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●幕間・ガルダシア自治領の子供達

◆今回は名もなき傭兵視点のお話です。

 ガルダシア自治領――、

 そこはルデロック王国にあって、ルデロック王国でないという奇妙な土地だ。

 その成り立ちは、この土地で起きた、ルデロック王とその姪であるマリィ元王女との諍いの結果だと言われいているが、護衛として雇われの身である俺達傭兵にとっちゃ、ここがどういう場所なんて話はどうでもいい。

 俺達は護衛した商人が無事に仕入れを終えて、きっちり王都まで帰ることが出来りゃそれでいいんだ。

 とはいえ、護衛する商人は、いま、仕入れの真っ只中、その取引相手が自治領そのものだってことで、過剰な警備は逆に失礼にあたるらしく、最低限の警備を残して暇を出されたのはいいんだが――、


「こんな田舎で真っ昼間に暇をもらっても、どこに行きゃいいってんだよ」


 さっきも言ったように、この村はここ半年ほどで急速に発展した元寒村だ。

 だから、王都にあるような大きな酒場がある訳でもないし、色街なんてものもありゃしねぇ。

 そんな場所で昼間っから休みをもらってもなにもやることなんてないってもんだ。

 ゼッツのヤロウは、最近この村で売られているっていう魔導器を見に行くっつってたが、剣が一本ありゃあいい俺としては興味がない。

 はぁ、せめてこの村の特産と言われてるミスリルで出来た剣の一本でもありゃあと思うんだが、なんでも、この村には武器を扱う鍛冶屋がいねぇんだよ。武器屋のひとつもありゃしねぇよ。

 と、俺がそんな文句をブチブチと呟きながらも、どこへ行くでもなく村の中をブラブラしていると近所のガキが声をかけてくる。


「なあ、おっちゃん。おっちゃんは傭兵なんだろ。だったらさ。俺の剣を見てくれよ」


「はぁ?」


 まったく――、いきなり話しかけてきたと思ったら剣を見てくれだと、なにを馬鹿なって話なんだが、

 まあ、俺もこのガキくらいの頃には、似た様なことを言って、村に来る大人に構ってもらってただけに、五月蝿いことも言えないが……。

 それに、この手のガキはアホそうなクセして、相手をよく見てやがるからな。

 俺がどっかの粋がった馬鹿みたいに、無意味に暴力を振るう人間でないことを雰囲気で察しているんだろう。

 まあ、なんにしてもだ。このままぶらついてたところでやることもねぇだろうし、一人が声をかけたことでガキ共が集まってきやがった。こっから無視しても、また面倒になりそうだから、ここは暇つぶしにちょっと見てやるか。


 と、俺は取り敢えずガキ共がどれくらい使えるのか、ガキ共の中から動けそうなヤツを二人選んで、試合――というよりも、こりゃごっこ遊びだな――をやらせてみた。

 すると、ガキ共の動きは思った以上にちゃんと動けていて――、


 いや、これはそこらの新兵なんかよりも動けてるんじゃないか。


「なぁ、お前ら、誰か師匠でもいるのか?」


 さすがに我流でこんなにしっかりした動きは出来ねぇだろうと聞いてみると。


「師匠っていうか、姫様が貸してくれるメモリーカードで練習したんだけど」


「めもりーかーど?」


 姫が貸してくれるという話も気になったが、それよりも聞いたことがない言葉の方が気になった。

 詳しく聞いてみたところ、それはどうも、ここを治めているというマリィ姫が村人の為に貸し出している魔導器らしい。

 ガキ共の話から察するに、おそらく大きな傭兵団が新人教育なんかに使う幻影の魔導器のようなものだろう。

 興味を持った俺は、ガキ共の案内で、その魔導器が置いてあるという役所という場所に向かうことにした。


 すると、そこにあったのは、どこの豪族が建てたかとでも言わんばかりの大きな丸太小屋。

 ガキ共はメイドが建てたという訳がわからないことを言っていたが、たぶん姫の指示でメイドが職人を手配して建てたものだろう。

 しかし、たかが村人の為にこれだけの建物を建てるとは、そうとう儲かってんだな。

 いや、それでも普通の貴族だったらこんなことはしないか。

 さすがはあの先王の孫ってところだな。今の王様にも見習ってほしいもんだぜ。


 俺はその建物の大きさに感心しながらも、ガキ共の先導でその建物の中に入る。

 すると、入ってすぐの場所にカウンターがあって、そこに二人のメイドが座っていて、


「あら、今日はお客さんを連れてるのね」


「うん。村に来てる傭兵のおっちゃんが暇そうにしてたから連れてきたんだ」


 おい、お前――、

 どっちかってぇとお前らの方から声をかけてきたんじゃねぇか。

 俺は心の中で文句を言いながらも、まあ、暇してたのは間違いじゃないと冷静になって、とりあえずは情報収集だ。

 メイドからここがどういう場所なのか、ガキ共の説明だけだと要領を得ないと聞いてみると、どうもここは村人の為のギルドのような場所らしく、さまざまな依頼の受注、道具の貸し出し、そして簡単な教育を行っている場所なのだという。


 俺がメイドからこの施設の説明を受ける一方で、ガキ共は例の魔導器の使用許可をもらっていたようだ。


「じゃあ、三番の武道場を使ってね」


 メイドから、なにやら妙な金属板を受け取ったガキ共が「はーい」と言いながら手慣れた様子で『3』のプレートがかけられた扉の中へと入っていく。

 たぶん、あの金属板がガキ共の言っていた魔導器なのだろう。

 俺も追いかけるようにその部屋に立ち入る。

 すると、そこにあったのはなにもない土間。

 建物の裏の土を押し固め、おそらくは魔導器の盗難防止だろう、どうやって作ったのか、目の細かい金網で周囲を覆った部屋が幾つも並んでいた。

 俺がその部屋の様子を確認していると、ガキの一人がメイドから受け取った魔導器を入り口の側にあった石の台座にはめ込んで、


「おっちゃん始めるぜ」


 そう一言、見たこともない魔法陣を呼び出したかと思いきや、その魔法陣の上に指を滑らせて黒い人影を呼び出す。

 ガキ共の説明によると、あの魔法陣は例の金属板を操るもので、呼び出した影の真似をしていろいろな型を学ぶという。

 成程、こういう魔導器があるってことは知っちゃあいたんだが、実際に見てみるとなかなかのモンだな。

 声による指導と影が直接見せる見本を真似して木刀を振るガキ共を見ながらそう思う。

 そして、それぞれ数セット基本の型を繰り返したところで、今度は影を相手にした防御の型を学ぶみたいだ。

 これは、実際に衝撃が来る仕組みになっているのか、まずは二体の影が見せた手本を、ガキ共が一人一人につけられた影を相手に同じ動きでその攻撃を受け止める訓練のようだ。

 しかし、これだけ大規模な幻影を生み出す魔導器となると、でかい傭兵団でも使っていないんじゃないのか。まったく贅沢なことだ。


 俺は入り口に置かれた小さなカード状の魔導器を見ながらそんなことを考えて、時おりガキ共に混じって剣を振ること四半刻。


「どうだおっちゃん」


「たしかに、これなら自慢したくなるな。

 だがよ、こればかりやっていても結局は型だからな」


 まあ、防御面では実戦に近い訓練もあるが、これだけでは実戦勘とかそういうものが身につかないんじゃあないかと、俺がそう言うと、


「ああ、それなら、この次だぞ」


 次? これで終わりじゃないのか? ガキの言葉に腕組みをする俺。

 すると、ガキ共が『じゃんけんぽん』と、なにやら不思議な掛け声を掛け合いながら、手遊びのようなものを始めて、

 どうも、この手遊びでこれからするという修行の順番を決めているみたいだ。

 そうして暫く、その『次』とやらをする順番が決まったようだ。


「よーし、今日こそクリアしてみせるぞ」


 木刀を持ったガキの一人が入口近くに設置した例の魔導器の上に浮かんだ魔法陣をいじりだす。

 俺はその横顔を見る傍ら、邪魔にならないようにだろう、手遊びに負け、近くにやってきたガキ共に、


「くりあ?そりゃどういうことだ?」


 聞くのだが、ガキ共は『見ていればわかる』と口々にそう話し、その直後、部屋の中央に巨大な半球状の結界が出現。

 あれはメガネか? 目の周りを覆うような妙な形のメガネと木刀を持ったガキがその中に入ったかと思いきや、結界の中央に見慣れない文字が浮かび、周りのガキ共が『3・2・1――』と数を数え始め、音楽が流れ出す。

 すると、その音楽に合わせるように四方八方から魔弾が飛び出してくる。

 結界の中のガキは自分に向かって飛んでくる魔弾を時に躱し、時に持っていた木刀で打ち落としてゆく。

 俺はそんな光景を目の当たりにして、「おいおい、あれ、大丈夫なのかよ」と、らしくもなくガキの心配をしてみるのだが、


「ああ、おっちゃん大丈夫だよ。

 あの魔弾はあたってもケガとかしないやつだから、当たるとほんのちょっとだけ痛いけどね」


 そうか、あの魔弾は見た目は派手だが、攻撃力が低いタイプの魔弾だな。

 だとするなら安全に訓練が出来るだろうし、あれだけの身のこなしを身につけていても不思議はねぇか。

 俺が結界内のガキを感心してみていると、結界内にあふれていた魔弾の中に、いつしか斬撃のような半月状のものが加わり、そして、魔法使いが使うような派手な魔法を模した攻撃が放たれるようになったところで、結界の中央に血のように赤で縁取られた文字が浮かび上がる。

 ガキ達によるとあれは『ゲームオーバー』と書いてあるらしい。なんでも失敗という意味の言葉なんだそうだ。


「ああ、ちっくしょーっ、また同じところで失敗した」


「ふふん。やっぱテルムでもあそこは簡単にクリアできないみたいだね。交代交代」


 失敗したと悔しがるガキに、次は自分だと出ていくガキ。

 しかし、ここで少し流れが変わる。


「ちょっと待ってよ二人共、この後はおじさんがやるんだから」


「そうだよ。お手本を見せてもらわないと」


 いやいや、お前等なに言ってやがる。

 いつの間にか決まっていた俺の参戦に、俺が思わず文句を言おうとするのだが、期待するようなガキ共の視線が俺に集まっていて、

 くっ、そんな目を向けられたらやらなきゃいけなくなんだろうがよ。

 結局、俺はそんなガキ共の視線に負けて、いまガキが受けたのと同じ訓練を受けることになったのだが、

 さすがにガキ共の期待の手前、すぐにやられる訳にはいかないと俺は頑張った。

 しかし、やっぱり慣れないことはするものじゃない。

 俺はガキとほぼ同じ大規模な魔法が襲いかかってきたところで失敗。

 その上、思いの外、厳しかったこの修練に思わず座り込んじまったところでガキ共が慰めるように。


「ああ、やっぱおっちゃんでも無理だったか」


「仕方がないよ。おっちゃん初めてだし。

 それに、おねーちゃん達でも武器なしだと、難しいヤツはクリアできない人ばっかって言ってたから」


「難しい?」


「うん。この『弾幕ゲーム』にはもっと難しいのがあるんだよ。

 いま、おっちゃんがやったのは簡単のなかで中くらいなの」


 これで簡単だと……、

 これでも俺は二級でも上の方の傭兵だぞ。

 そんな俺が簡単な訓練でバテバテで、

 しかし、これを管理するメイド達はそのはるか上をいくという。

 それはいったいどれ程のものなのか、試しにそのメイド達がやっているという難しい修行というのを見せてもらったところ、どこぞの激戦地に迷い込んだんだと思うような魔弾の嵐をかいくぐるようなものだった。


 ああ、これは無理だ。

 俺はその光景を見て諦めたような声を心の中で零しながらも。


「メイド達は全員これをこなすのか」


「みんなじゃないみたいだけど。トワ様やスノーリズ様は武器無しでクリアできるみたいだよ」


 トワにスノーリズ。その名前は聞いたことがあるな。

 たしか、王国でもゴリゴリの武闘派のカイロス伯爵の庶子――、その中でも特に武芸に秀でた人物だと聞いたことがある。

 それがこんな辺境の地でメイドをしているだと。

 いや、彼女達はもともと血染めのエプロンや氷の侍従長などと呼ばれて、一部貴族から恐れられている従者だと聞く。

 その噂を信じるのならばこんな辺境にいるのも不思議はないか。

 なにしろ、いまの王様はアレだからな。

 しかし、それも一部のメイド達だろう。

 入り口にいたようなメイドが、そこまでの力を持っているとは思えない。

 いや、もしかすると、その二人はメイドという職業なだけであって、見た目は屈強な兵士をも圧倒するようなメイド(?)なのかもしれないが……、

 俺がまだ見ぬ最強メイドにそんな想像を巡らせていると、周りにいたガキの一人、小さな女の子がふと気づいたように、


「おじさん。手のとこ、擦りむいてるよ。治すからちょっと見せて」


 その手に淡い光を灯す。


「お前ら、魔法も使えるのか」


 しかも無詠唱で――、


「まだ簡単なヤツだけだけど、教わったから」


「メイドにか?」


「ううん。メモリーカード」


 そう言って例のカードを指差す子供達。

 なんでもこのカードには、剣術だけではなく、魔法や錬金術の知識、四則演算に礼儀作法、それ以外にも各種職業に必要な基礎知識が詰め込まれているらしく、ここにいるガキ共だけじゃなく、村の大人もこの施設を利用しているのだという。


 と、そんな話をガキ共から聞いた俺はすぐに仲間を集めた。

 ガキ共から簡単な魔法なら、数日であの魔導器なしでも使えるようになると聞いたからだ。

 それから数日、護衛の傍ら、俺達は可能な限り、この訓練場に通いつめることになる。

 傭兵としてもそうだが、もしもこの傭兵家業をたたまなくてはならなくなった時に、ここで訓練をしておけば、食いっぱぐれる事はないと思ったのだ。

 そうして、俺達は普通に傭兵家業をしていたら憶えられないだろう魔法や技術を幾つか仕入れ、王都へ帰ることになる俺達だったが、


「なあ、次の仕事もまたここに来る仕事を受けようぜ」


「ああ、俺としちゃあ、別に依頼なしにもこの村にやってきたいと思うんだが」


「ま、それは王都に帰ってから決めようや」

◆ガルダシア自治領についてのちょっとした補足


 ガルダシア自治領の特産物の種類が増えているのは、ミスリルが手に入らなくなった時も継続して安定した領地運営ができるようにというスノーリズが考えを受けてのことです。

 その可能性は虎助もソニアも理解しているので〈メモリーカード〉による適度な情報提供や、スカラベゴーレムなどを使った周辺探索からの領地開発という形で積極的に協力しています。

 具体的には、周囲を囲む山を鉱山として利用できないかというその調査とか、万屋からお手頃値段の錬金釜を仕入れ、錬金術師を育成して、魔法薬を作ったり、その素材である薬草栽培の研究、ミスリルのような高級品ではなく、銀などのマリィの住む世界でもそれなりに手に入る鉱物を利用したアクセサリや魔具作りを行っているようです。

 そして、『役場』の利用は旅人にも可能で、氏名・年齢・居住地をきちんと報告して、スキャンの魔法を受けることで〈メモリーカード〉を利用することができるようになっています。

 因みに、旅人にも施設を開放している理由は善意からでなく、登録の際にスキャンした情報を防犯や旅人の動向を探ることに利用しているからです。(魔力の質などを登録しておけば、プテラノドン型のゴーレムを使って、その人物を探し当てることも可能なので)

 あと、例の弾幕系の魔法アプリは前回からアップデートされて、指定した武器による反撃を可能としてゲーム性を高めた仕様に改良されています。


◆次回は水曜日に投稿予定です。

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