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修正後のディストピアと懲りない人々

『貴様ら――』と、また馬鹿の一つ覚えのような叫び声をあげるのは、簀巻きになったベランだ。

 その無様な格好は、いつかどこかで見たことのあるアイツのアイツであるのだが、この手の輩はどこにでも湧いてくるもの(・・)なので、ベラン以下、面倒な弓の一族の声にはあえて答えることはないと、僕がその声を意識的に聞き流す一方で、アイルさんはそんなベランに憐れみの視線を向けながらも。


『あの、虎助殿、これは本当にその精神魔法とやらが解けているのでしょうか』


「一応そういうことになっているんですけど――」


 ベランが精神魔法の影響下にあったのはソニアが調べたから確実だ。

 しかし、マスターキーの一撃を撃ち込んだにもかかわらず、どうしてベランに変わった様子が見受けられないのかと、そんなアイルさんからの困惑含みの質問に対する答えは、


(彼等の数名が精神魔法の影響下にあったのは確実だけど、所詮それは単に理性のタガを緩ませた感じのものだからね。その人がもともとそういう人だった場合はあんまり変わらないんじゃないかな。

 その証拠に人によってはすっかり消沈しちゃってる人もいる訳だし)


 たしかに、アイルさんや剣の一族の皆さん、そして僕が操る銀騎士を見て文句を付けている連中もいるにはいるが、特に年齢が低いと思われるエルフの数名は、意気消沈というか、今まで自分がどのような言動をしてきたのかをハッキリと自覚しているようで、恥じ入るように顔を俯かせたり、こわごわといった目でアイルさんや銀騎士を見ていたりする。


 その様子から察するに、これはあくまで傾向になるのだが、年齢やら地位の高かったエルフは、緩んでいた理性のタガが戻ったとしても、その本質はほぼ変わらずに、ただ若いエルフや比較的擦れていないエルフに関しては、周囲の状況に流されてしまったとか、そういった状況があったのかもしれない。


 と、ソニアの考えに僕が独自に推察した補足を加えて伝えたところ、アイルさんは『そうですか』と呟くようにして、ギャアギャアとうるさいベラン始めとした一同にいっそう残念な視線を向けながらも、これ以上の暴言は自分たちだけでなくベランにも毒であると、罵詈雑言を撒き散らすその口に猿ぐつわを噛ませ。


『それで、そちらの方はどうなのでしょうか』


 気分を変えるように聞いてくるのは、赤髪の人形に一度は奪われてしまったディストピアの状態だ。

 弓の一族による襲撃を鎮圧をした後、その処理をアイルさんに任せた僕はディストピアの魔法窓(プログラム)の修復作業を行っていたのだ。


 アイルさんからの問いかけに、僕はディストピアに新たに追加された機能を使って、骸骨が絡みつく柄頭に30インチ程の魔法窓(ウィンドウ)が浮かび上がらせる。


 すると、戦闘に巻き込まれて内部に入った剣の一族だろうか、数名の若いエルフと、あれはたしかエルブンナイツの団長だったかな。見覚えのある髭のエルフを中心とした一団が言い合いをしている映像が映し出される。

 ただ、すべてのエルフが、そのエルブンナイツの団長らしき髭のエルフに付き従っているのではないようで、絶望したようにへたり込むエルフに、股間を抑えて悶える首のないエルフなどの姿が、画面のあちこちに見えていたりして、

 そんな映像を目の当たりにしたエイルさんは、困惑の表情を浮かべながらも、


『あの、これは、どういった状況なのでしょう?』


「えと、集まっている人の状態はなんとなく予想はできますが、一部、僕達の想定を超えた状態に陥っている人がいるようですね。

 やはり彼等も精神魔法の影響を受けているんでしょうか」


 ただ、そうなると――、


「あの、アイルさん。よろしければディストピアの中に入って、彼等を正気に戻していただけませんか」


『私が、ですか?』


「はい。ディストピアの仕様上、銀騎士はその中に入ることは出来ませんから』


 ディストピアの中に入れるのは基本的に魂を持つものに限られている。

 つまり、銀騎士がこのディストピアの中に入ることは不可能で、


「それに、剣の一族の何人かも取り込まれてしまっていますので、彼等の救出がてら、あの一団を処理をしてはどうかと思いまして」


『たしかに、それは、そうですね』


 と、銀騎士(ぼく)が差し出すショットガン型の魔導器であるマスターキーを受け取ったアイルさんは、魔法窓(ウィンドウ)に映し出される混乱に、軽く眉根を潜めながらも、仲間のためならばとすぐにディストピアの中へ入っていき。


 数秒後、ディストピア内に現れたアイルさんを目敏く見つけたエルフの一人が――、

 アイルさんよりも前にディストピア内に飛ばされていた剣の一族を取り囲む一団の後方に構えていたエルブンナイツの団長らしき髭のエルフにそれを報告。

 すると、そのエルブンナイツの団長(仮)がアイルさんの方に向かって歩いてゆき――、

 しかし、彼がアイルさんに歩み寄るよりも早く、アイルさんはその手に持ったマスターキーを構えて、


 カシュン。


 うん。アイルさんとしては頼まれたことを淡々とやっているって感じなのかな。

 アイルさんがその手に構えたマスターキーでエルブンナイツの団長(仮)を撃ち抜くと、その様子をまざまざと見せつけられたエルブンナイツが一斉に動きを止める。


 しかし、それもつかの間、すぐに団長(仮)を助けようと集まるエルブンナイツに、アイルさんはちょうどいいと、魔法の付与効果を破壊する魔散弾を連発。

 団長(仮)にくっついてきた部下数名と共に、集まってきたエルフたちを射さt――もとい、彼等に付与されているかもしれない精神魔法を解除していく。


 そして、そんな一見すると虐殺行為にも見えるアイルさんの行動に、残るエルフたちがショック状態に陥る中、アイルさんはマスターキーを空に掲げて、


『聞け、いまからお前たちを正気に戻してやる。その気があるものだけここに集まれ』


 そう叫んだところ。


『やめろ、アイル。貴様の蛮行もそれまでだ』


 おっと、まだ空気が読めない人が残っていたみたいだ。

 えと、彼はたしかマリィさんと戦った魔剣使いだったかな。

 そういえば、彼もまた剣の一族のみなさんと同様にエルフという種族のイメージに喧嘩を売ってる人だったね。


 しかし、アイルさんはそんな彼にも容赦がない。


『そこで声を上げる気概を持ちながらもお前はどうして――』と残念そうに呟きながらも、取り巻きなのか、恋人なのか、元春に言わせるところの「どうしてあんな脳筋野郎にあんな美女が二人も――」という美女二人組もろともふっ飛ばし、

 元春が「ざまぁ」とほくそ笑むのは、いつものこととして、残るは遠巻きに警戒する一団になるのだが、このタイミングで最初にマスターキーで撃ち抜かれたエルブンナイツ団長(仮)が復活してきたみたいだ。


『アイル。貴様、私に何をした――』


 高慢エルフ式定型文で文句を付けてくる団長(仮)に、アイルさんは何故かショットガンをおかわり。

 たぶん、まだ精神魔法から解除されていない可能性を考えてのことだろうけど。

 しかし、こうかはいまひとつのようだ。


 こうなると、彼の更生は難しいと、アイルさんは難しそうな顔をして、已む無く排除に動こうとするのだが、いざアイルさんが行動に移そうとしたその時だった。


『お止めください団長。我々の未熟をアイルに当たるのは間違っています』


 なんと、アイルさん以外にも、エルブンナイツにはまっとうな精神の持ち主がいたみたいだ。

 いや、これはマスターキーの一撃でマインドコントロールが解けたのかな。

 理不尽に暴力を振るおうとする団長(真)の手を掴み、落ち着かせるように声をかける若いエルフ。


 しかし、そんな彼のまっとうな行動は、エルブンナイツの団長からしてみると、裏切り以外のなにものでもなかったようだ。


『ブルースター、貴様、我ら一族を裏切るつもりか』


 おっと、名前がなんかそれっぽい。

 そして、これは正当な処断だと言わんばかりに若いエルフに剣を振り下ろそうとするのだが、

 いざエルブンナイツの団長が若い団員に攻撃を加えようとしたその瞬間、さりげなく団長の背後に回り込んだアイルさんが、その首に手刀を振り下ろす。


 と、数秒して足元から崩れ落ちるエルブンナイツの団長。


「おいおい、いまのって首トンじゃね」


 それはまさしく首トンだった。

 実はこれ、アイルさんがアヴァロン=エラにいた頃、とあるバトル漫画を読んで、その技を体得したいとアイルさんが言い出したのをきっかけに、マリィさんと魔王様が興味を持って、僕がソニアに頼んで作り出した魔法の指輪によるものだったりする。


 そして、そんな絶技にみえる攻撃に、周囲が静まり返る中、アイルさんがここだとばかりに声を張り上げる。


「お前たち、ここから出たいか、出たいものだけ私についてくるのだ」


 はてさて、これでいったいどれくらいのエルフが言うことを聞いてくれるだろうか。

 あまり期待はしてないけれど。

 僕はそんなことを思いながらも、ここまでやればディストピアの中のことはアイルさんに任せておけばいいと、内部状況の観察を止め、その間にすっかり移動の準備が終わった周囲に声をかけ、エルフの里への移動を始めるのだった。

◆今回登場した装備の説明


 首トンリング……みんなの夢を叶える魔法の指輪。

 小指に装着し、一定のフォームで手刀を繰り出すことによって極小規模な〈気絶(パラライズ)〉の魔法を発生させることの可能になる。

 無防備な相手にこの攻撃を当てた場合、ほぼ確実に相手を気絶へと追い込むことができる。

 ちなみに、通常――、魔法なしで首トンを実行するには、首の骨を折る勢いで殴りつけないといけないらしいのだが、イズナなどは無防備になった背中から強烈な殺気を浴びせることで、相手を気絶に追い込むことができる。

 ちなみに虎助は、この指輪の効果を確かめるべく、さまざまな魔獣、ディストピアに挑戦したため、無詠唱ただイメージするだけでこの魔法を使えるようになっている。

 ただし、無防備な状態で延髄に打ち込まなければ効果が発揮されないのは変わらないが……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の装備についての説明が本文にありますが、いつもは後書きにあるのでミスでしょうか?それともスタイルを変えられたのでしょうか?
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