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英雄王の遺産

 それは遡ること数日前、

 フルフルさんが輸送用ワシ型ゴーレムである蒼空を操り、龍の谷を目指し、人里離れた洋上を飛んでいた時のこと、なにもないハズの海域で蒼空のセンサーが強力な結界の存在を感知、その周辺を調べてみると、そこに物理障壁から魔法障壁、はては認識阻害の結界とこれでもかと結界が重ねられた島があったそうな。


 あからさまに怪しいその島に興味を惹かれたフルフルさん達は、魔王様の許可を取り、蒼空が持っていたマジックアイテムを駆使してその島への侵入を果たし、リスレムやスカラベをばら撒いて、島内を調べてみたという。


 すると、島の突端に魔王様の世界で有名――だと意外と本好きなミストさんが言っていたそう――な英雄王らしき名と共に『我が遺産をここに残す』とそう刻まれた岩のような石碑を発見。そんな心躍る発見に大興奮したフルフルさん達はこのことをすぐに魔王様に報告、龍の谷への空の旅もそっちのけでその島を丹念に探索してみたそうなのだが、探せど探せど宝の影も形も見つからず、最終的にギブアップと僕のところに相談が回ってきたというわけだ。


「それで、けっきょくお宝はどうなったん?」


「魔王様から頼まれて、いろいろデータと島のデータを分析したんだけど、これっていうデータは見当たらなくてね。もしかして石碑そのものになにか秘密があるんじゃないかって、ちょっと調べたら、石碑の中に何かがあることがわかってね」


「で、コイツを持ってきてもらったってワケか」


 そう言って僕たちが見上げる先にあるのは巨大な石碑。

 自然石を真っ二つにして、その断面に荒々しく文字を刻んだだけの粗野な石碑だ。

 解体するだけなら現地でも出来たのだが、この石碑にもなにか秘密が隠されているのかもしれないと、わざわざ予備の蒼空を飛ばしてここまで持ってきてもらったのだ。


「ということで、できるだけ石碑を壊さないように中のものを取り出していきましょうか」


「楽しみですわね」


「……ん」


「「「「「早く、早く」」」」」


 マリィさんに魔王様、フルフルさんたちが期待に目を輝かせる中、僕は高いスキャン性能を持つベル君のサポートを受けながら、空切とディスクグラインダーを併用してその石碑を切り開いていく。


 ちなみに、この石碑は魔法によって作られたものなのか、荒い砂岩のようなもので出来ているみたいだ。

 十分程かけて、その石碑を削り切っていくと、埋め込まれたそれが見え始め。

 それからまた十数分、石碑の中からお目見えしたのは質実剛健な鎧だった。


「金の鎧?」


「なかなかいい趣味ですわね」


「キレイだけどこれは――」


「思ったよりもビミョー?」


 うん。これはまたマリィさんが好きそうな鎧だね。

 だた、魔王様やフルフルさん達からしたら、ちょっと退屈なお宝だったのかもしれない。

 とはいえ、わざわざ英雄王を名乗る人物が、こうして岩に閉じ込めてまで残した鎧なのだから悪いものじゃないだろう。

 ということで、僕と元春がと石碑に埋まっていた鎧をやや強引に引っ剥がし、その表面にこびりついている岩の欠片を取り除くべく自宅から持ってきた高圧洗浄機を使って――、

 と、フルフルさん達にはこちらの方が興味深かったみたいだ。

 高圧洗浄機に興味津々の妖精さんたちや魔王様、マリィさんに手伝ってもらいながらも鎧を綺麗にしたところで、いざ、鑑定を行おうとしていたところ、一本の剣がふわふわと僕達が作業する工房の広場に飛んできて、


『もしやと思って来てみればやはりガラチンか』


「ガラチン?」


「エクスカリバー様のお知り合いですの?」


 突然のエクスカリバーさんのご登場に呆気にとられながらも、逸早く疑問を返したのはマリィさんだ。

 ただ、僕にはエクスカリバーさんの答えを聞くまでもなくその名前に心当たりがあって、


「ガラチンさんというと、以前聞いたお話に出てきたエクスカリバーさんのご同輩の――」


『そうだな。

 しかし、これはどういうことなのだ?』


 そう、ガラチンというエクスカリバーさんのお知り合いは、エクスカリバーさんがこのアヴァロン=エラへ迷い込んでくる前にいた世界で共に戦った聖剣の一振りだという話だった。


 それがどうして鎧になっているのか?

 そんな疑問符を浮かべる僕とエクスカリバーさんの一方で、他のみなさんは状況がわからない。


 ということで、僕はエクスカリバーさんの許可をとって、前に聞かされたエクスカリバーさんの昔話を簡単にではあるが話すのだが、どうして聖剣だったガラチンさんが鎧という形になってしまっているのかというのは、僕達は勿論エクスカリバーさんにもわからないことであるらしく。


『それは本人に説明してもらうしかないだろう』


 促すようなエクスカリバーさんの声に全員の目がガラチンさんに向けられる。

 しかし――、


『……』


『喋らんかっ!?』


 一向に話し出す気配のないガラチンさんに、エクスカリバーさんはその流麗な刀身を激しく瞬かせる。

 しかし、それでもガラチンさんらしき鎧は無反応で、


 そういえば、ガラチンさんって無口な聖剣(ひと)だって話だったっけ。


 僕は聖剣にあるまじき鋭いツッコミを入れるエクスカリバーさんを宥めながらも、昔話のついでに聞いた情報を思い出し。

 ただ、もしかすると、剣から鎧の姿を変えたことでコミュニケーション能力を失ってしまったのではないかと、そういう可能性もあるのではとふと思い。

 ふだんエクスカリバーさんとマリィさんが使っているチャット機能をガラチンさんにも使えるようにと、こちらで用意したフリーの魔法窓(ウィンドウ)をガラチンさんにも使えるようにコネクト。

 聞こえてるいるのかわからないが、使い方を説明したところ、しばらくして、事務的――というか、機械的にメッセージが送られてきて、


 それによると、どうもガラチンさんは、なんらかの魔法による大爆発に巻き込まれ、気づけた異世界に飛ばされてしまったのだという。


「そういえば、エクスカリバーさんがどうやってアヴァロン=エラにやってきたのか、詳しく聞いていませんでしたね。そんな爆発に巻き込まれてたんですか」


『うむ。正直あの時はどうなるものかとひやひやしたぞ。

 巨大な魔力爆発に巻き込まれたかと思いきや、どことも知れぬ場所を漂っていたのだからな』


 上位――、いや、それ以上の魔法だろうか、それとも何らかのマジックアイテム?

 そこが戦場だったのかまではわからないが、とにかくその魔力爆発により、恐るべき破壊の力と強烈な魔力が周囲を覆い尽くしたのだろう。

 結果的にその爆発の内部に次元の歪みが発生して、エクスカリバーさん達は次元の彼方に飛ばされたとか、そういう感じかな。


「でも、どうしてガラチンさんは鎧の姿に?」


 そんな疑問にポコンとポップした長文メッセージによると、

 ガラチンさんはそのエクスカリバーさんが巻き込まれた大爆発の中心付近にいたそうで、気が付いたら半壊状態でどこかの大洞窟の中にいたらしい。

 そして、長い年月、生物がほとんど存在しない洞窟内で過ごすことになる内に地殻変動に遭遇。岩の中に取り込まれ。その後、鉱石として発掘され、鉱石鑑定によって精霊が宿っているということが発覚すると、さまざまな人の手にガラチンさんの本体が渡ってゆき、最終的にとある小国に買い取られ、この『帝鎧ガラティーン』の核として生まれ変わったのだそうだ。


「成程、そんな事情が……」


「まさに波乱万丈って感じですね」


「しかし、聖剣の核を鎧に組み込むなんて、よほどの技術力をもった国に拾われたのですね」


 たしかに――、

 見た限り、素材は精霊金になるのかな。正直、オリハルコンなどと比べると一段劣るのだけれど、それでも、もともと別の聖剣だったものを鎧に移植するなんて、結構な技術力だ。


 ただ、魔王様たちの世界でそんな技術力を誇る国といえば――、


 僕が『ガラチン』あらため『ガラティーン』さんから聞かされた情報に、『まさかこれもネクスラウド関連の話じゃないよね――』と、ボロトス帝国内で発見したティターン(超巨大ゴーレム)を作り出した魔導国家を思い出していると。


「んで、ガラティーンだっけ、この鎧はどうするん?」


「それなら発見者は魔王様ってことになるから、魔王様が――」


「……いらない」


 元春としては歴史的な背景よりも目の前のことの方が重要らしい。

 とりあえず、僕がこの鎧――ガラティーンさんの身柄(?)をどうするのか魔王様に水を向けようとしたところ、魔王様の無慈悲な即答。


 まあ、この鎧は魔王様が着るには大き過ぎるし、そもそも魔王様のお仲間の中にフルプレートメイルが似合う人員がいないのが大きな理由だろう。

 あえて候補を上げるとするなら、オーガの変異種であるブキャナンさんが似合いそうではあるのだが、ブキャナンさんの場合、その体のサイズ的にこの帝鎧ガラティーンを着ることは難しく。


 と、魔王様がそこまで考えていたかはわからないが、魔王様としては帝鎧ガラティーンは不要のようで、


「ま、まあ、ウチで買い取り、お金と欲しい物を用意するというのはどうでしょう」


 さすがにこのままお蔵入りというのは心苦しいし、食い気味に『……いらない』言われてショックを受けているのだろうか、無駄に三点リーダーをメッセージウィンドウに浮かべるガラティーンさんへのフォロー(?)としてそう提案したところ。


「いいね。どうせだから代わりに私達専用の鎧を作ってもらうとか」


「あ、それ、面白そう」


「ゴーレムで遠くからってのもいいんだけど、現場に直接いきたい時もあるからね」


「新しい魔法も作ってもらったし」


「にしし、楽しみだよね」


「だから、マオ様」


「……ん、じゃ、虎助、それでお願い」


 フルフルさん達としては、自分たち専用の装備が欲しいみたいだ。

 もちろん。フルフルさん達の他に魔王様への献上品もまた考えないといけないけど、それはそれとして、


「でもよ。お前――、これ買い取ってどうすんだ。元が聖剣ってなると結構な値段になるんだろ。それにこういう装備って人を選ぶんじゃなかったっけか」


 たしかに、ガラティーンさんの性格を考えるとエクスカリバーさんほどの好き嫌いはないとは思うけど、それでも資格のない人が身につけられるものでもない。

 しかし、魔王様から受け取りを拒否され、落ち込んでいるような雰囲気から察するにすぐにどうこうっていうことは難しそうだから。


「エクスカリバーさんの横にでも置いておきますか」


『いらんぞ』


 とりあえずここはエクスカリバーさんとセット販売ということにして――、

 と、そんな僕の思いつきはエクスカリバーさんによって即却下。


 そういえば、エクスカリバーさんってガラチンさん――、いや、ガラティーンさんのことが苦手なんでしたっけ。

 こうなるとガラティーンさんの処理後はまた後回しかな。

 とりあえず先に魔王様やフルフルさんへの支払い――この場合は物納になるのかな――を考えないと。

 うん、それがいい。


 僕はメッセージウィンドウに大量の三点リーダーを浮かべるガラティーンさんを横目に、現実逃避気味にそう自分の中で優先順位を決めるのだった。

◆装備解説


〈帝鎧ガラティーン〉……聖剣ガラチンの残骸から生み出された聖なる鎧。ガラチンが持っていた地形操作の能力は受け継がれているが、鎧に使われている素材(妖精金)の関係でその力は格段に落ちている。なので、実は『聖鎧』と呼ばれる要件を満たしていながらも、正則が持つクリムゾンボアよりも少しだけ強い程度のスペックしかなかったりする。

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