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虎助、友人達を招く2

 さて、そんなこんなで次郎君と正則君がディストピアに入ってみることになったのだが、


「それで、そのディストピアというのはどんなものなんです」


「そうだね。強力な魔獣の素材を依代に、その残留思念と戦いが出来るってそんな感じかな」


「やっぱドラゴンとかとも戦えんのか」


「うん。龍種(ドラゴン)と戦えるディストピアも幾つかあるよ」


「おおっ、なら、それにしようぜ」


「はぁ、君は本当に馬鹿ですか、いきなりそんな大物と戦ってどうするんです。いまの僕達はおそらくゲームで言うところのゴブリンとか、たぶんその程度の強さなんですよ」


 と、ここまでがディストピア説明からの流れで、

 僕が言うことじゃないかもしれないけれど、次郎君の言う通り、地球で暮らしてた人がいきなりドラゴンに挑むのはちょっと無謀かもね。まあ、義姉さんは別としてだけど……。


「虎助君、取り敢えず、僕達でも攻略が可能であろうディストピアはありますか?」


「うーん。どうだろうね。やっぱり最初は定番のカーバンクルかな」


「カーバンクルってなんだったっけか?」


「ゲームとかに出てくるでしょう。頭に宝石が嵌ったリスのような幻獣ですよ」


 次郎君から言われて思い出したのだろう。「ああ」と手を叩く正則君。


「それを倒せば俺等もパワーアップ出来るってことか」


「いや、この場合は、倒すっていうか捕まえることが出来たら加護がもらえて、金運アップと実績の獲得に有利になるって感じかな」


 正確に言うと、実績の獲得に有利になるっていうのは付与実績限定の効果だから、そこまでの恩恵を受けることはできないんだけど、それでもあるにこしたことはない力である。


 しかし、カーバンクルのディストピアの仕様を聞いて正則君は残念そうに。


「なんだ捕まえるだけか。

 もっと、バチバチ戦えるとかの方がよかったぜ」


「何を言っているんですか君は、本当に救いようがありませんね」


「そうだぜノリ、カーバンクルをなめんなよ。油断してっと極太ビームで一発アウトだかんな」


「極太ビームって、それは本当に大丈夫なものですか?」


 血湧き肉躍る戦いを期待していたのだろう。少し残念そうな正則君に元春が脅すようにそう言うと、慎重派の次郎君は不安そうに聞いてくる。


「大丈夫っていうか、ディストピアの中でなら死んじゃってもすぐに復活するからね」


「デメリットは?」


 例えばゲームとかならデスペナルティでステイタスが半減とか所持金が減ってしまうとか、レベルそのものが下がってしまうなんてことがあったりする。次郎君はそんなマイナス面を心配しているのだろうが、ディストピア内に関してはそういうデメリットは存在しない。


「ちゃんと殺されねーとメチャメチャいてーってことだろ」


 攻撃を受けた時の痛み。確かにそれはデメリットになるかもね。


「とはいっても、ただ痛いだけだから、そんなに気にすることでもないと思うけど」


「……死ぬほど痛いって全然大丈夫じゃないような気もしますが」


 僕と元春の会話にかなり引き気味な次郎君。

 でも、死ぬほどの痛みや苦しさも、何度も何度も味わっていれば慣れてしまうもの。


「よゆーよゆー。あれは慣れだって、慣れ」


 モテる実績を得ようとしてローパーに何度も殺された元春にとっては死ぬほどの痛み――、

 いや、快楽というのは既に乗り越えてしまったものだ。

 ただ、死ぬということにあまり慣れ過ぎてもそれはそれで問題はあるのだが、母さんに二人ならちゃんとその辺りは切り分けて考えてくれるだろう。

 実際、今までディストピアに入った人達は、その辺のこと、きちんと理解してくれていたしね。


「でも、カーバンクルっていうと、元春も捕まえてなかったよね」


「おい、コラ、バラすなよ」


「ほほう、それはいけませんね。元春君にはぜひ付き合ってもらいましょう」


 と、そんな話の流れから、そういえば――とした僕の話に、次郎君がいい事を聞いたとばかりに元春を捕まえる。

 片方、正則君はなんにも考えていないのだろう。


「なんでもいいからさっさと行こうぜ」


 ということで、カーバンクルのディストピアはエレイン君に持ってきてもらって、いざ挑戦となったんだけど――、


「案外余裕だったな」


「納得いかねー」


「日頃の行いの差ですかね」


 結果から言うと、三人が三人、【精霊の加護】を手に入れることができた。

 元春は実績によって強化された身体能力で、正則君は単純に持って生まれた反射神経で、そして次郎君はカーバンクルと波長が合ったみたいだ。特に何もするまでもなく、近付いてきたカーバンクルを捕まえてしまったのだ。


 そして、一つクリアしてしまえば次のディストピアはすぐに。


「よっしゃ。これでパワーアップしたからガンガン行こうぜ」


「いや、単に金運アップと実績の獲得に有利になっただけだからね」


 正則君が気合を入れるように叫ぶのだが、カーバンクルのディストピアで手に入れられる権能は、金運アップとちょっとした成長補正のようなものでしかない。

 だから、ここで急に厳しいディストピアに入ったらトラウマになっちゃうかもしれないし。

 でも、母さんに鍛えられた二人ならちょっとやそっとのことじゃへこたれないだろう。

 できれば装備面だけでなんとかなる相手がいいと思うんだけど。

 さて、どれが二人に向いているディストピアかな?

 僕が手元に呼び出した魔法窓(ウィンドウ)から、二人でもクリアできそうなディストピアを探していると、そこに『WARNING』と赤と黒の縞々で縁取られた魔法窓(ウィンドウ)がポップして、警報音を発し始める。


「オイオイ、なんだよこの警報、火事か、火事なんか?」


「ゲートに魔獣が迷い込んで来たみたいだね」


「迷い込んできた魔獣ですか……、

 さっき虎助君が僕達を急がせたのはこういうことがあるからなんですね」


「で、どんなのが来たんだ」


 この警報はいったいなんなのか、どこかズレた正則君の疑問に続き、次郎君が状況を把握するような呟きを零す。

 一方、すでに勝手知ったるといった感じで聞いてくる元春に、僕は新しくポップしたその魔法窓(ウィンドウ)をタップ、ゲートの映像を呼び出すと、映し出されたのは動くわさわさと動く一本の巨大な樹だった。


「敵はワンダリングカースツリー。彷徨える呪樹ってところかな。どうしようか?」


「どうしようかって、どう見ても話が通じる相手じゃねーし、虎助か、エレインか、マリィちゃん辺りが倒すんじゃねーの」


 元春の言う通り、マリィさんがというのはともかくとして、普通なら僕達で処分する相手なんだけど。


「植物系の魔獣なら動きが遅いから、大きな攻撃にさえ気をつけてれば比較的安全な魔獣なんだよ。だから、できれば次郎君と正則君にも参戦してもらったらどうかなって思ってね」


 樹木から変質した魔獣なら、素早い動きをすることはないだろう。

 そして、倒して獲得できる権能には生命力や耐久力を高めるものが多い。

 二人がこれからもこのアヴァロン=エラに来るつもりなら、このワンダリングカースツリーの実績は役に立つ。

 そう説明をしたところ。


「ま、たしかにな――、

 見た感じ、俺ん時よりまともな部類だよな」


「俺の時?」


「元春の初めてはどんなだったんだ?」


「おいおいノリ、そんなセクハラみたいな聞き方はねーんじゃねーか」


「いや、そういうのはいいですから」


 正則君に端を発した元春のジョークを軽く受け流す次郎君に、元春は少し不満そうにしながらも、ボソッと答えるのは、


「オークだな」


「オークですか……、

 元春君、お尻の方は大丈夫でしたか?」


「か、勘違いすんなよ。俺が戦ったオークはジローが想像するみたいなオークじゃねーから」


「そうなんですか?」


 慈しむような視線を向ける次郎君にツンデレ少女のように声を荒らげる元春。

 すると、次郎君がガッカリしたみたいに聞いてくるので、僕は正直に、


「そうだね。元春の時に出てきたのは、本当に大きいイノシシみたいな個体だったよ。

 まあ、それも義姉さんの活躍もあって、わりとすんなり倒せたんだけどね」


「って、志帆の(あね)さんもここに来たことがあんのかよ!?」


「いろいろあってね。大変だったよ」


 正則君の切り返しに僕は疲れた顔をして答える。


「大変だったって――、それは少し問題なんじゃありませんかね」


「問題?」


 そして、難しい顔をする次郎君に僕が首を傾げると次郎君は「ええ」と頷いて、


「志保さんがこのような世界に来て、なにもしないでいるとは思えませんから」


 ああ、そういうことか。

 次郎君も正則君も、良いことに悪いことと、義姉さんには昔からいろいろと振り回された口だからなあ。

 まあ、振り回された中には自分達も楽しんでいたことが多かったりもするのだが、それでも義姉さんの無茶についていくのは大変で、

 それが、もし、自分たちより先に義姉さんがこの世界で何らかの強さを手に入れていたとしたら、

 その暴走というか、お遊びがスケールアップしていたら……、

 そんな想像をして恐々としているみたいだ。


「するってぇと俺等も強くなんねぇとヤベェのか」


 そして、次郎君の話に正則君もいろいろと想像してみたのだろう。自分が関わるかもしれないこれからのイベントを考え、パワーアップは必須じゃないかと真剣味を増したところで、次郎君が「はぁ」とため息を零しながらも、昔馴染みとして自分だけが置いてけぼりになるのは面白くないのだろう。メガネをクイッと持ち上げて、「僕も付き合いますよ」と言うので、


「だったら、まずはこれを着てもらおうかな」


 そう言って僕が用意したのは二領の鎧。


「こりゃ、ブラットデアじゃねーか」


「おお、なんじゃカッチョイイ名前だな。それってこの鎧のことだよな」


「え、ブラットデアって確か――」


 おっと、次郎君はその言葉の意味を知っているらしい。

 でも、それ以上言ってはいけない。

 ブラットデアの本当の意味を知っているだろう次郎君の口を素早く塞いだ僕は、それを誤魔化すようにやや早口で、


「二人が来ることは決まってからね。まだ使ってなかった試作品を引っ張り出してきたんだよ。取り敢えず、安全の為にこれを装備して戦ってくれるかな。細かい調整は後でするから」


 元春のブラットデアはもともとマリィさんの『楯無』を完成させるために作った試作品だ。

 故にそれは元春の鎧一つだけではなく、当然複数存在する。

 今回は、その内、完成品に近い二領をアップデート。元春のブラットデアとほぼ同等性能を持たせることで二人の安全装置としたのである。

 と、僕がそんな説明をしたところ、次郎君が後ろから口を抑える僕の腕をポンポンとタップして、その高速から開放されると、その鎧に興味深げな目線を這わせ。


「鎧ですか。これはまたアナログな」


 そんな感想を口にする次郎君の一方で、正則君はワンダリングカースツリーとの戦いが待ちきれないらしい。


「で、で、これどうやって着んだ?」


「ああ、それはだな。こうやんだよっと〈着装〉」


 正則君の疑問符に元春がそう叫んだ瞬間始まる刹那の変身バンク。

 一秒と待たずに鎧姿となった元春を見て、


「おお、スゲェじゃんかよそれ、俺も俺も――」


 正則君がはしゃいで、次郎君は少し恥ずかしそうに、二人に鎧の装備をしてもらったところで、「じゃあこれを――」と、僕が渡すのは透明の液体が入ったガラス瓶。


「これは?」


「聖水だよ。敵は呪われてる樹みたいだからこれをぶつけるだけでもかなり効果があると思うんだよね」


「確かにそれなら安全に戦えますね」


 次郎君はそう言ってホッとしたような顔をするのだが、正則君からしてみるとそれだと刺激が足りないらしい。


「オイオイ、俺等には戦わせてくんねぇのかよ」


「それは、実際に敵を見てからだね」


 ブラットデアとアヴァロン=エラに展開される保護の魔法がある限り、たかが魔獣相手に万が一の事態なんてそうそうないと思うのだが、それでも油断はできない。

 だから、まずは相手がどのくらい強いのか、この目で、そして、上空からカリアに分析してもらわないと判断できない。

 だから、実際に戦ってもらうかどうかは現場に行ってからという僕の言葉に、「だったら、さっさと行こうぜ」と急かす正則君。

 と、そんな正則君に先導されるように、僕達はゲートに向かうことになるのだが、

 はてさてどうなることやら。

 相手が動きに鈍い植物系の魔獣だけに、本当に二人に危害が及ぶことはないと思うけど、何かあったら僕がフォローに入らないとな。

 僕は気合を入れ直しつつも、万屋を通り抜けゲートに向かうみんなの背中を追いかけるのだった。

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