有名選手が使ってる靴だったんだね。


「あれだったら、たぶんぜんぶ世界樹製の素材で作れるから、ふつうに向こうで買うくらいの値段には抑えられるかな」


「虎助君。世界樹とか、とても安い素材とは思えないんですけど」


「世界樹の素材はほぼ無限に収穫できるから」


 世界樹の場合はその大きさがゆえに安定的な素材の確保が可能なのだ。

 だから、靴を作るくらいの素材なら、そこまで価格ではなく。


「マジか、だったらテスターで稼いだ金でも余裕か?」


「だね」


 ちなみに、万屋で稼いだお金は電子マネーみたいにして、メモリーカードの中に記録されるように、ソニアにお金を管理する専用のアプリを作ってもらった。

 正則君にはその残金を確認してもらいつつも注文を確定となるのだが、その前に、


「どうせだから普段使いの靴も作る。そっちなら魔法の付与もできるだろうし」


「そうだな。陸上用と普段履き二つ作ってくれるか」


「では、僕も普段使いの靴を一つ作ってもらいましょうか、向こうでも魔法が付与してある靴を履いていた方が便利でしょうし」


「了解、じゃあ正則君は明日にでも実物を持ってきてもらうとして、次郎君はこれで靴のデザインをお願いできるかな」


「任されろ」「わかりました」

◆万屋Pay……万屋ないで使える電子マネーのようなもの。メモリーカードに特殊な魔法アプリをダウンロードすることにより、万屋での売買をキャッシュレスにすることが可能となっている。ただ、あくまでツケをシステム化したものであり、信用で成り立っていることもあり常連の中でしか使われていないアプリとなっている。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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