●疑惑のベビー用品・虎助 with 元春
◆年末はパキート&ロゼッタ夫妻に送るベビー用品に関わるSSを三話、各日で投稿する予定となっております。
――ということで、一話目をどうぞ。
ある日の放課後、部活に赴く正則君と次郎君と昇降口で別れた僕は、薄曇りの空の下、校門へと向かいながら隣を歩いていた元春にこう話しかける。
「ねぇ元春、ホームセンターに寄っていってもいいかな」
「ん、別にいいけど。ホームセンターに寄ってなに買うんだ」
「紙オムツとかミルクとかそういうのだね」
「えっ、紙オムツにミルクって――、
ああ、ロゼッタちゃんに赤ん坊が生まれんだっけか。
つか、そういうの前に万屋で作るとか言ってなかったか」
「そうなんだけど、紙オムツや粉ミルクなんかは普通に買った方が早いでしょ」
見本さえあれば工房で大抵のものは作れる。
だが、地球で簡単に手に入る消耗品をわざわざ工房の労力を使って作るのはナンセンス。
だから、紙オムツに哺乳瓶、そして万屋での生産が難しい粉ミルクなんかはホームセンターでさくっと手に入れておきたいのだ。
ちなみに、今から行くこのホームセンターは学校や家からちょっと離れた場所にあるホームセンターなのだが、実績によって体力や走力が上がっている僕や元春からしたら大した距離ではない。
ということで、元春としても特に文句を言うこともなく、人目の少ない道を選んで駆け足で――とはいっても、それは実績によって強化された僕達基準の駆け足になるので、そのスピードは相当なものになるのだが――ホームセンターまで移動。入り口のところでショッピングカートを確保した僕達は、そのままオムツが並ぶ商品棚へ向かう。
「オムツっつっても思ったよりも種類があんだな。どれがいいのかとかわかんのか?」
「大丈夫、その辺はちゃんと調べてきたから」
棚一面にならぶ紙オムツの数にどこか呆れたように聞いてくる元春。
僕はそんな元春からの問い掛けに、自分にしか見えない魔法窓を浮かべると、棚に並ぶ紙オムツの袋の中から、特定の商品を選び出し、ショッピングカートに積み重ねていく。
すると、元春が棚に貼り付けられていた値札を確認したみたいだ。
「つか、このオムツ高くね」
「オーガニックのヤツだからね」
「オーガニック?
なんでわざわざそんなものを――、
もしかしてそういう指定があったとか?」
元春のそれは、おそらくエドガーさんあたりを念頭においた発言だったのだろう。
しかし、今回のこれに関しては特にこれといった指定はなく。
「ううん。これはどっちかっていうと向こうで簡単に捨てられるようにってかな」
「言われてみると、たしかにオムツとか、向こうで捨てるってなると難しいのか」
現在、フレアさん達が暮らしているのは、まさに大自然そのものというべき深い深い森の中。
そんな森の中に普通の紙オムツを投棄するのはさすがにいかがなものか。
ということで、自然への配慮から、オーガニックがいいのではとこれを選んでみたのだ。
まあ実際、例えば錬金術などで処理すれば、それがオーガニックではなくて、どんな素材が使われたオムツだったとしても、きちんと自然に還すことが出来るのだが、一日でも結構な量を使う紙オムツを、一枚一枚いちいち錬金術で分解するのも面倒だろうし、エドガーさんからは――宝石類での支払いにはなるが――あらかじめ、かなりの資金をいただいている。
だったら、贅沢しても処分しやすい紙オムツを選んだ方がいいだろうと、今回は遠慮なくこれを選ばせてもらったのだ。
と、どうして今回、お高いオーガニック素材の紙オムツを選んだのかというその理由を元春に説明しながらも、僕はショッピングカートが山盛りになるくらいにオーガニックな紙オムツを積み上げていくのだが、
「結構な量だな」
「ネットで調べたら、赤ちゃんが生まれて二ヶ月くらいは、お尻がかぶれたりしないようにって、頻繁に変えた方がいいみたいだから、ちょっと多めに買っておいた方がいいと思ってね。
まあ、むこうには浄化や回復の魔法もあるから、そこまでする必要はないと思うんだけど、一応ね」
ちなみに、浄化の魔法が紙オムツにどのような影響を与えるのかは、きちんと実験をした後でなければわからない。
だた、その実験をここでするわけにはいなないということで、
とりあえずは三ヶ月分くらいかな。
大量の紙オムツを確保したら、次は粉ミルクだと、紙オムツだけでほぼ埋め尽くされたショッピングカートはここに放置して、すぐ隣にある粉ミルクコーナーに移動する。
ちなみに、エドガーさんによると、生まれてきた赤ちゃんはロゼッタ姫が母乳で育てるということで、粉ミルクはあまり必要のないものかもしれないのだが、
たとえば、母乳の出が悪いなんて時もあるかもしれない。
なので、それに備えて粉ミルクに消毒液と、消耗品の類を元春のカートに入れていき、最後に哺乳瓶を選ぶ訳なのだが、これは飲み口に好みがあるみたいだから、どんなものを買っていけばいいのだろう。何故か真っ先に哺乳瓶のコーナーに向かった元春の後を追うと。
元春が見本として置かれていた哺乳瓶の一つ、その先っぽを意味ありげに触りながら。
「しかし、姫の母乳とか羨ましくね」
いや、君は真面目な顔してなに言っているのかな。
あと、僕はどんな顔してその質問に答えたらいいのかな。
元春の、元春による、元春らしい質問に、僕は心の中でそんな批難の声を作る。
ただ、元春としては特に答えを求めてした質問ではなかったみたいだ。
白けた目線を送る僕の言葉を待つでもなく。
「てかよ、母乳なら俺のライカの出番なんじゃね。ライカの乳があれば粉ミルクとかいらねーんじゃね」
そういえば、元春のスクナであるおっぱいスライムのライカには〈おっぱいシャワー〉なんて特技があったね。
「でも、あれって飲んで大丈夫なものなの?」
精霊が生み出すそれが危険なものでないことは間違いないだろう。
だがしかし、出処が出処なだけに、なにかあやしげな成分が――じゃなくて、なにか特別な効果が付与されているんじゃないだろうか。
そんな僕の声に元春が言うのは、
「いや、むしろ元気になるって感じだぞ、元気ハツラツってな」
「待って、元春、あれ飲んだの?」
予想外っていうとちょっと違うのかな。
ある意味で意外な返事に聞き返すと、元春は『しまった』と口元に手をもっていきながらも、すぐに観念したように。
「前に風邪引いた時があっただろ。
あん時、ライカに飲まされてな。
それが意外と良かったんで、それからたまに飲ませてもらってんだよ」
そういう事情を聞かされると、なんとなくいい話に聞こえるけど……、
「ちなみに最近、例の卵の殻を合体させたからか知んねーんだけどよ。味が深くなった気がすんだよな」
ああ、ライカ達のカードには精霊の卵の殻を混ぜ込んだんだっけ?
その効果なのか知らないけれど、どうも、その母乳(?)がかなり美味しくなっているそうだ。
ただ、それはいいとして――、
「エドガーさんがなんていうかわからないし」
ものがあの、怪しげな――といったらライカに失礼かな。
とにかく、それがおっぱいスライムからの分泌液だと知れば、たとえ精霊が宿った存在が出したものだとしても、過保護という言葉が梟の革を被っているようなエドガーさんがそれを良しとするとは思えない。
「ま、そりゃそうか」
と、そんな話をしながらも、とりあえず、わからないなら一通り買えばいいと幾つかの飲み口を確保。
必要な商品もこれで一通りかなと、魔砲窓片手にカートの中身を確認すると、紙オムツが山盛りになったカートの方を回収。
レジに向かうと、
レジ前では僕達みたいな高校生が大量のベビー用品を買い込む光景が奇異に映ったのかな。かなり注目を浴びてしまったが、僕達はあえてそんな視線を無視。
素早く会計を済ませると、そそくさとホームセンターを後にする。
そして、周囲からの視線を避けるように建物の影に隠れ、買った紙オムツや粉ミルクなんかを、あらかじめ持ってきておいたマジックバッグの中に収納。
僕達は足早にその場を後にした。
◆次回投稿は29日になります。