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ゲテモノ料理

◆こんな時にアレですが、三周年です。

 飽き性な自分が毎週毎週よく続いているものだと感心します。

 しかし、そんな記念のお話がゲテモノ食いだとは……、

 タイトルからもおわかりかと思いますが、今回のお話にはややグロテスクな表現が含まれております。

 お食事前、食事直後には読まない方がいいかと思われます。

 お気をつけを――、

 それは、元春と正則君が魔法の修行を、次郎君が錬金術を学ぶべく万屋で出す各種ポーションを大量生産した後のこと、お疲れモードの三人に僕が小さな小瓶を差し出す。


「ん、なんだそれ」


「元気薬っていって体力を回復させる魔法薬だよ」


「いわゆるスタミナポーションというヤツですね」


「ふーん。

 でもよ。これってドーピングとかどうなるん?」


 正則君が頭上に小さな疑問符を浮かべて聞いてきて、それに僕が返した言葉から、次郎君が正解を導き出し、高校の部活動ということでそこまで細かくは考えていないようだが、陸上に関わる人間としてはそういうことが気になってしまうのだろう。ちょっと気になったとばかりに聞きながらも元気薬を煽る正則君の一方で、次郎君は受け取ったはいいものの一向に口に運ぶ気配のない元春が気になったみたいだ。


「元春はどうして飲まないんです」


 訊ねる次郎君に元春は顔を軽くしかめながらも何か言おうとして、その途中、いいことを思いついたとばかりに口端を歪めて、


「ああ、それな。実は材料にオークのン玉を使われてんだよ」


 企み笑顔の元春から飛び出した情報に、ブーといきおいよく元気薬を吹き出したのは正則君だ。


「ちょ、それ、マジかよ」


 口から黄色い液体をだらだら垂らしながらも、驚愕と非難がないまぜになった視線を僕に向けてくる正則君。


「でも、そのポーションは錬金術で作ったものだし、そんなに気にすることはないと思うけど」


「そうですわね。元春の言うそれはあくまで錬金の素材ですから」


 僕の意見にフォローを入れてくれるのは、エクスカリバーさんと、なにやら領地経営の話をしていたマリィさんだ。

 すると、その言葉を聞いた元春達が一瞬「え!?」と戸惑うような表情を浮かべて、何を言うかと思いきや。


「えっと、それってマリィちゃんもこの薬を飲んだことがあるってことっすよね」


「ええ、なにか問題でもありますの?」


「いや、問題ってわけじゃないんすけど。マリィちゃんがこれを飲んだってことは、つまり、オークのン玉がマリィちゃんの口の中で転がされたってことにならないっすか」


 妙に真剣に聞き返してくるから、また何を言い出すのかと思いきや、自殺願望でもあるのかな。元春が妄想力たくましい例え話を口にして、他のふたりが「おぉ」と、さも大発見だとばかりの声を上げるのだが、

 次の瞬間――、


 チュドン


 まあ、当然の報いだよね。

 元春の頭に〈火弾(ファイアバレット)〉が打ち込まれ、拍手をしようとしていたその他二名の動きがピタリと止まる。


 うん。ここでなにかを言おうものなら今度は自分が火弾の餌食になるからね。

 二人とも良い判断だよ。


 僕は石像のように固まってしまった二人にうんうんと頷きながらも。


「錬金によって錬成されるアイテムは術によっていったん分解されて再構築されるから、元となった素材がどんなものであれあんまり関係ないと思うよ」


 例えば、キングスカラベを倒して手に入れた龍の糞。

 これは、その糞を錬金加工して、幾つか上位魔法金属を作ってみた時の話だが、別に変な臭いもしなかったし、むしろそこそこ強い龍種の糞だったのか、強力な魔法金属を錬成することができたのだ。

 故に錬金術に使う素材は、それがベースの素材でない限り、あくまで触媒でしかなくて、完成する錬金物には錬金反応以外のものを残すことは、ほぼありえないのだ。


「それに、アメリカだったかな。あっちの方にはそういう素材を使った料理が普通にあったんじゃなかったっけ?」


 別にそれを口にすること自体、特段いやらしい意味がある訳ではないと、僕がマリィさんを慰めるようにそう言うと、二人も長年の付き合いからその行動の意図を察したのだろう。

 少し慌てながらも次郎君が口にしたのは、


「ロ、ロッキーマウンテンオイスターですね。

 たしか、どこかの球場では上げたものが普通に軽食として提供されているのだとか」


「お、おぅ、マジかよ」


 さすがは次郎君だ。よく名前まで知ってたよね。

 すると、そんな次郎君からの情報を受けて、衝撃に次ぐ衝撃により、ちょっとたどたどしい反応ではあったけど、正則君もなんとか持ち直してくれたみたいだ。


「アジアの屋台なんかで虫のスナックが売っているから、それと似たようなものじゃないかな。

 その地方では普通に食べられているものでも他の地域の人から見ると信じられないものってあるでしょ」


 例えば、タイやベトナムなんかでは、屋台のホットスナックとして、普通にイナゴやハチなんかの揚げ物が売っていたりする。ロッキーマウンテンオイスターもそれと同じようなもので、錬金術の仕組みを無視したとしても、オークの睾丸を使った元気薬もそれと同じカテゴリと考えたらどうだろう。

 母さん主催のブートキャンプで虫を食べたことがある僕達にとっては意外と馴染み深いたとえなんじゃないかと、言ってみたところ、正則君の反応は上々だったのだが、マリィさんからしてみると逆にそれが信じられなかったみたいで、


「虫は食べられるものでしたの!?」


「種類にもよりますけれど、ハチの唐揚げなどはエビみたいな感じで意外といけますよ」


「ハチを食べますの!?」


「ええ、今度もってきてみましょうか?」


 今はまだシーズンではないが、母さんの知り合いの手元になら、冷凍のものが残っているのかもしれない。

 そう思って聞いてみたところ、女子としてそこは引いてしまうんじゃないかと思いきや、さすがはマリィさん、チャレンジャーだ。是非にということで、後日持ってくるという約束をしたところで元春が復活してきたみたいだ。『ヘッドショットの一発くらいじゃ仕留められねぇぜ』と蘇る某ゲームのゾンビのように立ち上がった元春が、本当にこの復活の速さと切り替えの速さは何なんだろうね。普段どおり軽い感じで聞いてくるのは、


「ち、因みに、マリィちゃんの世界にはそういうゲテモノ料理みたいなのってないん?」


「そうですわね。(わたくし)は食べたことありませんが、ある地域では長寿を願って孵化直前の下等龍種の卵を食べると聞いたことがありますの」


「孵化直前というと――、バロットのようなものですかね」


「「「「バロット?」」」」


 どうやらこの場において、僕以外にバロットを知っている人がいないみたいだ。

 だから、僕が「インターネットで画像検索してみれば一発だよ」というと、元春達は素直にも、それぞれに魔法窓(ウィンドウ)を展開して――、

 まあ、その後、なにがどうなったかは言わずもがなだ。

 そう、孵化直前の卵を茹でたりして食すバロット。この食材は生半可な覚悟で画像検索をしてはいけないワードの一つになっているのだから。

◆今回登場した料理の解説。


 ロッキーマウンテンオイスター……牛の睾丸を調理したもの。

 唐揚げやフライにして食べるのが代表的な調理法。牧畜が盛んな地域で去勢されたそれを食べるようになったのが始まりだそうです。

 なぜオイスター(牡蠣)なのかというと、それには諸説あるようですが、食感や揚げ物にした後の状態がそれっぽいことからオイスターと呼ばれているようです。

 上記名前以外に、スインキングビーフ(ぶらぶらする牛肉)という呼び方があるようです。

 因みにお味は多少クセはあるものの基本的にタンパクなのだそうで、ケチャップベースのソースにつけて食べるのが一般的なのだそうです。牛の睾丸だなんて前情報がなければ普通に食べられそうな食べ物です。


 バロット(もしくはホヴィロン)……それは卵の中の成長度合いによって味や食感が変わる不思議食材。卵の黄身からささみ、そしてパリパリと軟骨のような食感が味わえるそうです。

 基本的に味は卵や鶏肉とかわらないとのこと。

 卵に血が混じったやつに当たっただけでも食欲が減退する作者には無理な食材ですね。

 でも、ドラゴンのバロットなら意外といけるかもしれません。

 因みに、保存状態によってはサルモネラ菌や大腸菌が発生する為、注意が必要だそうです。

 まあ、日本で手に入れることはほぼ不可能なのだそうですが……。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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