●幕間・ミストのお仕事頑張るぞ。ソーセージが食べたい編
◆今回はマオの従者(?)、アラクネのミストが主人公のお話です。
私の名前はミスト。精霊の森で暮らすアラクネです。
もともとはひ弱な蜘蛛の魔獣でしかなかった私ですが、深き森の姫巫女であらせられるマオ様に拾っていただき、精霊様がたの愛を受け、ここまで進化させていただきました。
しかし、アラクネという種族は人間にとってはかなり怖い相手だそうで、進化したことによって私も狙われるようになってしまったみたいです。
前に森へやってきた人族やエルフ、獣人の兵隊さんに「なんと醜悪で邪悪な魔物か」とか言われた時とかはちょっぴり悲しかったです。
と、そんな感じでずっと森の中にひきこもっていた私ですが、ここ最近はちょっと忙しくさせてもらっています。
実は、私が生み出す糸と布、それを使って作る服が虎助様のお店で大変好評みたいで、たくさんの注文が来るからです。
ああ、虎助様というのは私の主であるマオ様のご友人で、残念ながら【魔王】と呼ばれるようになってしまわれたマオ様はもちろん、アラクネの私でも怖がらずに接してくれる優しいお方です。
ちなみに、私が服を虎助様の店に卸すようになったのも、虎助様からの提案が始まりだったりします。
以前、私達は精霊の森に繋がる樹海の入り口に落ちている、魔剣なんかを売ったりしてお金をもらっていたんですけど、虎助様のお店にお願いして作ってもらった結界装置を森の入り口に仕掛けてからというもの、森に入ってくる兵隊さん達が居なくなってしまったんです。
すると、魔剣なんかの元になる壊れた装備品などが森に供給されなくなってしまい、このままだと魔王様が楽しみにしているゲームが買えないと、私達が困っていたところ、私達が自力で生み出せる素材や、それを使った商品を魔剣の代わりに売りに出したらどうでしょうと提案されたのです。
最初は素材そのものや簡単な服しか作れなくて、あまりお金にならなかったんですけど、虎助様がくださった服の作り方をまとめた本や型紙、それにボタンやファスナーなんていう小物を手に入れて、今では、マオ様のお召し物はもちろんのこと、目の肥えた人族の貴人にも買ってもらえるくらいの人気商品になっているみたいです。
それはそれで嬉しいことなんですが、つい最近まで人族やエルフ、獣人のみなさんから疎まれていた私が作ったものが人族のみなさんに喜ばれていると聞かされると、ちょっと複雑な気分です。
とはいえ、私達が作る服が売れているおかげで、マオ様もどんどん新しいゲームが買えて、一緒に楽しませてもらっている私達も嬉しいと、めでたしめでたしと成るはずだったんですけど。
どうも最近、私達が作る製品は私達の想像を超えて売れているみたいで、予想外にたくさんのお金が手に入ったそうでして、マオ様がゲームを買うだけでは貯まる一方と服なんかを作っている私達にもお小遣いが配られることになったのです。
しかし、私がお金をもらったところで何を買えばいいんでしょう。
そもそも、ずっと森暮らしだった私達にはお金の使い方がよくわかりません。
食べ物も寝床もぜんぶ森の中にあるものですから、いざ、たくさんお金があるから、みんなでも使おうっなんて渡されてもどうしたらいいのかわかりません。
ということで、私達がお金を使うならここしかないと、たびたびのご相談に少し悪いと思ったのですが、万屋を営む虎助様に「どうお金を使ったらいいのでしょう」と相談してみるたところ、「それなら森では手に入らない美味しい食べ物や、寝床や趣味に使える道具なんかを買ってみたらどうでしょう」と提案され、ツーハンなる異世界のアイテムが手に入れられる魔導書を用意してくださりました。
そして、私はそこで出会ってしまったのです。
それはソーセージという食べ物でした。
パキッと心地よい食感、溢れ出す肉汁。
初めてソーセージをいただいた時、私は、この世の中には――、いえ、他の世界には、こんなに美味しいものがあるんだと思わず神様に感謝してしまいました。
半人半蜘蛛の私がですよ。
それから私は、お小遣いをもらう度に、虎助様に頼んで、いろいろなソーセージを買ってもらいました。
シンプルな燻したものはもちろんのこと、薬草を利かせた爽やかな味わいのもの、スパイスをたっぷり練り込んだ刺激的なもの、変わり種としては血で作ったものなどがありました。
そして調理法も、茹でたものに焼いたもの、油で揚げたものはおいしかったですね。
あと、忘れてはいけないのがソーセージにつける調味料です。
ケチャップにマスタードに塩コショウ。ああ、焼肉のタレというのも美味しかったです。
しかし、なによりも美味しかったのがアヴァロン=エラで取れたドラゴンのお肉を使ったソーセージでした。
一度、虎助様がご友人である元春様が、ドラゴンのお肉をソーセージにしたら美味しいんじゃないかと言い出してくださったそうで、虎助様がソーセージが好きな私に気を利かせて、マオ様にそのおすそ分けをしてくださったものを食べさせてもらったのですが、それがまたすごく美味しくて――、
でも、同族であるリドラさんの手前、あまりたくさん食べるのもどうなのかと遠慮していたところ、フルフルさん達、妖精さんの争奪戦が勃発して、結局、私は二本しか食べられませんでした。
ちなみに、そのことが気になって後でリドラさんに聞いたところ、別に友人・知人・家族でもなければ、リドラさんもドラゴンのお肉を嗜むそうです。一安心です。
しかし、忘れられませんね。あの太くて肉汁たっぷりなソーセージは――、
虎助様に頼めば作ってくれるでしょうか。
でもでも、私のワガママで虎助様のお手を煩わせるのはどうなんでしょう。
そんな風に、私が思っていたところ、ある時、虎助様が私を工房に招いてくれて、一緒にソーセージを作ろうと言ってくださいました。
なんでもマオ様が、私がドラゴンのソーセージを食べたいことを誰かから聞いて、虎助様にお願いしてくれたそうなのです。
さすがはマオ様。
ですが、私一人のわがままでわざわざ虎助様のお手をわずらわせるのはどうなのでしょう。
私が遠慮をしていると、じゃあ、みんなで作りましょうと虎助様が言ってくださり。
最終的に、マオ様にマリィ様、それ以外にも元春様やアニマ様、ホリル様と一緒にドラゴンソーセージを作ることになりました。
風の魔法でひき肉を作り、そこにお塩やお砂糖、冷たい水にスパイスなんかを練り込んでゆくそうなのですが、お肉が温かくなってしまったら美味しくならないとのことで、私も虎助様に氷の魔法を使ってもらいながら頑張りました。
そして、仕上げはなんと羊の腸を使うのだそうです。
塩漬けしたものを水で戻して、その中にお肉を詰めたものがソーセージだったのです。
成程、あのパキッという食感は羊さんの腸を使っていたんですね。
ちなみに、このソーセージの皮の部分は羊さんだけじゃなくて、同じような魔獣の腸に、浄化の魔法と錬金術を使えば作れるものだそうで、虎助様はそれに必要な知識とスパイスの種、魔法式が込められた錬金釜を譲ってくれました。
これで明日から、森の方でもソーセージが食べられます。
でも、今日はドラゴンソーセージです。
完成したものの半分はそのまま焼いて食べるみたいです。
残りの半分は煙で燻してお土産にしてくれるみたいです。
さすがは虎助様。素晴らしい気配りです。
ちなみに、焼き上がったドラゴンソーセージですが、肉汁たっぷりでとっても美味しく出来上がっていました。
◆ミストの設定
外見は妖艶なお姉さん。しかし、中身は緊張しいの人見知り、知らない人の前に出ると緊張でうまく喋れなくなり、黙ってしまう。そんなお姉さんがミストです。
外見としては、泣きぼくろのように人間の目の下に小さな複眼が三つあります。
もともとアルビノの子蜘蛛型魔獣ということになっていますので、イメージカラーは紫がかった白。各部位によってその濃淡が変わっているというデザインとなっております。
ちなみに、元春があまりミストに反応しないのは、下半身が蜘蛛であるミストはさすがに難易度が高いと思っているからです。