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ガルダシア城のおもてなし計画

「お客様を招くための準備ですか?」


「はい」


 異世界転移に関するちょっとした真面目な話をした後、珍しくこの時間に来店したトワさんにその要件を聞いてみると、ルデロック王の帰還から数ヶ月、王国側の混乱もだいたい収まってきたこのタイミングで、ミスリルの産出地(実際はアヴァロン=エラで作られているのだが)として知られ始めたマリィさんの自治領を見学に来たいという人が増えてきているそうで――まあ、正直、マリィさん達からしてみると受け入れたくないお客様だそうだが、それはそれとして――それに伴い城の改修やら飾り付けが必要なのだそうだ。

 そもそもガルダシア城はマリィさんが軟禁されるまでは廃墟同然となっていた城で、数年前、マリィさんが|軟禁されることになった際に人の手が入ったそうなのだが、それはあくまで必要最低限の改修であり、貴族なんかをを招くような設備改修は行われていないらしいのだ。

 ちなみに、現在、ガルダシア城は万屋からの技術提供により、ある意味で王城を凌ぐほどに設備が整っている状態なのだが、それはあくまで暮らしという観点からの話であって、お客様を迎え入れるとなると、それに即した準備が必要になるのだそうだ。


「成程、話はわかりました。

 それで僕達はなにをすれば――」


 ということで、ここからが本題と、何を作ればいいのかと僕が訊ねたところ、トワさんが「はい。とりあえず――」と、必要なものを上げていこうとするのだが、その声に被せるようにマリィさんが言うのは、


「それは、もちろんエクスカリバー様ですの」


 うん。いつも通りのマリィさんだね。

 そして、そんなマリィさんの横槍に思わず半眼になってしまうトワさん。

 しかし、マリィさんはその白い視線に気付くことなく、城に入ってすぐの広間にエクスカリバーさん――というか、この場合はエクスカリバー3になるのかな――を飾ることによって、訪れる貴族の度肝を抜こうという構想を熱弁する。

 だが、そんなマリィさんのお話が、いざエクスカリバーの設計に及ぼうとしたところで、半眼のまま沈黙を守っていたトワさんがピシャリと言うのは、


「マリィ様、それは警備上の観点から容認できません」


「トワ、それは、どうしてですの?」


「どうしてと申されましても、城に入ってすぐの正面に伝説級の武器を設置するなど、この武器で城を落として下さいと言っているようなものではありませんか」


 うん。これはトワさんの言ってることは尤もだよね。

 城の正面、誰しもが手に取れる場所に、伝説の聖剣を模した武器を設置するのが危険なのは誰が考えても明らかだ。

 ただ、これに関しては、実は意外と簡単な解決策があったりする。

 その解決策というのはちゃんとしたエクスカリバーを作ってしまうということ。

 聖剣が自分の持ち主を選ぶというその特性を利用してやれば、城の正面玄関という場所にあったとしても、おいそれとその聖剣に手が出せなくなるのだ。

 だから、新しくつくるエクスカリバーに強力な精霊を宿すことができたのなら、警備上もあまり問題がないと、マリィさんもそこを指摘してトワさんを説得しようとしているのではと、僕はそう予想したのだが、


「わかりましたの」


 あれ、意外にもあっさり――、


「ならば黄金の鎧を作るというのはどうでしょう」


 引き下がっていなかった。


 マリィさんは、武器が駄目なら防具を飾ればいいじゃないと、らしいことを言い出したのである。

 いや、もしかすると本題はこっちだったのかもしれないな。

 マリィさんとしては、新しくお客様を招くことになるかもしれない城の入り口に、自分の大好きな黄金の騎士を思い起こすことのできる黄金の鎧を飾りたかったのかもしれない。

 そして、トワさんからしても、マリィさんの趣味は重々承知している。

 この展開もなんとなく予測していたのではないだろうか。

 『まったく』とそんな声が聞こえてきそうな顔になって、


「仕方ありませんね。

 では、虎助様、見栄えがよい鎧をお願いできますか」


 予想外にもすんなり通ったOKに、それで二人が納得するならと、僕はすぐに注文を受けようとするのだが、ここでマリィさんからの『待った』がかかる。


「お待ちなさいトワ。ものは城の顔となる鎧ですの。見栄えだけの半端なものは許しませんわよ」


 ああ、ここで二人の認識に差が出てくるのか。


「しかし姫様、それは見せるだけの鎧です。そこに多大な費用をかけるのはいかがなものでしょう」


 たしかに、それがただ飾られるだけの鎧なら、防御力を度外視に、芸術性を求めた鎧を造る方が安上がりだ。


 ただ、マリィさんからしてみると、それが飾り物を目的を作られるものだとしても見栄えだけの鎧などもってのほかのようで、

 ここは引き下がれないというマリィさんに、財政的な観点からその意見を否定するトワさん。二人の意見は平行線を辿ることになるのだが、

 しかし、このままでは、いつまで経っても話がまとまらない。

 ということで、ここで一つ僕に案があると二人に聞いてもらったのは、


「あの、それなら銀騎士をヴァージョンアップさせるというのはどうでしょう」


「「銀騎士をですの(か)?」」


「はい。マリィさんのお城には魔鏡の向こうの世界の探索用にと、まだ銀騎士が置きっぱなしになっていますから、あの銀騎士をヴァージョンアップさせてはどうかと思いまして」


 そうすればガルダシア城の警備の強化にもなるし、これから本格化するだろう魔鏡の向こうの世界の探索の大きな戦力になる。


「それに、ウチのオーナー(ソニア)も魔鏡から行ける世界には興味があるみたいですから、お願いすれば自分から改造を申し出てくれると思うんですよ」


 そうなれば費用も払う必要もないだろうし、予算を気にせず銀騎士の強化も可能である。

 僕がそう言うと、トワさんとしては、あまり僕達に甘えるのもいかがなものかという考えがあるのかもしれない、「それは――」とやや遠慮をする素振りを見せるのだが、今回の提案はあくまで僕たち万屋側からしてもメリットがある話である。

 だから、その辺の説明を、ソニアが興味を持っている分野も含めて丁寧に説明したところ、トワさんも『そういうことならば』と納得してくれたみたいだ。

 まだ若干の遠慮は残ってはいるが、お金をかけず警備の質があがると消極的な賛同をくれて、

 その一方でマリィさんはといえば、


「つまり金騎士ということですわね」


 いつものように趣味を前面に押し出してくるのだが、


「銀騎士を金色にするのはどうなんでしょう――」


 さっきも言ったように、マリィさんの城にある銀騎士はガルダシア城の警備に七つの世界の探索をこなさなければならない。

 そんな銀騎士を金色にしてしまっては探索に支障が出てしまうのではないのか、僕がそう言うと、

 だったら、他になにかいいアイデアはと、マリィさんがまたなにか考え始めてしまうだが、思い出してみても欲しい、今回、話し合っているその内容は、銀騎士の改造案ではなくてガルダシア城の改修案。


 ということで、マリィさんが本格的な思考の海に沈んでしまう前に、トワさんがその意識をサルベージ。

 銀騎士の改良案を考える前に、城の改装計画を立ててしまいましょうと、マリィさんの意識を本来の目的である城の改修案に集中させようとするのだが、

 マリィさんとしては城の顔となる展示物が素晴らしいものになるのなら、それ以外のことにはどうでもいい――と、そこまでのことは思っていないのだろうが、城の内装やらなんやらと、そんなことに時間を割くくらいなら銀騎士の改造案を考える方が重要なことのようで、


 結局、城の改修やら調度品の選定はトワさんが主導になって決めていくこととなり。

 いまだ精神的な石化状態が解けない元春の直ぐ向かいのソファに座ったトワさんが、インターネットの検索機能をフル活用。

 それらしき城の内装や各種インテリアをピックアップして、

 万屋でできることは万屋で、それ以外のものは通販でと購入すべきものを決めていき。

 最後に城を飾り付ける芸術作品の物色を始めるのだが、

 なにか適当な芸術品はないかとオークションサイトを流し見ていたトワさんの手が不意に止まる。

 その理由はなにかというと、


「あの、虎助様、シェスタが描いたような絵がおそろしく高額で取引されているのですが、これはいったいどういうことでしょう」


 そう言って、トワさんがすっと前に出してくれた魔法窓(ウインドウ)には、まるで子供が描いた落書きのような絵があった。

 ちなみに、シェスタさんというとサイケデリックな謎のスクナをドラゴンと言い張る程に、芸術センスが皆無な前髪スラッシュな双子メイドさんの片割れだ。


「ああ、これですか、これは現代アートって呼ばれる芸術品で――」


 困惑するトワさんにその絵の解説をしようとする僕。

 しかし、正直、僕もこの手の芸術作品には詳しくないので、適当にそれらしき作品の解説が乗っているホームページを検索。「これを読めばあらかたのことはわかるかと――」と、詳しい説明はインターネットに丸投げ。

 すると、トワさんは僕がパスしたホームページを一通り読み込んで、


「つまり、この落書きのような絵にも、我々が知る宗教画のような、なんらかのメッセージが込められていると、それ故にこの価値になっているということですか。

 しかし、これにそこまでの価値があるとは、私には思えないのですが」


 うん。トワさんのその意見には僕も同意である。

 しかし、


「これに関しては、おそらくトワさんの知るような絵画と同じように、理解できない人は一生かかっても理解できないものですから――、

 それに地球には写真がありますからね」


「写真というと、魔法窓(ウィンドウ)に備わっている転写技術ですね」


「はい。僕達が暮らす現代ではああいった機械が普及していますから、写実的なモチーフの表現をする場合、そちらが使われるのが一般的ですから」


 とはいっても、ふつうに現代でも美麗な風景画などを売りにする有名画家などは存在するし、それを言うのなら、マリィさん達が暮らす世界にも同じようなマジックアイテムがある。

 だから、これら技術の発展によって絵画の多様性が生まれたという訳ではないのだが、トワさんの反応からして、お二方が暮らす世界では、まだ写実的な絵画の価値が高いということだろう。


 ただ、それなら逆に魔法窓(ウィンドウ)から使えるスクリーンショットを利用して、例えば肖像写真やプテラを使って各地の風景写真を集めれば、それほど資金をかけずとも、立派な展示物が集められるのではないか?


 と、ちょっとした会話の流れから、ふと思いついたアイデアを、トワさんに伝えてみたところ、トワさんも「それはいい考えかもしれませんね」と頷いてくれて、「姫様もそれでよろしいでしょうか?」と立ち上がる。


 因みに、いまここで話題の登ったプテラというのは、ガルダシア城に配備されているプテラノドン型の無人偵察機(ドローンゴーレム)の呼び名である。

 これは、例のルデロック王ご乱心事件の後始末の最中、プテラノドン型無人偵察機と呼ぶのが面倒になった僕が「プテラ」と略して呼んでいたらそれが定着したものだ。


 ということで、トワさんは僕が思いついたアイデアをマリィさんに説明。

 共にガルダシア城の代表を務めるユリス様も呼んで肖像写真を撮ろうということになるのだが、

 いざ、ユリス様に写真を撮りに来ていただくべく、トワさんがスノーリズさんと連絡をとっていたところ、どうしたことか、先ほどまで銀騎士の改造案で心ここにあらずだったマリィさんが、店内にある更衣室の中に入っていって、

 しばらくして戻ってきたマリィさんはというと、


「マリィ様。その格好はなんですか」


「決まっているではありませんか、その写真はガルダシア城の顔になるのでしょう。

 ならば、それなりの格好をしなければ失礼というものです」


 若干引きつり笑顔のトワさんからの問いかけに、満面の笑みで答えるマリィさん。

 その姿は万屋謹製のオリハルコン製の鎧『盾無』を完全装備した姿であった。

 どうやらマリィさんはこの姿で肖像写真を撮ろうと考えたみたいだ。


 うん。これなら銀騎士を金騎士に改造しなくても、正面玄関に黄金の騎士を思わせる飾り物が作れるからね。


 しかし、トワさんとしては、おそらくそういう絵画で定番のドレス姿のマリィさんを撮りたかったのではないだろうか、勇ましいマリィさんの格好に呆れるようにして、

 さて、ここからどうやってマリィさんを説得しようかと、そんな風に気合を入れ直したのだろう。すっと真顔に戻って、なにかマリィさんに言おうとするのだが、

 ちょうどそのタイミングで現れるこの方。

 そう、トワさんが念話通信で連絡を入れ、スノーリズさんに連れてきてもらったユリス様だ。

 そして、まさにそれは『この親にしてこの子あり』。

 いざ、トワさんが鎧姿のマリィさんに文句を入れようとしたその時、連絡を受けて万屋を訪れたユリス様が、店に入るなりマリィさんのお召し物を見て回れ右。


「ユリス様どちらへ」


「マリィちゃんがああいう格好なら、私もと思いまして――」


 嫌な予感が――と、そんな副音声が聞こえてきそうなスノーリズさんの問いかけに、のほほんとした笑顔で答えたユリス様が、ドレスを着ている人とは思えない素早い動きでゲートに向かって走り出す。


 結果、マリィさんは『盾無』、ユリス様はスノーリズさんの『黒百合』とお揃いで作ったムーングロウ製のドレスメイル『白百合』を装備して肖像写真を撮ることになってしまったみたいである。


 ただそれはトワさんやスノーリズさんが求めるものではなく、ドレス姿の肖像写真の方が必要であって、鎧姿の撮影した後、改めてドレス姿の二人を撮ることになったのは言うまでもないだろう。


 そして、その間、ずっと伏せていた元春が、さりげなくトワさんを盗撮していたのも、また言うまでもないことなのかもしれない。

◆次回は水曜日に投稿予定です。

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