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剣の一族

 『父です』と、アイルさんに紹介されたのは、筋骨隆々、小麦色の肌も眩しい大男だった。

 エルフっていうのは、なんていうかこう、もっと線の細い種族だったんじゃあ――と、正直、僕のイメージではそんな感じがあったのだが、アイルさんのお父さんを含めた剣の一族は、みんな一様にマッシブな姿をしていた。

 なので、もしかしてら、ファンタジー世界のエルフの中には、こういうグラップラータイプのエルフもいたりするのではないかと、マリィさんや魔王様に意見を求めてみたところ、どうも、二人の目から見てもアイルさんのお父さんは、いや、剣の一族はおかしな存在だそうで、


(わたくし)達の世界でも虎助が想像しているような種族だったと思いますの」


「……ん、異常」


 とはいえ、現実は現実として受け入れなくてはならない。

 僕はこの衝撃の出会いのことを『所変われば品変わる』と飲み込んで平然とした声音でご挨拶をすることに、


『この度は同胞が失礼しました』


 すると、アイルさんのお父さんは挨拶もそこそこに謝罪から入ってくれる。

 うん。まあ、あんなことがあった後だ。アイルさんのお父さんが謝罪したくなるのは分からないでもないのだが、ただ、あくまで弓の一族は弓の一族、剣の一族は剣の一族、最初の出会いこそあれだったが、少なくとも剣の一族であるアイルさんが常識人と知っているということで、僕はアイルさんのお父さんの謝罪に対し「いえいえ」と恐縮した言葉で答えつつも、それよりも――、


「それで、僕達はこれからどうしたらいいんでしょう?」


 僕達はアイルさんの依頼を受けてこの銀騎士をエルフの里に持ち込んでもらった。

 それにはいろいろな反発があることだろう。

 だから、ここはすぐにでも仕事に取り掛かって、この場を離れた方がいいのではないか。

 僕は自分達はなにをやればいいのかとアイルさんのお父さんに訊ねるのだが、

 アイルさんのお父さんが言うには、現在、剣の一族の斥候が問題の里を襲った半人半鳥の巨獣を追いかけているらしく、彼等が戻ってくるまで少し待ってくれないかとのことである。


 しかし、銀騎士にというか、僕達には念話通信という便利な魔法がある。

 だから、剣の一族のみなさんが支持を出してくれれば、その斥候さんと合流できるのではと思ったのだが、どうも、この里を取り囲むように存在する森には特殊な力が働いているらしく、この森に暮らすエルフの案内なくして特定の場所に向かうことはとても難しいとのことだ。

 なので、やっぱり斥候の人たちが戻ってくるまでここにいて欲しいとのことである。


 とはいえ、銀騎士には念話通信だけじゃなく、高度なマッピング機能も備わっている。

 だから、正直、多少の魔力障害のようなものがあったとしても、特に困ることはないのだが、

 とはいえ、今回、僕達はアイルさんに乞われる形でここにいるという立場である。

 依頼主であるアイルさんと、そのお父さんがしばらくお待ち下さいと言うのなら、それを無視して勝手に動くわけにはいくまい。


 ということで、銀騎士はしばらくここで待機。

 ちなみに、待機場所として紹介されたのが綺麗な水をたたえる小さな泉を中心とした庭園だった。

 アイルさんのお父さん言うには、ここはエルフの里にあるパワースポットの一つだそうで、ゴーレムを維持する為には大量の魔力が必要だということで、ここを紹介してくれたみたいだ。

 本当にどこまでも気がつくエルフの武人である。

 やっぱり健全な肉体には健全な魂が宿るとかそんな感じなのだろうか。

 去りゆく鬼の背中に、そんなことを心の中で呟く一方、

 マリィさんと魔王様としては、どうもエルブンナイツのイメージが先行してしまうのだろう。


「やはり違和感がありますわね」


「……ん」


 お二人としては剣の一族の対応にはいまだに慣れないところがあるみたいだが、せっかくいい場所を紹介してくれたのだから甘えさせてもらおうと、でも、またいつ弓の一族みたいな輩がやって来てもいいようにと銀騎士を省エネモードで待機させて、流麗な庭を眺めながらちょっと遅めのティータイム。


 ベル君にお願いして持ってきてもらったお茶やお菓子を食べながら、それぞれの魔法窓(ウィンドウ)にダウンロードしたバトロワ系のゲームで時間を潰していると、少しして斥候役の人達が帰ってきたみたいだ。


 ただ、残念なことにターゲットを途中で見失ってしまったみたいで、

 なんでも、その女性テイマーと半人半鳥の巨獣は、エルフの里を囲むように広がる巨大な森の外縁部まで移動した時点で、煙のように消えてしまったとのことだ。


 一応、どこに消えたのかとか調査はしたみたいなのだが、場所がエルフ以外の種族も活動する森の外縁部だったということで、一度、長であるアイルさんのお父さんの指示を仰ごうと、数名の人員を残して戻ってきたのだという。


 ちなみに、半人半鳥がいきなり消えてしまった原因だが、考えられるのは可能性は幻惑系の魔法、もしく空間系の魔法か。


(でも、それはあくまで状況から読み取れる推測だから、実際に現場に行ってみないとわからないよね)


 ソニアもこう言っているので、戻ってきたばかりの斥候役の人には悪いのだが、彼等の案内で消えた地点へと向かうことに。


 現地へ赴くメンバーは銀騎士(ぼく)とアイルさんと、斥候役だった一人に加えて、探索に特化した数名がついてくることになった。


 正直言うと、念話通信を使えば遠距離からでも情報のやり取りが可能なので、銀騎士だけの移動でも構わなかったのだが、そこは剣の一族としての使命感というか、中途半端なことは出来ない武人の気質というか、

 とにかく、アイルさんのお父さんの意向を受けた僕達は少数精鋭でエルフの里を出発――となるハズだったのだが、

 これもまたお約束と言うべきか、例のごとく弓の一族が里の入り口で待ち構えていたみたいで、

 追加で派遣された剣の一族の何人かに弓の一族の気を引いてもらっている隙に、僕達はこっそり里を脱出。

 道中、トレントや甲虫、小動物型の魔獣に襲われながらも銀騎士を壁役に、同伴する剣の一族の皆さんに止めを譲る形で戦闘をこなして森を進み。


 一時間ほど、巨木が乱立するエルフの森を進んだところで、すっかり銀騎士という存在に慣れた一人のエルフが声をかけてくる。


『しかし、ゴーレムがここまで戦えるとは思いませんでした』


「銀騎士の性能もありますけど、森での立ち回りはそれなりに経験がありますからね」


 母さんとの修行で一番多かったのが森の中だ。

 とはいえ、このエルフの森に限っていうと、日本にあるような森とはそのスケールがまるで違うのだが、森での戦いにはそれなりに自身があるつもりである。


「でも、魔獣ってこんなに出るんですね」


『以前はこうではなかったのですが――』


 エルフが管理する森ということで、もっと平和な森を想像していたという僕に、厳つい顔をした細マッチョのエルフが教えてくれたことによると、もともとこの森は僕がイメージしたように安全な森だったそうなのだが、およそ五十年ほど前から、多くの魔獣に加え、エルフ以外の種族もこの森に出没するようになったとのことである。


 それを弓の一族が周辺国家の陰謀だと言い出し、ちょうどその頃、今回のようなケースとはまた別のケースなのだが、里の宝剣が人族に盗まれるという事件があったそうで、そこから、特に若いエルフによる弓の一族への支持熱が一気に高まったのだそうだ。


 因みに、これら一連の流れもまたエルフの時間間隔で語られることの為、すべての事件が一本の線でつながっているのかといえば否であり、数年でも里の外で暮らしたことがあるエルフなら、弓の一族の言っていることがおかしさに気付くのだが、残念ながら、エルフの里でそういう人物は少数派であり、特に大きな権限を持つようなエルフの場合、その職業柄、ずっとエルフの里の中で暮らしている者が担当するというのが殆どだそうで、結果的に弓の一族が大きな顔をするようになったという流れがあるのだそうだ。


「成程、それでサイネリアさんの家が取り囲まれた時、あまり大きな騒ぎにならなかったんですね」


 ふつう、一般人(?)の家をなんの権限もない武装した集団が取り囲むなんて尋常じゃないからね。

 にも関わらず、野次馬のような人が少ないと思っていたら、どうも弓の一族が周囲の住人に脅しというよりも命令って言った方がしっくりくるかな。サイネリアさんの家に近付かないように言っていたみたいだ。


 しかし、すべての現況が森の結界が弱まったことでそんな、なんていうか権力の一極集中のようなことが起きているなら、魔王様たちが暮らす森で使っている結界装置を上手く使えば解決するんじゃ。

 とはいえ、それを僕達のような余所者が出張ったところで、また人族の手がなんだのと文句をつけられるのがオチだろう。

 まずはこの救出ミッションをきっちりこなして、その後で、剣の一族のみなさんやサイネリアさんに話してみるのが一番かな。

 まあ、それでも人族がどうのこうのと文句をつけてくる輩は出てくるだろうけど、それはどこにでもある話である。

 と、そんな利権というか権力の話を僕にソニア、マリィさんに魔王様と話しながらもエルフの森を進んでいくのだが、さすがに半日以上、追跡した相手に一時間や二時間で追いつくのは難しいみたいだ。

 時間が八時を回ったところで、僕はアイルさんと斥候、そして護衛の方に、しばらく操作する人が代わること告げた後で解散。

 マリィさんと魔王様にはまた明日の放課後と約束をしてお見送り。


 因みに、僕が学校へ行っている間、銀騎士の操作を担当するのはエレイン君で、そのサポートは割と暇な万屋のオーナーであるソニアと、午前中からは魔王様がしてくれるのだという。


 そして翌朝、一時間ほど万屋に、というか、アイルさんの方に軽く顔を出して学校へ。

 放課後、元春と一緒に学校から帰ってきたところでマリィさんと合流して、再び探索へ。

 と、日が暮れる前になんとか目的地に到着できたみたいだ。

 到着したその現場は、一昨日からの巨大な森から一転、普通の森の中。

 途中で合流した剣の一族のお兄さんによると、この上空で半人半鳥の巨獣はフッと消えてしまったそうなのだ。

 その後、彼等は姿が見えなくなった巨獣を警戒しながらも周辺の調査を行ったそうだが、結局その姿はおろか着陸した跡すら見つからず、魔法によるマーキングを施した後に、一度、指示を仰ぐために里に戻ったのだという。


 しかし、まあ、なんにしてもまずはこれだろう。

 僕が銀騎士にすでにお馴染みとなったスカラベ型のゴーレムを取り出させ、周囲の調査を開始する。


 そして、アイルさん以外のメンバーにスカラベ型ゴーレムの情報収集能力を説明しながら待つこと数分、集めたデータをソニアに分析してもらったところ、どうもいま銀騎士(ぼく)達が今いる森の上空にかすかな空間の揺らぎが発生しているみたいだ。


(これは空間移動と言うよりもディストピアに近い感じだね。例のハーピーみたいな巨獣ってのが関係しているんだと思うよ)


「一部の上位個体が持ってるっていう空間ってヤツ?」


(多分ね。それなら全部の説明が出来るから)


 つまり、その女性テイマーは巨獣が持つプライベート空間に逃げ込んでいると。


「でも、それなら相手が出てくるまで待ってるしかないとか」


(いや、ここに来てまた出待ちとか面倒でしょ。ってことで、マスターキーを使おうか)


 ああ、それがあったね。

 因みに、マスターキーというのは、以前、マリィさんが持つ転移の魔鏡から訪れることが出来る空中要塞、あの空中要塞にあった隠し扉を開けるのに使った鍵型の解錠魔導器を、さらに強力に使いやすくした魔導器である。

 ということで、僕は銀騎士にソニアの趣味でショットガン型に作り直された解錠の魔導器――マスターキーを取り出させたところで、


『我々もお供します』


 アイルさんがこう言って気合を入れるのだが、


「いえ、もしかすると逃げられるかもしれませんので、アイルさん達にはこちら側で見張っていてください」


 なによりも、相手はその空間の支配者だ。生身のアイルさん、しかも、ここまで強行軍でついてきてくれた剣の一族のみなさんを連れて行くには危険過ぎるだろうとのことで、他のメンバーにも納得をしてもらって、


『ご武運を――』


 まさか自分がその言葉を聞く立場になるとは――、

 僕はそう思いながらも軽く手を降って、銀騎士にマスターキーを発動させた。

◆次回は水曜日に投稿予定です。

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