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虎助、友人達を招く3

 装備品などの準備を整えて、僕達が戦場に到着すると、そこでは今まさにマリィさんがワンダリングカースツリーに炎の槍を投擲しようとしているところだった。


「ストーップ。マリィさんストップです」


「虎助!? どうして止めますの?」


 発射の寸前、かけられた声に、ビクッと体を跳ねさせたマリィさんがちょっと不機嫌になりながらも聞いてくる。


「すみません。実はあの魔獣を友人達の実績作りに利用できないかと思いまして」


 マリィさんがその手の平の上に浮かべた炎の槍を放てば、ワンダリングカースツリーなど簡単に炭化できてしまうだろう。

 しかし、ワンダリングカースツリーを倒したところでマリィさんのメリットは殆どない。

 それならば、アヴァロン=エラ初心者の次郎君や正則君の実績獲得に役立てたいと、僕がお願いしたところ、マリィさんもそういうことならと獲物を譲ってくれるみたいだ。改めてといった感じで僕の後ろに並ぶ友人一同を眺めて、


「しかし、その鎧を着た人間が三人並ぶと、なんと言いますか――、

 一気に小物感が出ますわね」


「そりゃないぜ。マリィちゃん」


 元春一人なら特別感があった赤錆色の鎧も三人並ぶと安っぽく見える。たしかにそれはそうなのだが、元春としては同じ【G】に関わる実績持ちとして、無意識からこのブラットデアという鎧が気に入っているのかマリィさんの評価にブーブーと文句を言う。


 しかし、マリィさんの言っていることも尤もで、


 これは、それぞれに合わせ、鎧のカラーリングやデザインを変更することも考えておいた方がいいのかもしれないな。


 僕は、これからもちょくちょくアヴァロン=エラに訪れるかもしれない友人達の装備に、そんなことを考えながらも。


 なんにしても先ずは目の前の敵を倒さなければ――と、


「なので、あの魔獣ワンダリングカースツリーはこの三人に任せてもらえませんか」


「……しようがありませんわね。あまり楽しめる相手でもなさそうでしたから構いませんの」


 マリィさんから了承を得たところで、僕はみんなの方へと向き直り。


「じゃあ、まずはヤツを弱らせるところから始めようか」


「「「応っ(了解)」」」


 ゆっくりと近付いてくるワンダリングカースツリーからしっかりと距離を取りながら、ここに来るまでにみんなに渡しておいた聖水をぶつけていってもらう。


 因みに、この聖水を瓶は、ディロックの中でも特殊な部類に入る唐辛子爆弾と同じ方法で作られている。

 だから、瓶が割れてもそのガラス片(?)は魔素に還元されて散らばらないようになっていて、

 そんな聖水を投げつけるだけ戦いは、ハッキリ言って地味で作業的なものになってしまっているのだが、相手が呪われた樹というのならこれが一番安全で堅実な戦い方だ。


 とはいえ、このまま聖水を投げつけているだけというのは決め手にかける。

 なによりも正則君が実際に体を動かして戦いたいみたいで、隙あらば飛び出していきそうな雰囲気なので、ワンダリングカースツリーがあからさまに弱ってきたところで、上空で監視を続けているカリアからワンダリングカースツリーの動きを分析してもらい、その攻撃力を算出。これならばブラットデアの鎧さえ装備していれば重症はありえまいと確認したところで接近戦の許可を出す。


 すると、これは予想外。

 アヴァロン=エラ初心者の二人にいいところを見せたいとか、そういうことを思ったのか、元春が「おらっしゃ――」と真っ先に飛び出して、正則君が「ズリィぞ」とその背中を追いかける。

 一方、慎重派の次郎君は援護に徹するみたいだ。

 そして、僕は、エレイン君とマリィさんにそんな次郎君のフォローをお願いして、すぐに二人の後を追いかけることに。


「おお、スゲェなこれ」


「パワーアシスト機能がついてるからね」


 すると、さすがは正則君だ。工房からこの戦場へ移動する中、軽く説明しただけのギミックをいきなり使いこなしているみたいだ。

 普通では出せない走力にはしゃぐ正則君に改めて(・・・)説明を入れると、正則君はなんなく隣をついていくパーカーにカーゴパンツと私服っぽい僕の格好を見て、真顔になって、


「けど、虎助はそんな俺に普通についてこれんだな」


「魔法の補助を受けてるっていうものあるけど、実績の補助があるからね。頑張れば素でもこれくらいのスピードは出せるよ」


 瞬間的に〈一転強化(ポイントブースト)〉を使えば、これくらいの速度は難なく出せる。

 それでなくとも、僕はスピード系の権能を多数持っている。

 それを十全に発揮すれば、魔法に頼らなくてもこれくらいの速度は出せるのだ。

 しみじみと呟く正則君に軽くそう行ったところ、正則君は驚きながらも、口元にどこか野生の獣を感じさせる笑みを浮かべ。


「マジかよ。だったら俺も頑張らないとな」


 そう言って気合を入れ直すけど。


「でも、まずは目の前の敵を忘れないでね」


 そう、まずは目の前の敵に集中だ。

 僕の指摘に前を見た正則君は、ようやく見上げるくらいに近付いていたワンダリングカースツリーの巨体に気付いたみたいだ。少し慌てるように右足を前に突き出して――、


 ガコンッ!!


 パワーアシストの補助もあってか、まるで斧を叩きつけたような綺麗な打音が周囲に鳴り響く。

 しかし、思ったよりも勢いがつき過ぎていたみたいだ。


「くぅ~、痺れるぅ~」


 漫画のように強烈な衝撃を受け全身を震わせた正則君は、その衝撃を誤魔化すようにその場でぴょんと飛び上がる。

 しかし、そんな中でも、頭上にかかった影に気付いてくれたみたいだ。

 いつでも助けに入れるようにと空切を抜いていた僕の目の前で、着地した正則君は頭上を見上げ、ハッとしたように着地の反動を利用してバックジャンプ。


 そう、攻撃を受けたワンダリングカースツリーは正則君の攻撃に遅れること数秒、大きく枝を振り上げていたのだ。

 正則君バサバサと葉っぱが擦れる音を響かせながら落ちてくるワンダリングカースツリーの大枝(うで)の攻撃範囲から逃げようとしたのだ。


 と、僕はそんな正則君の反応に、これなら枝が振り下ろされる前に攻撃範囲から逃げられるかな――と、空切を振るい、安全スペースを確保しながらも、少し体の角度を変えてその攻撃をやり過ごし。

 僕達よりも先に飛び出していった元春はどうなったのかなと、真っ先に飛び出し、ワンダリングカースツリーに攻撃を仕掛けていたはずの元春の姿を探し、巻き上げられた土埃の中、周囲に視線を巡らせたところ。


 見つけた。


 さすがというかなんというか、それなりに魔獣との戦いに慣れてきた元春は、バカ正直に正面から突っ込んだ正則君とそれをフォローする僕を見て、正則君は僕に任せておけば大丈夫だと判斷、それなら自分はとワンダリングカースツリーの背後に回り込んでいたようだ。

 そして、


「決めるぜ」


 たぶん格好つけなんだろう。

 そう叫んだ元春は、槍のように先端を尖らせた如意棒を一気に伸ばす。


 と、勢いよく伸びた穂先が千年サイズのワンダリングカースツリーの胴回りを貫通。

 それを見た正則君から「おお」と歓声を上がり。

 元春がそんな正則君の声に応じるように片腕を持ち上げて、


「これが俺の実力(ジツリキ)だぜ」


 そう言って自慢げにするけど。

 相手は植物系の魔獣である。胴体に小さな穴を開けられたくらいでは大したダメージにはならない。

 ワンダリングカースツリーはお腹に開けられた穴を物ともせずに、攻撃をした元春の方へと振り返る。

 すると、必然的にお腹に突き刺さっている如意棒も回転する訳で、それが元春から遠ざかる回転なら良かったのだが、日頃の行いの所為か、はたまた単に運が悪いだけか、伸びた如意棒は元春に向かう軌道を描き、そのお腹にジャストミート。


「おぶっ!?」


 不意打ち的なその一発を食らった元春は、ワンダリングカースツリーの体ごと振り返るようなその動きに合わせて大きく半回転。


 ズサー。


 せっかく背後を取ったにもかかわらず、一瞬で僕達の元に戻ってくる。

 ちなみに、如意棒による(?)薙ぎ払いを喰らい、大きく振り回される形となった元春は、薙ぎ払いの勢いそのまま派手に転がる羽目に陥ってしまったのだが、ブラットデアの防御性能のおかげもあって、ダメージそのものはなかったみたいで、

 僕はアヴァロン=エラの赤砂にまみれながらも、フラフラと立ち上がる元春に、


「油断しないように」


「わ、ワリー」


 そう注意を入れつつも、如意棒が突き刺さったままでは戦いにくいと、攻撃者(もとはる)の姿を見失い、体を左右に振っていたワンダリングカースツリーの腹部から如意棒を回収。

 棍棒サイズにまでその長さを縮めたところでそれを元春に投げ渡し。


「んで、どうするよ」


「そうだね。攻撃しつつも聖水を投げていればいずれ倒せるだろうけど」


 これだけやれば次郎君も正則君も実績を獲るくらいの貢献はしているよね。

 だったら、ここは時間短縮かな。


「アクア」


 現在の状況を頭の中でパッとまとめ、僕が呼び出したのはアクア。

 とつぜん現れた手のひらサイズの美女に驚く次郎君と正則君。

 しかし、いまは二人にアクアの紹介をするよりも。


「聖歌をお願い」


 まずはワンダリングカースツリーを倒すことを優先する。

 と、そんな僕からのお願いに、コクリと頷いたアクアが透き通った歌声を響かせる。

 ちなみに、ここで言う聖歌というのは、地球で歌われる賛美歌のようなものではなく、魔法技術が進んだ世界で生み出された、対悪霊・対呪術に特化した浄化の波動を放つ音響魔法のことである。


「――♪」


 アクアの歌声に乗せて広がる浄化の波動がワンダリングカースツリーを苦しめる。

 さて、後はこのまま放置でも倒せはするだろうけど、ここで一発、みんなに貢献度を稼いでもらおう。


「みんな、いまの内だよ」


「「「おうっ(了解)!!」」」


 僕の声かけに合わせて一斉に攻撃を再開させる元春、次郎君、正則君の三人。

 ワンダリングカースツリーが振り回す両腕を避けるように特撮ヒーローのようなジャンプキックを決める正則君。

 如意棒を使いチクチクと中距離攻撃をする元春。

 今まで通り遠距離からの聖水投擲を繰り返す次郎君。

 そして、僕が接近戦で戦う二人をフォローにまわり、エレイン君達はともかくとして、マリィさんが少し退屈そうに見守る中、戦い続けること数分――、


「ギギギギギギギギギギギギギ――」


 木が軋むような断末魔の声が轟き、ウネウネと動いていた呪樹ワンダリングカースツリーが、時を巻き戻すように普通の樹へと戻っていって、


「「()ったど――」」


 ズズンと倒れる大木を背景に仲良く揃った元春と正則君が勝鬨を上げて決着。


「ふぅ、どうにかなりましたね」


 次郎君が聖水を投げ疲れたとばかりに肩を回しながら歩いてくるのに合わせて、騒いでいた二人も合流してお楽しみタイム。

 この戦いで得た実績によってどんな権能(ちから)が手に入れられたのか確認してみると。


「うん。二人とも【魔獣殺し】はきっちり取れたみたいだね」


 いろいろと手を回した甲斐があった。二人のステイタスにもきちんと【魔獣殺し】の実績がついたみたいだ。


「でもよ。あんなデカイ樹を倒して【魔獣殺し】ってのはどうなんだ?」


「ああ、それね。僕も前に気になって聞いてみたんだけど。表示する言葉の意味を直訳するとそうなるってだけで、あくまでそういう分類になってるみたいだよ」


「ふむ、マリィ様やマオ様と言葉が通じることを違和感なく受け入れていましたけれど、言われてみればここは異世界でしたね」


 〈ステイタスプレート〉を覗き込みながら零したその疑問に僕がそう答えると、次郎君が『そういえば――』と納得する一方で、正則君は僕が言うんだからそういうものなんだろうと本能的に理解したみたいだ。


「で、この【魔獣殺し】ってヤツはどんな効果があるんだ?」


「ああ、それなら、【魔獣殺し】をタップすると、ワンダリングカースツリーの名前が出てくると思うから、それを選んでもらうと、どんな権能が取れたのか確認することができるよ」


 やっぱりこういう特別なパワーアップというのは嬉しいものなんだろう。ふだん冷静な次郎君までウキウキした様子で手元に浮かべたステイタスウィンドウをタップ。そこに表示される文字列を覗き込んで、


「〈耐久向上〉か、これって防御力アップでいいのか」


「そうだね。そんな感じで理解していいと思うよ」


 まあ、正確を期すなら、〈耐久向上〉とは、自身が持つ魔力の質が向上することによって、肉体そのものを守る機能が向上したというのが本当らしいけど、基本的には正則君の考え方でいいと思う。


「僕は〈呪詛耐性〉ですか、全員が同じ実績を得られる訳ではないんですね」


「討伐系の実績は、強い魔素を持つ動物と倒すことによって魔力を取り込んで、潜在能力を開放していくようなものだからね。相手をする魔獣の特性も重要だけど、戦い方や資質・運によっても獲得できる権能は変わってくるんだよ」


「そういう仕組みになってたんだな」


 ちなみに僕は〈生命力向上〉を獲得できたようだ。これは多くの魔獣が持っている権能だから、すでに持ってる上位権能に統合されて極微量強化される程度になるのだが、なにもないよりはマシだろう。


「それでなんだけど。彼女はなんなんだい」


 聞いてくるのは次郎君。アクアの容姿が次郎君の趣味にドンピシャだから、かなり前のめりになっているみたいだ。


「彼女の名前はアクア、僕のスクナだよ」


「スクナ、ですか?」


 まあ、ただスクナと言って理解してもらうのは難しいだろうから、僕はアクアに「ゴメンね」と断ってからカードに戻ってもらって、


「このカードに精霊を宿して顕現してもらってるって感じかな」


 僕が指で挟んで見せるアクアの〈スクナカード〉に正則君が「おお、召喚獣? 召喚獣なのか?」と驚く一方、次郎君の目は真剣だ。


「それって僕にも使えたりするんですか」


「残念だけど。次郎君の魔力じゃ、まだうまく使えないかも」


 一戦したことで多少は魔力が上がっているかもしれないけれど、いくら魔素の濃度が高いアヴァロン=エラとはいえ、もともと魔力0と評価されているものがすぐに使えるようになる訳じゃない。


「それを使うにはどうすればいいんです」


「やっぱり魔法の練習かな。それが魔力向上の一番の近道だからね」


「これは僕も頑張らなければいけないようですね」

◆次回は水曜日に投稿予定です。

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