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スライムとゼリー

 それは膝丸が完成したすぐ後のこと、当然のことというかなんとうか、新しく膝丸が完成したということでマリィさんが膝丸の性能を実践で試したいと言い出して、だったら例の弾幕系魔法アプリを使えばいいんじゃないかと、その準備をしていたところ、タイミングが良いというか悪いというか、いざ膝丸の性能実験を始めようとしていたそのタイミングで、ゲートを警備するエレイン君とカリアからの警告が入る。


 すると、こちらも毎度のことというかなんというか、マリィさんが期待に目を輝かせはじめて、僕が何かを言うよりも早く店を飛び出し、僕達がマリィさんを追いかける形でゲートに赴くと、そこにはヌメヌメとしたクリーム色の巨大物体があって、

 そんな巨大物体にまず元春が、


「お、スライム始めてだな」


 そう言って、


「でも、あの感じだとスライムというよりも、アメーバとか、ゲーム風に言うならゼリーとかそんな印象なんですが」


 次郎君がスライムよりもこっちの方が表現としては適当ではないかと訂正。


「言われてみるとな。

 てゆうか、その二つって違いとかあんのか」


 正則君が僕の方を見てそう聞いてくるので、僕がその辺りの認識を確認しようと、エレイン君やカリアからの報告、そして万屋のデータベースを開いた上で、


「厳密にはないみたいだね。アメーバはともかくとして、スライムとゼリーの分類は、その世界、その地域によっても、いろいろと変わってくるみたいだから。

 マリィさんの地元ではどうなっていますか?」


 情報を確認、僕が振った質問にマリィさんが「(わたくし)達の土地でも同じようなものかと――」とそう答え、正則君が「要するに適当って感じか」と続け。


「大雑把に言うなら、凶暴な方がゼリーで、それ以外がスライムって感じかな」


 他にもなにを由来して存在しているかとか、特定の魔法が使えるのかとか、また別の分類があるそうなのだが、その解釈もまたまちまちなものであり。


「ってことは、アイツはどっちなん?」


 元春がそう聞きいたのとほぼ同時、飛んでくるクリーム色の砲弾。あのスライム(仮)は自分の体の一部を砲弾にして飛ばすことができるみたいだ。

 僕はそんな敵の攻撃に素早くゲート由来の結界を展開。速度だけなら二百キロ超えはあるかな――と、バッティングセンターの球を参考に、飛んできたクリーム色の砲弾をベチャっと防ぎながらも。


「まあ、なにに多く当て嵌まるのかと言うとゼリーって感じかな。エレイン君からの報告でも、一応、ダイダルゼリーってことになってるしね」


 まだ未確定の情報としながらも、分析として出ている情報を全員に聞こえるように伝えるのだが、それを言い切るのが早いか、マリィさんが、


「虎助、いきますの」


 ご自分の背後に浮かべた蜘蛛切丸の一本に火を灯し、繋げた魔糸をぶん回すように強烈な刺突を繰り出す。

 しかし、効果は今ひとつのようだ。


「火の魔法では効果が薄いようですわね。風の魔法に切り替えますの」


 ならばと、魔糸を通じて膝丸にまとわせる属性を変更。

 そのまま、一本釣りの要領で突き刺した蜘蛛切丸でダイダルゼリー(仮)を斬り上げて、そこから剣の舞。

 風の属性を宿した八本の蜘蛛切丸を空中で踊らせてダイダルゼリー(仮)の体を切り刻んでいくのだが、


「あの剣、思ったよりも凶悪だな」


「その分、魔力消費が凄いんだけどね」


「でしょうね。僕達の魔力ではああいった動きは出来ないでしょう」


 マリィさんの攻撃の一方で、ダイダルゼリー(仮)の方も負けてはいない。

 斬られた側から触手を伸ばして、自分の体を回収、即時の回復を行っているようだ。


「しっかし、なんかすげー再生だな。あれ、倒せんのかよ」


「どうなんだろうね。

 まあ、最悪ゲートからそのままお帰り願いますということで、僕も新魔法のお試しがてら乱入するよ。

 お客様であるマリィさんに任せっぱなしもなんだからね」


 僕はあまりの無敵さを見せるダイダルゼリー(仮)の超耐久力に、呆れたような声を出す正則君にそう答えながらも腰に装備するホルダーから空切を引き抜いて、結界の存在なんざ知るかとばかりに粘り気の強い自分の体を砲弾として飛ばしてくるダイダルゼリー(仮)に突撃。


「いつの間にそんなもん仕入れたんだよ」


「仕入れたって言っても、僕は元春と違って普段から魔法の練習をしてるから」


 飛び出すのとほぼ同時、元春からかけられた声にそう答えながらも、店番をしながらも暇を見つけては練習していた魔法をこの際だから使ってみようと発動。

 マリィさんの剣舞に対抗するように数を増やすダイダルゼリー(仮)の砲弾をその魔法の対象に指定する――と、


「ん、敵の攻撃が勝手に避けてね」


 うん。これは僕の得意属性である〈誘引〉の初級魔法にあたる〈攻撃外し(リムーブフィールド)〉。

 初級魔法だけあって、まだ(・・)それほど強力な防御手段とはならないが、この魔法によってスピードをほぼ殺すこと無く、相手の遠距離攻撃を回避、その懐に飛び込むことが可能となったのだ。


 そして、ボーリングサイズの粘砲弾の雨を掻い潜って百メートルほど、直接触れることができる距離まで近付いたところで走りながらも準備をしていたこの魔法をリリース。


「〈急速冷凍(ラピッドフリーズ)〉」


「なんか凄そうな技だな」


 あれ、なんかこっちの方が注目を浴びてるのかな?


 とはいっても、この魔法は、魔獣を解体をする時なんかに、エレイン君が獲物を冷やすのに使ってたりするんだけど……。


 しかし、元春としてはこっちの方が気になったみたいだ。


「悪戯とかに使えそう。それって俺も使えんのか」


 僕は実績の獲得で強化された聴覚により、ハッキリと聞き取れる元春らしい呟きに「悪戯って……」と心の中に呆れたような声を作りながらも、マリィさんの剣の舞に合わせて切り刻まれたダイダルゼリー(仮)の肉片を凍らせるという作業を、粘弾の回避――というか偏向を行いながらも進めていって、


 元が単細胞(?)なだけに、パターンさえ作ってしまえば意外とあっさりと倒せるのかな。


 相手の攻撃に慣れてしまえば、相手が大きな敵でもそこまで驚異とはなりえない。

 楽しそうに蜘蛛切丸を空中に踊ら押せるマリィさんのフォローに徹する形で、切り裂かれたダイダルゼリー(仮)の冷凍作業をこなしていくと、ものの十数分でその巨体はすべて氷塊となって討伐完了。


 後は、エレイン君たちを総動員して、それを万屋の裏の工房にある冷蔵施設に運び込んでやれば任務完了だと、魔法窓(ウィンドウ)経由でそれぞれに指示を出したところで万屋に戻る。


 そして、僕が持ち込んだダイダルゼリー(仮)のスキャンをベル君のお願いする一方、残りの四人は和室やカウンター横の休憩スペースとそれぞれ腰を落ち着かせて。


「強くはありませんでしたけど、生命力が凄まじかったですね」


「たしかにな。攻撃自体は単純だけど、あの回復力はやばかったな」


「ただ、あの物量を考えますとゲートの結界が無かったら面倒な相手だったのかもしれませんわね」


 絶対的な再生力を持つ固定砲台からのマシンガン攻撃、今回はゲート由来の結界があったから、わりとすんなり討伐できたけど、たとえばこれが防御手段もなく近接攻撃に硬よっていた人だった場合、完全に詰んでいただろう。

 しかし、今回に関してはまったくの逆で、ゲートの力で防御も完璧、最悪の場合でも超火力攻撃が可能なマリィさんがいたのだ。おそらくはどう転んだとしてもこちらの勝ちは揺るがなかったってところだろうか。


「それで、こんな風にしてしまったんですけど、この素材、どうしたらいいですかね」


「どうするって、コレ、どうにかできるものなん?」


 スキャンの終わったダイダルゼリー(仮)の肉片を手元に僕が、独断専行ではあるのだが、討伐に関わったマリィさんにも取り分があると掛けた声に、そう返してきたのは元春だ。

 戦いを終えて――元春たちに関してはあくまで見学だったが――ぐったりとソファーでくつろぐ元春の声に僕が今さっき使ったばかりの金色のモノクルをカウンターの引き出しにしまいながら。


「一応、僕やベル君が鑑定した感じだと食材や魔法薬の素材として使えるみたいなんだけど……」


「これがか!?」


 いびつな形をした氷の塊。

 その黄色みがかった色味から、フルーツを凍らせたような感じになっているが、元春としては、もとがなんなのかを知っているだけに食べ物という意識は持てないのかもしれない。


「うん。多分このダイダルゼリーって、中国のUMAに太歳に近いものがあると思うんだよ。それでなんだけど、あの太歳って食べられるものじゃなかったっけ?」


 以前、中二病を患っていた元春にならこういう例えがわかりやすいか。

 僕の説明に元春は驚いた様子ながらさも当然のように。


「つまりこれを食えば不老不死になれるってことなん?」


 ああ、太歳って食べるとそういうことになるんだっけ?


「さすがにそれは無いと思うけど、これはさっきの鑑定結果がそうなんだけど、滋養強壮や筋力アップに効果がありそうなんだよね」


「マジかよ!?」


 元春は『滋養強壮』という説明に、正則君は『筋力アップ』という説明に、強く興味を惹かれたのだろう。


「因みに、太歳の方は焼けば肉の食感だとか薔薇の香りがするだとか言われてるらしいね」


 まあこれは、あくまでインターネットに書かれている太歳というUMAの噂をそのまま信じるというのならなのだが、


「しかし、これはとても美味しそうには見えませんの」


「そもそも焼いてどうにかなるもんなんか、コレ?」


 ゼリー状の物体を焼いたらどうなるのかとか、そもそも見た目からして食べ物に見えないと、二人の意見は尤もなものである。

 しかし、それもまた実際にやってみなければわからないことであって、


「とにかく食べてみるよ。これだけ大きいものをこのまま何もしないで葬送しちゃうのも勿体無いし」


「チャレンジャーだな」


「鑑定でも食べられるって出てるしね」


 そもそも鑑定によって得られるデータは既知のものからのデータによるものだ。

 だから、食べられると鑑定されたということは、以前にこれを食べて大丈夫だったというデータが、今回の鑑定に使った〈金龍の眼〉に、それと連動する万屋のデータベースにあったということになるのだ。


「ま、虎助のこったから大丈夫だとは思うけどよ。薬とか用意しなくてもいいのか?」


「それは当然用意してあるよ」


 僕には状態異常耐性があるから、ちょっとやそっとじゃどうにかなるとは思えない。

 しかし、それは僕にとっても未知の食べ物だ。

 鑑定で食用と出ていたとしても、もしもの時に備えて薬は用意しなければならない。

 というか、そもそもいつ何があってもいいように、いつも持っているマジックバッグの中には一通りの魔法薬が準備してある。

 今回はその中でも、特に毒や病気に効果のある上位万能薬を幾つか用意した上で試食をしてみることになるのだが、

 ただここで問題となるのが――、


「で、これ、どうやって食うんだ。さすがに生じゃ無理だろ」


「菌とかウイルスとか心配だから、よく焼いて食べてみるよ」


 ということで、冷凍状態のそれを、解体用ナイフの峰、ノコギリ状になっている部分を使って、一センチくらいの厚さで削り切り、耐熱皿に乗せた上で、インベントリの中にあるこの魔法式を発動させる。


「〈熱風調理(ノンフライヤー)〉」


「あら、それはたしか(わたくし)たちの方で注文していた魔法ですわね。完成しましたの?」


 すると、その魔法を使った直後に、マリィさんがこう聞いてきて、僕が「はい」と答えたところ、


「って、いやいや、ノンフライヤーとか、適当すぎんだろその魔法」


 元春が〈熱風調理(ノンフライヤー)〉のその名前にケチを付けてくるのだが、


「そう言われても、トワさんからシンプルで使いやすい魔法がいいって注文があったからね」


「それは重要だな」


 それがトワさんからの注文によるものだと聞かされるやいなや、腕がネジ切れんとばかりに手のひら返し。

 しかし、そんな元春の手のひら返しがこの二人の気になるセンサーに引っかかる。


「なあ、トワさんって誰だ?」


「それは僕も気になりましたね。僕達が知らない常連のお客さんですか?」


「そういえば二人って、トワさん達に合ったことなかったんだっけ――」


 と、僕がそこまで言ったところ――、


「シャラーップ!!

 セイセイセイセイ、いまはその話題関係ないだろ。

 それよりも焼いたスライムだろ。な」


 元春からのインターセプト。

 元春としてはトワさんの情報を二人に伝えたくないのだろう。

 どう考えても不自然な割り込みに「気になりますね」「そうだな」と元春に迫る次郎君と正則君。

 しかし、元春としては頑として答えるつもりはないようで「いや、なんでもねーから」の一点張り。

 と、そうこうしているうちにもダイダルゼリー(仮)の冷凍切り身が焼き上がったみたいだ。

 皿の上の肉片を包み込んでいた熱風の繭が消え去ったのを見て元春が、「ほれ、焼き上がったんじゃね」とあからさまな話題逸し。

 普段ならここで追求をやめるような二人ではないのだが、今回に関しては、トワさんへの興味よりも、焼き上がったそれへの興味の方が勝ったみたいだ。

 二人は耐熱皿の上で茶色く焼け上がり、まるで焼けたキノコのような香ばしい香りを放つソレに視線を注ぎ。


「なんていうか普通にザ・ステーキって感じだな」


 緊張の一瞬。

 僕は焼き上がったそれに塩を振り、調理用として常備しているナイフと、もしかしての場合になにか効果を発揮してくれそうな未使用のミスリル製の千本をマジックバッグの中から取り出して、それをスライス。

 すると、ますますそれはステーキとしか思えない見た目になったソレに誰かがゴクリと喉を鳴らし。

 とはいえ、肝心なのはその安全性と味。

 僕は特に躊躇うこともなくそれを口の中に放り込んで咀嚼、その味に危険(・・)が無いのかをしっかりと確かめた上で、改めてその美味しさをチェック。

 すると、


「なんだろう。これ、エリンギ? 貝柱? チキンナゲットかな。普通に美味しいかも」


「マジで!?」


「うん。とりあえず、味とか毒とかは問題は無いみたいだから、もう一回、スキャンしてもらってから食べてみる?

 後で何かあったらいけないから、みんなに万能薬でも一本づつくばってさ」


 僕は元春からの声にそう答えながらも、ベル君に僕自身と調理した謎肉(?)のスキャンをしてもらって、万が一の時の備えは必要だよねと万能薬をみんなに配り、試食をしてみることになるのだが、

 意外にもまず手を伸ばしたのはマリィさんだった。

 僕から受け取ったミスリル製の千本を使って、切り分けたそれを口に運び、モグモグとしっかり味わった上で出した感想は、


「以前、食べさせていただいた焼き鳥のようにしても美味しいのかもしれませんわね」


 ああ、それはたしかに美味しそうだ。

 そして、情けないことに、マリィさんが食べたことによって、他の三人もようやく手を伸ばす決心をしたようだ。


「ホントだ。さっぱりしたチキンナゲットっていうかサラダチキンに近い感じか」


「そういえば、この素材は錬金術にも使えるんでしたっけ?」


「みたいだね。詳しいレシピはわかんないんだけど、身体強化とか、あとこれは不老不死って逸話と関係があるのかな。アンチエイジングの魔法薬が作れるみたいだね」


 そして、元春が「精力剤とかもつくれんのかな」と思わず呟く一方で、マリィさんがそんな元春の戯言を火弾で物理的に一蹴。


「アンチエイジングという効果には興味がありますわね。おそらくトワが」


「ああ、それは、そうかもですね」


 これを後で知られた場合、逆になにか言われそうだ。

 このダイダルゼリー(仮)は、その線分やらなんやらをソニアに調べてもらった上で確保しておいた方がいいかなと、たぷり腕組みするマリィさんの肯定に僕がそんなことを思う一方で、


「成程、そのトワという方は女性なのですね」


「モトがあそこまで必死になる女の人か、これはけっこう気になるな」


 完全に二人の興味を引いちゃったみたいだね。

 僕は二人のセリフにぎょっとする元春に心の中で『ご愁傷さま』と合掌しつつも、とにかく、このダイダルゼリー(仮)はトワさんの為にある程度、確保しておかないと――と、エレイン君各位にそう指示を送っていくのだった。

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