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精霊金と調査の準備

「これはパリパリしていて美味しいですわね」


「……お茶とよく合う」


 マリィさんと魔王様がお茶請けに食べるのはカドゥケウスの骨せんべい。

 昨日、賢者様に試食として出した蛇料理のあまりで作ったオヤツである。


 ちなみに、カドゥケウス討伐におけるマリィさんの配分だが、マリィさんは特に皮を多く仕入れたいとのことである。

 なんでも、いまやミスリル製品の産地として有名になったマリィさんの領地には、数多くの商人や傭兵、冒険者などが集まってきており、そのおかげもあってか、領地には大量の魔獣素材が持ち込まれるようになっているらしく、それにより、領地では魔獣の革を加工をする職人の腕前がかなり向上しているそうなのだ。

 それら革を扱う職人達なら、このカドゥケウスの革をうまく加工して、また新しい特産品を作ってくれるのではという目算が、マリィさんにではなくスノーリズさんにはあるみたいなのだ。


 と、そんなこんなで、マリィさんの取り分は革を多めに、あと肉の方も、うまく乾燥させてやれば長期保存が可能な錬金素材として使えるとのことで、錬金術を目指している人間の育成に利用できるのではないかと、こちらのほうもそれなりの量をご所望のようだ。


 と、そんな風にカドゥケウス討伐の配分の話をお茶を楽しみながらしていって、次に話題の中心になるのは魔王様が持ち込んだ金色の鉱石だ。


「これが精霊金ですか?」


「……ん」


「オリハルコンではありませんのね」


 魔王様がカウンターの上に出してくれた欠片を見て、まずマリィさんが疑問に思ったのは、精霊金という特殊な呼び名とその色から、上位魔法金属であるオリハルコンだった。

 しかし、こればっかりは実際に鑑定してみなければわからないと。


「とりあえず僕が鑑定してみましょうか、いきなりオーナー(ソニア)に見てもらっても、なんの変哲もないものだったら時間の無駄でしょうし」


 現状、集められた情報から、これが例のボロトス帝国から送られてきた侵入者達が探していた精霊金ではないかと推理しているが、それはあくまで僕達が――というかフルフルさんが――勝手に言っていることでしかなく、とにかく、まずは分析をしなければと、この精霊金(仮)の鑑定することになったのだが、


「あれ?」


「どういたしましたの?」


「いえ、この欠片の鑑定結果がアダマンタイトってなっていまして」


「アダマンタイト。それはどういうことですの?」


 マリィさんが困惑するのも無理もない。

 アダマンタイトとは血液そのものが結晶化したような見た目の上位魔法金属で、この黄金色をしたこの欠片とはまったく似ても似つかわしくないものだったのだ。

 ただ、この鑑定結果はソニアが調整した金龍の眼がはじき出したものであり、その結果はまず間違いないだろうということで、


「つまり、これがアダマンタイトであることは間違いないと」


「はい。そうですね」


「しかし、そうなりますと、これはどういうことになりますの?

 外側だけ金で中身がアダマンタイトなっているなどと、そういうものになるのでしょうか?」


 鑑定結果がアダマンタイトなら、金色なのは外側の部分だけで、その中身はアダマンタイトなのではないかと、マリィさんはそう言うのだが、


「それはないんじゃないでしょうか。

 この結晶はもっと大きな結晶でしたハズでしたから」


 僕の記憶が確かなら、魔王様たちの拠点の地下深く、夜の大精霊であるニュクスさんが住まう地底湖に生えていた黄金のクリスタルは、こんな欠片サイズものではなかったハズだ。

 それこそ人の手足ほどある大きな結晶で、この欠片がそんなクリスタルから採取されたものたとしたら、そのうち一面は本来のアダマンタイトと同じ紅の色をしているのではないか。

 それを、この精霊金(仮)を持ってきてくれた魔王様に確認したところ、魔王様は「ん」と頷き。


「……ニュクスが先っぽを切ってくれた」


 おそらくそこが断面になるのだろう、魔王様がくるっとひっくり返して見せてくれた裏面はつややかな金色で覆われていた。


「こうなるとやっぱりソニアに見てもらうしかないですかね」


 金龍の眼の鑑定ではこれ以上のことはわからないとなると、あとはソニアに頼るしかない。

 ということで、ベル君に頼んで精霊金をソニアの研究室へ持ち込んでもらうと、ソニアも持ち込まれたその金色のアダマンタイトに強く興味を引かれたみたいだ。

 その返事は意外と早く返されて――、

 十分と待たず、ポンと立ち上がった魔法窓(ウィンドウ)越しにしてくれた話によると。


『結論からいうと金龍の眼の鑑定結果は間違っていないね。

 ただ、この精霊金ってヤツは精霊の力によって変質したものみたいだね』


 つまり、フルフルさんが精霊金じゃないかと教えてくれた金色のクリスタルは、ニュクスさんの力によって上位魔法金属化したアダマンタイトってことになるみたいだ。

 そして、どうしてこのアダマンタイトが他のアダマンタイトと違って黄金色をしているのかと言うと、それはソニアでもわからないらしく。


『とりあえず、いまわかっていることは、この精霊金ってのが通常のアダマンタイトと違って、そこそこ(・・・・)魔力を通す特徴を持っているってことかな』


 アダマンタイトの特徴は、そのなにものにも勝る硬さと、あまりに密な構造の為、魔力を通す余裕を持たないことである。

 しかし、この黄金色のアダマンタイ(精霊金)トは、その特徴の一つ、魔力や魔素を通さないという性質が失われているとのことである。


「でも、それって逆に使い勝手がいいってことにならないかな」


 アダマンタイトに魔力が通るなら、オリハルコンで作ったものより頑丈な魔法剣が作れるのではないか?

 ソニアの説明に、僕は単純にそう思ったのだが、ことはそんな単純なものではないらしい。


『それはどうだろう。魔力を通すといっても他の魔法金属に比べたら全然だから、そこまでの有用性はないと思うよ』


「そうですか、(わたくし)としましてはそれが求める理由かと思ったのですが――」


 ふむ、マリィさんも僕と同じようなことを考えていたみたいだ。

 ソニアの出した結論に、マリィさんがガッカリしたような表情で呟く。


 しかし、そういうことなら、魔王様たちが暮らす森に侵入した彼等は何を目的にこの精霊金を求めたのだろうか。

 ソニアが言う通りなら、アダマンタイトやオリハルコンの方がよほど使える金属なのではないだろうか。

 ソニアの話を聞いて僕はそう思ったのだが、


『ただ、逆にそういう金属が手に入らないから、その代用をってことも考えられるんだよね」


 ああ、そもそもアダマンタイトやオリハルコンなんてものは、そう簡単に手に入らない伝説の金属だったね。

 そう考えると、誰の入れ知恵か(・・・・・・・)、魔王様の拠点となる森へ行けば確実に存在するだろう精霊金を求めて、魔王様が暮らす森に挑むという理由もわからないではない。


 しかし、その推理を確実なものにするには、魔王様が暮らす世界で上位魔法金属がどんな扱いになっているのかを知る必要がある。

 だから、僕が魔王様にその世界における上位魔法金属の流通量を聞いてみるたところ、魔王様はそんな僕の問いかけに力なく首を左右に振って、


「……ちょっとわからない」


 そういえば、魔王様は生まれてこのかた自分が暮らす森から出たことがないんだっけ?

 転移魔法による拠点探索という意味では、魔王様はいろいろな場所へいっているのだけれど、そもそも魔王様の求めていたのは自分達に迫害が及ばないような人里離れた場所であって、魔王様が暮らす世界に限ったことではないのだ。

 だから、その世界において一般にどんな素材が出回っているのかなんてわからないと――、

 これは、ちょっと僕の配慮が足りなかったかな。

 僕は少し落ち込んでいるようにも見える魔王様に「気にしないでください」と声をかけながらも、さて、魔王様をどう励まそうかと考えていると。


『どうせだからその辺りの情報も合わせて調べてみるといいんじゃないかな。龍の谷って場所は遠いんでしょ』


 ソニアが僕のフォローをするようにそう言ってくれて、


『虎助、例のものをマオに見せてあげてよ』


 促す声に僕がカウンターの下から取り出したのは蚊を模したゴーレムのモスキート。

 そして、もう一体、『よいしょっ』と、取り出したこっちはそこそこ大きい大鷲型のゴーレムだ。

 それを見た魔王様は小さい声で、


「……カッコイイ」


「小さい方がモスキートで大きい方が蒼空です」


「蒼空?」


「ええ、青空って意味で、なんでも僕の世界にあった古い輸送機の名前だそうですよ」


 うん。どういうこだわりか、ソニアがそう名付けたのだ。


「輸送機ですか……、

 それにしては装備が物々しいですが」


「行く場所が行く場所ですから」


 モスキートや蒼空を作るにあたってリドラさんには龍の谷の周辺環境を軽くリスニングしている。

 それによると、どうもそのリドラさんが暮らしていいた龍の谷というのは、周囲を魔の森に囲まれた山の合間にあるそうで、空を飛ばないと近づけないような天然の要塞だとのことで、だったら備えあれば憂いなしと、ソニアがいろいろな機能を取り付けてくれたのだ。


「しかし、それほど危険地帯におもむき、一体でも危険な龍種の血液を回収。持ち帰ってくる。

 というのは、大変な作業になりそうですわね」


「それに関しては、ちょっと考えがありまして、実は蒼空の位置を探知、その場所まで行って帰る、運搬に特化した自動操縦タイプの輸送機も、現在オーナー(ソニア)に作ってもらっているんですよ」


 それは、集めた素材を金属製の小箱のようなマジックバッグに収納、それを交換することによって受け渡しが可能とする機体ということだ。

 こうすれば、マジックバッグだけを交換するだけで素材のやり取りが簡単に出来るのだ。


「成程、それは便利そうですわね。是非、(わたくし)達のプテラにも取り入れたい機能ですわね」


「完成すれば是非。

 手に入れた素材はウチで買い取りますのでじゃんじゃん取ってきてくださいね」


「……頑張る」


「はい。そうしてくれるとありがたいです。通信の範囲が広がればボストロ帝国の動きなど、その他、市井の事情も手に入るようになるでしょうから」


「……楽しみ」

◆蒼空の解説。


 蒼空……大鷲型の遠隔操作ゴーレム。マジックバッグとして加工した魔法金属製のカプセルを内蔵することによって大量の物資を遠方まで運ぶことができる。

 長距離かつ危険地帯への移動を目的としているため、そのボディは戦闘機でおなじみのジュラルミンやらチタニウム合金の魔法金属、そして、錬金術によって強化された繊維強化プラスチック(FRP)などが使われている。

 ちなみに、主な武装としてディロックを弾として撃ち出せる圧縮空気砲が装備されている。

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[気になる点] しかし、この|黄金色のアダマンタイト《精霊金》は、その特徴の一つ、魔力や魔素を通さないという性質が失われているとのことである。 ルビは10文字までに対応しているので「黄金色のアダマン…
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