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潜水艇シミュレーション

◆今回のお話はちょっと短めとなっております。

 アイルさんの暮らすエルフの里を襲った騒動から数日、万屋に出勤した僕は、今日は元春たちもおらず、ディストピアに潜れないと暇そうにしていたエルマさんに一枚のカードを差し出していた。


「エルマさん。まずはこれを――」


「ええと、これは?」


「これは〈メモリーカード〉といって、いろいろな情報や魔法式を記録できる。いわば白紙の魔導書のようなものでしょうか」


「白紙の魔導書ですか?

 それって、お高いものなんじゃ」


「いえ、実はそこにも置いてあるんですけど、〈メモリーカード〉はそんなに高額なものじゃないんです」


 実際、〈メモリーカード〉は容量や素材にもよるが銀貨数枚から売りに出しているウチの商品である。

 ただ、エルマさんに渡したメモリーカードは、例のカメ型ごーれむとの間でデータをやりとしして、いろいろな情報を集め無くてはならないと、そこそこ大きなインベントリを使っている。

 よって、価値をつけるとすればそれなりのお値段となっていたりするのだが、それをわざわざ知らせたことでエルマさん恐縮させてしまうのもなんなので、あえてその情報は伝えずに――、


「それで、この〈メモリーカード〉を渡されて、私はどうすれば?」


「ああ、それはですね。そのカードが向こうでの情報収集に必要なことが一点と、実はですね。そのカードに、今度エルマさんに渡す船の動かし方を練習できる魔法式(プログラム)が組み込まれているんですよ」


 簡単に言うと潜水艇シュミレートのようなものかな。

 エルマさんにはこれで潜水艇の操作に慣れてもらわないといけないのだ。


 とはいっても、そこは魔法技術の粋を集めて作った船、本物の潜水艦よりも遥かに簡単に動かすことができるハズなので、エルマさんには「そんなに難しいものではないですから――」と安心させる言葉を送って、早速その練習をしてもらうとするのだが、


「えと、その、しゅみれーしょんですか、それはどうやってやればいいんでしょう?」


 おっと、そこからか。

 たしかに、〈メモリーカード〉の使い方を先に説明しないといけないよね。


 ということで、エルマさんに魔法窓(ウィンドウ)の呼び出し方、そして、メニュー画面からお目当ての魔法アプリを起動する方法を教えたところで、目的の潜水艇のシュミレートアプリを立ち上げてもらう。


 すると、すぐにアプリを操作するエルマさんの前後左右に、海底の景色を映し出す魔法窓(ウィンドウ)が四枚と、こちらは3Dマップの応用で、銀騎士を動かしているのと同じ思考型コントローラー(金属球)の立体映像が呼び出され。


「こ、これは――」


「綺麗ですわね」


「……ん、素敵」


 魔法窓(ウィンドウ)に映し出された海中の映像に、エルマさんが驚愕の声を、マリィさんが感嘆の声を、そして、ものがゲームのような魔法式(プログラム)ということで魔王様も気になったのだろう。いつの間にかやって来ていた魔王様が囁くようにコメントする中、


「では、動かしてみましょうか。

 船そのものを自分に置き換えるようにして進めと念じれば前に進んでいくと思いますので」


 僕はエルマさんに潜水艇の操作を憶えてもらおうと、取り敢えず動かしてもらえるようにそう言うのだが、エルマさんはそんな声を無視するように僕の方へと振り向いて、


「あ、あの、これって――、どうして海の中にいるんでしょう?」


「ああ、そういえば言ってませんでしたっけ?

 エルマさんに渡す船は海の中を進むこともできる船なんです」


「そ、そんな船があるんですか!?」


 おっと、このリアクションは――、

 予想はしていたけど、エルマさんは潜水艇がない世界からやって来たんだね。


 しかし、魔法には服を着たまま水中を進むという魔法が普通にある。ここは面倒を避けるためにと、僕はさらっと『常識ですよ』とそんな空気を醸し出して、


「エイルさんの場合、戻った先にちょっと問題があるかもしれませんからね。それに対応した船を作るとなるとどうしてもこうなってしまうんですよ」


「な、成程――」


 そう、アイルさんがゲートを通じて、元の世界に戻るとしたら、海の真ん中、もしくは掃除屋のお腹の中だ。

 そんな場所に戻るというのに、普通の船を渡したところで、最悪、帰った途端に大ピンチなんてことにもなりかねない。

 なので、そうなった時に、大抵のことなら対処できる潜水艇を選んだのだと、僕達がこういった船を用意したその理由を伝えたところ、エルマさんもある程度、納得が言ったみたいだ。


 ただ、そんな説明をしている間にも、シミュレーションは動いていて、どうやらシュミレーション上の潜水艇は徐々にその深度を下げていたみたいだ。

 僕からの説明が終わったくらいのタイミングで、ピコンピコンと設定上の限界深度を知らせる警報音が鳴り響き。

 どうせだから、ここで軽く実演をと、僕はエルマさんが展開するアプリに横入り、フリーで浮かんでいたVRの金属球に手を添えると、沈みゆく潜水艇を浮上させながら、


「でも、この船はこんな感じで潜れる深さには限界がありますので、警告音がなり始めたら、ゆっくりと浮上して下さい」


「わ、わかりました。

 でも、ゆっくり浮き上がるというのはどういうことなんです?

 警報が鳴るってことはすぐに浮き上がった方がいいんじゃ……」


「ああ、それはですね。水圧ってわかりますか?

 水に深く潜ると体がギューってなる力のことを言うんですけど」


「はい。それなら、なんとなく」


「あれって実は周りの水の重さが、この場合は潜水艇ですね。それにかかってきているわけなんですけど、急に浮上すると一気にその力が抜けちゃうんです。

 で、全方位から船を締め付けていた力が急になくなってしまうと船はどうなっちゃうと思います?」


「もしかして、バラバラになっちゃったりします?」


「さすがにそこまでことにはならないと思うんですけど、それを何度も繰り返していくと、船は確実に傷んでいくと思うんです」


 まあ、それもソニアの作った潜水艇なら、ほとんどないに等しいものなんだと思うんだけど。

 一歩間違えば命の危険があるというのが海の中だ。

 だから、ここは大袈裟に言っておいた方がいいだろうということであえてここは大袈裟にそう説明すると。


「それは怖いですね」


 脅かしすぎたかな。

 でも、エルマさんが元の世界に戻った場合、頼りなるの船に付与してある〈修復(リペア)〉の魔法くらいなものである。

 エルマさんにはいろいろと調査をしてもらうこともあるんだし、潜水艇はできるだけ慎重に扱ってもらった方がいいだろう。

 ということで、これくらいの勘違いは許容の範囲内と僕はエルマさんの過剰反応をそのままにして、


「とりあえず、実際にご自分の世界に戻った時の為に、これで操作になれておいて下さいね」


「わかりました」

◆ちょっとしたネタバレのようなものを含む解説(ストーリーにはあまり関係ありません)


 潜水艇のフィールドデータ(水中映像)は、マリィが所有する転移の魔鏡から移動できる場所の一つ、浮遊要塞眼下の海を調査したものを使っていたりします。

 現在、小魚タイプの探索ゴーレムを複数はなち、念話通信が可能な距離を広げながら陸地を探している最中。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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