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vs弓の一族

 場所は森に抱かれるように存在するエルフの里の一角、中心部からかなり離れた巨木をそのまま加工した館の前。

 そこには何人もの剣を携えた美男美女のエルフ達が居並んでおり、「大人しく出てくるのだ」だの、「一族が泣いているぞ」だのと偉そうな言葉を口々に叫んでいた。


 すると、その中の一人、碧色の長い髪をした若い男のエルフが、なかなか出てこない館の主にしびれを切らしたか、その集団の中央にどっしりと構える美しい顔立ちの中年エルフに強行突入をすべきではないかと意見を口にし、中年エルフがなにやら決断を下そうとしたその時だった。ガチャリと正面玄関が開かれ館の中から二人の女性エルフが現れる。


 片方はきりりと鋭さを持った面差しの女性剣士。もう片方はだらんと気だるげな天然パーマの錬金術師。まさに対局とも言える二人の美女の登場に、若いエルフから話しかけられていた美中年エルフが前に出てきて言い放つ。


「ようやく出てきたかサイネリア」


「あんまりにも君らがうるさいから、ちょっと文句を言ってやろうと思って出てきたんだけど」


 美中年の居丈高な物言いに答えるのは、エルフにあって珍しいゆるい天然パーマの髪を持つサイネリア。

 すると、そんなサイネリアの態度に、いままさに強行突入をしようとしていた若いエルフが声を荒らげる。


「サイネリア、貴様、ベラン様にむかってその態度はなんだ」


「いや、なんだと言われても、

 それなら、こんな大勢で、人ん家に押しかけてくる君等の方がよっぽどだと思うんだけど」


 このエルフの里において錬金術の大家であるサイネリアは重要人物の一人である。

 その無駄にサラサラな碧髪を振り乱して叫ぶ若いエルフに持ち上げられた美中年ベランも、この一団を任されていることから、それなりの地位についている者だろうが、それはあくまでエルブンナイツの中での地位である。

 故に、少なくとも里から認められた錬金術師であるサイネリアよりは地位が低いということになってしまうのだ。

 そんなサイネリアに対して、こんな大騒動を起こすというのは何事だ。

 とはいえ、サイネリアはベランたち弓の一族とは違って、その辺りの上下関係を武器にチマチマと責めるような人間ではない。

 だから、ここはどちらの態度がより悪いか、どちらの地位がより上なのかという面倒になりがちなやり取りは横に退けておいて、


「それで、ボクに出てこいってなんの用?」


「サイネリア。貴殿には出頭してもらう」


 面倒な避けたサイネリアの問いかけに、こちらもある意味で余計な手間を省いたと言えるだろう。ベランが要件だけを言い放つ。


「出頭ね。

 見たところ君たちは議会の書状を持っていないようだが、それでも僕を連れて行くというんだい?

 そもそもどういう理由でボクは出頭しなければならないんだろう?」


 議会の書状。それはエルフの里における唯一の強権発動である。

 これによって召喚されたものは、有無を言わさずこの里を重鎮である数人の前に連れて行かれるが、そうでもない限り、少なくともこのベランにはサイネリアを無理やり連れて行く権限はなかったりする。

 しかし、その一方で、盲目的に自分の正義を信じている人間(エルフ)というものは、時にままならない理不尽であっても絶対に通すと引かなかったりするものである。


「人族のゴーレムを持ち込んだ件でだ」


「だからどうしてそれでボクが君たちについていかないといけないの?」


「サイネリア。貴様にはエルフとしての誇りがないのか」


 はてさて、他種族から買い取るなりなんなりしてゴーレムを仕入れることが罪になるのか。

 いや、時に兵器となりうるゴーレムを里に持ち込むのは時に犯罪行為になるだろうが今回、アイルが持ち込んだ銀騎士(ゴーレム)は、明確にまだ起動前の個体であり、その目的もしっかりしていたことから、きちんと許可が降りている。

 ならば、なぜ今回このような事態になっているのかといえば、それは、エルフの里の縦割り行政だったり、ベランたち弓の一族の思惑だったりプライドだったりが絡んだ結果としか言いようがないが、

 急いでいるにも関わらず、わざわざ手順を踏んで正当に持ち込んだにもかかわらず、この状態はどうしたものか。


 と、そんなことも分からずに、まるで親の仇でも見るような形相で叫ぶ若いエルフにサイネリアは「はぁ」とため息を吐き出して、


「エルフとしての誇りねぇ。

 それを書状なしでかよわい女の子が一人暮らしする家を取り囲んだ君たちがいうのかい?」


 サイネリアのそれはまさに正論だった。

 けれど、このベラン率いる一行は自分達の行動こそが正しいと信じて疑わない。


「もういい。この女とまともな会話を求めた我等が馬鹿だったのだ。連れて行け」


 サイネリアの説得にもまるで耳を傾けず、早くしろとばかりに顎をしゃくるベラン。

 だが、そんなベランの命令に数名の若いエルフが駆け足でサイネリアに近付こうとしたところ、そこに立ち塞がる剣士が一人。アイルだ。


「邪魔だ」


 行く手を遮るアイルに若いエルフが低い声で威圧する。

 しかし、もとからあった素養、そして、かのアヴァロン=エラという世界にて、心身ともに鍛えられたアイルがそんなちゃちな脅しに屈するハズもなく。


「当たり前だろう。邪魔をしているのだからな」


「貴様、自分が言っていることがわかっているのか」


 天然で嫌味を返すアイルに、また別のエルフがつばを飛ばしながらがなり散らす。

 一方、アイルは落ち着き払った様子で、


「ならば聞こう。お前たちも自分が何を言っているのかわかっているのか」


「自分が何を言っているのかわかっているかだと、屁理屈を捏ねるな」


 しかし、彼ら弓の一族からしてみると、アイルのそれは自分たちの権威を無視するものでしかなかった。


「まっとうな質問だと思うのだが」


 そして、サイネリアではなく、アイルを取り囲む格好となった若手エルフの一人がついに実力行使に出る。


「もういい。お前らどいてろ」


 いかにも自信がありそうに、仲間を下がらせたその若手エルフは腰の細剣に手をかける。

 もしかすると彼は、ここで若いエルフの中で飛び抜けた剣の実力を持つとされているアイルを打ち負かし、自分の名をあげたかったのかもしれない。


 しかし、彼の剣が腰から抜かれることはなかった。

 彼の剣が抜かれるよりも早く、アイルの剣が若いエルフを喉元に突きつけられたのだ。


 チクリとした感触が若いエルフの表情を一変させる。

 アイルが少し力を込めるだけでそのエルフの喉笛は貫かれるだろう。

 降って湧いた命の危機に無邪気に好戦的だった若いエルフの全身から汗が吹き出す。


 そして、すっかり怯えた表情になった若いエルフに、アイルが改めてなにか言い募ろうとしたその時だった。風の凶刃がアイルを襲う。


 風の刃を放ったのはベランだった。

 おそらくは風の魔法を利用した魔法剣だろう。かまいたちのような飛ぶ斬撃を切り払ったアイルがベランを睨み。


「さて、これはどういうつもりだ?」


 先にそう言ったのは何故かベランの方だった。


「どういうつもりとはどういうことだ?」


「とぼけるな。俺の部下をその卑しい剣で脅しつけておいてなにをいうのだ剣の一族(・・・・)


 自分から攻撃しておいて何を言っているのか。

 そんなアイルの切り返しにベランが主張したのは先に手を出したのはアイルだという主張だった。

 だた、それは本来、詭弁やら妄言などと呼ばれるようなものであり、到底まかりとおるような主張ではない。

 しかし、周囲を自分の味方ばかりで固めたベランは自信満々なご様子で、


「成程、貴殿の中ではそういう筋書きになっているのか」


「本当に汚い。やっぱり弓の一族(・・・・)ダメだね」


 わざとらしいベランの問いかけから始まった芝居じみたやり取り、その行き着く結論を読みとって、サイネリアがベランのやり方をからかうようなことを口にすると、取り巻きの一人が激高。


「サイネリア。貴様は我等一族を愚弄するのか!?」


「ふふ、愚弄ねぇ。

 君はどれだけ冗談を言うつもりだい?」


「き――」


「でも、残念ながら君の思い通りにはいかないんだよ」


「……なにを言っているのだ?」


 言葉の途中、割り込みを掛けてくるような不躾な輩の声を遮るように言葉を繋げるサイネリアの言い分に、訝しげに目を細めるベラン。

 ベランからすると、サイネリアがどんな手段に打って出ようとも握り潰せるという自信があったのだろう。

 しかし、そんなベランの態度もサイネリアが軽い手振りで透明な薄板を呼び出すまでだった。


「先ずはこれを見てくれるかな」


 サイネリアがそう一言、そこに映し出されるのはつい今しがたあった一幕の再現映像。

 これを見れば、ここまでの流れがすべて把握可能。

 先に喧嘩をふっかけたのが誰なのか、ベランがどれだけ支離滅裂な主張をしていたのか、誰から見ても一目瞭然だったのだ。


「さて、これを見てもまだ自分達の正当性を訴えるの?」


「こ、こんなものは幻影だ。幻影に決まっている」


 ふふんと胸を張るサイネリアに、ベランが声を震わせながら反論する。


「まあ、たしかに幻影は幻影だね。

 だって、そういう魔法だもの」


「ぐっ……」


「ただ、その幻影を見てどう判断するのかは君達じゃないんだよ。

 何故ならこの映像は里のみんなに見てもらうんだから」


「させるか」


 そんなものを出されてしまったら自分が、自分たち弓の一族の権威がと、少し前までの余裕はなんだったのか、泡を食ったようにサイネリアに襲いかかるベラン。

 周囲もベランの慌てようにことの重大性を認識したのか、ベランに続いて数名がサイネリアに殺到するが、

 そんな、弓の一族の醜態に、アイルは「見苦しい」と、そう一言、流れるような動きでサイネリアに襲いかかった数名を叩き伏せていく。


 後に残るのは悶絶するエルフたち。

 だが、ここで諦めたらベランは終わりだ。

 こうなると、ベラン達に残されているのは強硬策。


「弓兵、この小生意気な小娘共を撃ち殺せ」


 手を突き出し最終手段に打って出るベラン。

 しかし、彼の声に応える者はいなかった。


「何をやっている。容赦をするな。相手はこの里に害をもたらす輩だぞ」


 静まり返る周囲にベランが苛ついたように叫ぶ。

 だが、矢は一向に放たれず――、

 さすがにこれはおかしいとベランもそう思ったのだろう。周囲を見回して、弓の一族としての視力でそれを見つける。


「馬鹿な。弓兵が倒されているだと!?

 配置したすべての兵がやられているのか。

 アイル、貴様なにをした!?」


 樹上に配置していた数十の弓兵、そのほとんどが地面に寝かされている状況を見てベランがアイルに詰め寄っていく。

 けれど、アイルはどこ吹く風。


「私はなにもやっていないぞ」


「馬鹿を言うな。貴様が――、

 いや、まさか、そういうことなのか。

 アイル――、

 いや、サイネリアか。

 貴様ら、人族のゴーレムを使ったな」


「ぷくっ、ようやく気付いた」


「しかし、私達が使っているというのは正しくないな」


 そう、ベランがいう人族のゴーレム。銀騎士を操っているのはアイルでもなければサイネリアでもない。この里より遥か遠く、異世界にいる間宮虎助という少年なのだ。

 けれど、ベランからしてみるとそんな真実などどうでもいいことだった。


「貴様らぁ、人族に頼るとは、エルフとしての誇りはないのか?」


 はたして、なにがそこまで彼に忌避感を抱かせるのか。

 人族から提供されたゴーレムの力を借りたアイルにベランから批難の声が飛ぶ。

 しかし、アイルはそんな批難の声に、キッと目端を鋭く尖らせて、


「ならばその誇りとやらで仲間を助けたらどうだ。

 私が彼を連れてきたのはそのためなのだぞ。

 だのにお前達は誇りだのなんだのとくだらないことばかり。

 何をやっているのだお前たちは、誇りを欲するならまず仲間を助けにいったらどうなんだ」


 今回アイルが虎助に助力を頼んだのは、謎のテイマーによって持ち去られたディストピアを取り戻すため、延いてはディスピア内部に閉じ込めているエルブンナイツ。つまりは弓の一族を取り戻すためなのだ。

 しかし、弓の一族であるベランは、そんな救援の手を連れてきたアイルに対し、誇りがなんだのと意味のわからない文句を付けてきているのだ。

 アイルからしたら、本当に何をしているんだという話である。


 しかし、ベランは言う。


「ふん、そもそも貴様の言う。

 同士があの不気味な剣の中に我々の同士が閉じ込められているという証拠がどこにある。

 貴様が我ら隊員をどこかに隠しているのではないか」


 そう、ベランは――、いや、弓の一族の見解では、アイルが持ってきたディストピアの内部にエルブンナイツが閉じ込められているという話は全てウソで、

 アイルが――、剣の一族がなんらかの手を使って、自分たちの同士であるエルブンナイツを捕らえていると考えているフシがあるようだ。


 しかし、錬金術師として、アイルが持ってきた魔導器(ディストピア)が、どのような性質のものなのかを不完全ながらも理解するサイネリアとしては、ベランの主張は的外れとしか言いようがない。


 と、そんな哀れなものを見るようなサイネリアの目がベランにはひどく気に触ったのだろう。

 また「貴様――」と、お決まりの文句を口に、転がるように突っ込んでくるベランの剣をアイルの剣が受け止める。


 しかし、敵もさるもの、そこはまかりなりにも一つの部隊を任されている者だろう。

 ベランは自分の剣がアイルの剣を接触した瞬間を狙い、装備する籠手に魔力を流し、その籠手に生やした魔法の蔓を使って自分の武器とアイルの武器をガッチリと固定。「今だ――」と、残る仲間に自分が抑えている内にやってしまえと指示を出したのだ。


 けれど、その作戦は不発に終わる。

 なぜ不発に終わってしまったのか、それは、アイルを庇うようにその現場に現れた銀の騎士を見れば一目瞭然。


「かたじけない」


 アイルが周囲の敵に対処しながらも、どこか古臭い言い回しで礼を告げる一方で、


「くっ、どこから現れた?

 だが、わざわざ証拠の方から俺達の前に現れてくれるとは」


 ベランは眼の前に現れた銀騎士の実力が正確に測れていないのか、あれだけの弓兵を気付かれることなく打ち倒された銀騎士に、なんの策もなくただ突撃の命令だけを下す。

 その結果は当然のように推して測れるというものだ。

 銀騎士に殺到した弓の一族は銀騎士が使う魔法銃に軽くあしらわれ。


「ベラン様、こちらの攻撃が通じません」


「相手はゴーレム一体だぞ」


 弱音を吐く部下に叱咤しながらも、ベランにも目の前の現実は見えているのだろう。やや逃げ腰に――、


「あらら、剣士じゃなかったの」


「黙れ」


 しかし、サイネリアからの声に瞬間沸騰、最速の風の魔弾を放つベラン。

 だが、銀騎士の鎧はセラミックを魔法金属化させたもので、そんじょそこらの鎧とは耐久力が違う。


「な、弾かれただと、まさかあのゴーレム、神銀でできているか!?」


 結果的に速度に重きをおいた魔弾では傷一つつけられず。

 こうなってしまってはもはや一方的。

 剣も通じず魔法も効かない。弓の一族の剣士たちは、一人、また一人と数を減らしていって、


「勝負ありだな」


「くっ殺せ」


 アイルに剣を突きつけられたベランが悔しげな声を漏らす。

 しかし、その悔しそうな様子は演技だったみたいだ。


「油断したな」


 アイルが軽く肩の力を抜いたように(・・・・・・)みせた(・・・)その瞬間、ベランが開いた口の中から鋭く尖った樹木が飛び出す。


 しかし、アイルは動じない。

 いや、どちらかというと、油断するように見せたのはエルブンナイツに連なるベランに奥の手を使わせるためだった。


 そう、アイルはこの奥の手のことを虎助から聞かされ知っていた。


 素早い切り返しで伸びてきた植物を切り裂くアイル。

 一方、ベランはまだ諦めない。


「まだだ」


 口の中から種を吐き出し、諦め悪くそう宣うと、ふたたびガントレットに刻まれた魔法式を発動、地面から蔓のようなものを伸ばしアイルを縛ろうとするが、一度見せた仕掛けがそう何度も通じるものではなく。

 ざわりと伸びてきた蔓をアイルは魔力をまとわせた剣で斬り払い。


「小細工はこれで終わりか」


「うるさい」


 気は済んだか訊ねるアイルに、ベランは不意打ちの際に使った風の刃を連発、その隙に逃げ出そうとするのだが、アイルはそれすらも軽くいなしてチェックメイト。

 さて、後は後始末をするだけ――と、そんなところに、また新たに近づいてくるエルフの一団。

 その集団をを見つけた虎助が銀騎士を通じて『新手ですか』と訊ねると、アイルは頭を軽く左右に振って、


「いや、あれは私達の味方です」


 安心したようにそう言うと、魔法で作り出した蔓を使い、討ち取ったベラン質を縛り上げていった。

◆需要はないけど割とありがちな『くっころおじさん』でした。

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