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●幕間・とある警察幹部の地獄特訓

◆今年最後の投稿は以前登場した警察幹部のその後となっております。

 皆様、よい年末を――、

 なんで警察幹部である俺がこんな目に――、

 そんな俺がいるのは富士の袂、静岡側にある森の一部をくり抜いた場所に存在する野外訓練施設。

 ちなみに、どうして俺がこんな場所にいるかというと、先日、新設された特殊部隊のお披露目の際にちょっとしたオイタをしてしまったからだ。

 自分でも馬鹿なことをしたと思っている。だからこそ、こうしてちゃんとここまで足を運んでいるのだ。

 そして、俺達の目の前、俺がこんなことに巻き込まれた元凶である黒装束の女、間宮イズナがどこからか運んできた(・・・・・)大岩の上に飛び乗り、こう宣言する。


「さて、皆さんには殺し合いをしてもらいます」


『は!?』


 間宮イズナの宣言にそこかしこからあがる困惑の声。

 そう、そのフレーズはかつて大ヒット映画で有名なセリフと酷似したものだったのだ。

 ゆえにこんな疑問が上がるのも同然だろう。


「あの、それは我々にデスゲームをしろということですか?」


「別に映画とか漫画とかにあるみたいなアレじゃないから安心して、相手はみんなも知ってる人外の存在よ」


「ハッ、人外の存在ね。

 聞くが、私にもそれと戦えというのかね」


 若手と呼ぶにはやや年嵩の職員の質問に対する間宮イズナの答えは信じられないようなものだった。

 そして、どうして自分がそんなことをしなければならないのか、あの時、あの場にはいなかった幹部の一人が尊大な声を上げる。

 そんな空気の読めない男に対して、間宮イズナは少しでも彼女の本性を見たものにしかわからない凄絶な笑みを浮かべてこう答える。


「貴方がどれだけ偉いのかは知らないけれど。いまは私の生徒だから拒否は認めません」


「後悔しても知らないぞ」


 ある意味でそれは間宮イズナの言い分が正当なのだろう。そんな彼女の言い分に、男は権力を傘に威圧するような物言いで返すのだが、間宮イズナにそんな言い分が通じるわけがない。


「仕方ないわね。それならアナタには別メニューを与えるわ。他に希望者はいるかしら?」


 ニコリ。まるで笑っていない笑顔でそう言われてしまえば、誰がそれに関わろうというのか。

 しかし、残念ながらここに集められた人間のすべてが間宮イズナという女がどういう人間なのかを知っている訳ではなかった。


「あの、別メニューというのはどういうものなのでしょう。それは正当なものなのですか」


「そうね。君くらい若い人にならこう言えば伝わるでしょう。エッチなゲームに出てくるみたいな化物と戦う。それが別メニューよ。そして、正当か正当じゃないかってのはそうね。それはアナタがアナタ達の上司に直接聞いてもらえるのかしら。文句があるなら連絡をつけるけどどうする?」


 それは尊大な警察幹部の男に対するおべっかなのか、言葉遣いは丁寧であるが隠しきれない不満を訴える若手職員の質問に、ほほ笑みを浮かべ語りかける間宮イズナ。

 すると、さっきまでの態度はどこへやら、必死に首を左右に振る男。

 詳しくは知らないが、俺もそういう物があることは知っている。

 たしかに、あんなものが現実に存在して、その相手をさせられるのなら、絶望以外のなにものでもない。

 そして、文句があるなら上司に直談判してくれと携帯電話を取り出されてしまえば若手職員としてはなにもいえなくなってしまう。

 と、もうこれ以上のフォローは逆に自分の立場を危うくするかもしれないと引き下がった若手職員、そして、その周囲を見回して、質問は終わりとそう判断したようだ。間宮イズナは質問の打ち切りとばかりに手を叩いて、「じゃあ、一人を除いて、みんなは通常メニューってことでいいかしら」と訓練に入ろうとするのだが、


「待て、私はまだ納得していないぞ」


 どうやら、ヤツは真性の馬鹿らしい。俺も他人のことを言えた義理ではないのだが、素直に言うことを聞いておけばいいものを――、


「ねぇ、アナタ、今までの話を聞いていなかったのかしら、ここではアナタの立場なんてどうでもいいの。どうしてもっていうなら、更に厳しい訓練を課すこともできるのよ」


 まだ、自分が追い詰められていることに気付いていないのか、いまだ尊大な態度を崩さずに言ってくる幹部の言葉に、間宮イズナは、うんざりと、そんな態度を隠すことなく更に訓練を上乗せ。

 すると、男の方もようやく自分の不利を悟ったか。


「ま、待ってくれ、私一人だけでそんな訓練には耐えられない。だ、誰か部下をつけてくれないか」


 ようやく立場というものを理解したのか、悔しそうにしながらも慌てて懇願に切り替える男に、間宮イズナは「ふむ」とその小さな顎に手を添えて、


「そうね。たしかにあの眷属相手に素人が一人だけじゃ、まったく修行にならないわよね。だったら、さっき文句を言ってたアナタと――、後はその隣のアナタとアナタ、悪いけど彼と一緒に特別メニューを受けてくれる」


 まずは男に追随した若手職員。

 そして、なんとなく目についた男達を一人一人選んでいく。

 だが、適当に選ばれた者はたまらない。

 しかし、間宮イズナに文句を言おうものなら、自分もどうなるのかわからない。

 結果、その恨みは騒ぎを起こした男と男をフォローした若手職員に向けられるわけで――、


 あの二人、完全に信頼を失ったな。

 ここでどうにかしなければ、もう誰もあの男の言うことを聞かないだろう。


 まあ、今となっては俺も人のことは言えないがな。


 俺が他人事のようにそんなことを思う一方で、


「これでいいかしら」


 間宮イズナは自分の裁定に満足気にそう呟くと、自分が立っていた巨石の上から飛び降り、太腿のナイフホルダーから抜き取ったナイフを使い、その岩を切り刻み、幾つかの台を作り出す。

 そして、腰にぶら下げていた小さな巾着からおどろおどろしい剣や鞭、それ以外にも大量の武器を取り出して、


「じゃあ、好きな武器とか防具を装備してこれに触れてくれるかしら、それで訓練は始まるから」


 軽い感じでそう言われるが、今の一幕は何だったんだ。

 小さな袋から大量の武器や防具が取り出されたぞ。

 いや、それも不思議な事なのだが、それよりもただのナイフで巨岩を切り裂き、テーブルを作るなんて、どうやったらそんなことができるのだ。

 あまりにも規格外なその光景に動きを止める周囲。

 しかし、「ねえ、みんな私の話を聞いてる?」と笑顔で促されたら止まっているわけにはいかないだろう。


「あの、最後にあの武器に触れるというのはどういう意味があるのです?」


「ああ、ご免なさい。説明が足りなかったわね」


 素朴な疑問を質問するにも無駄に緊張を強いられる。

 ピンと手を上げた若い男の質問に、うっかりと自分の頭を小突いた間宮イズナが言うのは、


「この剣と鞭はディストピアっていってね。特別な魔法の道具なの。

 だからこれに触れると――、そうね最近流行りのVR空間みたいなところに行けるのよ」


 VR空間だと? この女は何を言っているのだ。

 俺には間宮イズナの説明が理解できなかったが、ここにいる何人かはその説明で納得したらしい。

 いや、納得するのに必死というのが正しいのか。


「つ、つまり、その訓練というのは、実物と戦うのではなく、非常にリアルなゲームのようなものだということですか?」


「ええ、痛みはあるけど、それ以外にペナルティはないから安心して」


 はぁ!? なにをやらせるかと思えばゲームだと。

 いや、それはいいとして、痛みがあるだなんて、そんなの安心できるか。

 俺――だけではなく、周囲にもたぶんそう叫びたかった人間は多くいただろう。

 だが、そんなことを言ってゴネようものなら、最初に文句を言った男以上の地獄に叩き落とされかねない。

 となると、ここはどう立ち回るかが重要だ。他の者達もそう判断したようだ。

 どうせ回避できない運命ならば、その運命の中で最善の策を取るのが無難な対応だと、ここまでの話に納得したものからすぐに間宮イズナが用意した武器や防具に群がっていく。

 そして、俺も負けじとそれら装備が並べられる岩のテーブルの前に行くのだが、いったいどの装備を選ぶのがいいのか。

 俺は戦闘に関してはほぼ素人である自分を呪いながらも、どうにか自分が痛い目に合わないようにするのかと考える。

 すると、そんな背後から「ふぅん。そうなんだ」と死神の声が聞こえてきて、


「そこの彼と彼と彼と彼――、最初の二人を除く、さっき言った人と交代で鞭の方に回ってくれるかしら」


「ど、どういうことだ?」


 突然の訓練内容の変更を言い渡された数人の一人、単純バカとして周囲から知られる中年幹部が硬い声で問い返す。


「アナタ達、いまの武器選びで良からぬことを考えていたわよね。殺気がダダ漏れだったわよ。そういう悪い考えを持つような人には特に厳しい教育を施してくれって言われてるから仕方がないわよね」


 一方の間宮イズナはさも当然のような顔をして、男が良からぬことを考えたと断定する。

 しかし、殺気などというわけのわからないものを根拠に過酷な訓練を課される、常識的に考えてそれで納得する人間がいるだろうか。


「そんな――、俺がいつそんな物騒なことを考えたと、証拠はあるのか」


「そ、そうだ。適当なことを言って俺達をいたぶるつもりなんじゃないか」


「一瞬、間が空いたことが証拠なんだけど。まあいいわ」


 中年幹部に追随する男達の反論は至極もって当然のことである。

 しかし、間宮イズナの余裕は崩れない。


「そもそも、私はそれを使ってこんなことが出来るのよ。そんな私がその気配を見逃すなんてことがあると思う」


 果たして、これ以上の説得力はあるだろうか。

 それはおそらく殺気そのものなのだろう。文句を言っていた男達は急に脂汗を吹き出し始めたかと思いきや、口を閉ざし、間宮イズナはそんな彼等を前に、例の不思議な巾着から一振りの剣を取り出して一閃、その姿を消し飛ばす。


「い、いま、何が――」


 それは誰が言っただろうか、突然この世から消え去った男に驚きが九割ほどしめた疑問符が空中を彷徨う。


「言ったでしょう。剣の中に、これもその一つよ」


 彼女が言うことだ。信じていなかった訳ではないが、実際に見せられてしまうと信じざるをえないだろう。


「因みにそれはどういうものなのですか?」


「すっごい大きなドラゴンね。毒の息を吐いたりしていろいろやってくるわ。正直、普通の人間が勝てる相手じゃないから、お仕置きにしか使えないけどね」


 若い職員の質問にあっけらかんと語られたその内容を聞いて絶句する一同。

 つまり、あそこに入ったが最後、ただ蹂躙されるだけの未来しか待っていないということだ。


 それを聞いてだろう。「ヒヒィ」と数人の男達がこの場から逃げ出そうとして、


「あらあらどこへ行くつもりかしら。どうせここから逃げられたとしても施設の外には出られないわよ」


 しかし、間宮イズナからは逃げられない。

 いつの間にか彼等が逃げ去る先へと移動していた間宮イズナが逃亡を図った男達を瞬殺――、

 いや、殺してはいないのだろうが、一瞬で数人の人間を消し飛ばし。


「さて、さっさと入ってくれるかしら、でないと全員、この剣の中に閉じ込めることになっちゃうけど」


 そう言われてしまっては急がざるを得ない。

 武器を手に手に用意された剣に触れ、消えていく周囲の者共。

 そう、彼女の機嫌を損ねた時点で俺達の運命は決まっていたのだ。

 これ以上、被害を広げたくないというのなら、彼女の言葉に素直に従い訓練を受ける他に選択肢はないのである。

◆とある警察幹部達が受ける特訓ルート


『スケルトンアデプトver.3』ルート……さまざまな武術の達人であるスケルトンアデプト率いるスケルトンソルジャーとの戦い。大量の魔法銃を持ち込んで、ちゃんと連携さえ取れていたら、スケルトンソルジャーの撃破()可能。ただしスケルトンアデプトに勝利することは難しい。用意された量産型のブラットデアを複数持ち込み、ラッキーパンチが複数初決まれば勝てる可能性はある。(ただし相手が細剣使いなど、耐久力の低いスケルトンアデプトに限る)


『ジャヒーレネ』ルート……元春も戦った邪神の眷属であるローパー(触手)との戦い。聖水などを持ち込めば一定時間持ち堪えられる(勝てるとは言っていない)。ただ、装備選択で数領用意されていたブラットデアの量産品を確保して挑むことが出来れば億が一にも勝てる可能性は残されている。セーフティゾーン無し。


『ヴリトラ』ルート……言わずとしれた黒雲龍との戦い。弱体化をしているとはいえ、ブラットデア(元春の鎧)でも装備なければただの人間には近付くことさえできず、ただただ逃げ回り、自分が標的にならないように祈るしかない。慈悲の欠片も無し。


 因みに、スケルトンアデプトのディストピアが複数存在するのは、力を持ったアンデットがわりとアヴァロン=エラに迷い込んでくるからです。墓場とか戦場跡とか暗澹とした場所というのは、魔素が淀み、次元の狭間が発生しやすかったりするからです。実際、魔導師用のディストピアとしてリッチ系のアンデットのディストピアも複数存在していたりしますが、そちらはスケルトンアデプトよりも難易度が高く、ある程度、魔法が使えないとどうにもならないので、初心者(?)の修行には向いていなかったりします。


◆次回は元旦の投稿を予定しております。

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