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エドガー、アヴァロン=エラの大地に降り立つ

◆レビューをいただきました。ありがとうございます。感謝です。

「来たわよ」


「久しぶり」


 そう言って万屋の中に入ってきたのはティマさんとメルさん。

 今回は、そんな二人にプラスして先に入ってきたティマさんの肩に白いフクロウがとまっていて、


「はじめましてエドガーさん」


「こちらこそ、今日はよろしく頼みますぞ」


 そう、このフクロウは魔王パキートの側近の一人(?)エドガーさん。

 実は先日、魔王パキート様ご一行がついにレニさん達との合流を果たしたのだ。

 ちなみに、例の砦の件から、彼等がなにかしらのトラブルに巻き込まれるのではと心配をしていたのだが、商隊らしき一団を見つけたとか、国境沿いの警備をするルベリオンの兵士を見つけたりとか、一方で来な接近遭遇はあったそうなのだが、それ以外は特筆するようなハプニングはなかったみたいだ。

 やはり、魔王であられるパキート様に本気で隠れられてしまっては、簡単に見つけることは出来ないのだろう。


 さて、そんな感じで向こうの世界では感動の再会があったりして、後は出産に研究にと平和な暮らしをしていただければ、万屋としても喜ばしい限りなのだが、その前にまずは物資の補給だと、こうしてティマさんとメルさん、そして、アヴァロン=エラそのものと、そこに繋がるゲートの安全を確かめるべく、エドガーさんがやって来たというわけなのだが、

 僕がまず聞くのはこれだろう。


「森の拠点の方はどうですか?」


「大人が八人もいますからな。少々手狭な感は否めませんな」


 ふむ、僕としては余裕を持って設計したと思っていたんだけど、エドガーさんからすると、ちょっと手狭に感じてしまうらしい。


 もともとパキート様達が魔王城なんていうムダに広い場所にいただけに、余計にそう感じるということもあるのだろうけど、こうなるとフレアさん達が暮らすための別棟を建てる必要も出てくるのかもしれないな。


 いや、それならいっそのこと、フレアさん達にはアヴァロン=エラのトレーラーハウスに移ってもらって、あのログハウスはパキート様達に使ってもらうのはどうだろう。


 でも、フレアさんの性格からして、拠点の近くで妙な動きが見つかったとなると、ロゼッタ姫を守る為に向こうに残りたいと言うんだろうなあ。


 僕はエドガーさんに聞いたログハウスの住心地にそんなことを考えながらも。


「そういえばリーヒルさんやキングさんが過ごす小屋は作らなくてもいいんですか」


「あの二人はそもそも建物内で暮らすということはあまりありませんからな。それに、いただいた妙な形のテントもありますので、新しくなにか作る必要はないかと、そもそもポーリ殿が日に一度、浄化の魔法をかけてくださいますからな」


 そういえば体の大きなリーヒルさんとキングさんの居場所が後回しになっていた。

 せめて雨よけにと、学校の運動会の時とかに使うようなタープテントを二張渡しておいたけど、その後、どうなったのかと話の流れから聞いてみたところ、エドガーさんはもともと二人にそういうものはあまり必要ないと教えてくれる。


 ちなみに、浄化の魔法を、リビングメイルのリーヒルさんにかけていいのかなんてことを、ちょっと思ってみたりもしたのだが、彼の場合、純粋な魔法生物ということでアンデッド特攻の浄化魔法などでは実害がないのだという。


 そして――、


「ねぇ、それよりも、お菓子、お菓子が足りないのよ。できればすぐに追加が欲しいんだけど」


「お菓子ですか?」


 エドガーとの一区切りついたのなら今度はこっちの番だと、ティマさんが言ってくるのはお菓子のこと。


 ただ、ティマさん達には試作品のマジックバッグを渡してあり、その中には半年くらいは食べるのに困らないだろうとばかりに保存食が詰め込んであったハズである。

 その中には当然、お菓子類も入っていて、数ヶ月くらいではなくなるハズはないと思うのだが、

 ティマさんが言うには、


「お菓子自体はまだ残ってるのよ。

 でも、チョコとかクッキーとかの減りが早いの。もうほとんど残ってないのよ」


 成程、お菓子そのものは残っているものの、好みのお菓子の在庫がもうないと。


「そういうことでしたら、後でそういうお菓子を買い込んできますから、これが欲しいという商品があったらメモしてくれますか」


 だったらと、僕がカウンターの引き出しからメモ帳とボールペンを差し出したところ、ティマさんは「わかったわ」と一言、メルさんと相談の上にいろいろと買ってきて欲しいお菓子類を書き込んでいくのだが、チラッと覗き込んだそのメモ用紙にはちょっと気になる内容が書かれていて、


「あの、ティマさん、チョコレート菓子を箱買いとか、そんなに買い込まなくても、消費しきれないのでは」


 アイテムボックスの特性を考えると、比較的、賞味期限の長いお菓子を大量に詰め込んでおいても特に問題はないように思えるが、あまり同じものばかり食べていたら、さすがに飽きてしまうのではないか。

 僕がおせっかいにもそう聞いてみると、ティマさんが言うには、


「違うのよ。お菓子を食べるのは私達だけじゃないの。パキートやロゼッタ、エドガーも食べるから、いっぱい買っておかないとすぐなくなっちゃうのよ」


 ああ、そういうことですか。


「しかし、パキート様もある意味で意外なんですけど、エドガーさんもですか?」


 個人的にフクロウは、ネズミやらなんやらを獲物にしている肉食のイメージがあったりする。

 エドガーさんは魔獣由来の召喚獣とのことだから、雑食だったとしても特に不自然はないのだが、それでも、バリトンボイスで有能執事風のエドガーさんがお菓子好きだというのは、本当に似合わ――いや、ちょっと意外な取り合わせで、


「私はチョコというよりも田舎風のクッキーがですな。

 あの柔らかな味わいがなんともいえませんな」


 いや、そういうことじゃないんです。

 僕はそう言ってくりっと大きな目を細めるエドガーさんに心の中でツッコミを入れながらも、現実は受け入れなければならないだろう。


 つまり、エドガーさんはチョコにはこだわりはなく、しっとり目のクッキーがお好みと。


 僕はエドガーさんの思わぬ食の好みに、脳裏に浮かんでは消える『意外かな』『いや、外見だけならなくもない』と失礼極まりない言葉を飲み込んで、


「ちなみに、お菓子以外の食料の方はどうですか? 足りないものがあったらついでに買ってきますけど」


「そっちは特に問題ないわね。

 缶詰にレトルト、調味料も残ってるし、日に何匹か魔獣を仕留めてるから、食べるのには困ってないわ」


 つまり、安全確保の為の魔獣狩りはまだ継続中と。

 しかし、そのおかげで食料には困っていないのか。

 でも、お肉ばっかりだと栄養が偏るだろうから、「せめてここにある野菜は持っていってくださいね――」と、僕がそう言うと、ティマさんが思い出したように――いや、話題を変えたのかな――ちょっとオーバーリアクション気味に手を叩いて。


「あ、そうだ。サプリメントだっけ? 姫に渡したあの薬がもうすぐ無くなりそうだから、あれもあったら買ってきて欲しいって、なんかあれを飲んでから調子がいいみたい」


 これも話題逸しの一環なんだろうか。

 調子がいいとか悪いとか、飲み始めたばかりのサプリメントで、そこまで変わるとは思えないんだけど。

 しかし、いま彼女達がいる場所を考えるとわからないでもないか。

 なにしろ、いまティマさん達が暮らしているのは、通常より魔素濃度が高い森の中。

 もしかすると、その濃密な魔素によってサプリメントの効果が強化されているのかもしれないな。

 ただ、問題なのはその強化された内容が上手くロゼッタ姫の状態に会っているといいのだが……、

 これは、後で通信を介した鑑定をやってみた方がいいのかも。

 僕はそんな予定を頭の片隅にメモしながら。


「成程――、ただ、ロゼッタ姫はもうすぐ出産なんですよね。そうなると、また別のサプリを用意したほうがいいのかもしれませんね。

 たしか産後は産後でまた違うという栄養が必要だとかなんとかという話ですから」


「そうなのですか?」


 途中から独り言のようになってしまった僕の呟きに、そう返してきたのはエドガーさんだ。


「僕も詳しくは知らないんですけど、出産で体力を一気に消費するといいますから、もしかすると、そちらの対策を優先したほうがいいんじゃないかと思いまして」


 とはいえ、あくまでそれも素人考え、こっちも後で調べておかないといけないなと、僕がそう考える一方で、エドガーさんはその情報にいたく感心したようだ。「勉強になりますな」とそう言って、「ならば栄養に優れた卵などをどこかで手に入れる必要がありますかな」と、なにやら張り切っているご様子ではあるけど、これはちょっとブレーキをかけた方がいい張り切り方かな――と、僕はそう思い。


「ただ、あまり食べ過ぎても良くないことだとか」


「そうなの!?」


 と、僕とエドガーさんの会話に横から入ってきたのはティマさんだ。

 やはり女性として、出産に関連した情報には敏感なのだろう。

 僕は前のめり気味なティマさんと、その背後からじっと視線を向けてくるメルさんに、得も言われぬ圧力を感じながらも。


「産後太りって言葉があるくらいですからね。出産後は激しい運動もあまりできないみたいですし、油断してたくさん食べすぎてしまうと一気に倍くらいになってしまうとか」


「そ、それは怖いわね」


「太ったら大変」


 それは二人にとって予想外の情報だったのか、ティマさんとメルさんは恐れ慄くようにそう言って、


「でも、ちゃんと栄養を考えて、適度な運動をすれば必要以上に気にする必要は無いみたいですけどね」


「運動……」


「頑張る」


 妊娠もまだなのに、二人とも真剣だな。

 ただ、そこにツッコミを入れていくと、またやぶ蛇になりそうだからと、あえてここは愛想笑いで軽く流して、


「そういえば、ベビー用品とかはどうします?」


「ベビー用品って?」


 ティマさんの反応からしてフレアさんの世界にはそういう商品がなかったりするのかな。

 振った話題にきょとんと首を傾げるティマさんを見て、僕は『これはどう言ったらいいのか――』と少し考えをまとめる間をおいて、


「えと、赤ちゃんを育てる時に必要な日用品になるんですかね。

 たとえばオムツとか、産着とか、粉ミルクに哺乳瓶に背負紐に、他にはなにがあるんでしょう――」


 思いつく限りのベビー用品を並べ立てていくのだが、


「ちょちょ、ちょっと待って、そんな一気に言われてもわからないわ」


「これからの我々に重要そうな話ですからな。落ち着いて教えていただけるとありがたいのですが」


 ティマさんが慌ててストップを掛けて、エドガーさんがまずは落ち着こうと、もさもさの翼をバッサバッサと動かすので、

 僕が『とりあえず赤ちゃん誕生に際して必要なものを――』と、検索で上位にあがる育児ブログなんかを開いて、三人に見せてみると、三人はそれぞれに別の魔法窓(ウィンドウ)を覗き込んで、


「これは大変そうね」


「でも、赤ちゃんの為には必要」


「そうね。で、エドガー。どうするの」


「もちろん、すべて購入ですな。蓄えはそれなりにありますから、主のお子の為に妥協は不要です」


 さすがは魔王様といったらいいのか、お金はそれなりに持っているみたいである。

 その収入源も気になるところだが、それはそれとして、


「しかし、お高いものを買っても金貨数枚で事足りますよ」


「そんなものなの?」


「そもそも、皆さんが暮らす世界と僕が暮らす世界では物価が違いますから」


 ベビーベッドとか高いものを買っても、金貨数枚でもあれば十分集められる。

 まあ、それも○○王室御用達の○○とか、そういう品を買うとなると、やっぱりかなりお金が必要になるんだろうけど、最高級がすべてじゃないからね。

 実用的かつお得なものを選んでいけば金貨数枚もあれば余裕で一通り揃えられるんじゃないかな。


 そもそもネットの情報を見る限り、張り切って変え揃えたところで、結局つかわなかったなんてベビー用品も結構あるみたいだから、エドガーさんは全部と言ったけど、わざわざ不要なものまで不要なものまで揃える必要はないだろう。


 ということで、要不要の仕分けはちゃんとするとして、


「では、あらかじめ買っておいても問題がないベビー用品は、次までに用意しておくということで、今回は食料の調達ということで、ちょっと買い出しに言ってきますね」


「よろしくお願いいたします」

◆次回は水曜日に投稿予定です。

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