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天眼の御子

◆今回、「」で表示されるセリフはアヴァロン=エラ側、『』で表示されるセリフは森のログハウス側のものとなっております。

 あと、今回はお話にも最後におまけ的な会話劇がついております。

「【天眼の御子】ですか。

 とりあえずデータベースにはない実績ですね」


『そうか』


 魔法窓(ウィンドウ)の向こう、データベースの解析結果に重々しくも頷くのはフレアさんだ。

 実は先日、再三に渡る交渉の末にようやくエドガーさんの了承を得たフレアさんが、パキートさんとロゼッタ姫のお子さんであるニナちゃんのステイタスを調べた結果、【天眼の御子】なる実績を発見。

 僕が――というよりもベル君なのだが――、その実績を万屋のデータベースを使って検索することになったのだ。

 しかし、けっきょく同一の実績が見つからなかったということで今日の報告となったのだ。


 ちなみに、ロゼッタ姫のステイタスも調べてもらったのだが、こちらにも【天眼の御子】という実績がついていたそうだ。

 そこから、この【天眼の御子】というのが、例の一子相伝的な魔眼の元となっている実績というのはほぼ間違いないと思われる。


 そして、実績の名前そのものからなにかヒントを得られないかとその意味を調べてみたのだが、天眼というのが、目に見えないものを見る力のことを指し、御子というのが、僕が想像していた宗教的なものではなく、高貴な人物に冠せられる呼び名であるらしい。


 まあ、これはあくまでバベルの翻訳機能を通した名称であり、フレアさんにはまた違った名前として認識されているのだろうけど。


「とにかく、これでレナ様が魔眼持ちということは確定したということですね。

 こうなると、一度、詳しい検査をしておいた方がいいかもしれませんね。

 赤ちゃん検診とかもしておいた方がいいでしょうし」


『赤ちゃん検診?』


「前にも少し言ったかと思いますけど、僕達の故郷では生まれた赤ちゃんが病気にかかってないかとか、生まれつき調子が悪いところはないかとか、そういうのを調べる検診があるんです」


 まあ、ここでするのは地球のそれとはまったく別の魔法的な検診なんだけど。


『ふむ、それは重要だな』


「ということでしたら詳しい検査をしてもらえないかと許可をとっていただけませんか、許可さえいただければ、こちらから遠隔で検診しますので」


『了解した。

 ポーリ、エドガーに伝言を頼む」


『わかりました』


 と、フレアさんに言われて何故かエドガーさんとの交渉へ向かうポーリさん。

 こういうのって普通、ご両親に許可を取るんじゃないんですか。

 僕はそんな当たり前の不自然に苦笑いしながらも。


「そういえばフレアさん。アキラステアの処分はどうします?」


 相手がエドガーさんともなるとちょっと時間がかかるかもなと、ここで放置していたアギラステアをどうするのかと、フレアさんに軽く話題をふるのだが。


『アギラステアの処分――とはどういうことだ?』


 あれ、フレアさんは忘れちゃってるのかな。


「いえ、王宮――にですか。

 偽物を持っていた時に本物を預かったままでしたので、どうしようかって話なんですけど」


『そういえば、メルが届けていたままにしていたわね』


 それは半年近く前のこと、ヒースとの戦いでヴリトラの牙を削り出して作られたアギラステアを回収したフレアさん達は、アギラステアに宿る能力を危険視して、回収したアギラステアを万屋に、そして余計な混乱を生まないようにと、アギラステアとそっくりに作ったワイバーンボーンソードをルベリオンの王宮に届けたのだが、本物のアギラステアはウチで預かっていたまま放置されていたのだ。


『しかし、どうすると言われてもな。

 俺にはソルレイトがあるからな』


 そう言って、困った顔をしたフレアさんがポンと叩くのは腰に指した剣の柄。

 ソルレイトというのは陽だまりの剣の別名だ。

 これがある以上、フレアさんが他の剣を使うことはありえないと言うのだが、


『メルのことを考えるとアギラステアはそのままの方がいいんじゃないの』


 ティマさんがここでメルさんの心配をしているのは、アギラステアが有していた(・・・・・)【龍の巫女】たるメルさんを追い求める追跡(ストーキング)機能のことだろう。

 しかし、そんなティマさんの心配も実はいまは問題なくて。


「それなら特に問題はないかと。

 そうですよね。メルさん」


『(コクリ)大丈夫だった』


 そもそもアギラステアを万屋まで運んできたのはメルさんだ。

 なので、ティマさんの懸念はすでにクリアされていて、さらに万屋で浄化処理を受けた今となっては、その力も完全に消え去ってしまったのだ。


 ただ、その所為で、近衛の長であるヒースが使っていた黒靄はまったく発生しなくなってしまったという問題があるのだが、それはマイナス効果の方が大きかったことを考えると仕方のないことでもあり。


『つまり、いまのアギラステアはただの頑丈な剣ということになるのか』


「身も蓋もない言い方をするのならそうなりますか」


 アギラステアはヴリトラの牙を削り出して作った大剣に、ヴリトラの残留思念のようなものが宿ることで強力な力を発揮していた〈魔剣〉だった。

 それが浄化処理されたいま、アギラステアはただただ丈夫で切れ味のいい大剣に成り下がってしまったのだ。


 まあ、それでも素材に龍の牙を使った大剣ということで強力な武器には違いない。

 だからこそ、このままお蔵入りにするには惜しい武器だ。

 おそらくはフレアさんとしてもそういう気持ちがあるのだろう。


『ふむ、一度見せてくれるか』


 僕はフレアさんのお願いでアギラステアを保管している店の奥へ。

 そこにあったアギラステアを両手で持ち上げて、フレアさん達にも、いまのアギラステアがどうなっているのかが、魔法窓(ウィンドウ)越しに見えるように正眼に構えて見せたところ。


『あれ、前に見た時よりも綺麗になってない』


「浄化処理をしましたし、少し研いでおきましたからね」


 やはり特別な道具でもない限り龍の牙を加工するのはかなり難しかったと思われる。回収したばかりのアギラステアはその研ぎに荒が目立っていた。

 なので、浄化処理をした後に、アダマンタイトの粉を合成した特殊な砥石でその刃を研いでおいたのだ。


『しかし、大きいな』


「牙をそのまま剣にしてしまったようなものですからね」


 龍の牙というのは単純な耐久力だけでも上位魔法金属にも迫るものになる。

 そんなものがそう簡単に加工できるハズもなく。

 加えていうなら、ルベリオンの武器職人は、魔王パキートに連れ去られたというロゼッタ姫を救うという国王の意思により、突貫工事でアギラステアの形を整えたのだろう。結果的にアギラステアは素材の持ち味をそのまま生かしたような武器になり、片手剣をメインに扱うフレアさんには少々合わないサイズの武器になっているのだ。


『ここまでの大きさとなると、やはり扱いづらいか。

 俺としてはいざという時だけに使うという武器として持っていてもいいとは思うのだが、さすがにそれでは勿体ないだろうな』


「そうですね」


 アギラステアをいざという時の決戦兵器に――、そんな使い方も悪くはない。

 しかし、儀式再生されたものだとはいえ、それが上位龍種の素材を贅沢に使って作った一品となれば、有事以外に腐らせておくのは勿体ない。

 例えば、いまこの場にいないマリィさんのような資産家(?)ならば、コレクション的な意味合いも含めてそういう扱いで持っていてもいいだろうが、フレアさんのように冒険と戦いが生活の糧となっている人間にとって、龍種の素材を使って作った武器をマジックバッグの肥やしにするには惜しい武器だ。


『逆に虎助ならどうする?』


「そうですね。

 思い切って防具に加工してしまうとか。

 それなら全員にこの牙を使った装備が回るでしょうし」


 アギラステアは某ドラゴンキラーまでとはいかないまでも大きな剣だ。これをバラせばちょこちょこっとした防具をいくつか作るのにちょうどいい量となる。それを使ってメンバー全員に装備を作るのはどうだろうと提案してみると。


『防具か?

 ちなみにどんなものが作れるのだ』


「大きさから言って盾とか胸当てとか、それ以下のサイズなら、他にもいろいろ作れると思いますよ」


『盾に胸当てか……、

 俺とメルならそれでいいかもしれないが、後衛の二人はどうなのだ』


『そうね。私たちはあまりかっちりした防具はいらないわね』


 アギラステアの牙はそこまで重くないから、残る二人も胸当てでいいと思うんだけど。そこは非力な女の子ってことかな。

 でも、防具以外でティマさんとポーリさんに合いそうな装備か。


「ブレスレットとかバレッタとか、龍の守護を引き出したアクセサリを作るのはどうでしょう」


『それは――、

 ええ、それがいいかしら。

 でも、それはそれでいろいろと迷うわね』


 迷うというのは能力的な意味でだろうか、それともデザイン的な意味でだろうか。


「細かな要望もあるでしょうし、ここでこれと決めなくていいのでは?

 ポーリさんも居ないことですから、お二人の分は後で注文専用のメールフォームに要望を出していただく形にするとか」


『そうだな。それでお願いできるか』


 ということで、ティマさんとポーリさんの装備は後回しに――、

 先ずはフレアさんの盾とメルさんの胸当てをつくるとして、それをどんなデザインにするのか、それにどのような追加効果をもたせるのか、フレアさんとティマさんを中心にあれこれ考えていたところ、ポーリさんが帰ってきたみたいだ。


 そんなポーリさんの報告によると、とりあえず赤ちゃん検診は受ける方向で決まったみたいだ。

 ただ、それがどのようなものなのかをニナちゃんにする前に実際に見せて欲しいみたいで、

 場所を移してニナちゃんの寝室。

 そこでは既にパキートさんにロゼッタ姫とニナちゃんのご両親を始めとしたご一行が待ち構えていて、


「それで、どうしましょう。ニナちゃんの検診の前にスキャンを実践して欲しいとのことですが……」


『店主殿。ニナ様のことは『ニナ様』と呼んでもらえるか』


『ちょ、ちょっとエドガー』


『パキート様、こういうことはちゃんと言っておきませんと』


『でも――』


『まあまあ二人共、それよりも赤ちゃん検診とはどのようなものなのです?』


『そうでしたなロゼッタ様。店主殿、説明をお願いしますぞ』


 ということで、とりあえずメインで使っている魔法窓(ウィンドウ)とはまた別に、いくつかの参考資料を複数の魔法窓(ウィンドウ)として展開。


「とはいえ、その資料を見てもらえればわかっていただけると思うのですが、これからするスキャンは基本的に普通の検索魔法とそれほど変わらないので、そこまで警戒をすることはないんですけど。

 どうしても心配でしたら、まずは誰かが実際に受けてみますか」


 そう、これから行う検診は、ベル君がいつも使っているスキャンを念話通信越しに発動。得られたデータを万屋の大型インベントリ(魔導パソコン)で処理して、結果を弾き出すというものになっている。

 だから、エドガーさんが心配する万が一のようなことはないし。


『僕としては虎助君が何をするとか思ってないんだけど』


 パキートさんが言うようにニナちゃんをどうこうするつもりはない。


『いえ、それでも万が一の可能性もあります』


『そうですぞ』


 しかし、そこはエドガーさんやレニさんからしてみると不安なところがあるみたいで、

 まずはレニさんを鑑定。

 スキャンの安全性を確認したところで、ニナちゃんを調べるということになったのだが、

 いざレニさんを調べてみたところ。


「あれ?」


『どうかしましたか?』


「いえ、鑑定結果にホムンクルスと出ていまして」


 検診の結果、レニさんの種族がホムンクルスとなっていたのだ。


『それは間違っておりませんよ。私はホムンクルスですから』


『吸血鬼じゃなかったの!?』


 と、そんな僕とレニさんのやり取りに一番驚いたのはティマさんだ。

 僕としてはレニさんの種族はてっきり魔人なりなんなりといった種族だと思っていたんだけど、ティマさんは純粋にレニさんが吸血鬼だと信じていたみたいだ。


『違いますが』


『じゃ、どうしてあんな二つ名で呼ばれてるのよ』


『それは人間側がつけたものですので、

 おそらくは私の魔法を勘違いしてそんな名前になってしまったのでしょう』


 これは後に聞いたことになるが、レニさんはとある遺跡からパキートさんが見つけてきた古代のホムンクルスだそうで、その赤い錬金術も古代の錬金術師が戦闘に使っていたものらしい。


 と、そんな予定外のハプニングがありながらも、本命であるニナちゃんの検診だ。


「では、改めてニナちゃんの検診を行いますね」


『お願いします』


 レニさんとエドガーさんが警戒する中、パキートさんの号令でニナちゃんにスキャンの光を浴びせて、万屋の大型インベントリによって弾き出された結果は、


「まず、ニナちゃんの魔眼には時忘れと呼ばれるような効果がついているみたいですね」


『時忘れ?』


「これは魅了に近い力になりますかね。

 物凄く偉い人とか、美男美女とか、思わず時間を忘れて見とれてしまうことがありませんか。

 あれを意識的に引き起こせるという能力にカテゴライズされるみたいです」


『それってどうなの?』


 僕の説明に肩をすくめるティマさん。

 ティマさんとしては時忘れの魔眼はイマイチな能力に思えたんだろうけど、パキートさん以下、数名にはかなり有効な魔眼として理解されたみたいだ。


『いや、これはかなり強力な魔眼なんじゃないかな』


『そうなの?』


『そうだな。もしニナが虎助の言った魔眼の力を自在に操れるようになった暁には、おそるべき剣士として名を博すことは間違いないだろう』


『ふん、ニナ様がなられるのは剣士ではなく魔導師だ。ゆくゆくはパキート様と同じく召喚師の道に進んでもらうのがよいかと、その魔眼の力を考えますと、そちらの方がその力を十全に扱えるのでは』


 かなり自分の願望が入ったそれぞれの願望を口にするフレアさんとエドガーさん。

 ただ、パキートさんは娘の意思が一番という立場のようで、


『僕としてはニナには普通に生きてもらいたいんだけれど……』


 ボソッと二人に反論する。

 ただ、その反論はヒートアップしたこの二人の心には響かなかったようだ。


『主、現状を考えますとそれは難しいかと、ここは私が二ナ様を良き方向へと導くのが適当かと』


『いや、ニナの場合、自分で自分の身を守れる力が必要だろう。ならば俺の出番ではないか』


『それも魔法があれば事足ります』


 と、パキートさんの控えめな反論に、エドガーさんとフレアさんが強い口調でそう返し、議論がスタート。

 お互いに自分の主張をぶつけ合うエドガーさんとフレアさん。

 そこに、さり気なくレニさんも参戦、すると一転形成が不利になったフレアさんを助けようとティマさんが加勢に入って、

 と、カオスと化した場をパキートさんがアワアワと収めようとするのだが、上手くいくハズもなく。


 ただ、まだ重要な検診の結果が残ってるんですけど。


 魔眼に気を取られ、それ以外の結果を聞き忘れて言い合いを始めてしまったフレアさん達に、僕が困った顔をしていると、その魔法窓(ウィンドウ)はこの人に引き取られたみたいである。


『はい、そちらは私がお伺いしますね』


 さすがはお母さん。

 ロゼッタ姫だけはちゃんとこちらの話を聞いてくれるみたいだ。


 ちなみに、ニナちゃんに先天性の病気やアレルギーはないみたいだ。

 ただ、食欲が旺盛なのか、一ヶ月のお子さんにしてはちょっと体重の伸びが気になったということだけは伝えておいた。

◆生まれながらも魔眼に万屋による教育サポート。

 さらに父親が魔人ということで人間からクラスチェンジが可能かもしれないという可能性持ち、どこのチート主人公だと言わんばかりのニナ様でした。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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