●疑惑のベビー用品・虎助 with ロベルト
◆三話連続SSの二話目になります。
「よっす、来たぜ」
「いらっしゃいませ」
「ん、なにやってんだ。ソレ?」
元春とホームセンターへ行った翌日、僕がホームセンターで買ってきたベビーグッズをフレアさん達に渡すべく別のマジックバッグに詰め替えていたところ、錬金術の素材でも足りなくなったのか、お店にやって来た賢者様がカウンターの上に置かれた大量の紙オムツの袋に訝しげに聞いてくる。
「パキート様のところに送るベビー用品をまとめてるんですよ」
「ベヒー用品?
んなもん――、
ああ、あの赤ん坊のヤツか」
「そうですね。
と、その説はどうもありがとうございました。
おかげでロゼッタ姫の出産も無事にすみました」
「いやいや、俺なんてほとんど役に立ってなかったからな」
賢者様はそういうが、出産に際に万が一がないように回復系の魔法薬を揃えてくださったのは賢者様である。
ロゼッタ姫の出産が意外とすんなり終わったため、魔法薬を使う機会はなかったが、
出産中――、もしも、ロゼッタ姫やニナちゃんになにかあったら、その魔法薬が活躍していたことは間違いない。
だから、賢者様としては居心地が悪いかも知れないが、やっぱりここはお礼を言うべきだろうと、僕があらためてお礼を重ねたところ、賢者様としては、何もしていないのにお礼を言われるというのはやはり居心地が悪かったみたいだ。
話題を変えるように――、
「しかし、赤ん坊を産むことがあんなに大変だってのはな。
知識としては知ってたが、直に見ちまうと凄まじいもんだな。
俺もいつかはあれに立ち会うことになるんだよな。想像できねぇぜ」
限りなく人間に近いホムンクルスであるアニマさん。
彼女もすることをすればちゃんと赤ちゃんが出来る。
いまのところ、生まれたばかりという状態を考えて、賢者様もアニマさんを気遣っているみたいなのだが、いずれはアニマさんも妊娠するなんてこともあるのかもしれないのだ。
もし、彼女がそうなった場合、自分はちゃんとできるのか。
ロゼッタ姫の出産に接して、賢者様もいろいろと思うところがあったのだろう。
しかし、
「そうですね。何かあった時には僕達も協力しますから」
今回のロゼッタ姫の出産で得られたデータはベル君やエレイン君たちの経験として蓄えられている。
危険な状況がほぼなかった出産だったとはいえ、それでも、ロゼッタ姫の妊娠に備えて集めたデータを、今回の出産で得られたデータと突き合わせて精査をしていけば、おそらくかなり高度な出産の補助ができると思う。
だから、その時は安心してくださいとかけた言葉に、
「そりゃありがたいな。その時は頼むぜ。こっちの仕入れも含めてな」
賢者様は破顔しながらもそう言って、カウンターの上に載せられた紙オムツの袋をポンポンと叩く。
どうやら賢者様としては物資の供給という意味でも、僕たち万屋に期待しているみたいだ。
しかし、賢者様の世界なら、これと同レベルのベビー用品が手に入れられるのではないだろうか。
まあ、賢者様は神秘教会という宗教組織と対立しているから、いろいろと面倒なことになっているみたいだけど。
たとえば、例の救出作戦の時に建物の外から手伝いをしてくれていたプルさんなら、安全に街へと潜入できるのでは? わざわざ僕が買ってこなくてもと、僕としてはそう思ったのだが、
「いや、俺んトコだと、そういうアイテムってのは教会の収入源だったりするんだよな。
だから、妙な仕掛けとかがありそうでどうもな」
それって教会がベビー用品を使ってなにかしているってことになるのかな。
さすがにそれは考えすぎなのではないだろうか。
首をかしげる僕に、賢者様は微妙な顔をしながらも。
「あくまで念の為だがな。なんか仕掛けがあるのなら調べりゃわかるが、なかったらなかったでなんか気持ち悪いだろ」
「そういうものですか」
「全部が全部そうじゃねぇと思うんだが。
俺らの世界じゃ、子供は神が育むものってことで、育児や教育関連の事業が奴らに取り仕切られちまってるし、実際、国によっては子供の頃の教育になんか小細工があるんじゃねぇかって話も出てたりすんだよな。
ま、証拠はねぇ話なんだけど」
言われてみると、たしかに、賢者様の世界の――、特に魔法に関する教育なんかは異質だ
そもそも、シェルやドロップといった便利なマジックアイテムがあったとしても、魔力の使い方をおぼえるキッカケとして、簡単な魔法くらい教えてもいいのに、賢者様の世界では、そういった魔法が使えるのは、ホリルさんのような、どこか人里離れた場所で暮らすエルフなど、一部の集団くらいだという。
そして、【東方の大賢者】なんて呼ばれている賢者様だって、はじめてこの店にやって来た頃は、僕達が魔法と聞いてイメージする魔法らしい魔法は錬金術以外に使えない状態だったんだし、宗教関係者というか、その世界の権力者が、育児教育の部分でなにかやっているのではないかという想像もあながち間違っていないようにも思えてしまう。
「ただ、いまになっちゃ俺には関係ない話だからな」
「……まあ、それはそうですよね」
そう、賢者様がろくな魔法を使えなかったというのは以前の話である。
現在は万屋で魔法式を得ることによって魔法を使えるようになっている。
少なくとも賢者様のお子さんが教育関係の裏事情で一部の魔法技能を獲得できないなんてことはないのである。
◆次回は大晦日の投稿を予定しております。