遠隔操作の練習
◆落雷ショックにより、現役復帰していた八年選手のパソコンもついに寿命を迎えてしまったようです。
まあ、こちらはもともと調子が悪かったから仕方ないですね。
ゆっくりお休みください。
パキート様ご一行の移動は順調に進んでいるみたいだ。
ならば、こちらもこちらの仕事をしなければと、放課後、いつものように万屋に出勤した僕は、和室でまったりくつろいでいたマリィさんと魔王様に、学校帰りに買ってきたコンビニスイーツをお出しすると、定位置であるカウンター前に腰を下ろし、自分の周囲に無数の魔法窓を展開、ちょっとした探索を開始する。
すると、少しして、マールさんへの魔力供給という名目で行われる、人間椅子というマニアックなプレイを楽しんできた元春が帰ってきたみたいだ。
僕の周囲に浮かぶ無数の魔法窓を見て、「なにやってんだ?」と訊ねてきたので、
「フレアさん達がいる森の探索だね。
この森の調査は前にもしたんだけど、その時は、パキート様ご一行をここに招くのかは決まってなかったから、ざっと調べただけだったから、パキート様が森に入る前にもう一回調べておこうと思って」
「な~る。
で、なんだっけ?
そのリスみてーなゴーレムって全部お前が動かしてんの?」
「リスレムね。
まあ、そうはいっても、どういうルートで探索を進めてもらうとか、それくらいだけどね。
後は搭載してある人工知能まかせだよ」
ちなみに、元春が気にしたリス型探索ゴーレム――略してリスレムなど、探索特化の小型ゴーレムの操作は、ストラテジーゲームと言えばわかりやすいかな。マップにルートやポイントを設定することで、その周囲を自動で探索してくれるという仕様になっている。
それ以外にも、なにを重点的に探すのかとか、細かな設定ができるものの、ルートさえきちんと指定してやれば人工知能がどうにかしてくれる。
と、そんな説明を実際に操作しながら見せてみたところ、これが元春の興味をひいてしまったみたいだ。
そして、この顔は『これを使えば、写真部の活動で面白そうなことができそうだ』とか、そんなことを企んでいる顔ってところかな。
「これ、俺にもできそうじゃね。ちょっち面白そうだし、俺にもやらせろよ」
ずずいと身を乗り出して、またいつものようにわがままを言い出す元春。
と、そんな元春に僕が、
「えと、これ遊びじゃないんだけど」
そう言って注意をするも。
「ちゃんとやるって、ようするに森に危ねー魔獣がいねーかとか探せばいいんだろ。
つか、虎助一人でやるよりも、俺とか、そうだな――、こういうのが好きそうなマオっちなんかに手伝ってもらった方が効率的なんじゃね」
自分だけだと却下されると思ってのことだろう。
元春が和室でゲームをしていた魔王様にそう呼びかけると。
「……やる」
意外にも魔王様も乗り気のようだ。
元春の呼びかけにゲームを中断、頭から飛び降りたシュトラと一緒にテトテトとやってきて、
「……最近、みんな頑張ってるから」
ああ、そういうことですか。
魔王様としては、これを機会に、最近、森の警備にと配備された、新型ゴーレムの試作機の扱い方を憶えて、そのお手伝いがしたいと考えているのだろう。
そんな魔王様らしい理由に僕はそういうことならと同意。
元春の企みに関してはまた後で手を打てばいいかと思いながらも、魔王様と元春が操作するリスレムの配分を行うべく、新たに魔法窓を開いたところ、そこでカウンター横のスペースでエクスカリバーさんの輝きを眺めながらお茶をしていたマリィさんがおもむろに立ち上がって、
たぶん、マリィさんとしては一人だけ仲間外れになるのが嫌なんだろうな。
「私もその探索をやってみたいです」
そう言って、どんと胸を張って僕達の方へとやってくるので、
「わかりました。
では、現在、件の森の周囲にいるリスレムの命令権を四等分にして、それぞれに配分しますから、とりあえず各自魔法窓を開いてください」
マリィさんの参加も決まったところで、僕は三人に魔法窓の展開を求め。
「よっしゃ、せっかくだし勝負しようぜ」
「勝負って、さっきも言ったけど、これ遊びじゃないんだけど」
ここでまた元春が悪ノリというかなんというか、また適当なことを言い出して、
僕がそう注意を入れるのだが、
「いや、わかってるって、
でもよ、普通に森を調べてるだけじゃ面白くねーだろ。
それに勇者んとこには転移ゲートとかあるって話だし、
ああいうのをさ見つけりゃ、勇者とかも助かるんじゃね」
たしかに、そういう理由なら、元春の言うことも全部が間違っているわけじゃないのかな。
まあ、これに関しては完全に後付の理由なんだろうけど。
しかし、この勝負にはマリィさんも魔王様もノリノリのようで、
「面白そうですわね」
「……頑張る」
二人が乗り気ならば仕方がない。
ここは元春の提案に乗ることにして、
僕は森の付近に展開するリスレムなどの探索ゴーレムの三人それぞれに割り振っていく。
すると、マリィさんはまだ調査が足りていないハジド連邦に接する森を、魔王様は堅実にゲートの付近を探すみたいだ。
ただ、言い出しっぺの元春はというと――、
どうも真面目に仕事をするつもりはないようで、
マジマジと、それはもうマジマジと、元春が覗き込む魔法窓には、赤いサーベルを両手に持って緑と茶というヘンテコなカラーリングの虎と戦うレニさんが映っていて、
「それで、元春はなにを調べているのかな?」
「いや、マップ上になんか点があってよ。見に行ったら例のメイドさんが魔獣と戦っててな。その戦う姿がなかなかどうして、特にこう、敵の攻撃を躱す時にふわっとスカートが捲れ上がる感じがスゲーんだよ」
いや、そんな熱弁をされてもね。
しかし、その熱弁を聞く限り、もしかして元春はメイドさんなら誰でもいいのだろうか。
僕はレニさんの戦いに気持ち悪いリポートを添える元春に、もしかすると、本命(?)であるトワさんも単純に属性とかそういう括りで見ているのだろうかと、そんなことを思いながらも、
だけど、そんなことばっかり言ってると、またマリィさんが――と、視線を横に転じると、そこでは、真剣に――、まさに真剣に探査を進めるマリィさんがいたりして、
「この森思ったよりも魔獣が少ないですわね」
慣れない遠隔操作だからかな、ゴーレムの操作に集中しているせいだろう。元春のおバカな発言は見逃されたようだ。
しかし、そういうことならば――、
「三人が張り切ってるみたいですから、そのおかげでは? 結界のおかけで外からの流入もないですから」
元春という残念な友人のせいでマリィさんが集中を乱してしまうのは申し訳ない。
ということで、元春に関しては放置の方向で、僕も探索に全力を注ぐのが正解かなと調査を再開。
しばらくの間、たまに隣から聞こえてくる気持ち悪い笑い声を意識的に聞き流しつつも探索を進めていると、
「……見つけた」
魔王様の細く透き通った声が通り、僕たちが魔王様の手元に浮かぶ魔法窓を覗き込むと、そこに映し出されていたのは、森の外れにある開けた土地に立つボロボロの砦。
その周囲には何かを警戒するようにしている男達の姿があって、
「何者でしょう?」
「こんなとこにいるってなると盗賊とかそういうんじゃね」
「どうでしょう。全員が揃い鎧を着ていところをみますと、盗賊ということはないのでは?」
たしかに、彼等がもし盗賊だとしたら、ここまで装備が統一されているというのは不自然だ。
しかし、そうなると、きちんとそれなりの装備をつけていることから――、
「ルベリオンの兵士でしょうか」
「ふむ、その可能性もあるでしょうが、場所が場所だけに他国の兵という場合もあるのでは?」
成程、この砦があるのは国と国との間の空白地帯。
フレアさん達が暮らす世界に限らず、魔獣という驚異が存在する世界では、現代地球と違って、どの国の領地でもない魔の領域というものが存在する。
そんな場所なら、他の国の人間がいたとしても文句は言われない。
たしかに、この砦がある場所を考えるとマリィさんの予想も十分ありえるものである。
ただ、そうなると、なぜ彼等がこのような場所にいるかが問題で、
「紋章だとか、なにか所属のようなものがついていればよいのですが」
正規の兵なら紋章を付けている場合がほとんどだ。
これはどこの世界でも正規兵には共通の特徴で、魔王様に頼んで、調べてもらうのだが、それらしきものが見つからない。
そうなると――、
「とりあえず、僕のゴーレムも現場に到着したみたいなので、砦の中を調べてみましょうか」
「……ん」
「ちょ、いつの間に――」
「いつの間にって、魔王様が見つけてすぐに、近くのリスレムを合流させただけだけど」
リスレムを含めた探索ゴーレムは常に得た情報のやり取りをしている。
僕はそのデータを頼りに、付近にいる手持ちのリスレムをその場所へ送り込んだというだけだ。
「なら、俺も――」
「いや、元春のリスレムは全部レニさんの近くにいるみたいだから、こっちに来るのは効率が悪いんじゃないかな」
「――って、俺とマリィちゃんだけ仲間外れかよ」
「いえ、私はすでに数匹、そちらにまわしていますわよ」
「え、ここでまさかの裏切りっすか」
「貴方、裏切りとかなにを言っていますの」
元春の場合は自業自得だからね。
「では、ボクと魔王様はすぐに突入、マリィさんは到着し次第、裏の方から侵入をお願いします」
「……ん」「了解ですの」
さて、これで、鬼が出るか蛇が出るか――、
僕はそんな言葉を脳裏に浮かべながらも、ワーワーとうるさい元春を適当に宥めつつ、手持ちのリスレムに潜入の指示を出すのだった。
◆次回の更新は、新しいパソコンの導入作業により日曜日となります。
今年になって二度目となる、新しいパソコンを買った時の設定のやり直しとか、ソフトのインストールとか、無駄なプログラムの整理とか、そういう面倒を考えると憂鬱です。