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ハーピーの事情

 ハーピーのテイムに成功したところで、彼女の仮死(氷結)状態を解除する。

 ソニアが組んだ魔法式ということで、おそらく失敗はないだろうと思っていたのだが、やはりちゃんと彼女が動いた時はホッとした。

 まあ、元春を実験台にしようとした僕が言うことじゃないかもしれないけど、さすがにアニメよろしく巨大な氷の中に閉じ込められた(ハーピー)がそのまま生き返るなんてのはちょっと信じられなかったからね。


 とはいえ、魔法自体はきちんと発動していたみたいで、あらかじめ決められていた解放のキーワードを唱えたところ、問題なく氷漬け状態だったハーピーは元通り、ちゃんとエルマさんのテイムも成功していたようで、ハーピーは解凍されるなり、というか、すこし戸惑っていたようだが、結局、エルマさんが主になったと気がついたようで、彼女へとすり寄っていった。


 さて、そんなこんなでハーピーのテイムも無事に完了して、後は若い者同士で――とかそんな流れになるのかと思いきや、まあ、これは当然といえば当然なのだが、上半身が裸である元野生のハーピーに対する元春のいやらしい視線があんまりにもあんまりだということで、とりあえずハーピーには胸を隠してもらうことになった。


 残念がる元春を尻目に、僕はエレイン君に指示を出し、ハーピーでも簡単に着ることができそうなチューブトップブラを作ってきてもらう。


 因みに、このチューブトップブラだが、エレイン君に作ってもらうべく、その仕組みというか構造を調べてみたところ、どうも布の内側にパット(?)のようなものが仕込まれているらしい。

 僕としてはただ単純に布をチューブ型にしているだけのものだと思っていたので、その構造は衝撃の事実だったのだが、元春からするとそれは当たり前のことらしく、(どうして元春がチューブトップブラの構造に詳しいのかは後でちょっと軽く尋問をするとして)どうせ作るのならいいものをと元春の監修を受けてと三十分ほど、

 新たにプイアと名付けられたハーピーには、風呂上がりかくやバスタオルを巻いてもらって過ごしてもらい、元春はチューブトップブラの情報を聞き出した上でいったん夢の世界に旅立ってもらって、

 出来上がってきたチューブトップブラの試着となるのだが、ここで問題が一つ。

 もしかしてプイアが嫌がるんじゃないかとか、いざチューブトップブラをつけるタイミングになって、半人半獣のプイアがちゃんとこれを来てくれるのだろうかという不安が過ったのだが、ミストさん特製の伸縮性の素材を使ったのが良かったのか、なかなか気に入ってくれたみたいだ。プイアは問題なくチューブトップブラを着てくれた。


 因みに、ハーピーであるプイアはほぼ人間に近い姿をしているが、アラクネのミストさんのように人間の言葉を使えるわけではないみたいだ。

 潜在的には人間の言葉を扱えるくらいの知能は持ち合わせているようだが、プイアはどうも人里離れた場所に住んでいたようでいかなる人語も持ち合わせていなかったのだ。


 しかし、万屋(うち)にはバベルなんていう便利な翻訳アイテムがある。

 なので、ろくに言葉も使えなくても、最低限、意思ある鳴き声さえ出せたのならプイアとのやり取りも簡単にではあるが行える。

 とはいえ、それはあくまでこの万屋限定でのことなので、このままエルマさんが元の世界へと戻った場合、うまく意思疎通が取れなくなってしまっては困ることもあるだろう。


 ということで、後でエルマさんにバベルの魔法式を劣化コピーした〈メモリーカード〉を渡すとして、いまの問題は食事である。

 どうしていきなりそんなことを言い出したのかというと、どうもプイアはお腹が空いているらしいのだ。

 意思が通じるとわかった直後、僕達はプイアから盛大なおねだりを受けて、ならばと何か食べたいものがあるかと訊ねたところ、魚が食べたいとなったのだ。

 正直、人間とか言われたらどうしようと思っていたので助かったよ。


 しかし、後でマリィさんやエルマさんに聞いた話によると、ハーピーは稀に人を攫うことがあるらしい。

 因みに、その稀に人間を襲う理由は、単純に繁殖目的がその理由のほとんどを占めるのだという。

 ただ、ハーピーに限らず、繁殖相手の相手に多種族を選ぶ種族は、なんていうか、あえてオブラートに包むのなら絶倫のきらいがあるようで、捕まったが最後、干からびるまで搾り取られるとのことだそうだ。

 考えてもみれば、ゴブリンやらもある意味でそういう種族なんだよね。

 だから、ハーピーやら、そういった人間の女性に近い姿をした魔獣を倒しに行く際には、女性のみの討伐隊を組むか、男性が行くにしても貞操帯を装備していくのが基本だそうな。


 この話を聞いた時ばかりは地球に生まれてよかったと思ったものだ。

 まあ、意外とそういう魔獣も地球にいたりするかもしれないけど……、

 なんて、もしかしたらもしかしてと、そんなくだらない想像をしながらも、僕は目を覚ますなりに聞かされたハーピーの生態に食いついて、女性陣から、呆れというか、哀れというか、まあ残念な目で見られる元春を放置して、いったん地球の方へ帰る。


 魚というならボルカラッカの肉があったりもするのだが、そんな高級品をプイアに食べさせるわけにはいなかいとエルマさんに言われて、地球で手頃な魚を探してくることになったのだ。

 正直、そっちはそっちで手間がかかるのだが、そこはお客様のリクエストということで、

 やって来ましたスーパーの鮮魚コーナー。

 ふだんから色々と大量購入していることもあって、すっかり顔なじみになったスーパーの店員さんになにかオススメの魚がないか聞いてみると、ちょうど産卵のシーズンでアジがお安くなっているそうだ。

 ということで、僕は大きめの発泡スチロールの箱に入ったアジを箱買い。

 スーパーで借りた台車を使って家まで持って帰った後でマジックバッグで回収、アヴァロン=エラへと帰還すると、買ってきたアジのウロコと内臓を取った上で水洗い、ボールいっぱいに盛り付けて、さあどうぞ。


「すごい食いっぷりっすね」


「そうですね。思った以上のお腹が減っていたみたいですね」


 と、プイアのあまりの食べっぷりに、なにか理由がありそうだと聞いてみると、なんでも最近彼女の縄張りに巨大な魚型の魔獣がやって来て、その所為で彼女たちの餌が無くなったそうなのだ。

 そこで、プイアの上位個体は餌を確保するべく、プイアたち下位の個体に命令、遠方の漁場に餌を探しに行けとなったそうなのだが、プイアがその漁場で餌の確保をしていたところ、突然発生した次元の歪みに巻き込まれてしまって、現在に至るのだそうだ。


 巨大魚と聞いて、もしやプイアも『掃除屋』に飲み込まれたりとかと、そんな可能性を間耐えたりもしたのだが、どちらかいうと、その漁場そのものがエルマさんが『掃除屋』に出会った異界のような場所だったのかもしれない。

 魔素の濃い空間には次元の歪みが発生しやすいからね。


 しかし、そう考えると彼女をテイムしたのは可哀相なことをしたのかなと、もう自分の群れには帰れなくなってしまったプイアにそう思ったりもしたのだが、プイアが言うには(?)、プイアは群れの中でもかなり下位の個体だったそうで、餌を探して死ぬことだってあるような立場だったということを考えると、ここで餌にありつけることは逆に幸運だったという。


 本当に割り切りがいいというかなんというか、そこは文字通り(・・・・)弱肉強食の世界に生きる者の考え方だろうと、そんなプイアの事情はそれくらいにして、


「そういえばどうしてエルマさんはプイアをテイムしようと思ったんです?」


 エルマさんにはすでにヤートにタールと飛行能力をもった従魔がいる。

 その上でプイアをテイムする理由はなんなのか。

 もしかしてどこぞのジムリーダーよろしく鳥系の魔獣をばかりを集めているんだろうかと、そんな冗談めいたことを頭の中で考えながらも訊ねると、エルマさんが少し恥ずかしそうにしながらも言ったのは以下のようなことだった。


「えと、その、この子が仲間になってくれたら、今回、私がここに来ることになってしまったような時にも自分でなんとかできたんじゃないかと思いまして」


 成程、そういうことですか。

 どうやらエルマさんは自分がいた世界に帰った時に、

 いや、次にもしも同じようなシチュエーションに出会った時、今度は自分一人の力で、自分と仲間たちだけでなんとかできるようにと考えたみたいだ。


「それで、虎助はなにを作っていますの?」


「ああ、これですか、せっかくいいアジを手に入りましたので、今日の夕食にしようと思いまして」


 そう言いながらも、僕は万屋の簡易キッチンにてプイアに用意したのとは別に、開いたアジにパン粉をつけていく。


「おお、いいなアジフライ。これで一杯とか最高じゃねーかよ」


「いや、そんなこといって元春、お酒なんて飲んだことないでしょ」


 僕はかっこつけな元春にツッコミを入れながらも油の準備をしていく。

 結局、その日はアジフライパーティをしてお開きとなり。

 翌日、珍しくなにもない平和な一日を過ごして万屋に出勤することになるのだが、

 そこには、ちょっと苦笑い気味のエルマさんと、何故かエレイン君に取り押さえられているアイルさんが待っていた。


「えと、これはどういう状況なんです?」

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