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●幕間・スクナとジンクス

◆迷宮都市アムクラブ在住の探索者メインのSSです。

 場所は迷宮都市アムクラブの裏通りにある老舗の酒場。

 辺りはすっかり日が落ちて、魔素灯の下、人々が賑わう酒場の一角、一人の青年が自分の連れていた小さなゴーレムがテーブルの上の酒を零したことに怒鳴り散らしていた。


 すると、その様子を近くのテーブルから見ていた中年男が乱暴な青年の行動を見かねたように声を掛ける。


「おいおいにーちゃん。スクナをそんな乱暴に扱うなよ」


「あぁん、うるせーな。俺が俺のゴーレムをどう扱おうと俺の勝手だろ」


 ゴーレムが主人の命令に従うのは当たり前、確かに青年の言い分は間違っていないが、それがスクナというのならば放ってはおけない。

 親切心からの注意に返された青年の乱暴な言葉に、中年男は「はぁ」と細いため息を吐き出して、わざわざ余計なおせっかいを口にしたその理由を説明する。


「お前、誰かからその子を呼び出すカードを売ってもらった口だよな。だから言っておくぞ。スクナには精霊が宿ってる。あんまりヒデェことしてっとスクナに宿ってる精霊が逃げちまうんだぜ」


 カードの存在を知ってはいても、その詳しい仕様は知らなかった人もいたのだろう。中年男の説明に「ほほぅ」と唸るような声がチラホラとあがり、周囲の視線が管を巻く青年のすぐ近くでオロオロするスクナに向けられる。

 すると、その視線を自分に向けられたのだと勘違いした青年がどこか居心地の悪さを感じたのだろう。大げさに身振り手振りを加えながら。


「で、でもよ。それなら買いないせばいいだけだろ。俺の持ってるカードはそんな高くねぇし、別に使えなくなったら使えなくなったでそれまでだろ」


 事実、青年の持っている〈スクナカード〉はブルーと呼ばれる、安価な魔法金属で作られたカードだった。

 その値段は他のものより随分とお手頃で、さすがにこれを実際に売っている店よりは高くなっているものの、それなりに儲けている人間からしてみるとそこまで高価なマジックアイテムでもなかったのだ。


 しかし、青年の主張に中年男が指摘をするのは、


「バッカ、相手は精霊だぞ。逃げられたら一緒に幸運や加護みたいなのも逃げちまうかもしんねぇだろ。

 何年か前に精霊を怒らせたどっかのバカ貴族の領地がヤバイことになってるっていうし、もしかするとお前もそうなるかもしんねぇだぞ」


「おいおい、そりゃ本当の話なのか」


「あれって精霊に逃げられたことが原因なのかよ」


 男の発言にざわつく店内。

 身近ではないにしろ、迷宮都市アムクラブが存在する世界では精霊がきちんと認識されている。

 そしてその住人はたとえ精霊そのものを見たことがなかったとしても、子供の頃から、もしくは風の噂で、精霊に害をなした人間がどうなるのかという話を知っている。

 もしも、それに似たようなことが自分の身の回りで起きたのなら。


「マジかよ」


 今更ながらにことの重大性に気付いたのか、愕然とする青年。

 そして、青年を注意した中年男は自分のスクナにつまみとして出されていた、揚げたじゃがいもの欠片を与えながらも。


「信じるか信じねぇかはテメェ次第だがな。

 できれば、他の奴の迷惑にならないようにしてもらわねーと。

 それに、スクナはちゃんと扱ってやればその分きちんと返してくれる。

 ま、ガキを連れてるみたいな感じがちょうどいいんじゃねぇか」


 そう、青年を諭すのだが、

 しかし、スクナを自分の子供のように甘やかすその姿は、いかつい中年男の見た目とはまったく似合っておらず。


「お前が子供を可愛がるってツラかよ」


 中年男の話で周囲に蔓延していた動揺を誤魔化すように上がる誰かの声。


「うるせぇよ」


 そんな誰かの声に真っ赤な顔をして叫ぶ中年男。

 しかし、その照れ具合を見るにまるで説得力がないのは誰も彼もが認めることだった。


   ◆


 場所を移してアヴァロン=エラ。


「――って話があるんだけどよ。虎助、そこんとこどうなんだ?」


 どこともしれない荒野の真ん中にある万屋の店内で、そんな質問をするのは、迷宮都市アムクラブ所属のベテラン探索者パーティの強面リーダー。


「あるかもしれませんね。もともと【精霊の加護】なんて実績もありますから、スクナが似たような力を持っていても不思議じゃないと思いますよ」


 そして、そんな強面リーダーの迫力にも――、

 いや質問にも怯まずに、どこか気軽な感じで答える少年は間宮虎助。

 この万屋の代理店長を務める少年だ。


「おいおい、本当かよ」


 虎助が言った可能性に驚く強面リーダー。


「まあ、スクナに宿るのはあくまで原始的な精霊ですから、そんなお伽噺で聞くような大袈裟なことにはならないと思いますけど、逃げられた精霊の属性に対する耐久が多少落ちたりとかはするかもしれませんね」


 しかし、虎助はそこまで心配することはないと、影響は微々たるものだと言って、彼等を安心させる。

 ただ、微々たるものとはいっても影響があるのは本当のことなのかもしれない。

 虎助の話から、アムクラブで噂される話が裏付けられたとこのベテランパーティの魔導師を務めるナイスミドルが、


「しかし、もしそれが本当だとしたら悩ましい問題ですね。

 場合によってはスクナを多数所持することがパーティの安定に繋がるなんてことになるかもしれません」


 虎助が考えがもし正しいとしたら、場合によってはスクナを複数所持して、いろいろとその攻勢を考えることでパーティの強化に繋げられるかもしれない。ナイスミドルの魔導師はそんな考えが思い浮かんだのだろう。難しそうな顔で呟くが、


「それはどうでしょう」


「ん、そりゃどういうこった?」


「その、さっきも言いました通り、加護といってもスクナに宿っているのは原始精霊ですから、本当にそういう力があったとしても微細な影響しかならないでしょうし、もしそれでパーティの強化を狙うのなら、スクナそのものを強化した方が簡単ですよね。それによって友好度が高まれば、その加護の効果も強く働くのかもしれませんから」


 精霊の加護はあくまでその人を助ける助力に過ぎない。

 だったら、それを強化するよりも、精霊――いや、スクナそのものを強化した方がはるかに効率的だ。

 そして、その過程で精霊との交流を深めていけば、スクナに宿る精霊に逃げられるというリスクも減らせるというものだ。

 虎助がそう言うと、問題を提起したナイスミドルの魔導師だけでなく、強面リーダーも納得がいった様子で、


「成程、そうなると、カードは自分の手が回る程度に抑えた方がいいってことか」


「そうですね。たとえばですが皆さんも仲間だと思っている相手が、新しい仲間ばかり頼りにして自分をないがしろするようになったら嫌でしょう」


「たしかにな」


 彼も数人のメンバーをまとめ、探索を繰り返すパーティのリーダーを努めているだけに、虎助の発言に思い当たることがあるのだろう。


「家族、友人、戦友、部下、どんな扱いをするのかはカードの持ち主の自由ですが、自分がやられて嫌なことを、仕返しを受ける覚悟を持たなければいけないということですね」


「了解した。どっかのバカにはそう伝えておくよ」

◆次回は水曜日の予定です。

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