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収容施設と事情聴取02

 ドヴェルグの少女の事情聴取を終えた僕達は、奴隷になっていた獣人たちを目覚めさせ、この森にやってきた目的を聞いてみることにした。

 しかし、奴隷として連れて来られた獣人達は、始めから使い捨てにされる予定だったのか、大した情報を持っていなかった。

 そもそも、ドヴェルグの少女を除く彼等は、どうもこの森に来る直前に買われた戦奴だそうで、自分がどんな場所に放り込まれたのかも、よくわかっていなかったというのが本当のところのようだ。

 ただ、彼等もまったく情報を持っていなかったわけではなくて、

 自分達がどこで買われたのか、どのような道順でここまでやってきたのかはおぼえていて、そこから、彼等を買った人間たちが『ボロトス』という国の人間ではないかという予想はしてくれた。

 その後、没収した荷物の中から、その国で多く使われているお金が見つかったことから、彼等の予想は間違っていないのではないかということになったみたいだ。


 ちなみに、ここまでの情報は、奴隷から開放された喜びからということもあったのだろうが、なによりも絶対強者である龍種(リドラさん)に凄まれては反抗することもできないと、すんなり集めることができた。

 というよりも、リドラさんという存在を認識した瞬間、腰布一枚の状態にも関わらず、服従の証としてお腹を見せてきたのには、まったく何事なのかと思ったものである。

 モザイクを掛けてなかったら、阿鼻叫喚の地獄が待っていたんじゃないかな。

 実際、元春からしてみると、モザイクをかけてもかけていなくても、いい大人の男がM字開脚からの腹見せ状態でズラッと並ぶといった光景は、悪夢以外のなにものでもなかったのかもしれない。

 元春が嘔吐くようにして一時退席するなんてハプニングに見舞われながらも、ドヴェルグの少女と獣人の事情聴取はほぼ終了。

 これ以上、彼等から聞き出せる情報はなさそうだと、本命の人間たちからの尋問に移ることに。


 さて、人間たちへの尋問だが、ドヴェルグの少女に懐かれてしまったという理由を口実に、魔王様だけは僕達と同じく魔法窓(ウィンドウ)越しの参加となった。

 人間たちの尋問の後に、例の女エルフからも事情を聞かなければならないということで、安全面や魔王様の精神的な影響を考えて、あえてそうしたのだ。


 そして、人間たちの中で尋問のトップバッターに選ばれたのは髭面の金髪男。

 戦いの最中、この男がグループを取り仕切っていたということで、この男が一番情報を持っているのではないかと思われるからだ。


 アインスに乗ったフルフルさんを先頭に、アラクネお姉さんが数名、部屋に入り、尋問の準備を整える。

 そして、準備が整ったところで、リドラさんが部屋の中に首を突っ込んで、アラクネのお姉さんが男を目覚めさせるために魔法薬を無理やり飲ませると。


『目覚めよ。目覚めよ』


『ん、んん――』


 これはどこかの宗教かな。

 そんなツッコミが入りそうなリドラさんが声を受けて目を覚ます髭面の男。

 男はしばらくまどろんだ後にムクリと体を起こして、


『ここは――、どこだ?』


『目覚めたか、目覚めたのなら話を聞かせてもらうぞ』


『話?』


『そうだ。貴様がなぜ我等の領域に足を踏み入れたかを聞かせるのだ』


『なにを訳のわからないことを、それよりもお前、俺に向かってなんて口の聞き方している。俺はボロトス帝国の百人長だぞ』


 リドラさんの質問に苛立った様子の髭面の男。

 どうやら誰に声をかけられたのか気付いていないみたいだね。

 ただ、リドラさんからすると、男の身分などどうでもいいことであり。


『貴様がどこの誰だろうとどうでもいい。それよりも貴様がこの森に入った目的を吐くのだ』


『だから――、お前は、俺を、誰だと思っている……』


 と、ここでようやく自分が何に声をかけられているのか気付いたみたいだ。

 男は自分を覗き込むようにしているリドラさんの顔を見て一気にトーンダウン。

 先程までの態度が嘘のように静かになったところで、


『では聞かせてもらおうではないか、そのボロトス帝国の百人長とやらがどのような理由で、聖域ともいえるこの場所に足を踏み込んだかを』


 自分と相手の立場をはっきりさせた上で真っ正直に切り込んでいくリドラさん。

 しかし、男の立場を考えると、その理由は簡単に喋っていいようなものではないのかもしれない。


『では、今一度聞くぞ。貴様らはどのような目的があってこの森にやってきたのだ』


 男の都合などお構いなしに質問を繰り返すリドラさん。

 だが、男は口を真一文字にだんまりを決め込む。


『マオ様を狙ってのことか』


 ならばと質問を変えるも男は答えない。


 そして、『大精霊様を狙ったのか』『貴様がなにも答えぬのなら罰を与えなければならぬのだが』と続け様に質問を繰り出していくのだが、それでも男は無言を貫いて、

 リドラさんはそんな男の頑なな態度にわざとらしくため息をこぼし。


『しゃべるつもりはないのなら罰を与えることになるのだが』


 意味ありげにそう言うと、

 部屋の片隅、魔法薬が並べられたテーブルの前に陣取るフルフルさんとアラクネのお姉さんの方を見る。


 すると、男はそんなリドラさんの視線を追いかけるようにして、フルフルさんの周りに置かれた色とりどりの魔法薬に嫌な予感を感じたのだろう。


『なんだ。何をするつもりだ!?』


『貴様は聞かれたことだけに答えていればそれでいいのだ』


 不安を紛らわすように叫ぶ男に語気を強めるリドラさん。


『貴様が何も話さないのなら罰を与えることになるのだが』


 そして、これが最後の通告だと、あえて柔らかな口調で話しかけるのだが、男の態度は変わらない。


 と、そんな男の反応に『やむを得まいな』とリドラさんは呟き、フルフルさんに頷きを送り。

 それを受けたフルフルさんが『了解です』と敬礼。

 テーブルに置かれた魔法薬を一つ抱えると、すぐ傍らに控えていたアラクネのお姉さんさんにその栓を開けてもらい、えっちらおっちら男の頭上まで魔法薬を運び飛んでゆくと。


「自分にかからないように注意してくださいね」


 僕の心配に『おっけ~』と余裕のない声で答えながらも、抱えていた小瓶を慎重に傾け、瓶の中の液体をアラクネの糸によって動けない男の頭に浴びせかける。


『な、何をした』


『安心しろ。この液体で死ぬことはない』


 叫ぶ男に冷淡な声を返すリドラさん。

 リドラさんが言う通り、この魔法薬は特に危険のある薬物ではない。

 もともと、ここに用意したポーションは、妖精飛行隊のみなさんが投下する爆弾が足りなくなった場合にと、万屋では売れない不良在庫を渡したものでしかないのだから。


 そして、フルフルさんがいま選んだ魔法薬は、母の日に母さんにプレゼントしようと僕とマリィさんが開発した魔法薬の一つ。


「これは脱毛ポーションですね」


『だ、脱毛だと!?』


 それは女性の悩みである体のお手入れを簡単にするポーション。

 脱毛効果が思いのほか高く、美容品として日常的に使うのにはちょっと扱いが難しいと、お蔵入りになっていた魔法薬だ。

 フルフルさんはそれを引き当ててしまったみたいである。

 脱毛ポーションを浴びせかけられた男の頭が淡い緑色の光に包まれる。

 魔力反応が収まったそこにいたには、見るも無残、短く切りそろえられた金髪がバーコードのようになってしまった髭面の男がいた。


「おいおいフルフルっち、そのハゲ方ヤバすぎんだろ」


『そんなこと言われても、私もつるつるになりたくないから、かからないようにって、ブフッ』


 あんまりにもあんまりな男の頭に笑い転げる元春。

 そんな元春の声に、フルフルさんも自分は悪くないといいつつ、こらえきれず笑い出す。

 そして、天然で被害者の神経を逆なでする困った二人の一方で、リドラさんはあくまで冷静に。


『さて、そろそろ話す気になったであるか』


 罰を受けて話す気になったかと男に声をかけるのだが、


『ふ、ふざけるな。この程度のことで俺が屈すると思うのか!?』


 まあ、多少髪の毛がなくなったくらいではそうなりますよね。


 ちなみに、このポーションの脱毛効果の効力は一ヶ月となっている。

 だったら、一ヶ月後にはまた髪の毛が生えてくるのかといえば、それはあくまで手や足のムダ毛に対して行った効果であって、この魔法薬が毛髪にどのような影響を与えるのかはまだ未知数。

 ものが魔法薬なだけに二度と生えないなんて可能性もなくもないが、それは彼に身を持って実験してもらうとして、


『話す気はないとなると、罰は続行ということになるのだが、覚悟はよいか』


『無駄だ。たとえすべての髪を失ったとしても俺の心を折ることはできない』


「ブ――」


 えと、なにやらカッコイイ雰囲気なんだけど、それは元春のみならずマリィさんまでもが決壊寸前な発言である。

 そして、


『馬鹿め。同じ魔法薬を使うわけがあるまい』


 そう、ここに用意されたポーションはあくまで万屋の不良在庫だ。

 僕が万屋では売り物にならないと判断した魔法薬を提供しているものだから、同じ効果を持つポーションはほとんどなく。

 次にフルフルさんが選んだ透過した魔法薬は――、


『冷た。いあ、熱っ、なんだ、これ、あ、熱い。

 ああ、なんだこれは!?

 妖精、お前、俺になにをかけやがったっ!!』


 転げ回るバーコードハゲな髭面の男。

 そんな男の様子に、魔法薬を振りかけたフルフルさんは勿論、他のみんなも少し困惑しているみたいだが、


「え、なんなんコレ。毒?」


「いや、たぶんこれは魔法薬の色とその反応からして、正則君に頼まれて作った筋肉痛の時に体に塗るポーションの失敗作だと思うんだけど」


「ちょっ、なんでそんな薬でこんなことになってんだ」


「鎮静効果は高いんだけどね。あまりにスーッとするから使えないってことになったんだけど」


「つまり、なんだ。それだけ刺激が強いってことか?」


『少々やりすぎてしまいましたか?』


「いえ、僕達が使った時はそこまでではありませんでしたので、単純にその男がその刺激に慣れてないってこともあるんじゃないでしょうか」


 リドラさんが心配しているのはやりすぎを嫌う魔王様への配慮だろう。

 ただ、僕や正則君がこの魔法薬を試しに使ってみた時は、ここまでの状態にはならなかった。

 そのことを考えると、単純に魔法薬の効果が強すぎるのではなく、異世界の住人であるその男がメントールの刺激に慣れていないと、その所為で大袈裟なリアクションになってしまったと、僕としてはそう予想するのだが、


「でもよ。この反応、さすがに大袈裟過ぎんじゃね。

 つか、これって、垂れていったヤツがアソコについたとかなんじゃね。

 あれってめちゃくちゃいてーだろ」


「どういうことですの?」


「あの、それはですね。この薬はもともと筋肉痛とかに効くような薬なんですけど、それが目の周りとかにつくと凄く痛い薬でして」


「いや、そうじゃなくてよ――」


「元春は黙ってて」


 うん。元春の一言で、僕もどうしてこの人がこんなに痛がって理由がよくわかった。

 しかし、それをバカ正直に説明したら、また面倒なことになるからと、僕は余計なことを言いかける元春を強引に黙らせて。


「とりあえず、この人はこのまま放置で、他の人に事情を聞いた方がよさそうですね」


『そうですな。捕虜はまだまだいますからな』


 そう、今回、捕まえた人間はこの男だけではないのだ。

 この男から話を聞けないのなら、この惨状をネタに別の人から話を聞き出せばそれでいい。

 ただそれだけなのだから。

◆メントール系の薬って時に凶器になりますよね。その効果が強化されていたら、そして、あえて言及はしませんが、その薬が粘膜に流れ着いてしまったとしたら、それはまさに灼熱の痛みとなるでしょう。

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