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ハーピーとボンテージ

「この度は本当に申し訳ありませんでした」


「いえいえ、大変な状況のようでしたのでお気になさらず」


 学校帰りに近所のケーキ屋で買ってきたショートケーキを差し出しながら、僕が謝っているのはエルマさんだ。

 謝罪の理由は、アイルさんの世界のゴタゴタにかまけて潜水艇の制作が後回しになってしまったことである。

 依頼を受けた順序でいえばエルマさんの方が先なのだが、後から持ち込まれたアイルさんの問題の方が緊急性が高かったということで、潜水艇の建造を後回しにさせてもらったのだ。

 だから、エルマさんにはちゃんとその保証をしなければと、山吹色ではないのだが、菓子折り込みの謝罪と共に、迷惑料としてなにか欲しいものはないかと訊ねてみたのだが、

 性格だろうね。エルマさんは「いえいえ、お世話になっているのはこっちの方ですから」とそれを拒否。

 しかし、これだけ待たせておいてなにもしないわけにはいかないだろうと、「いえいえ」「いやいや」と、日本人らしいやんわりとした押し問答を繰り返した結果、最終的にエルマさんが折れてくれたみたいだ。


「じゃあ、この子の装備をお願いできますか」


 エルマさんのリクエストは、自分の為のなにかではなく、仲間になったばかりのプイアの装備を作って欲しいとのことだった。


 やはり人型の魔獣だけに、単にチューブトップブラを着けただけでは、装備面(・・・)の観点から心許ないみたいだ。


 しかし、ハーピーの装備か、どんなものがいいんのかな。


 僕がこれが初めてとなる――いや、SEカードにリーヒルさんの鎧と人外さんの装備もいろいろと作ってきているのかな――人以外への装備作成に、店の外でヤートと一緒に羽繕いをしているプイアを眺めて、その装備を考えようとしていたところ、シュトラとクロマルとゲームをしている魔王様をぼーっと眺めていた元春が、何を悩むことがあるのかとばかりに言ってくるのは以下のようなことだった。


「やっぱハーピーといえばボンテージだろ」


 うん、元春の言わんとすることはわからないでもないけれど。


「別にハーピーがみんなそうって訳じゃないよね」


 ハーピーといえばボンテージ。

 たしかに、一部そういうイメージはあったりするけど。

 たとえば、いまプイアが着ているチューブトップにホットパンツ。

 この組み合わせも、ある意味で定番なのではないか。

 僕が『それもなんかちょっと違うような気がするけど』と思いながらも、他に思い浮かぶコメントもなく、それをそのまま反論に使おうとしたところ。

 バベルの翻訳機能が上手く働かなかったのかな。

 マリィさんが胡乱な瞳で元春を見ながら、


「ボンテージとはどういうものなのです?」


 僕はそんなマリィさんからの質問に、僕は、ここは正直に答えていいのか――と思いながらも、あまりまごまごしていても、これはこれで問題なのかもしれないと、取り敢えず、大人しめのデザインのものをサンプルに、ボンテージがどういうものなのかという例をいくつか見せていこうとしたのだが、

 マリィさんは、一つ、二つと浮かんだ魔法窓(ウィンドウ)を見た瞬間、


「ハ、ハレンチですの!!」


 真っ赤な顔をして魔法窓(ウィンドウ)を叩き割る。

 僕としてはかなり大人しめのものを選んだんだけど、マリィさんからするとこれは『無し』みたいだ。


 しかし、プイアが裸を前にした時は何でもなかったのに、単に『ボンテージっていうのはこういうものですよ――』とカタログを見せただけで、こんなに激しい拒否反応を見せるとは――、

 僕がマリィさんの反応にちょっとした理不尽を感じる一方で、このお馬鹿な友人は、またなにか強いこだわりでもあるのか、


「でもっすね。俺らの世界じゃハーピーの装備といえばコレってなってるんすよ」


 ボンテージに否定的なマリィさんに食い下がっていく元春。

 だが、マリィさんはなぜか僕に鋭い目線を向けながらも。


「虎助、それは本当のことですの?」


「その、どちらかといえば知る人ぞ知る常識でしょうか」


 そう、それはあくまでそれは知る人ぞ知る常識だ。


「でもよ。こういうモンスターって大概えっろい格好してんじゃねーかよ」


 うん。たしかにそれは元春の言わんとすることもわからないではない。

 でも、わざわざ不機嫌になってきたマリィさんの前で強調しなくてもいいのに。


「つか、こういう装備の他にハーピーがつけることができるものってあるんのかよ」


「うーん。ぱっと考えつくものってなると簡単な魔法式を書き込んだアクセサリとかかな」


 他にも武器として鉤爪とかがあったりするのだが、そういったものを、可能性としてはかなり低いのだが、エルマさんと同じ世界に行けないかもしれないプイアに与えるのはちょっと遠慮したい。


「てゆーか、そもそもプイアちゃんって魔具とか使えるん」


 たしかにそれは根本的な疑問である。

 しかし、そこのところどうなんだろう。

 未熟な原始精霊を搭載するエレイン君でも、その手のアイテムは問題なく使えるくらいだから、人並みの知能を持つハーピーになら使えるとは思うんだけど、こればっかりは専門家に聞いてみないとわからないと、僕がエルマさんに訊ねるような視線を送ってみると、エルマさんがわたわたと両手を動かして、


「え、えと、ちゃんと教えてあげれば使えるようになると思います。

 でも、あまり複雑なものだと使うまでに時間がかかるかもしれないので、できれば簡単なものの方がいいかなって思います」


 つまり、現状、人語を習得していないプイアでは複数の魔法を積んだ魔導器の類は難しいってところかな。

 僕達が使う魔導器は人間の認識を軸に作られているから、ある程度、人間社会に慣れていないと上手く使えないのかもしれない。


「でもよ。それならやっぱりボンテージがいいんじゃね。

 ボンテージならアクセサリなんかよりもいっぱい魔法を付けられるだろ」


 元春も随分とそっちの知識に詳しくなったみたいだね。

 事実、魔力そのものを溜める素材そのものの力の関係もあるが、魔具や魔導器を作るなら、魔法式を刻む面積が大きなものの方が有利である。


 とはいえ、それで元春の言う通りにボンテージの衣装を作るのはいかがなものか。

 そもそも、魔法式を書き込むスペースを取るというなら、元春が求めているようなセクシーなボンテージ衣装にするよりも、例えば布面積の広いストラップレスなミニドレスを作った方がいいんじゃないのか。


 ということで、ここは元春のアイデアは参考ていどに、エルマさんにマリィさんと女性陣も納得してくれるものはと考えて、最終的に僕が三人に見せたのは、フィギュアスケーターが着るようなピッチリしたドレスに羽をあしらったような服だった。


「これ、かわいいですね」


「たしかに、これならば悪くはないですの」


「まあ、これっくらいならぎりっぎりイケるかな」


 うん。なにがイケるんだい?

 という元春の独り言に対するツッコミはおいておくとして、


「このドレスでよろしければ、解体したばかりのスフィンクスの素材を使って、すぐにでも作れると思うんですけど」


 僕がそう言うと、エルマさんは少し戸惑ったご様子で、


「その、スフィンクスって、きのう店長さん達が解体していた魔獣ですよね。貴重なものなのでは?」


「いえいえ大丈夫ですよ。

 今回、エルマさんからの仕事が遅れたのもスフィンクスに原因がありますから。

 それに、素材はいっぱいありますので」


 スフィンクスは全長二十メートル以上の巨獣である。

 故にそこから取れる革の量も膨大で、飾りとしてつける羽は片翼だけで十メートル以上、下手な飛行機よりも大きな翼なので、採取できる羽も相当な量になってしまうのだ。


 よって、その素材としての価値は、少なくともこのアヴァロン=エラにおいてはそれほど高くなく、ドレスを作るのに使う素材なんて微々たるものだとそう言って、


 ただ、あまりうだうだやっていてもエルマさんが遠慮するだけだろうと、「本当に大丈夫ですから」と、笑顔でエルマさんを安心させつつも、ちょっと強引にエレインくんに注文を出して、


 しかし、このデザインだと首元の守りがちょっと不安かも。


 追加でミストさんから仕入れる布を使ってフード付きのケープを用意して、

 これで最低限だけど首元や、場合によっては頭も守れるだろうと、注文の品の完成を待っていたところ、そろそろ元春の家の晩御飯も近い時間になって、裏口の扉が開き、エレイン君が完成品を持って店の中に入ってくる。


 と、それから、プイアにこのドレスの〈着装〉の仕方を伝授して、装備してもらったそれは――、


「ほう、なかなか」


「かわいいです」


「俺としてはなんかイメージと違った感じになっちまったが、これはこれでアリかもな」


 なんか言いたいことがある人もいるみたいだけど、みんな満足してくれたということでこれでよかったのかな。

 僕はおめかししてみんなに褒められて嬉しそうにするプイアを見て『うんうん』と満足そうに頷くのだった。

◆今回、作成した装備


 スフィンクスのフェザーボンテージ……スフィンクスの革と羽根を使ったボンテージドレス。胸元と腰に付けられた羽根飾りによって飛行能力を補助する。〈着装(ドレスアップ)〉〈風包(エアクッション)〉〈放電(ディスチャージ)〉と三つの魔法が付与されている。


 ミスト印のフード付きミニストール……防水・防刃に優れたストール。強靭なアラクネの糸により首元と頭部を守る。

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