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正則と制限アクセサリ

◆短めです。

 それは、みんなでビーズアクセサリ作りをした数日後のこと。

 僕が学校から帰って、いつものように万屋の店番をしていたところ、その日は仕事が忙しかったのだろう。すっかり日も沈んだ後で万屋に顔を見せたマリィさんが、挨拶もそこそこん僕の手元にあったそれを見て訊ねてくる。


「あら、ネックレスですの。

 もしかして誰かへの贈り物ですの?」


「ああ、これは正則君にですね。少し特殊な注文でしたので、オーナー(ソニア)にお願いしていたものを、さっき受け取ってきたんですよ」


 何気なくかけられた質問にそう答える僕。

 すると、マリィさんは興味深げにそのネックレスを眺めて、


「ソニア様が作ったアクセサリですか。どういった理由で必要なんですの? 彼にはあまり必要がないような気もするのですが」


 正則君が万屋を訪れるようになってそろそろ三ヶ月になるだろうか。マリィさんも正則君が生粋の肉体信者(フィジカリスト)であることがわかってきたみたいだ。

 だからこそ、そんな正則君がどうしてわざわざソニアが作る魔導器が必要とするのかと、マリィさんは不思議そうな顔をして聞いてくるのだが、

 しかし、これにはちゃんとした理由があって、


「実は、先日、正則君がディストピアのテストプレイ中に、とある実績を獲得してしまいまして、

 その所為で、向こう(地球)で取り組んでいる競技に支障が出てしまっているんですよ。

 このネックレスはその対策に作ったものですね」


 そう、先日、正則君がテストプレイとして入った高難度のディストピアを偶然クリアしてしまったのだが、それによって正則君の身体能力が大幅に強化され、後日、部活で短距離走のタイムを測ったところ、もう少しで世界記録を塗り替えてしまうような記録が出てしまったそうなのだ。

 その時は、ストップウォッチが壊れていたんじゃないのかと、どうにか誤魔化すことに成功した(?)みたいなのだが、さすがにいつまでも誤魔化せるようなものでもない。

 というよりも、負けず嫌いな正則君にタイムを出さないように実績の力を抑えて走るなんて器用なことが出来るとは思えない。

 ということで、今後、正則君が陸上競技を続けるにあたって、なにか実績を抑えつけるようなものが出来ないかと、ソニアに相談したところ、完成したのがこのアイテムだったというわけだ。


 と、そんな事情を聞いたマリィさんがその内容に納得しながらも、また少し難しそうな顔をして、


「しかし、このアクセサリは少し危険なのではありませんの?」


「といいますと?」


 はて、これはマリィさんが顔をしかめるほどのアイテムだろうか。

 深刻そうなマリィさんの様子に、僕が聞き返してみると。


「いえ、実績を封じるというその効果が、まるでおとぎ話に出てくる神呪の鎖のようで――」


 ああ、そういうことですか。


 その神呪の鎖がどのようなものなのかはわからないけど、実績が封じられるということは、自分の持つ潜在能力を封じるようなもの。

 マリィさんの懸念はよく分かる。


 しかし、そういうことなら心配はない。


「これはあくまで実績によって強化される力の方向を変えるだけのマジックアイテムですから、マリィさんの想像しているようなアイテムとは性格が違うものかと」


「実績によって強化される力の方向を変えるですか?」


「ええ、このアクセサリは、たとえば肉体強化の実績をすべて防御力に注ぐといった形で、任意の同系統の実績の力の流れを整える効果を持っていまして」


「ふむ、たしかにそれならば特定の実績の効果を封じることが出来ますわね」


 そう、このネックレスは本来あるべき力を、ちょっと別のものに変換するものでしかない。

 だから、マリィさんの言う実績を封印するとかそういうものではなく。

 ただ、ある特性を持つ権能を、それに似たような権能に置き換えるというようなものなのだ。


 しかし、このマジックアイテムによって――例えば正則君の場合、それは走力になるのだが――それに関わる権能は一時的にではあるが本来の機能を失うことになり、単純にその人が物質的に持つ身体能力しか使えなくなってしまうこととなる。


 よって、もしも同じ陸上選手の中に、走力を上げるような実績を持つ人がいた場合、正則君はかなり不利な勝負を挑むことになってしまうのだ。


 ただ、正則君からしてみると、そんなリクスも承知の上で、


「要するに、正則君としては、後付けの力が発揮される心配がなく、ただ競技を楽しみたいということなんです」


「そういうことでししたか。

 たしかに、そういう用途に使うのであらば、それは必要なアイテムなのかもしれませんの。

 しかし、それはそれで逆に恐ろしくもありますわね」


「恐ろしい――ですか?」


「ええ、例えば(わたくし)やマオのような人間がそのマジックアイテムを使い、魔法系実績すべての力を魔法の破壊力に変換したとしたら」


 ああ、それはたしかに恐ろしい魔法攻撃が繰り出せるようになるかもしれないな。


 ただ、マリィさんが持つ【神獣の加護】や魔王様が持つ【精霊の加護】なんていう強力かつ複雑な実績の力を、他の力に変換することはおそらく難しいと思われる。


 そして、たとえそれが可能だったとしても、このネックレスを使って実績の力の流れを変えてしまうと、かなりのエネルギーロスが出てしまうと、僕がこの魔導器を受取る際にソニアからされた説明をマリィさんにしたところ、マリィさんは「そうなのですか」とちょっと複雑な顔をして、


「ええ、その権能同士の相性もあるみたいですけど、本来あるべき権能を別の力に置き換えた場合、本来発揮している力の三分の一以下しか出せないのだそうです」


 というか、そのロスこそがまさに今回のアイテムのキモであり、得てしまった実績を上手く抑える鍵になっているのだが、それはそれとして――、


「それにです。このネックレスの設計でマリィさんが持つ魔法系の実績を整えるとなると、完全にキャパシティオーバーになってしまいますから」


「つまり、強化は完璧ではなく、あまりに強力な実績がある場合、耐えられなくて壊れてしまうと、そういうことですの」


「ですね。 このネックレスは、あくまで、正則君が競技中に余計な実績の効果が発揮しないようにするためのものですから」


 そもそも実績というのは、抑え込もうと思えばちゃんと自分で抑えられるものであり、このアイテムは正則君が勝負に夢中になって、全開にした潜在能力を無理矢理に押さえつけるストッパーなのである。


 まあ、龍種やら世界樹やらと希少素材を使えば、変換できる力のキャパシティを増やすことも出来るのだろうが、ただ、それを作るとなると、それこそ高級スポーツカーを買うくらいのお金が必要となる上に、そうして作り出したアイテムでも、マリィさんや魔王様が使った場合、ようやく一瞬、効果が発揮できるくらいのものにしかならないのだろうから、コストパフォーマンスが最悪なのである。


 ちなみに、今回、正則君のネックレスに関しては、正則君がただの男子高校生(?)ということで、ソニアには手頃な価格で揃えられる素材を使って作ってもらっている。


「しかし、そこまでして競技に挑むなどとは」


「そういう性分なんですよ」


「困った方ですのね」


「まったくです」

◆今回登場したマジックアイテム


 全鎧のネックレス……装備者の魂に宿る力を防御力に転換する力を持つネックレス。ただし、魂そのものに根付く力を変質させることは難しく、効果の持続時間は一分間、力の変換率は本来持つ力の二割程度にしかならない。(ただし、短距離走の選手である正則にとってはじゅうぶんな効果)

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― 新着の感想 ―
[一言] ネックレスがブレスレットになってる所が所々にあるよ
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