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収容施設と事情聴取01

 戦いはミストさん達の登場によって完全に決着したと言ってもいいだろう。

 もともと唐辛子爆弾の煙に弱っていたところに、粘着性を伴ったアラクネの糸で絡め取られたら、そう簡単には抜け出せるものではない。

 後は反撃を受けないように、蜘蛛糸で絡め取った相手に、ミストさんを始めとしたアラクネのお姉さんが自前の麻痺毒で動けなくしてしまえば捕獲完了。


 ただ、例の女エルフだけは、ゴリラ✕3(バイスリー)を引き裂いた人外の力やら、自爆覚悟で炎の魔法を使い、ミストさん達の糸を焼き切ろうとしていた。

 しかし、そんな女エルフの抵抗も、ミストさん達の頑張りと、少し遅れて現場に到着した魔王様の〈静かなる森の捕食者(アルラウネ)〉によって封殺。


 現在、侵入者を確保した魔王様たちは森の中にあるとある施設までやってきていた。


 ちなみに、この施設は、以前森に住み着いたというハチ型の魔獣が作り上げたものだそうだ。

 今回、捕まえた侵入者を一時的に留め置く場所として、ハチ型魔獣の討伐後、残っていたその巣を再利用。急遽、収容施設に仕立てたとのことである。


 そして、捕まえた侵入者達の処分だが、まずは、いつ状態異常が回復してもいいようにと、彼等の装備を引っ剥がすことにする。

 具体的には、この森に生息するミスティックモスという蛾の魔獣から取れる眠りの鱗粉を振りかけて、すでにあった麻痺の上に眠りの状態異常を重ね、安全を図ったところで、ぐるぐる巻になった蜘蛛糸を一時除去、身ぐるみ剥いでいくのだが、ここで回収された装備を見て、マリィさんがポツリと。


「しかし、このエルフも含めてそうなのですが、ずいぶんと貧弱な装備ですわね。よくもこんな装備でマオ達が暮らす森へ侵入しようと思ったものですの」


 そう呟くのだが、僕が見る限り、彼等が着ていた鎧の作りはしっかりしている。

 たぶんマリィさんとしては、万屋で売られている防具と比較してそんな評価を下しているのだと思うんだけど、通常、魔法金属なんてなかなか手に入れられないということを考えると、彼等の装備もなかなか頑張っている方なのではないのだろうか。

 そんな僕の指摘に、マリィさんも自分の認識がズレていたと理解してくれたみたいだ。「言われてみますと」と評価を修正してくれたみたいで、


 一方、身ぐるみ引っ剥がされた侵入者一同はというと、そのままの格好だと、マリィさんをはじめとした女性陣のお目汚しになると、装備を剥いだ端から魔法窓(ウィンドウ)のモザイク投射機能で自主規制。

 そのまま、アラクネのお姉様方に運ばれて、後は各部屋(すあな)に放り込み、ふたたびアラクネの糸でぐるぐる巻きにしてもらう。


 と、そんな風に、とりあえず面倒な人間と危険な女エルフを隔離したところで、ここで奴隷にされていた人たちを開放することになるのだが、


「魔王様、それで首輪は取り外せますか?」


 僕の問いかけに魔王様は『……ん』と頷き、まずは捕まっていたドヴェルグの少女からと、フルフルさん達が用意してくれた花冠を受け取った魔王様は、檻から出され、クッションの上に寝かされていた少女のその華奢な首元に手を伸ばし。


『〈不当交換(チェンジリング)〉』


 空間系の精霊魔法を発動。

 従属の首輪と持っていた草冠を交換。


「おお、なんかオサレな魔法だな」


 たしかに、絶望の象徴である奴隷の首輪が、可愛らしい花冠に変わっていく様はスマートな手品のようだ。

 魔王様は僕達の感嘆の声を受けて微かに口元を緩めながらも、そのままミストさん一同に武装解除されていく獣人奴隷達につけられていた首輪も次々回収。

 リドラさんがこの忌々しい奴隷の首輪をブレスで焼き払ったところで、


『……起こす?』


「えと、それはどうなんでしょう」


 眠るドヴェルグ少女と獣人一同を前にして小首を傾げる魔王様に、僕が誰にともなく問いをパスすると、リドラさんが『そうですな』と一拍、間を置いて、


『操られていたとはいえ、戦士をそのまま目覚めさせるのはどうなのでしょう』


「だったら、ちみっ子から起こしたらどうだ。

 んで、ちみっ子から事情を聞いて他のヤツも起こしたらいいんじゃね」


 たしかに、奴隷として連れてこられてきたとはいえ、体つきから戦闘に特化していることが見て取れる獣人達を目覚めさせるのには少々不安というリドラさんの意見も尤もだ。

 そして、元春の言わんとすることはわからないではないのだが、

 僕としてはドヴェルグの少女も場合によってはちょっと危険なような気もしないでもないが、


『たしかにこの娘一人なら暴れられたとしてもどうとでもなりますからな。構いますまい』


 リドラさんからしてみると、彼女は危険に当たらないと判断されたみたいだ。

 するっと滑り込んだ元春のアイデアがそのまま通ってしまい。


『ミスト。その者に解毒剤を飲ませてくれるか。

 だが、万が一の場合に備え、そうだな。彼女の腕に見えない糸を繋げておいてくれるか』


『りょ、了解です』


 リドラさんの指示でドヴェルグの少女の手に、もしもに備えて肉眼では察知不能な極細の蜘蛛糸をまとわりつかせて、万屋特製の解毒薬で彼女を目覚めさせることになるのだが、


「リドラさんは隠れていた方がいいのでは」


『む、それはどういうことですかな』


 リドラさんとしては魔王様が危険に晒されないように常に側に控えておきたいのだろうが、しかし、残念ながらリドラさんの存在感は威圧的だ。

 そこに気の弱そうなこのドヴェルグの少女が目を覚ましたらどうなってしまうのか。

 その結果は想像に難くない。


 だた、リドラさんとしては魔王様の安全が最優先な訳で、

 ならばここは折衷案。

 リドラさんにはアラクネのみなさんに急遽作ってもらった布の中に隠れてもらって、彼女の視界に入らないようにしてもらい。

 準備が整ったところで解毒薬を彼女の口に流し込む。

 すると、優しげな緑光がドヴェルグの少女を包み込み、みんなが注目する中、ドヴェルグの少女がゆっくりと目を覚ます。

 そして、体を起こしたドヴェルグの少女は、眠気眼で自分の周囲を見回して、魔王様とばっちり目があってしまったのだろう。パチパチパチっと高速でまばたきをしたかと思いきや、「ひぅ」と小さな悲鳴を上げて、リドラさんを隠す布の中に。


 そんな少女の行動に周囲が『あっ』と手をのばすも時既に遅し。

 少女はリドラさんの長い首の下に潜り込んでしまったみたいである。

 そろっと布の隙間から顔を覗かせて、


『あ、あの、誰、ですか?

 ここは、どこ、ですか?』


 そんな恐る恐るの問いかけに、


『……捕まってた。こっち助けた。わかる?』


 魔王様。その説明はどうなんです。

 あまりに簡潔なその説明に、僕は心の中でそうツッコミを入れるのだが、


『あ、あの――、アナタが助けて、くれた、ん、ですか』


『……みんなで助けた』


 意外にも、これがちゃんと通じていたみたいで、

 ふわふわと魔法による光源の下、六角形の部屋の中を飛び回るフルフルさんたちに、布で大きな下半身を隠したミストさんたち、魔王様に彼女たちを紹介されたドヴェルグの少女は、やや混乱しながらも、檻の中から出されている現実を見て『あ、ああ、ありがとうございます』と頭を下げ。

 魔王様は近く、寝かされていた獣人の一人の獣人に気付いたのだろう。『あっ』と、小さな声を漏らし。

 そんな少女の反応に魔王様が『知り合い?』と訊ねると、ドヴェルグの少女はプルプルと首を左右に振りながらも『で、でも、優しい人、です』と、自分のセリフに照れてしまったのか隠れる布の中に顔を引っ込める。

 そして、そんな彼女のリアクションに元春が何故か「キィ」と奇声を上げて、


『……だったら、すぐに起こす』


 魔王様はドヴェルグの少女の言葉にそう一言、ミストさんに拘束を解くように指示を出そうとするのだが、


『我が主。その者を目覚めさせるなら、我をお側に――』


 ここでリドラさんが、獣人を目覚めさせるなら自分も万全の体勢を取らせて欲しいと声を出して、ドヴェルグの少女は急に聞こえてきたドラゴンボイスに振り向いて、布の中に隠れていたリドラさんと目が合ったしまったのだろう。

 まさに予想通りというかなんというか、『ひぅ』と引きつった声を零して、リドラさんを覆う布を巻き込むようにしてパタリと倒れてしまう。


『あらぁ、気絶しちゃったね』


『……リドラ』


 すると、フルフルさんが呆れるような、でも楽しそうな声でそう言って、

 魔王様が少女が倒れる原因となったリドラさんをやや湿り気を帯びた目で見つめ。

 これはリドラさんが迂闊だったけど、

 まあ、このまま放っておけないよね。

 ということで、僕は少し考えて、


「ふむ、ここはクロマルの映像を使ってリドラさんを怖くない風にしてみたらどうでしょう。リドラさんを可愛く装飾してやれば、彼女も怖がらないのでは?」


 うん。これは自分が言っておいてちょっと無理があるかな。

 僕としてはそう思ったのだが、


『……いいかも、やってみる』


『そうだね。面白そう』


 またしてもというべきだろうか。

 意外にもこのアイデアは好評だったみたいだ。

 魔王様は自分が乗っていたクロマルをリドラさんの頭にぽてんと乗せて、フルフルさん達やミストさん達、そしてマリィさんと相談しながら、開いた魔法窓(ウィンドウ)からリドラさんの外見を装飾していって、


『……これで大丈夫』


 なんということでしょう。

 あんなに厳つかったリドラさんが、ハートマークや星がきらめくメルヘンなドラゴンへと様変わり?

 そして、リドラさんとしては魔王様が主導してやったことである以上、文句を言っていけないと、なにか言いたげな、しかし、なにも言えないといった微妙な表情で沈黙。


 かたや魔王様はそんなリドラさんの様子には全く気付かずに、『ムフー』と満足げにニューリドラさんを一頻り眺めた後、気絶してしまったドヴェルグの少女を起こすためにミストさんから受け取った魔法薬を直接少女の口の中に――。

 すると、ドヴェルグの少女が『う、うう――』とまた目を覚まして、『あれ、私――』と呻くように呟くと、どうして自分が倒れたのかを思い出したみたいだ。『ぴぃ』と素早い動きでちょうど彼女を覗き込むようにしていた魔王様の背後に回り込むようにして、


『……大丈夫。リドラは友達、それにかわいい』


『かわ、いい?』


 魔王様からかけられた優しげなその声に困惑するのも無理はない。

 ファンシーに装飾されたとしてもリドラさんはリドラさんなのだ。

 しかし、彼女は彼女でこの激変する状況を無理やりではあろうが消化してくれたみたいだ。

 魔王様が目を向ける先にいたニューリドラさんのファンシーな装いを見て、気持ちを整理するようにぶつぶつと何事かを呟いたかと思いきや、弱々しくもペチンと自分の頬を叩き、気合を入れ直してくれたみたいだ。『はい、わかりました』としっかりとした口調でそう言ってくれたので、

 僕達は若干ハイライトが薄れている彼女の瞳を気にしつつも、とりあえずは彼女が指名した獣人を目覚めさせて話を聞くのが先決と、その口へ魔法薬を流し込むのだった。

◆補足説明


 今回登場した施設ですが、マオ達が暮らしている森に住み着いた人間サイズのハチ型魔獣が建造した巣です。

 そのハチ自体は主にリドラの手により殲滅されたのですが、その頑丈な巣は巨大な木にへばりつくように作られていた為、木を傷つけることなく壊すことが難しく、木が成長すると共に自然に崩壊することを期待して放置していたものを、今回、利用したということになってます。

 イメージするなら、摩天楼のようににょきにょきと生えている大樹の一本の下半分を完全に取り込んだスズメバチの巣といったところでしょうか。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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