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光と闇と聖剣の話

 それは、闇の精霊を引き取ることになった翌朝、僕が登校前の時間にに闇の精霊の様子を見がてらお客様のいない万屋に顔を出したところ、そこにはうつらうつらと寝ぼけ半分、空中を漂う闇の精霊がいて、


「もう、そんなところで寝てると危ないよ」


「そのまま寝かせてやっておいた方がいいだろう。なにしろ闇の精霊だからな」


 フラフラと浮かんでいる闇の精霊を捕まえる僕にそう言ってくるのは、カウンター正面の台座に威風堂々突き刺さるエクスカリバーさんだ。

 彼女(?)によると、どうやら闇の精霊は、闇の属性だけに夜行性だったみたいだ。


 僕は『成程――』とエクスカリバーさんから教えられたことに納得しながらも、昨夜、帰る前に用意をしておいたバスタオルで作ったベッドの上に寝かせると、闇の精霊の特徴を教えてくれたエクスカリバーさんの方へと振り返り。


「そういえばエクスカリバーさんは光の精霊なんですよね。やっぱりこの子と相性が悪いとかそういうがあるんですか」


 属性的には正反対の光と闇。

 精霊そのものの相性もあまり良くないのではと余計なおせっかいを焼いてみたが、どうも性格と属性はあまり関係ないらしい。


「それは精霊の性格にもよるだろうな。同じ光の精霊でも馬の合わない者もいるからな」


 エクスカリバーさんの話によると、それぞれの属性が持つ性質から、性格的に反発するとかそういうことはないようだ。


 まあ、ゲームとかでも、タイトルによっては光と闇の精霊が一緒にいたりするから不思議でもないのかな。


 でも、そうなると、僕がいない間、この子のことはエクスカリバーさんにお願いしておけばいいのかな。

 僕がそんな皮算用を考えていると、エクスカリバーさんが続けて、


「そもそも闇の精霊には物静かな者が多いのだ。好かれることはあれど嫌われることなど殆どないのだぞ」


「そうなんですか?」


「我がこの剣に宿ったほぼ同時期に、火・風・水・土・闇と聖剣に宿った精霊がいるのだが、闇のカルンウェナンとはうまくやれていたからな。

 逆に馬が合わなかったのは火のマルミアドワーズと風のクレラントの二柱だった」


 うん。聖剣同士の誰と誰が気が合わなかったとか、そういう話にも興味があるのだが、それよりも四大属性に光闇と各属性の聖剣が揃い踏みとか、なんか伝説の戦いが始まりそうなラインナップだね。


「しかし、闇の聖剣なんてあるんですね」


 この子(闇の精霊)がいて、聖剣には精霊が必要なことを考えると、ぜんぜん不思議なことではないけれど、実際にそういう剣があったと聞かされるとちょっと不思議な感じである。


「そうだな。

 ただ奴も我々がどうやって作られたことすら忘れられた頃になり、魔剣と勘違いされて困っていたがな」


「聖剣が魔剣扱いですか」


「ああ、カルンウェナンには斬った相手を操ると、そう見えるような力があったのでな。その力が邪悪だと言い出す者がいたのだよ」


 斬った対象を操っているように見える力か、たしかにそれは勘違いされても仕方がないかも。


「それで、そのカルンウェナンさんはどうなったんですか」


 もしかして、魔剣認定されたことによって、封印されたとか、壊されたとか、そんなことになっているのではと心配もしてみたのだが、エクスカリバーさんはため息を吐くように間を開けて、


「さてな、カルンウェナンがそう(・・)呼ばれるようになってから程なく、我々が守護していた国がなくなってしまったのでな。奴とはその時の混乱で散り散りになってそのままだ」


 それはカルンウェナンさんを魔剣指定にしたことが関係しているのだろうか。


「しかし、カルンウェナンの器は我と同じくオリハルコンでできていた。滅多なことでは破壊されないだろうがな」


 たしかに、素体がオリハルコン製だったのなら、ちょっとやそっとのことじゃ壊されないか。


「でも、聖剣に宿った精霊はけっこう大変なんですね」


 戦いに駆り出されるのは勿論、場合によっては魔剣指定されたりと、特に闇のカルンウェナンさんは受難続きである。


 しかし、エクスカリバーさんは言う。


「いや、そうでもないぞ。所有者が我々の意にそぐわない者だった場合は眠っていればいいだけだからな。頃合いを見計らって見限ればいい」


 そういえばエクスカリバーさんは空を飛べるんだっけ。

 あの能力は、前に進化した時に得た力かと思っていたのだが、どうも、もともとエクスカリバーさんに備わっていた機能だったようだ。


 いや、以前から聖剣同士ならば意思疎通できたことを考えると、あの進化はエクスカリバーさんが持っていた機能をそのまま強化するものだったのかな。

 だから、もともと使用者から魔力を大量に溜めておけば、ある程度の距離を飛行できるわけで、逃げ出す――じゃなくて見限るくらいのことはなんとかできるって感じなのかもしれないな。


「ただ、見限るにしても、きちんとその後の身の振り方を考えておかねばならないがな。

 そもそも我々のような力を持った精霊というのは、存在しているだけで要不要に関わらずさまざまなものを惹きつけるからな」


 同じ精霊であるディーネさんも、元の世界ではいろいろあったみたいだし、強い力を持つというのも考えものである。


「しかし、そうなりますと、この子もなにかに宿っていた方が安全ってことになるんですか」


 現在、闇の精霊は生まれてそのままの状態である。

 生まれながらにして上位精霊である彼もしくは彼女にも、なにか安らげる場所のようなものを用意しておいた方がいいのだろうか。

 エクスカリバーさんの話から、ふと僕は手元の闇の精霊に目を落としそう思うのだが、


「どうだろうな。

 例えば、多くの風の精霊は器に縛られるのはあまり好きではないなどと、精霊によっても好みがあるからな」


 成程、そう考えると闇の精霊は一処にずっと置かれる聖剣のような器に宿っていた方がいいのかもしれないな。

 まあ、そうはいっても、エクスカリバーさんの話を聞くに、同じ風であるクレナントは普通に聖剣を器として受け入れていたみたいだから、一概に闇というイメージだけで決めつけない方がいいのかもしれないけど。


「最終的には本人が好きなようにさせるのが一番だろうな。

 自分という存在をどう置き、その後どうなるのかは精霊である私達にもわからないからな。

 我もまさかこんなのんびりと時間を過ごせることなど、この剣に宿ったときには想像もしなかったのだから」


「ですね」


 これは後でちゃんと闇の精霊と話しておかないといけないかな。


「でも、僕のイメージですと、聖剣というのは有事の時までひっそりとその所有者を待つとかそういう感じなのですが――」


 例えば、神聖な森の奥、特別に作られた台座に突き刺さってるとかそんなイメージだ。

 しかし、エクスカリバーさんは首を左右に振るようにその刀身を瞬かせ。


「我がこの剣に宿ったのが動乱の時代だからな。武器というのは使われてこそのものだった」


 どうやってエクスカリバーさんが剣に宿ることになったのかは、その話を聞いてもまだ謎であるが、エクスカリバーさんはエクスカリバーさんでいろいろ苦労があったみたいだ。


「しかし、いまの話を聞くに、他の聖剣のみなさんもここにお招きしたいものですね」


「うむ、闇のカルンウェナン、水のシューレとは再び相見えたいものだな」


「お二方だけなんですか?」


 他の聖剣はいいんだろうか?

 意外そうにする僕の言葉に、エクスカリバーさんは刀身に纏う光をどんよりと曇らせて、


「火のマルミアワーズは戦い好きだからな。平穏など求めまい。

 それに奴は暑苦しくて鬱陶しい。我の平穏が脅かされそうだ」


 それはそれはまたフレアさんと気が合いそうな聖剣(かた)ですね。


「風のクレラントは戦略がどうとか細かくて、とにかく鬱陶しい。

 戦場に出てない時も、やれ軍議がなんだ、周辺勢力がなんだと、相手をするのが面倒な奴なのでな。共にいるのは疲れるのだ」


 そして、クレラントという聖剣は軍師タイプの聖剣(かた)なのかな。内政とかそういう役割りを振ってあげたら、いい仕事をしてくれそうであるが、かなり面倒な聖剣(ひと)みたいだ。


「最後に土のガラチンだが、奴は何を考えているかわからんのでな。正直どう対処したらいいのかわからん」


「何を考えているのかわからないですか?」


「ああ、奴とは百年以上も一緒にいたが、声を聞いたことがあるのは数回くらいだからな」


 百年間に数回しか声を出さないとか、それはまた筋金入りの無口キャラだね。


「しかし、我がどこの世界軸からこの世界に迷い込んできたのか特定できなければ彼奴等の回収は不可能――そうなのではないか」


「たしかに――」


 そうだ。エクスカリバーさんのご同輩を回収しようにも、エクスカリバーさんがもともといた世界がどこにあるのか、その座標みたいなものがなければどうにもならない。


「ならば、この話は我がそうであったように運に天を任せるしかないだろう」


「そう、ですね」


 僕はままならない妄想の話に苦笑いを浮かべながらも、エクスカリバーさんとの話が途切れたところで、カウンター上の時計を見て、闇の精霊に「おやすみ」と声をかけて、学校へ向かうべく自分の家へと戻っていくのだった。

◆今回、話題に上がった聖剣まとめ。


〈エクスカリバー〉……光の聖剣。光は勿論、プラズマも操ることができる某教授も真っ青な万能武器。因みに、エクスカリバーが持つ飛行能力は念動力を使ったもので、それなりの力を持った聖剣ならどの聖剣でも使える力だったりする。(飛行時間は聖剣の成長度によって変化する)


〈カルンウェナン〉……斬った対象を操ることができる闇の聖剣。正確には聖剣の影により対象の影に触れることで、その影を支配する力だったりする。

 宿る闇の精霊はクールな文学少女タイプ。


〈マルミアドワーズ〉……エクスカリバーより優れていると自称する火の聖剣。剣に魔力を注ぐことによって爆炎を生み出すことのできる火力重視の聖剣。

 宿る火の精霊はハイテンションな熱血漢(しゅうぞう)タイプ。


〈クラレント〉……風を読むことによって戦場全体を把握できると言われている風の聖剣。気流操作に特化しており小技が多い印象。

 宿る風の精霊は神経質なインテリ上司タイプ。


〈シューレ〉……刀身から溢れる水は味方を癒やし敵に死の抱擁を与えると言われた水の聖剣。そして、なぜかその装備者はいずれも線の細い美丈夫だったという。

 宿る水の精霊は心優しきお姫様タイプ。


〈ガラチン〉……地形を操ることのできる無骨な土の聖剣。その性質から攻城兵器や築城に使われることが多かった。

 宿る土の精霊は無口な職人タイプ。

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