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●男の料理

◆今回はフレアとパキートのショートストーリです。

 それは、梅雨も間近かというある日の夕方、

 その日はアヴァロン=エラに住まう水の大精霊の機嫌があまりよくなかったのか、雨の少ないアヴァロン=エラとしては珍しく、しとしと降り続く雨の中、万屋に駆け込んできたフレアのある相談から始まった。


「お二人にでも出来る料理ですか?」


「ああ、姫の出産も近いみたいでな。みんな妙に気を張っているようでな。俺とパキート殿でなにかできないかと思って相談に来たのだ」


『できれば、僕達でも失敗しないような簡単なものがいいかな』


 ちなみに、魔王であるパキートは、臣下であるエドガーなどからアヴァロン=エラに来ることを止められている。だから念話通信越しの会話となっている。


 虎助は、そんな二人からの相談に『ウチはそういう店じゃないんだけどな』と心の声で苦笑しながらも、それでもお客様からのニーズに応えるのが店主の務めだとインターネットを開いて、必要な情報を集めていく。


 ちなみに、簡単な料理を教えて欲しいという二人のリクエストに、虎助がわざわざインターネットを開いたのには理由がある。

 ある程度、料理ができる虎助からすると、料理下手な人が簡単に作れる料理のレシピなど調べるまでもなく幾つか心当たりがある。

 ただ、今回はその料理を食べて貰う人の中に妊娠中のロゼッタ姫がいる。

 虎助もあまり詳しくはないのだが、世の中には普通の状態の人間が食べても大丈夫なものでも、妊婦に食べさせるのにはあまり好ましくないという食品が少なくないという。

 だから虎助は、妊婦が食べても問題がなく、あきあらかに料理ができなさそうなフレアとパキートの二人にも失敗がない料理をと、『妊婦』『栄養』『レシピ』などをキーワードにインターネットから情報を集めることにしたのだ。


 と、そうやって検索すること数分、虎助は二人の要望を叶えるための料理をいくつかピックアップ。

 そんなピックアップの中から特に簡単なレシピが乗ったページを二人が見えるようにスワイプ。

 すると――、


「そうですね。これなんてどうでしょう」


「これは――」


『成程、これなら僕達でも作れそうだね』


 虎助から送られてきた魔法窓(ウィンドウ)を覗き込み、これなら自分達でもできるのではと、フレアとパキートがリアクション。


「では、これで材料を買ってきますがよろしいでしょうか」


 虎助はそんな二人のリアクションに、これなら後は材料を揃えるだけでしょうかと二人に確認。


「ああ――」「お願いしますね」


 二人からのゴーサインが出たところで、いったん自宅へと戻るのだった。




 と、そんな万屋での一幕があった翌日、

 フレアとパキートの二人は、まだ夕食には少し早い日の入り前のわずかな時間、ログハウスに住まう一同を集めて「「今日の食事は俺達(我々)が作るから」」という宣言をしていた。


 一方、そんな宣言を聞かされた一同はというと『フレア(パキート様)が料理を作る?』と困惑していた。

 どうして、彼ら、彼女らが、こんなリアクションをしているのかというと、それは言わずもがな、フレアとパキートの二人が普段から料理をするタイプの人間ではないからだ。


 特にパキートの場合、旅の空の下、身重のロゼッタを気遣って、料理なら自分が作るからと言い出し、エドガーとロゼッタが心配そうに見つめる中、これは魔法薬ですかと言わんばかりの苦々しい謎のスープを作り出したということがあったりしたのだから救いようがない。


 そんな二人が料理をするなんて、どう考えたって嫌な予感しかしない。

 どうにか二人を思い止まらせることは出来ないか。

 二人からの料理は任せて宣言に、フレアの仲間はもとより、パキートの配下のまでもが心配をするも。

 二人に『日頃の感謝』を理由にあげられ、眩しい笑顔で『たまには自分たちにもなにかさせてくれ』なんて言われてしまっては、その気遣いを無下にしてしまうのははばかられてしまう。


 なので、フレアとパキート、それとロゼッタ姫を除く一同は、二人の料理が失敗に終わった場合に備え、慰めの言葉と簡単に作れる食事の用意をしつつも、二人の料理ができあがるのを恐る恐る待つことに。


 ただ、そんな一同の予想に反して、二人の料理はそれほど苦労することもなく完成してしまう。


「それで二人で作った料理がこれなのね」


 そう言って、ティマが見つめる先にあるのは、緑と赤、色鮮やかな角切りの野菜が散りばめられた麺料理。

 その思わぬ料理の出来栄えに驚くティマ達。


 すると、そんなティマ達の反応に、フレアが堂々と胸を張り。


「トマトとアボガドのサラダそーめんという料理らしい」


「らしい――というのはどういうことです?」


 自信満々ながらもどこか曖昧なその説明に首を傾げるのはポーリだ。


「虎助に教えてもらったのだ。我々でも簡単に作れるものをと言ってな」


「簡単に――、これがですか?」


 ポーリから見ると、このトマトとアボガドのサラダそうめんという料理は、その見た目から、簡単に作れる料理ではないという印象であったのだが、フレアはそんなポーリの問い掛けに「ああ」と明るく応え。


「茹でて、切って、混ぜるだけ。ただそれだけだ」


「それだけで、これが?」


「うむ、このめんつゆというものとツナ缶があれば味付けの心配もないそうだ」


 そう言って、フレアがドンと机の上に乗せたのは、この料理の核となるめんつゆとツナ缶だ。

 すると、机の上に乗せられたそれらを見たティマが、


「たしかに、そのツナ缶ってヤツはパンに乗っけて食べたりすると美味しかったわね」


 ティマは例の遺跡でのキャンプ生活、それ以外にも、マヨネーズとあえるだけで、いや他の調味料を使っても、下手な料理をなかなかの味に引き上げることが出来るツナ缶のお世話になっていた。

 故にその有用性は理解しており。


「ちなみに、このめんつゆとやらは鳥を焼く時や芋を似たりする時に使うとうまいらしいぞ」


 ここぞとばかりにそんな紹介を入れられてはトマトとアボカドのそうめんそのものも気になってくる。


「まあ、とりあえず美味しいから食べてみてくれるかな」


 パキートのすすめにややおっかなビックリではあるものの、それぞれが食器を手に一口。

 驚いたように目を見開いて、


「これ、本当にお二人が作られたのですか?」


「驚いたかな」


「ええ」


 少し行儀が悪いだろうか、口元を抑えながらも聞いてくるロゼッタ姫。

 彼女にニコリと朗らかな笑みで返すパキート。


「パンやお菓子が美味しいのは知ってたけど、こんなものまであるなんて」


「私としましては、このボリュームはちょっと多かったのではと心配しておりましたが、この美味しさならスルスル入っていきますね」


「美味しい」


 そして、ティマにポーリ、メルのリアクションを見て、フレアが『うむうむ』と満足そうに何度も頷く。


 結局、その後は最後まで誰の手も止まることなく。


「ごちそうさまでした」


「また、作ってくださいね」


「任されたよ」


「ふふ、期待して待っていますね」


 ロゼッタ姫からのリクエストにパキートが嬉しそうに顔をほころばせ、フレアはフレアで姫が喜んでくれたことに、ティマ達からの称賛を受けて自慢気に胸を張る。

 その後、この森に集うメンバーの食卓には、ことあるごとにそうめんが登場することになるのだが、一同は常に笑顔でそれを食したのだという。

◆今回のお話で一番悩んだのは『そうめん』の表記を、ひらがなにするか、カタカナにするか、漢字にするかでした。個人的にどの表記もいまいちしっくりこないんですよね。

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