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友人とスクナとアルバイト

 それは闇の精霊が万屋の一員になって数日たったある日のこと、

 その日は雨で部活が休みだということで、闇の精霊の紹介を兼ねて、僕は次郎君と正則君の二人をアヴァロン=エラに招いていた。


「これが精霊ですか?」


「意外とちっこいのな」


「この子は生まれたばっかりだからね。成長すれば、人間くらいっていうか、人間よりも大きくなったりするよ」


「マジか!?」


 ディーネさんといい、マールさんといい、アヴァロン=エラには人間大の精霊が揃っているが、そもそもあの姿は現実に顕現する為の像であって、やろうと思えばその格にふさわしい、大きくて力のあるのある姿も取れるという。


「それでマールちゃんと話してたようにコイツもスクナにすんのか?」


「取り敢えず様子見だね。もしかしたら僕以外の人についた方がいい場合もあるし、スクナになりたくないって場合もあるから」


「そうですか、その子の様子を見る限り、じゅうぶん虎助君になついていると思うのですが」


「……ん、なついてる」


「ってことは、やっぱコイツもアクアちゃんみたいになるんじゃねーの」


「うーん。まあ、どっちにしても、ちゃんとこの子の意思も確認しないといけないし、オーナー(ソニア)がちょっと考えていることがあるって言ってるから」


 だから、やっぱりしばらくはこのままで――、

 と、ここにいるメンバーにそう言うと、マリィさんがその大きな胸を抱くように腕を組んで、


「かまいませんわ」


「そうだな。美女じゃねーし、俺はどうでもいいぜ」


 というか、元春のソレは、闇の精霊の性別はまだわからない状態だから、もしかしたら凄い美女に成長するのかもしれない思うんだけど……。

 でも、そんなことをいい出したら、また面倒なことになりそうだから――、

 僕はぶっちゃけ過ぎな元春に苦笑いで躱しながらも、ここで迂闊なことを口にしてゴネられても困ると、話題を変えるという意味も含めて、この際だから次郎君と正則君に〈スクナカード〉を使ってみたらどうだろうと話を振ってみる。

 すると、


「おお、ついに俺も召喚師かよ」


「まだここに来て数日しか経っていませんが、それで魔力が足りるんですか?」


 正則君のリアクションは大袈裟として、次郎君の心配は尤もなのだが、


「ステイタスで言うところの『魔力10』までは上がりやすいからね。

 それに、スクナをただ顕現させるだけなら最低限の魔力さえあれば可能だから」


「アヴァロン=エラの魔素濃度があってこそですわね」


 地球の数万倍、魔法が存在する世界と比べても数千倍の魔素濃度を誇るこの世界なら、魔力を使い果たして一瞬で回復する。

 その特徴をうまく利用すれば、魔力量の低い地球人の魔力を数日で一気に伸ばすことができるのだ。

 とはいえ、それはあくまで魔力が一桁代前半の話であって、スクナを呼び出しても実戦投入するにはやや心もとない耐久力しか持たせられない魔力なのだが、バトル時のサポートや元春のように日常生活で呼び出すくらいなら、十分に使えるレベルになるだろう。

 だから、二人にはこれを機会に〈スクナカード〉を解禁しようということになったんだけど、ここで一つ問題となるのが、


「それで、二人はどのカードがいいかな。

 オリハルコンとかそういうのを使ったカード以外ならプレゼントするよ」


「マジか!?」


「ふむ、それでそのオリハルコンを使ったカードとそれ以外のカードではどのような違いがあるんです?」


「スクナそのものの強さとか、動きや造形の精密さ、他にも保有できる魔力の上限なんかも変わってくるね」


「要するに全部ってことだな」


「まあ、そうかな」


 僕はざっくりとした正則君のまとめに苦笑しながらも頷いて、


「因みに、その選べない方のオリハルコンのカードなどを買うとなると幾らくらいのものになるんです?」


「だいたい五百万くらいかな」


「――っ、さすがにそれは高すぎじゃね」


 次郎君から追加された質問に、日本円ならこれくらいになると言ったところ、正則君がまた派手なリアクションをしてくれるのだが、


「そこは伝説の金属だから、

 でも、ちょっと特別な素材を使ったカードでいいのなら、かなり安く提供できるけど」


「ちょっとお待ちになってくださいの。その特別な素材というのは何のことですの?」


 特別な素材で作ったオリハルコン。それはマリィさんにとって興味深い情報なのだろう。シュバっと素早い動きで迫ってくるマリィさんの背後、シュトラを頭の上に乗せた魔王様がポツリと言うのは、


「……リドラの?」


「はい。例のアレですね」


「む、マオは知っていますの?

 もう、二人だけ狡いですわよ。(わたくし)を仲間外れにして」


 僕と魔王様の短いやり取りに頬を膨らませるマリィさん。

 しかし、この触媒に関してはちょっとセンシティブな――、いや、龍種であり、魔王様のお願いでそれを売りに出してくれるリドラさんは特に気にしていないかもしれないけれど、少なくとも大勢の前でおおっぴらにするような内容ではないと、マリィさんを宥めていたところ、それを恨めしそうに見ていた元春が、


「いや、それでも、五百万だったカードがタダにはなんねーだろ」


「まあね。でも、そこは魔獣を狩ったり、万屋の仕事を手伝ってもらえるなら、わりとすぐに稼げるくらいの値段にはなるよ」


「そういえば、あの樹も結構高く売れたんでしたね」


 次郎君が言っている『あの樹』というのは、以前みんなで仕留めたワンダリングカースツリーのことだろう。


「因みに、その手伝いってのはどんなんなんだ?」


「いくつかあるんだけど、一番手っ取り早いのはディストピアのテスターかな。まだ未検証のディストピアに潜ってもらうアルバイトだね。

 ああ、これは別にクリアしなくても、どれくらい難しいのかとかを測ってもらえれれば大丈夫だから」


 バックヤードに溜められた素材から、気分転換を兼ねてソニアが気まぐれで作るディストピア。

 その数はすでに僕一人では検証不可能な数になっていて、

 しかし、ただ無用に死蔵するのはあまりに勿体無い。

 ということで、この際だから、一つにつき十万とか二十万とかって値段をつけて、正則君たちにもテスターになってもらおうと思ったのだが、そこで次郎君が手を上げて、


「安全性はどうなんです?」


「万全だよ。ただ、本当になんとなく作ってみただけのディストピアだから、戦う相手が理不尽な場合があったりするけど」


 そもそもディストピアというのは、その素体となった魔獣の残留思念と特殊な亜空間の中で戦うような魔導器だ。

 それに、リスポーンポイントやセーフティーゾーンの設置、脱出手段の確保など、各種オプションをつけていくことで難易度調整するもので、安全(?)な死に戻りなど、ディストピアの根幹となる機能は作成時に自動で付随する機能となるのだ。

 だから、ディストピアでの事故はほぼ有り得ないと、そう説明すると、正則君がパシンと手の平に拳を打ち付けて、


「んじゃあ俺はそれでいいかな。強いやつと戦うだけで金が稼げるなんて最高じゃねぇか」


 さすがは脳筋の正則君。嬉々としてディストピアのテスターに志願するらしい。

 しかし、冷静な次郎君からしてみるとそれはあまりおいしいアルバイトとは思えないようで「他にはどんな仕事があるんです?」と聞いてくるので、僕は「うーん」と腕を組んで、


「簡単なのは元春と一緒にマールさんに生命の実の育成用の魔力補給をしてもらう仕事かな」


「ああ、アレですか……」


 僕が言った提案に遠い目をする次郎君。

 最近、錬金術を始めた次郎君は、その関係から世界樹農園にも顔を出している。おそらくはそこで元春がマールさんから魔力を吸収(人間椅子に)されている場面に遭遇したのだろう。


「他にはオーナー(ソニア)や賢者様が作った魔法薬の実験とかがあるよ」


「因みに、それはどんな魔法薬の実験を、どれくらいのアルバイト代でやるんです?」


 うん。実際にそれをアルバイトを受けるからには、たしかにそこは気になるところだよね。


「そうだね。本当に危険な薬は耐性持ち(・・・・)の僕がやるから、次郎君には、一本数万円くらいで回復薬や強化系の魔法薬を試してもらおうかな」


 もちろん、僕達が試す前にちゃんと〈金龍の眼〉で鑑定した上で、マウスやら、魔獣やら、強盗さんやらで実験するので、本当の意味での危険はないのだが、それが開発したばかりの魔法薬となると、それがどのくらいの効果を発揮するのか、その振れ幅が尋常では無い場合があったりするのだ。


「……だったら僕はそれにします」


「別に無理に稼がなくても、ミスリルで我慢するって選択肢もあるんだけど……」


「いえ、せっかく貴重なアイテムをゲットできるチャンスですから」


「そうだよなオリハルコンとか燃えるじゃねぇかよ」


 と、正則君は嬉しそうにそう言うと、少し難しそうな顔をして、


「だけどよ。何万円とかするそんなアイテムを、ポンと出せるこの店ってどうなってんだ」


「ああ、ウチの場合、アルバイト代は現物支給にしてるから、現金を用意しないでいいぶん融通が効くんだよ」


 アルバイトの対価が日本円の場合、地球側での換金が必要なるが、今回の報酬はあくまで現物支給、となると、万屋としてもまったく懐が傷まないのだ。

 まあ、他の世界でそれらカードに使われる素材がどれだけの値段で取引されているのかを考えると、ちょっと勿体無い気もしないでもないのだが、それは今更だ。


「それに、さっきも行った通り、今回のカードはちょっと特殊な触媒を使ったカードだからね。たぶん性能は変わらないと思うんだけど、実験的な意味合いで安く提供できるんだよ」


「その特殊な触媒とやらは気になりますが、いま僕達が聞いたところでどうにもならないでしょう」


「だな」


「じゃあ、二人共、カードを対価にお店に協力してくれるということでいいかな」


「はい」「応っ」


 と、二人から協力を取り付けることができたということで報酬の前払い。

 二人にオリハルコンとムーングロウどっちの〈スクナカード〉がいいのか聞いてみると。


「俺は断然オリハルコンだな。そっちの方が強ぇんだろ」


 正則君は造形や操作性よりも強さの方が重要らしい。

 そして、そんな正則君の選択にマリィさんが『わかっていますわね』とばかりに頷く傍ら、次郎君が選んだのは、


「僕はムーングロウでお願いします」


 耐久力は低くなるものの魔力の伝達がいいムーングロウみたいだ。


 注文を受けた僕はさっそくソニアにその旨を伝え、手早く――といっても、それなりに時間がかかったが――それぞれの〈スクナカード〉を作ってもらって、

 金と銀、それぞれに注文したカードを手に入れた二人はすぐに〈従者創造イマジカルゴーレムクリエイト〉。

 二人が生み出したスクナはというと――、


「ノリのはドラゴンかよ」


「おうっ、カッチョイイだろ」


 正則君が生み出したスクナはいかにもな西洋風のドラゴンだった。

 ただ、マリィさんのファスナーのような腕と翼が合体したタイプとは違って、ちゃんと四本の足がある上で翼がついてるベーシックなタイプのドラゴンだった。

 そして、


「ああ、素晴らしいです」


 と、感涙する次郎君が手の平に乗せるスクナは、可憐な少女型のスクナだった。

 少女と女性のちょうど中間というか、アイドルグループのいかにもセンターにいそうな正統派美少女が次郎君のスクナみたいだ。


「ホント、ジローは相変わらずだな」


「彼は大丈夫なんですの?」


 まったく困ったものだ。そう言わんばかりの正則君に続いて困惑の声を上げるのはマリィさんだ。

 スクナを生み出した後の次郎君の変わりように驚いているようだが、次郎君をよく知っている僕達からしてみると、彼のこの行動は平常運転。

 だから「これはいつものことですから」という一言でマリィさんを納得(?)してもらって、


「でも、まだ知り合って間もないマリィさんや魔王様もいるこの状況で、次郎君がこうなっちゃうなんて珍しいよね」


「それだけ、呼び出したスクナがジローの好みにジャストフィットしてたんだろ」


「だな」


 僕の呟き耳にして、元春が自分のことは棚に上げて『処置なし』とばかりに首を左右に振り、それに正則君が『わかるわかる』と何度も頷く。


 たしかに、生み出すスクナがどういう姿形になるのかは、精霊に呼びかけるカード使用者本人のイメージによるものだ。次郎君がこうなっちゃうのも当然といえば当然なのかもしれない。


 そして、どうにかこうにか次郎君を正気に戻したところで、それぞれのスクナの名付けを行うことになるのだが、


「名前か、そうだな。ゴールドからゴルド……、いやエルドラド――だとちょっと長いか、だったら、ドラド、ドラドか……。うん。ドラドがいいんじゃないか」


 正則君の名付けに嬉しそうにドラドが鳴き声を上げる。

 そして、次郎君が生み出した美少女スクナなんだけど。


「ユイ――、僕のエンジェルはユイたんにします」


「ユイ? あ、ああ、大葉唯な……」


「大葉唯、ですか? どこかで聞いたことがありますね。なぜでしょう」


「ああ、それはですね。彼女が僕達の世界の有名なアイドルだからだと思います。

 マリィさんが名前を聞いたことがあるのは、たぶんラジオで曲がリクエストされるからでしょうね」


 元春の口から零れた初出の名前が気になったのだろう。頭上に疑問符を浮かべるマリィさん。そんなマリィさんのリアクションに、僕はカウンターのすぐ脇に置いてあるレトロなデザインのラジオを見ながら答える。


「今度、彼女達の曲をダウンロードしてきましょうか」


「お願いしますの」


 そして、歌そのものは僕も知っているので歌って教えることも出来るのだが、みんなの前でアイドルの曲を口ずさむのはさすがにちょっと恥ずかしいということで、マリィさんには今度、その曲のデータをダウンロードして持ってくると約束して、


「それでドラドとユイたんの特技はどんなものだったの?」


「俺のドラドは〈刃翼〉だけだな」


「名前からして翼が剣になって攻撃できるみたいだね」


「いいじゃんいいじゃん、カッコイイじゃんか」


 金属質のドラゴンだからイメージ通りだ。


「僕のユイたんは〈元気〉〈天然〉〈ドジっ子〉ですね」


「いやいや、元気で天然でドジっ子って――」


 それは本当に特技なのだろうか。

 どう言ったらいいものか。僕がリアクションに困る一方、元春が何気なく言ってしまったその言葉にユイたんがガーンとショックを受けたように四つん這いになり、しかし、次郎君がそんなユイたんを庇うように前に出て、


「待って下さい。天然ドジっ娘は何者にも得難い素晴らしい才能じゃないですか」


 うん。アイドルとしては正しいかもしれないけど、スクナとして、精霊としてそれはどうなのかな。

 ただ、逆にそれだけ微妙な特技しか持っていないとなると成長も見込めるからいいんじゃないかな――ということで、


「まあ、ジローがそれでいいなら、それでいいんじゃね」


「うん。そうだね」

 ◆今回登場したスクナの紹介。


 ドラド(正則のスクナ・ドラゴン型)……〈刃翼〉


 ユイたん(次郎のスクナ・アイドル型)……〈元気〉〈天然〉〈ドジっ子〉


※正則のスクナであるドラドは某狩りゲーに出てくる鋼鉄の鱗を持った古龍のオリハルコンヴァージョンを思い浮かべてください。

 ユイたんに宿っている精霊は、フレアが持っている陽だまりの剣と同じく陽だまりの精霊という設定で、周囲に〈元気〉を振りまくことができます。〈天然〉と〈ドジっ子〉も運用次第では強力な特技に化けると思われます。


◆次回は水曜日の予定です。

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