表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/847

●三匹が行く。vsボナコン

◆今回は、前話の裏側で、元春たちがなにをやっていたかというお話です。

 それは、とある春の日の午前中、

 虎助に作ってもらった鎧のならしに、元春、次郎、正則の三人が、万屋を出て左手に建てられた宿泊施設の一角、大量のディストピアを集めた修練場で修行をしていた時のこと。


「なあ、今日は別のディストピアに入ろうぜ。いいかげん骸骨の相手は飽きたっての」


「飽きたって、スケルトンアデプトには、まだ、一度しか勝ててないという話でしたが、

 しかも、ディロックを大量に投入してようやくだったとか――」


「いや、あんなの普通に戦ってたら無理ゲーだからな」


「そうだぜ。一回でも勝てたならスゲーって」


「しかし、スケルトンアデプトは、いろいろな種類がいるそうですから、倒したら倒した分だけ権能が手に入ると聞きましたけど」


 そう、スケルトンアデプトは一種類ではない。

 もともとこのスケルトンアデプトのディストピアがアヴァロン=エラに流れ着いた高位スケルトンの骨をより集めたものだけに、そのディストピアに出現するスケルトンも雑多様々存在し、ランダムではあるが、かなりの数の戦闘法を持つスケルトンおよびスケルトンアデプトとの戦闘を行えるという珍しいタイプのディストピアになっているのだ。


「それでもよ。こう骨ばっかだとな。

 てゆうか、アデプト戦に入る前の雑魚がうざったいんだよな」


 スケルトンアデプトとの戦いならまだしも、その前段階であるスケルトン軍団との戦いは、装備する鎧の性能もあって、もはや作業のようなものだった。

 だから、ここでいっぱつ気分転換に別のディストピアに入りたいと主張する正則に、次郎は腰に手を、ため息を履きながらもすぐ隣に立つ元春に。


「仕方がありませんね。元春君のオススメはありますか?」


「ローパーだな。ヤツを倒せばエロに役立つ権能が手に入るかもしんねーし」


「それ、君が奇跡的に勝ったっていうディストピアですよね」


 次郎はここ数日、魔法の練習を集中して行う傍ら、虎助からこのアヴァロン=エラでの話をいろいろと聞いていた。その話の多くは元春がやらかした数々の無軌道行動で、その中に件のローパーの話もあったのだ。


「ああ、だけどよ。三人でかかりゃ、その勝率も上げられんだろ」


 元春としてはローパーからゲットできる権能は出来得る限り手に入れておきたい。

 どうにか三人を引き込めないかと考える元春に正則が興味を持ったかのように聞くのだが、対戦ゲームをメインでプレイする正則からすると、ローパーというモンスターのイメージがすぐに思い浮かばなかったのだろう。


「なあ、そのローパーってのはなんなんだ」


「エッチなゲームに出てくる触手みたいな敵だそうですよ。貞操を失いたくありませんから僕は嫌ですよ。行くなら二人で()って下さい」


 そんな話を聞かされては流石の正則も「うわぁ」と呻かざるを得ない。

 そして、そんな正則のリアクションから元春も自分の不利を悟ったのだろう。


「わーったよ。じゃあノリはどんなディストピアがいいんだよ」


 だったらどんな相手と戦いたいんだと訊ねる元春に対し、正則は「んー」と腕を組んで、


「ドラゴンとか?」


「まったくノリはそればっかだな。そんなにドラゴンと戦いてーならイズナさんに頼めよ」


「そうですよ。ここはコツコツと弱い敵からランクアップしていくべきです」


 二人からの却下を受けて、

 いや、二人からの却下というよりも、イズナの名前を出されては正則も無理は言えなかったみたいである。ドラゴンは諦めることにしたようだ。


「しかし、弱い敵つったってなあ――」


 もともとディストピアというのは、個人的な亜空間を持つような強大な存在の素材を基礎として作られる魔導器である。ゆえに弱い相手などそうそういなく、もしも簡単に実績が得られるディストピアがあるんだったら、すでに自分がクリアしている。そう元春が唸っていると、次郎は元春のリアクションに少しアプローチを変えてみたようだ。


「では、僕達と相性が良い敵はどうでしょう?」


 弱くはなくとも自分達と相性がいい相手なら勝てる確率も高くなる。次郎はそういう相手が居ないものかと元春に訊ねるのだが、


「俺達との相性つったってよ。俺らがやれることなんて鎧の力任せにクリアするくらいだろ」


「だからその力押しが可能な相手はいないんですか?」


「そうだな。

 ……エレインに聞いてみっか」


 考えてみると元春はそれほどディストピアを利用している訳ではなかった。

 虎助の付き合いとして、そして、たまにふらっと現れるイズナに連れられて行くくらいで、ローパーや、その他、自分の煩悩に有用な権能が得られるようなディストピア以外に積極的に入ることはなかったのだ。

 だから、自分はそこまでディストピアには詳しくないと、元春はディストピアが置いてある施設を管理するエレインに次郎の希望を伝え、その内容に合ったディストピアはないのかと聞いてみる。

 すると、エレインは幾つかの候補を頭上に浮かべたフキダシに表示して、


「スカルドラゴンは名前から想像がつくとして、ボルカラッカ二種とボナコンというのはどういう相手でしょう」


「ああ、ボルカラッカってのは空飛ぶデッケー魚だな。二種ってのは普通のヤツと亜種のことだろ。ただ最後のボナコンってヤツはわかんねーな」


 エレインの頭上に表示されたフキダシを覗き込んだ次郎が首を傾げ、それにすかさず元春がフォローを入れる。

 しかし、それでもわからない魔獣がいるとエレインに確認したところ、エレインが教えてくれるには――、


「牛型の魔獣ですか……、

 ミノタウロスみたいなものでしょうか」


「ああ、それなら面白そうだな」


「まあ、ミノみたいなヤツならゴリ押しでなんとかいけるのか?」


「では、それにしてみましょうか」


 反応はそれぞれだが、いちおう三人の意見が一致したところで、元春達はそのボナコンの角を削り出したものと思われる、意外と小さな角笛に触れてディストピアの中へ。


 すると、次の瞬間、三人が立っていたのは背の低い木と草原が広がるサバンナのような場所だった。

 もう、ディストピアへの転移にも慣れた三人は、すかさず周囲を見回して、


「それで、なんだっけか、その牛は?」


「ボナコンですね。

 ええと、アレじゃないですか」


 次郎が指差す先にいたのは、フサフサとした黒い(たてがみ)と巻角を持つヌーのような巨牛。

 サイズは大きめのダンプカーくらいか、巨獣にしては小型の部類に入るボナコンは、特にこれといった特徴のない巨獣だった。


「さて、どうしましょうか。

 近付いてみます?

 それとも狙撃で釣りますか?」


「そうだな。わざわざ近付いてくのもアホみたいだし、釣るか」


「そうか、普通に近付いてって飛び蹴りかました方が大ダメージとか狙えねぇか?」


「アホですか君は、敵の実力もわからないのに突っ込むなんて愚の骨頂です」


「ちぇ、わかったよ」


 次郎が訊ね、元春がそれに同意、正則が引っ掻き回して次郎に怒られると、この三人にありがちなパターンを経て、最終的な意見がまとまったところで、次郎が肩にかけていたアサルトライフル型の魔法銃を構え、残る二人が左右に展開、カウンターを狙える位置についたところで次郎が魔弾を放つ。

 サプレッサー付きの銃から放たれたような小さな音を残し、飛んでいった魔弾がボナコンの巨体に吸い込まれる。


「――と、命中。こちらに気付いたようですね」


 狙撃されたボナコンは力を溜めるように足で地面をかくようにして、

 次の瞬間、ボナコンの背後で土色の爆発が巻き起こる。


「早っ!!」


「つか、あれ、ケツから火ぃ吹いてね」


 背後で発生した爆発を利用して、ボナコンがその巨体に見合わない速度で突進してくる。

 そんなボナコンに攻撃に、元春が驚き、正則がその背後に発生した爆発に注目する。

 そして、次郎がこのまま突進を食らったら一発で死に戻りもあると、慌てて回避に周り。


「とりあえず、僕は逃げながらの狙撃を続けますので、二人はどうにかカウンターを入れてくれませんか」


「「お、おう」」


 次郎からの指示を受け、元春が如意棒を構え、正則が土魔法で地面からはやしたジャンプ台を利用して蹴りを入れようとする。

 だが、ここで悲劇が起こる。

 カウンターを決めた正則が華麗に着地を決めたその直後、ボナコンがその長足の突進の推進力としている爆発的な炎の噴射に巻き込まれたのだ。

 しかし、そのリアクションは通常イメージするものとは少し違っていて、


「くっ、くっせー!!!?」


「ちょ、まさかこれ、全部クソなのか」


 そう、ボナコンに尻から発生する爆発の直撃を受けた正則、そして、如意棒で攻撃を入れつつも脇に避けた元春が見たボナコンの爆発的な推進力を生み出すそれは、ボナコンの糞、なぜか燃えているボナコンの糞だったのだ。

 すると、元春が目の前を通り過ぎたあんまりにもな光景に、一瞬、我を忘れている内に、次郎を追いかけるように動いていたボナコンが半円を描き様な起動を取り。


「くそ、回り込まれた。もう一発くんぞ。

 ノリ、逃げろ――」


「いや、逃げろって、周りは燃える(くそ)だらけだぞ」


「いいですから、早く、早く、援護を下さい」


 必死に逃げ回りながら助けを求める次郎。

 しかし、元春も正則も周囲を燃える糞に巻かれ、彼を助ける余裕などない。

 故に――、


「次郎、足だ足を狙え」


 自分のことは自分でどうにかしいてくれ、そう声を張り上げるのだが、


「そうしたいのはやまやまなんですけど、早すぎて、逃げながら狙うなんて不可能ですよ」


 次郎のフレームレイブンがいくら狙撃メインの魔動鎧だとして、それはつい数日前に手に入れたばかりの装備である。

 いくら鎧の性能が高いとはいっても、こういった魔獣との戦闘はまだ素人に過ぎない次郎にとって、拘束で迫る敵から逃げながらの狙撃は難しく。


「チッ、しゃあねぇな。俺が突っ込む。だから後は任せるぜ」


「突っ込むって、大丈夫なんですか?」


 次郎のそれは正則を心配しているというよりも、ここで正則がやられたら為す術なく三人共やられてしまうという危惧だった。


「わかんねぇけど、このままヤツを放っておいたら、この辺ぜんぶ(くそ)まみれにされんだろ。だったら、さっさとヤロウをぶっ殺した方がいいハズだぜ。それにここならやられてもすぐに復活できるからな。最悪ゾンビアタックしてでも止めるさ」


「わかりました。君の犠牲は無駄にはしません」


「そうだな。ノリが突っ込んでるところを俺と次郎でチクチクやるのが安全だな」


「って、うぉい。そりゃねぇだろ」


 まるで自爆が前提かのような次郎が醸し出す雰囲気に、ツッコミを入れる正則。

 しかし、次郎にだって余裕はないのだ。


「どちらにしても君が言い出したことです。責任を取って僕を助けてください」


「あぁ、もう、わかったよ。どうにでもなりやがれ」


 糞を撒き散らしながら次郎を追いかけて、猛然と突っ込んでくるボナコンの進路に割り込みをかけた正則は、掌を突き出すようにして、


「ファランクスぅぅぅううっ!!」


 クリムゾンボアの機能を使ってやや構成の甘い石の槍衾を作り、ボナコンの突進の勢いを削いたところで、


「か~ら~の~、どっせぇぇぇぇぃぃいい――っ!!」


 超速のタックル。そこから足を捻り上げるような横回転をして、


「今だ。やれぇい――っ!!」


 叫び。

 ここがチャンスと、元春、次郎の二人からの援護射撃が入れられる。

 元春はバックパックのようになった魔法銃からの衝撃弾を乱射しながら伸ばした如意棒をボナコンの横腹に突き刺して、次郎は次郎で特注で作られたスナイパーライフルを使い闇の魔弾を大量に撃ち込んでいく。

 すると、連続して撃ち込まれた闇の魔弾がその効果を発揮したのだろう。ボナコンの体が薄墨の靄に覆われてゆき。


「よっしゃあ。暗闇入ったぞ。ボコれボコれ」


 元春の声を受けて正則が立ち上がり、ワンツーキックからのサマーソルト。

 そして、そこからの踵落としと、まるで格闘ゲームのコンボのような連続技を決めて。

 ここが攻め時だと声を張り上げた元春自身も如意棒を鬼の金棒のように形状を変化させボナコンに殴りかかる。


 と、これにはさすがのボナコンもたまらない。身を捩り、嫌がるような素振りをするも、そんな時だった。

 ボナコンは尻から糞を噴出、それを細長い尻尾で弾くようにして、ゼロ距離で攻撃を加えていた元春と正則に浴びせかけられる。


「うわっ!?」


「最悪――」


「ちょっと、こっちまで飛んできましたよ」


 燃え盛る糞を浴びせられ、動揺する三人。

 実際、三人とも鎧を装備してなかったら、三人共、全身大やけどは免れなかっただろう。

 だが、彼等が着るのは魔法金属製の鎧である。

 とうぜん耐火耐熱性能もかなり高く、一番装甲が薄い次郎のフレームレイブンでも、火だるまになった状態からの数分間は装備者に影響がないように出来ている。

 結果、このボナコンの攻撃も単なる悪あがきにしかならず。


「くっそ、よくも糞を引っ掛けてくれたな」


「つか、くせーんだよ」


「死んで下さい」


 まるで弱い者いじめかのように集中攻撃を受け、ボナコンは光の粒となって消えた。

 そして、現実世界へと舞い戻った三人がまず最初に確認したのはやはりその臭い。

 残念ながらこの三人は誰一人〈浄化(リフレッシュ)〉の魔法は使えないので、もしも、これで臭かった場合は、すぐにお風呂に入りに行かなければならなかったところなのだが、


「臭いは?」


「大丈夫みたいだな」


「鼻が麻痺しているというパターンもありますが、おそらくは大丈夫でしょう」


 お互いにお互いの臭いを確認。

 たぶん大丈夫だろうと判断したところで待望のリザルトタイム。

 施設の入り口に置いてあるステイタスカードでディストピアの成果を確認したところ、三人が得られたのは、正則が〈捨て身〉、次郎が〈悪臭耐性〉、元春が〈火糞〉という結果だった。

 それを見た三人は、


「なあ、これ俺の権能ヤバイんじゃね」


「ああ、あの牛みたいになるってんなら、おちおちクソもできねぇぞ」


「ええと、こういうのはオンオフできるのが普通なのでは?」


「そういえば、虎助がそういうことしてたような……、

 ちょっと俺、聞いてくるわ」

◆ボナコンおよび〈火糞〉の解説


 ボナコンはいちおう実在する? というか伝説上の怪物だったりします。

 今回のお話ほどではないと思うのですが、灼熱の糞を撒き大量に散らすという逸話を持っているそうです。

 地味に某有名RPGのザコ敵として出演していたりします。


〈火糞〉……体内で糞を熟成させることにより発火性のガスを存分に含んだ糞を作り出すことが出来る。

 人間の体でボナコンと同程度の爆糞(=TNT換算)を作り出すには数週間の我慢(熟成)が必要となる。

 ちなみに、この実績により生成される爆糞は、錬金術などで作られたマジックアイテムを同じような性質を持つことから、体内で発火・爆発することはない。

 あと、この実績の性質から排便コントロールが可能となるため、副次効果として便秘解消が自力でできるようになる。


◆ディストピアに関するちょっとした補足。


 今回の冒頭、三人(というよりも元春と正則)がスケルトンアデプトのディストピアを軽い感じで言っていますが、あれはあくまで虎助から提供される装備やアイテムのおかげだったりします。


 そして、三人の話に登場していたスケルトンアデプトのディストピアですが、

 これは、エルブンナイツの時に使用したものをブラッシュアップし、新たに作成したもので、難易度調整にセーフティゾーンの設置、脱出手段の確保など、いろいろと新しい機能が搭載されていることから、格段に修行がしやすくなっているものだったりします。


 ろくな装備も持たされず、難易度調整していないディストピアに放り込まれたエルブンナイツとは同じスケルトンアデプトのディストピアでもまったく違う代物だったりします。

 まあ、その分、向こうの方がクリアした時に受ける恩恵は大きいのですが……。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ