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●聖女と聖母※

◆今回はポーリを主軸に据えたSSとおまけという構成になっております。

 その日、ポーリは珍しく一人で万屋を訪れていた。


「お疲れですねポーリさん」


「ニナちゃんのお世話が大変で――」


 ポーリの状態を気遣って万屋特製のハーブティーを出しながらも声をかける虎助。

 それに、ポーリがカウンターの横、柔らかなソファに完全に身を預けながらもそう答える。


「生まれてすぐのこの時期は赤ちゃんにとって大事な時期ですから。

 でも、なんでポーリさんがそんなに疲れているんです?」


 ポーリの言うニナというのは、幾つかの国から魔王認定される魔人パキートとルベリオン王国の王女ロゼッタの間に生まれた赤ちゃんだ。

 そのニナのお世話で疲れてしまうということはわからなくもないのだが、どうしてポーリがここまで疲れているのか。

 そんな虎助の疑問に、ポーリが淑女としてはだらしなかった、その居住まいを正しながら答えるのは、


「実はエドガーさんがかなり心配性なようでして、ニナちゃんが泣く度に回復魔法が使える私が呼び出されるんですよ」


「ああ――」


 ポーリが口にしたエドガーというのは魔王パキートの懐刀である賢者梟のことである。

 もともとパキートに対しかなり過保護だったエドガーの、その過保護っぷりがパキートの娘であるニナにも向けられているようだ。

 虎助はありありと想像できるエドガーの暴走っぷりに苦笑しながら。


「しかし、ポーリさんだけが張り切らなくても、他の人や回復系の特技を持つスクナにまかせてしまえばいいのでは? 誰かそういうスクナとは契約してないんですか」


 そんな話をしたところ、ポーリは目からウロコとばかりにその大粒の瞳をぱっちり見開いて――、


 数時間後、ポーリがいたのはパキートご一行が現在の拠点とするログハウスの中だった。

 ポーリはエドガーを前にバンと机を勢いよく手を付いて、


「ということなのですが、みなさんでスクナの顕現を試してみませんか」


「ふむ、そういうことでしたら、これを機にあのカードを使ってみるのもいいやもしれぬな」


 ポーリの話を聞いて唸るようにするのはエドガーだ。


「ただ、確実にそういうスクナが顕現できるかはわからないというのが少々問題ですね」


 そして、エドガーの声に続くのはメイド姿のレニだ。

 思いに応えて精霊が地上に顕現する為の体を生み出すのがスクナとい召喚体。

 強烈なイメージさえ持ち合わせていれば、スクナは狙い通りの性質を持った者を顕現させることは難しくないのだ。

 しかし、確実に目的のスクナが顕現できるかというとその保証はできないと、そんな懸念に対してエドガーが言うのは、


「ならば数を用意したらどうなのだ。パキート様の為に用意されていたものをすべて使い切るつもりなら、一体くらいは目的のスクナを顕現させるのも可能ではないか」


 エドガーは物量作戦を提案するのだが、ただその作戦には少々問題があって、


「残念ながらそれは難しいかと、スクナというゴーレムはその体に精霊を宿します。必要以上の顕現で目的外のスクナを疎かにしたとなるとその反動がありますので」


「むぅ、たしかにそれは困るな」


 本当に残念ながらとポーリが言ったスクナカードに関する仕様に難しい顔をするエドガー。

 魔法が存在する世界において、精霊にそっぽを向かれるということは少なくない悪影響をこうむることいなるのだ。


 しかし、そんなエドガーにレニは冷静に。


「心配ありません。私に考えがあります」


「考えとな?」


「つまり、明確なイメージさえ持てば高い確率で現状にあった精霊と契約することが可能となるのでしょう。ならばうってつけの人物がいるではありませんか」


 そう言ってレニが視線を送る先にいるのはポーリ。

 そう、彼等がいま欲する人材は目の前にいるのだ。

 彼女をイメージしてスクナを顕現すれば、高い確率で目的とするスクナを顕現できるのでは?

 それがレニの考えのようだ。

 そして、そのアイデアはエドガーも納得するものであり。


「考えたな。たしかに手本となる存在が目の前にいたのなら、それを想像するのは容易いかもしれぬな。

 よし、すぐに召喚の儀式を執り行なおうぞ」


 レニのアイデアに『これはいける』と張り切るエドガー。

 ただ、ポーリからしてみると、自分を手本にスクナを顕現させられるということは、スクナの出自を考えると恐れ多いことであり。


「ちょ、ちょっと待って下さい。さすがに私をそのまま姿移しに使われるのはどうなのです」


 やや控えめながらも反対の声をあげるポーリ。

 しかし、発言主であるレニはそんなポーリの反応も予想していたのかもしれない。


「ご心配なく。その辺りの配慮は心得ております。

 そもそも私がイメージするのはアナタそのものではなく、アナタのあり方です。

 なので、アナタの懸念するような自体になることはないかと」


 レニがそのイメージの核にするのはあくまで聖女としてのポーリ。

 だから、ふだんの人間臭いポーリを知っているレニからすると、完全にポーリと重なる存在としてスクナが形作られることはないだろうと、レニにはそういう予感があるのだ。


 そして、そんなレニの言い分は、ポーリからしてみると、喜んでいいのやら、悲しんだらいいのやら、複雑なものであるのだが、それが自分の懸念に配慮されたものであり、自分から言い出した、疲労困憊の現状を打破する方策ともなれば、これ以上の文句は自分の我儘だと、不承不承であるのだがそう理解を示し、この話は終了。


 そして、すかさずスクナ顕現の儀式が行われ。

 レニが顕現させたのは母性が溢れる修道女。

 そのスクナはポーリそのものではないのだがポーリに似た雰囲気をまとう純白の聖女だった。


 と、レニは自分が顕現させたそのスクナを見て、『自分よりもこのスクナの方がよっぽど聖女じゃないだろうか』と密かに思うポーリ。


 しかし、それはそれとして、ここでポーリにとって重要なのはいまレニが顕現させたスクナの能力だ。

 いろいろと複雑な思いがあるにせよ。彼女が回復系の特技を持っていてくれたのなら、現在自分にかかっているウェイトがが大幅に軽減されるのだ。

 ポーリは新しく顕現することになった精霊の化身への複雑な感情をとりあえず心の隅に追いやって、


「それで特技はどうなりましたか?」


「特技とは?」


「スクナに宿っている力ですね。我々でいうところの得意属性や実績になるでしょうか。召喚と同時に現れるその小さな魔法窓(ウィンドウ)からそれが確認できるかと思うのですが」


 ポーリからの情報に、レニがさっそくとばかりにその小さな魔法窓(ウィンドウ)ををどれどれと覗き込み。


「〈聖母〉に〈癒しの歌〉と書かれていますね」


「ふむ、これは、狙い通りのスクナを召喚できたと見ていいようだな」


「では、さっそくニナ様のお世話に――」


「待ってください。その前に彼女の名前をつけてあげませんと」


 スクナの特技を確認、レニはすぐにこのスクナにニナの身の回りの世話を任せようと立ち上がる。

 だが、レニによってゴーレムの体を得た原始精霊には程度の差こそあれ自由意思があるのだ。

 乱雑に扱えば信頼をなくし、見限られてしまうこともあるというのがスクナという精霊を宿した存在なのだ。

 ポーリから改めてスクナがどういう存在なのかを指摘されたレニは、ニナのお世話に気を取られ、つい先走ってしまった気持ちを意識的に落ち着かせると、いま自分と縁を繋いだ原始精霊を優しく手の平で掬い上げとしっかりその目を合わせ。


「アナタの名前はロッタです。いいですか。いまからアナタは私と一緒にニナ様のお世話をするのです」


 彼女が頷くのを見ると、薄っすらと笑みを浮かべて、あらためてニナの元へと向かうために立ち上がるのだった。



 ◆おまけ◆



「ということで、これを機に我々もスクナと契約をしようと思うのだが、どう思う」


「僕は構わないよ。スクナカードには前から興味があったからね」


「我も依存はないが、我々のような存在がその魔導器を使えるのでありますかな」


「それも含めての我々がするのだ。ここで我々が契約できたのなら、パキート様も問題なく契約でいるということになるのだからな」


「そういうことならば問題ないでありますな」


「それで、これはどうやって使うの」


「体の一部で触れて、顕現させる対象を想像、脳裏に浮かぶ魔法名を唱えればいいそうだ」


「こうかな。でも、この使い方って、こっち二人はいいんだけど、エドガーさんはどうするの」


「その対策はすでに出来ている。虎助殿が考えてくれたのだがな、我らのように人族以外の種族でも使えるようにとドッグタグなるアクセサリの形をしたものを作ってくださったのだ」


「へぇ、それはエドガーさんだけなの?」


「もちろん二人の分もあるぞ」


「さすがは虎助殿でありますな。気配り上手である。

 それでそのスクナとやらは、どのようなものを顕現させればいいのでありますか、先の説明を聞くと、我らの想いがそのスクナのあり方に影響を与えるとのことでありますが」


「それに関しては、こちらから言うことはない。レニのスクナにより、ニナ様の問題はすでに解決している。後は我々が己の使命を果たすパートナーとなりえる存在を想像すればいいのではないのか」


「難しいのでありますな」


「そう? たとえばリーヒルの場合、前にあった任務みたいなことがまたあるかもだから、リスレムだっけ、あれに近いスクナを願えばいいんじゃないのかな」


「しかし、あのような任務がそうそうあっては困るのであるが……」


「そんなこと僕に言われてもね。さて、僕はどうしようかな」


「お主は一人でなんでもできるからな。運を天に任せるのもいいのではないか」


「それでいいの」


「いいも悪いもお主の場合、そうとしかいいようがないだろうて」


「そうだね。わかった。僕は精霊の導きに従うよ」


「では、始めるとするか」


「む、まあ、あまり悩んでも仕方のないことであるか」


「ということで――」


「「「〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉」」」


「――と、これは、あまり期待していなかったのだが成功したようだな。侍従のスクナだ」


「こちらは蜘蛛であるか。

 しかし、この体で本当に精霊を使役できるとは思いもしなかったである。

 ただ、この特技は――」


「僕は水の精霊かな。

 やっぱり場所柄かな、特技はちょっとかぶっちゃったけど。

 うん。とりあえず、これからよろしくね」

◆今回、登場したスクナの紹介。


 ロッタ(レニのスクナ・聖女型)……〈聖母〉〈癒やしの歌〉


 バトラ(エドガーのスクナ・ゴーレム型)……〈給仕〉〈伝令〉


 ギガ(リーヒルのスクナ・蜘蛛型)……〈魔糸生成〉〈仕立て〉


 クイーナ(キングのスクナ・水人魚型)……〈アクアボディ〉〈癒やしの波動〉

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