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●幕間・メイドとスクナ※

 その日、マリィが城主を務めるガルダシア城は色めきだっていた。

 騒ぎの中心にあるのは彼女達に配られている金と銀のカード。

 カードの名前は〈スクナカード〉。

 彼女らは、先に〈スクナカード〉を手に入れていたマリィ付きのメイドが、スクナ達と楽しく過ごしていることを羨ましく思っていた。

 それが本日、自分達にも配られるのだ。

 はしゃぐメイド達は支給された上位金属製(・・・・・)の〈スクナカード〉を受け取ると、さっそく召喚を行い、そこかしこに小さな動物やら精霊が溢れかえる光景が広がっていた。


 そんな歓喜の輪の中で一人悩める美女がいた。スノーリズだ。

 アイスブルーの瞳でカードを見つめたまま難しそうな顔をするスノーリズを見つけたトワは、彼女に歩み寄り、声を掛ける。


「スノーリズはまだスクナを召喚しないのですか」


「はい。召喚はすぐにでも行いたいのですが、なかなかイメージがまとまらなくて」


 正確に言うと、スクナを生み出すために精密なイメージは必要はない。

 ただ漠然とどんなパートナーが欲しいか、それさえイメージできれば、その意思に応じた精霊がカードに宿り、スクナを形作るのだが、それでもスノーリズはできるだけ自分の目的に合わせたスクナを生み出すべく慎重になっていた。

 そんなスノーリズの考えに、トワは「ふむ」と周囲を見回して、


「ならば、ルクスやフォルカスのように複数体と契約するという手もありますが」


 別に〈スクナカード〉一枚しか持てないわけではない。

 もしも、これといったイメージが固まらないのなら、スクナを召喚した後で、改めて追加購入すれば良いのではないか。トワはそう言うのだがスノーリズは難しそうな顔をして、


「個人でムーングロウの〈スクナカード〉を購入することは難しそうですから、このカードについては慎重に選びたいのです」


 今回は、以前、龍種を仕留めた(・・・・・・・)ことがある(・・・・・)マリィと、その友人である虎助の温情によって、メイドたち全員に上位魔法金属で作られたスクナカードが配られている。

 だが、後で追加購入する分を彼等に頼るのはもっての外で、一介のメイドでしかないスノーリズが高価な上位魔法金属を使った〈スクナカード〉に手を出すのは難しい。

 となると、スクナの召喚には慎重に慎重を期さねばならない。スノーリズはそう言うのだが、


「アナタの場合、ユリス様をお守りすることが再優先事項なのですから、その一点で選べばいいのでは?」


「それは理解しているのですが、このカードによって生み出されるスクナのサイズが問題なのです」


 カードから生み出すことのできるスクナは基本的に手のひらサイズとなっている。

 どんなに大きくても小動物の域を出ない。

 そのことから、スノーリズは自分が考える運用に耐えられないのではないかと、そう考えているようである。


「そういえばトワは何を基準にしてアンを生み出したのです?」


「私は、鏡の向こうの世界での探査任務と、私の行き届かない部分を任せようと、それを補うスクナを願いました」


 その結果、生み出されたのが家妖精(シルキー)型のスクナ。

 トワは自分が生み出したアンに、わざわざスクナの装備品を作り出す〈SEカード〉を使って、メイド服を装備させ、自分が手が届かない細やかな役割を与えていた。


「成程、サイズの小ささを逆手にとった運用を考えたのですね」


「そうですね。たとえば戦闘に関しても、直接的な効果を狙うのではなく、援護に特化したのなら、サイズの違いはあまり気になりませんから」


「なるほど理解しました。

 ですが、その役目はアシュレイとシェスタの――、

 と、そういえばあの二人はどのようなスクナを生み出したのでしょう」


「アシュレイは探索に加わる索敵を目的としたウサギ型のスクナを生み出していましたね」


 答える途中、ふと思い出したかのように口にした部下の名前に、トワがアシュレイの生み出したスクナの思い出すように言う。


「うさぎですか。それは単純にアシュレイの趣味なのでは?」


 アシュレイは普段の活動的な様子に反し、意外と可愛いもの好きである。

 スノーリズはそんなアシュレイの趣味を思い出して、うさぎ型のスクナを生み出したというアシュレイに呆れたような声を上げるのだが、


「まあ、趣味と実用を兼ねているのなら、それでいいではありませんか」


 役目さえ果たせるのならスクナの姿は個人の趣味である。

 いや、むしろうさぎ型のスクナというのは役目に即した形態なのではないか?

 アシュレイの選択にトワが入れたフォローを聞いて、スノーリズも一定の納得を得たのだろう。頷くようにして、


「それでシェスタの方は?」


「彼女は自身の足りない火力を補う為に姫様と同じ飛龍型のスクナを――と、噂をすれば来ましたね。

 しかし、アレは何でしょう」


 丁度話題が上ったところで、件の人物がトワとスノーリズの方へやって来たようだ。

 しかし、そんなシェスタの肩に乗っていたものが問題だった。


「シェスタそれはなんです?」


 トワからの問い掛けにきょとんとした表情を浮かべるシェスタ。

 だがしかし、すぐにクスクスと笑いだして、


「なにを言っているんですかトワ様ったら、どうみたって強そうなドラゴンさんじゃないですか。

 ねぇクゥちゃん」


「ドラゴン。それがですか?」


 これは自分のスクナだと言うシェスタに、ふだん冷静なトワが動揺のあまり言葉に詰まらせる。

 そう、シェスタが可愛がるそのドラゴンとやらは、まるでドラゴンには見えない極彩色の『なにか』だったのだ。

 もしも、ここに虎助や元春といった地球関係者が居たのなら、『外なる者に連なるどちら様かでしょうか?』と聞き返すような訳のわからない生物だったのだ。


 しかし、それは他の人から見たクゥであって、シェスタからすると可愛くて強いドラゴンでしかないようだ。

 おそらくは喉、もしくはお腹であろうその部分をコショコショとくすぐるようにするシェスタ。

 そして、「見てください。クゥちゃんって本当に強いんですよ」と、シェスタはクゥの特技を表示した魔法窓(ウィンドウ)をトワとスノーリズにパスする。

 すると、そこにはたしかに〈アビスフレア〉に〈サイケデリックバースト〉と、あからさまに強そうな二つの特技が並んでおり。


「リズ、スクナとは一体なんなのでしょうか」


「精霊を受け止める器、そして、世界に生きとし生けるものを形作るものだという説明でしたが――」


 もはや困惑するしかないトワとスノーリズ。

 一方、クゥの自慢して満足したのか、楽しそうに去っていくシェスタ。

 そして、その肩に乗っている謎の物体を見送ったスノーリズは疲れたように。


「しかし、アレでますます分からなくなりましたね。

 あのような漠然としたイメージでも強力な力を持ったスクナが生まれるとは――」


 自分が理想とするスクナを生み出すべく、こんなに慎重になっているというのに、シェスタは純粋なイメージから、かのように強力なドラゴン(?)を召喚せしめたのだ。スノーリズが愚痴りたくなるのも仕方のないことだろう。

 そして、トワは砂を噛むような表情をするスノーリズを慰めるように。


「こういった特殊な魔法に関わる事象に対しては、才能――というよりも、それぞれの特性が重要ですから、むしろアナタの場合、それに身を任せた方が強力なスクナが誕生するのではないでしょうか」


 意識せず口に出たその言葉、トワはその自然な流れに身を任せるように。


「たとえば虎助様のアクアですが、彼女はもともと虎助様が契約したセイレーンだったそうです。だからリズも同じようなことが出来るのでは?」


「なるほど、もともと契約状態にあった精霊をカードに宿すですか。

 しかし、それはミラジェーンにこそ伝えるべきことなのでは?」


「それならば心配無用です。その話はカードを渡す時にしておきましたから。

 おそらくは今ごろ彼女が契約する木霊もスクナという器を手に入れているでしょう」


 スノーリズの気遣いにぬかりないと返すトワ。

 そして、スノーリズは――、


「しかし、そういうことでしたら、私も迷わずとも済むかもしれませんね」


「では――」


「ええ、私もスクナを生み出そうと思います」


 トワの声にスノーリズは目を閉じ、指先に灯した純白の魔力光で母より教えられた(・・・・・・・・)ある魔法陣を空中に描き出すと、その上に〈スクナカード〉を乗せて、


「〈従者想像イマジカルゴーレムクリエイト〉」


 静かに詠唱。そこに真っ白な雪の精霊を顕現させる。


「スノーマンを選びましたか」


「ええ、この子ならサイズの違いもあまり関係ありませんから」


「たしかに――、それで彼の名前はいつものように?」


「ええ、ゴードン。これからよろしくお願いしますね」


 手の平の上に乗る小さな雪だるま。

 柔らかな微笑むを浮かべ、その雪だるまに声を掛けるスノーリズに、呼び出された雪だるまは嬉しそうに頷くのだった。

◆メイド達のスクナ※


 アン(トワのスクナ・家妖精型)……〈家魔法〉、E.メイド服

 ギル(ウルのスクナ・目玉型)……〈看破〉〈衝撃の魔眼〉〈浮遊〉

 チョコ(ルクスのスクナ・狼型)……〈指揮官〉〈操影〉

 プリン(ルクスのスクナ・狼型)……〈グルーミング〉〈落とし穴〉、※ミスリル

 クッキー(ルクスのスクナ・狼型)……〈風纏い〉、※ミスリル

 フリード(フォルカスのスクナ・クマのぬいぐるみ型)……〈くまパンチ〉〈蜜集め〉

 カール(フォルカスのスクナ・パンダのぬいぐるみ型)……〈ころがる〉〈伐採〉、※ミスリル

 ダビデ(フォルカスのスクナ・シロクマのぬいぐるみ型)……〈しろくまダイブ〉〈寒中水泳〉、※ミスリル

 ゴードン(スノーリズのスクナ・雪だるま型)……〈雪遊び〉

 チェルシー(アシュレイのスクナ・ウサギ型)……〈聞き耳〉〈ソニックキック〉

 クゥ(シェスタのスクナ・ドラゴン?型)……〈アビスフレア〉〈サイケデリックバースト〉

 キキ(ミラジェーンのスクナ・木霊型)……〈山彦〉


◆メイド達の紹介(作者が忘れてしまいそうなので簡易ヴァージョンを書いてみました)


 トワ……ひっつめ黒髪の武闘派メイド。美魔女。

 ウル……燃えるような赤髪を持つ男装の麗人。

 ルクス……元気なちびっこ暗殺者?

 フォルカス……ゴールデンリトリバータイプの獣人ハーフ

 スノーリズ……トワの異母姉。白髪の美魔女。

 アシュレイ……スラッシュ(/)前髪が特徴的な双子メイドの片割れ。

 シェスタ……同上。ただし前髪は逆スラッシュ(\)。

 ミラジューン……木霊と契約するエレメンタラーメイド。


※メイド達のカードが上位魔法金属なのは、マリィがヴリトラ討伐の報酬である龍の血を提供したからです。金属を魔法金属化させる触媒を自前で用意することで、かなり価格が抑えられております。

 因みに、トワやスノーリズなどは、既に単独でワイバーンを狩れるくらいに強くなっているので、城の周辺やアヴァロン=エラにワイバーンが出現しないかと手ぐすねを引いて待っていたりします。

 ワイバーンといえど、龍の血というのはそれだけ希少なものなのです。

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